4 / 66
二つの月
しおりを挟む
夕飯の支度をする二人の兄弟の姿を見つめる。
良くできた面倒見のいい兄。
素直で明るい弟。
2人の周りだけ、ほんのり明るいような気がしてくる。
それでも心が軽くなることはなかった。
ざわざわとした胸の中の不安。
見聞きしたものの中での確かな矛盾。
先ほどのカルノヴァさん。若く見ても30そこそこの人だった。
そう、あんな貧しい身なりで、日本語ペラペラで完全にネイティブだった。
そんな人が東京も知らずに……?
なんだろう、凄く変だ。
嫌だ。
何かが嫌だ。
私は手元に刀を引き寄せた。
祖父の刀で間違いない。
ここで目覚めてから目にするあらゆるものに感じてる、確かにコレなんだけど、でも何かが違う……そんな違和感はこの刀からは感じない。
いえ、一つだけある。
見た目ではなく……軽いのだ。
袋竹刀を持っているような、そんな感覚。
あの「ずっしりと来た重さ」を知ったおかげで、軽く感じているだけ?
中身が竹になってたりしないかと心配になって刀身を確認する。
鞘に収まっていたキラリと光る日本刀の刃がその顔を覗かせた。
そこで、「私」を見た。
刀身に映った私を。
(あれ……私ってこんな顔だっけ……?)
一瞬だけ。本当に一瞬だけそう思ってドキンと心臓が跳ねたけど、見れば見るほど普通に私だった。
別に何も変じゃない。
落ち着け。
落ち着け。
ドンドン!と扉が叩かれる音で我に返った。
「クルシュ。開けてあげて」
「はーい!」
兄に言われて弟が素直に駆け出し、扉を開ける。
そこにはニコニコとしたカルノヴァさんが立っている。
彼は私に真っ先に気付いて、ぺこりと頭を下げた。
「どうもこんばんは。いや今日は月が奇麗なもんで、ええとどうですか?みんなで食事でも。良い鶏肉があるんですよ!」
何か兄弟というか、私に言ってる気がする。
赤ら顔に、少しお酒の香りが漂う。
「とりにく!」
クルシュのキラキラお目目が一層大きく輝いた。
「いいんですか?嬉しいな」
ウィルシェも、年相応の笑顔を見せている。
「もちろんいいとも!あ、えーと……」
「イズミ、です」
私の名前を聞いたカルノヴァさんは、改めて誘いの言葉を口にする。
「どうですか。イズミさんも!」
「おねえちゃんイズミっていうの?」
「なんだお前、知らなかったのか?」
なんで名前も知らない女を家に連れ込んでるんだ?みたいな空気が流れ、慌てて私から事情を説明する。
「今日、この二人に助けてもらって……今晩泊めてもらうことになったんです」
「そうですか。世の中物騒ですからね!ほ、ホラ行きましょう!すぐそこなんで」
中年男性さんに見えた一瞬の葛藤。
もう少し根掘り葉掘り聞きたいが、何か事情があるのかもしれない。
そんな心の動きだろう。
それぞれが互いに気を使い合って、四人は何かに急かされる様に家を出た。
カルノヴァさんはクルシュを抱っこし、ウィルシェの手を引いて、上機嫌に鼻歌を歌いながら私を先導する。
涼し気な空気の割に、虫の声が聞こえない夜道を行く。
なんか妙に明るい。
そういえば今日は月が奇麗だって言ってたっけ……。
そして私は空を見上げて……。
見てはならないものを見てしまった。
空には月が二つあった。
良くできた面倒見のいい兄。
素直で明るい弟。
2人の周りだけ、ほんのり明るいような気がしてくる。
それでも心が軽くなることはなかった。
ざわざわとした胸の中の不安。
見聞きしたものの中での確かな矛盾。
先ほどのカルノヴァさん。若く見ても30そこそこの人だった。
そう、あんな貧しい身なりで、日本語ペラペラで完全にネイティブだった。
そんな人が東京も知らずに……?
なんだろう、凄く変だ。
嫌だ。
何かが嫌だ。
私は手元に刀を引き寄せた。
祖父の刀で間違いない。
ここで目覚めてから目にするあらゆるものに感じてる、確かにコレなんだけど、でも何かが違う……そんな違和感はこの刀からは感じない。
いえ、一つだけある。
見た目ではなく……軽いのだ。
袋竹刀を持っているような、そんな感覚。
あの「ずっしりと来た重さ」を知ったおかげで、軽く感じているだけ?
中身が竹になってたりしないかと心配になって刀身を確認する。
鞘に収まっていたキラリと光る日本刀の刃がその顔を覗かせた。
そこで、「私」を見た。
刀身に映った私を。
(あれ……私ってこんな顔だっけ……?)
一瞬だけ。本当に一瞬だけそう思ってドキンと心臓が跳ねたけど、見れば見るほど普通に私だった。
別に何も変じゃない。
落ち着け。
落ち着け。
ドンドン!と扉が叩かれる音で我に返った。
「クルシュ。開けてあげて」
「はーい!」
兄に言われて弟が素直に駆け出し、扉を開ける。
そこにはニコニコとしたカルノヴァさんが立っている。
彼は私に真っ先に気付いて、ぺこりと頭を下げた。
「どうもこんばんは。いや今日は月が奇麗なもんで、ええとどうですか?みんなで食事でも。良い鶏肉があるんですよ!」
何か兄弟というか、私に言ってる気がする。
赤ら顔に、少しお酒の香りが漂う。
「とりにく!」
クルシュのキラキラお目目が一層大きく輝いた。
「いいんですか?嬉しいな」
ウィルシェも、年相応の笑顔を見せている。
「もちろんいいとも!あ、えーと……」
「イズミ、です」
私の名前を聞いたカルノヴァさんは、改めて誘いの言葉を口にする。
「どうですか。イズミさんも!」
「おねえちゃんイズミっていうの?」
「なんだお前、知らなかったのか?」
なんで名前も知らない女を家に連れ込んでるんだ?みたいな空気が流れ、慌てて私から事情を説明する。
「今日、この二人に助けてもらって……今晩泊めてもらうことになったんです」
「そうですか。世の中物騒ですからね!ほ、ホラ行きましょう!すぐそこなんで」
中年男性さんに見えた一瞬の葛藤。
もう少し根掘り葉掘り聞きたいが、何か事情があるのかもしれない。
そんな心の動きだろう。
それぞれが互いに気を使い合って、四人は何かに急かされる様に家を出た。
カルノヴァさんはクルシュを抱っこし、ウィルシェの手を引いて、上機嫌に鼻歌を歌いながら私を先導する。
涼し気な空気の割に、虫の声が聞こえない夜道を行く。
なんか妙に明るい。
そういえば今日は月が奇麗だって言ってたっけ……。
そして私は空を見上げて……。
見てはならないものを見てしまった。
空には月が二つあった。
20
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる