女子高生剣士の私が異世界に転移したら大変なことになった 第一部

瑞樹ハナ

文字の大きさ
上 下
9 / 66

お別れの挨拶

しおりを挟む
恩人兄弟の家に戻り、扉の前に立って戸口を叩いた。
「はーい」
お返事と共に勢いよく扉が開き、亜麻色の髪の男の子が顔を出す。
その向こうには、朝食の準備をする彼の兄の姿が見える。
「おねえちゃんおかえりなさい!」
向日葵のような輝く笑顔と、「おかえりなさい」って言葉が胸に重たくのしかかる。
大丈夫。私が別れを告げても、クルシュはまだ4,5歳だし、幼い頃に1日やそこらいただけのおねえちゃんなんて、すぐに記憶から消えて、彼の中に残りはしないのだから。
「ウィルシェ、クルシュ。おはよう······ええと、私これからザクセンって所に行きます」
え?って顔をしてクルシュが私を見上げる。
やってきたウィルシェに、奇麗にたたんだ着物を返す。
「お母さんの大事な着物を貸してくれて、ありがとう」
「いえ······大丈夫なのですか?」
身体の心配をしてくれる優しい少年の言葉に、自然と笑みがこぼれる。
「うん、ありがとうね。本当に」
長くいればそれだけ別れが辛くなる、早く「さようなら」を言わなくちゃ。
お別れの空気が流れて、それを感じ取ったクルシュが喉を振るわせてしゃくりあげはじめた。
「ぼくが······ぼくが……」
いつもニコニコと笑っていて、キラキラと輝いていたその目から大粒の涙が零れ始めた。
『ぼくがみつけたんだよ!』
事あるごとに言っていたアレは、構ってほしいとか褒めて欲しいとか、感謝して欲しいとかではなくて······。
『ぼくがみつけたんだよ!だからぼくとずっといっしょにいてね!』だったのだ。
あの時あの瞬間から。
私に逃げられない様に。
私に捨てられない様に。
必死に、懸命に、訴えかけていたものだったのだと悟ってしまって、胸の痛みに顔をしかめる。
幼い子に刻まれた、深い深い心の傷。
お母さんは貴方を捨てたんじゃないのよ、だなんて、私が言って良い事じゃない。
「クルシュ······ごめ······」
「うわーーー!!!」
クルシュは抱きしめようとした私の身体を突き飛ばして駆け出した。
賢い子だから、私の「ごめんなさい」を聞いてしまえば、もうそれで聞き分けなくちゃいけないと考えたに違いない。
ごめんなさいしか言えない私は、この子を追いかけることが出来ずにウィルシェを見る。
「ごめんなさい。僕がなんとかしますから······」
「私もごめんなさい。早く追いかけてあげて」
はい、と返事して、弟が走り去った方向に駆け出す兄の背中を見送る。
亜麻色の髪、細い肩、薄い背中、この世界で懸命に生きてる姿。
これがこの兄弟とのお別れ······。
「さようなら······」
別れの言葉は独り言。
シャボン玉のように儚く空に消えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し残念なお嬢様の異世界英雄譚

雛山
ファンタジー
性格以外はほぼ完璧な少し残念なお嬢様が、事故で亡くなったけど。 美少女魔王様に召喚されてしまいましたとさ。 お嬢様を呼んだ魔王様は、お嬢様に自分の国を助けてとお願いします。 美少女大好きサブカル大好きの残念お嬢様は根拠も無しに安請け合い。 そんなお嬢様が異世界でモンスター相手にステゴロ無双しつつ、変な仲間たちと魔王様のお国を再建するために冒険者になってみたり特産物を作ったりと頑張るお話です。 ©雛山 2019/3/4

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

処理中です...