女子高生剣士の私が異世界に転移したら大変なことになった 第一部

瑞樹ハナ

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二つの月

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夕飯の支度をする二人の兄弟の姿を見つめる。
良くできた面倒見のいい兄。
素直で明るい弟。
2人の周りだけ、ほんのり明るいような気がしてくる。
それでも心が軽くなることはなかった。
ざわざわとした胸の中の不安。
見聞きしたものの中での確かな矛盾。
先ほどのカルノヴァさん。若く見ても30そこそこの人だった。
そう、あんな貧しい身なりで、日本語ペラペラで完全にネイティブだった。
そんな人が東京も知らずに……?
なんだろう、凄く変だ。
嫌だ。
何かが嫌だ。
私は手元に刀を引き寄せた。
祖父の刀で間違いない。
ここで目覚めてから目にするあらゆるものに感じてる、確かにコレなんだけど、でも何かが違う……そんな違和感はこの刀からは感じない。
いえ、一つだけある。
見た目ではなく……軽いのだ。
袋竹刀を持っているような、そんな感覚。
あの「ずっしりと来た重さ」を知ったおかげで、軽く感じているだけ?
中身が竹になってたりしないかと心配になって刀身を確認する。
鞘に収まっていたキラリと光る日本刀の刃がその顔を覗かせた。

そこで、「私」を見た。
刀身に映った私を。
(あれ……私ってこんな顔だっけ……?)
一瞬だけ。本当に一瞬だけそう思ってドキンと心臓が跳ねたけど、見れば見るほど普通に私だった。
別に何も変じゃない。
落ち着け。
落ち着け。
ドンドン!と扉が叩かれる音で我に返った。
「クルシュ。開けてあげて」
「はーい!」
兄に言われて弟が素直に駆け出し、扉を開ける。
そこにはニコニコとしたカルノヴァさんが立っている。
彼は私に真っ先に気付いて、ぺこりと頭を下げた。
「どうもこんばんは。いや今日は月が奇麗なもんで、ええとどうですか?みんなで食事でも。良い鶏肉があるんですよ!」
何か兄弟というか、私に言ってる気がする。
赤ら顔に、少しお酒の香りが漂う。
「とりにく!」
クルシュのキラキラお目目が一層大きく輝いた。
「いいんですか?嬉しいな」
ウィルシェも、年相応の笑顔を見せている。
「もちろんいいとも!あ、えーと……」
「イズミ、です」
私の名前を聞いたカルノヴァさんは、改めて誘いの言葉を口にする。
「どうですか。イズミさんも!」
「おねえちゃんイズミっていうの?」
「なんだお前、知らなかったのか?」
なんで名前も知らない女を家に連れ込んでるんだ?みたいな空気が流れ、慌てて私から事情を説明する。
「今日、この二人に助けてもらって……今晩泊めてもらうことになったんです」
「そうですか。世の中物騒ですからね!ほ、ホラ行きましょう!すぐそこなんで」
中年男性さんに見えた一瞬の葛藤。
もう少し根掘り葉掘り聞きたいが、何か事情があるのかもしれない。
そんな心の動きだろう。
それぞれが互いに気を使い合って、四人は何かに急かされる様に家を出た。
カルノヴァさんはクルシュを抱っこし、ウィルシェの手を引いて、上機嫌に鼻歌を歌いながら私を先導する。
涼し気な空気の割に、虫の声が聞こえない夜道を行く。
なんか妙に明るい。
そういえば今日は月が奇麗だって言ってたっけ……。

そして私は空を見上げて……。
見てはならないものを見てしまった。


空には月が二つあった。
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