女子高生剣士の私が異世界に転移したら大変なことになった 第一部

瑞樹ハナ

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日本ではないの!?

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??年??月??日──?
私を助けてくれた兄弟は、兄がウィルシェ、弟はクルシュ、と名乗った。
この幼い兄弟は、この家で2人きりで生活していて、近隣の森から採集したものを売ったり、隣人の手伝いをして生活している。両親はすこし前に……とのことだった。
そんな話をしてる最中も、クルシュはずっとニコニコと私の顔を見ていて、ウィルシェは「二人だけじゃないのが嬉しいんだと思います」と申し訳なさそうにはにかんだ。
彼らがそんな身の上をまず私に明かしたのは、「遠慮なくここに居てもいいんですよ」との気遣いらしかった。
でも……それを有難く思う前に、私にはどうしても解消しなきゃいけない問題があった。
ここはどこなのか?
この兄弟は、在日外人なのだろうか。
日本語で意思の疎通ができているし、会話になんの不自由もない。
あまりに粗末な身なりと生活環境は私の常識から外れているが、それ以外はしっかりとした良い子だ。
あの不審者が外人だったとして、私を海外にまで連れ去ったとは考えにくい。
体感……時間感覚や疲労感でもそんなに長い間移動していたように思えない。
気を失っていたとしても、精々長くて2日くらいでしょう。
「私が倒れていたところ……案内してもらっても、大丈夫かな?」
ちょっと緊張しつつ確認する。
「駄目だ。××さんに家から出すなって言われてる」みたいな返事が返ってきたら、ある意味で事態は予想の範疇に収まったと言えるのかもしれない。
「わかりました。少し待っててください」
兄は弟を残して部屋を出ていく。
もしや、今度こそあの男を連れて戻るのではないだろうか?
緊張に身が固くなる。
クルシュは、本当に嬉しそうにニッコニコしながら私を見ている。
最悪、この子たちの前で乱暴されるような事態になるかもしれない。
「ぼくがみつけたんだよ!」
「……ありがとう」
彼の頭を撫でる。
手入れの行き届いていない、ゴワついた髪。
ちらっと見えた耳の後ろには、赤く斑な皮膚炎が見えた。
なんだか胸が痛む。
まもなくウィルシェは、手に衣類を抱いて戻ってきた。
「母のものです。外に出るには……その」
少年が赤面する。
つられて私の頬も熱を持つ。
そうね。これで外に出るのはアレよね。
「あ、アリガト……」
戴いたのはワンピースのような衣類。下着類は無い。
少し茶ばみのある白で、リネンのようなゴワつく生地で、目が粗い。
着心地は正直悪く、明るい日の下だと透けるんじゃないかと思えた。
二人の母は細身だったみたいで、胸とお尻を押し込めるのに苦労する。あとお腹のごく一部がすこしパッツンとキツイ。少しだけね。
着替えが終わった事を告げると、クルシュがはじけるような元気さで部屋に入ってきて、私のスカートをぎゅっと握った。その顔は勿論ニッコニコだ。
(お母さんじゃないのに、お母さんの服をきちゃってごめんね)
口に出すのが憚られたので、心の中で弟に、そして兄にも謝った。

私が寝かされていたのは奥の間で、扉一枚隔てた向こうにはダイニングがあり、そして扉をもう一つ潜って、外に出た。
太陽が変にまぶしく、そしてあまり暖かくないような気がした。
草花も、木も、鳥も、空気でさえも。
見慣れたもの、感じ慣れたものだけど、どこか「あれ?」と思うような違和感を惹起させる。
後は景色。
単純に「日本じゃなくない??」みたいな、山の形をしているような……。
「ここに倒れていたんです」
示されたポイントは、兄弟の家から100メートルほど離れた場所にある、森の入り口付近で、沢山の枝が折れて散らばっていた。
上を見上げると、いかにも「何かが落ちてきてココとソコを折りました」みたいな状態が残されている。
目を細めて、樹の枝ぶりに空いた穴の向こうを見る。
かなり高いところを雲が流れて、結構大き目な鳥がそのすぐ下を飛んでいた。
「どこから落ちてきたって言うのよ……」
プロペラ機みたいな飛行機からできるだけ低空で投げ落とした?それで私があちこち痛い程度でピンピンしてるの?
「ここに?」
「はい。その、剣を抱きながら、裸で仰向けに……」
「こう!こうだよ!」
クルシュは足をガバっと広げてしなくていい現場再現を見せてくれる。
「……そのまま家まで?」
「慌てていたので……」
ウィルシェの方が両手で顔を覆いながら返事した。
その恥ずかしいもの見ちゃったアピールはいらないから。
「道中誰かに……」
「誰にも会ってません!!」
それだけ聞いて取り合えずその話は打ち切り、改めてしゃがみこんで現場検証をする。
地面は何か強めの衝撃を受けたような痕跡を示してはいない。
その昔、地元のマンションで飛び降り自殺現場を見たことがある。
頭が落ちたと思われる部位を中心に、大きく凹んでいて、暫く雑草も生えなかった、あの地面を思い出す。
地面を触る。
例によって、見知った土の手触りと固さ。でも……やっぱり何かが?
じっと地面を見つめると、足元から揺らぐような、何かが這い寄るような気味悪さを覚えて慌てて立ち上がった。
「ありがとう、お家にかえりましょう」
……そうだ。この兄弟に言わないと。「今晩泊めてください」って。
「えーと、ウィルシェ。クルシュ。あのね、今晩、私を……」
「ヴィルシュカ!!」
大声で叫ばれ、話の腰を折られる。
後ろから大人の男性が駆け寄ってくる気配。
しまった!刀を持ってくればよかった!
恐怖に硬直して振り向けない私に代わって、美少年が返事をする。
「ちがうよカルノヴァさん……お母さんじゃ、ないです……」
「……そ、そうか。うん、よく見れば……」
そこで私はやっと振り返ることが出来た。
目の前には大きな体を申し訳なさそうに縮めた成人男性。
この人も……外人と言えば外人だけど、日本人と言われても違和感が無いような、不思議な顔立ちだ。
悪人には見えない。体格とヒゲ面の割に、温厚そうにみえる。
着ている服は粗末な農作業着だろうか。西洋絵画で見たことがある。
ボロのチュニックに、ズボン。
造りの粗い革製の靴。
現代日本ではむしろ普通の衣装の方が安上がりなんじゃないだろうか……。
「どうもすいませんでした。はは……」
男は恥ずかしそうに頭を掻いて、手にした帽子で顔をバタバタと仰いでいる。
ははあ、この人、二人のお母さんのことが好きだったのね、と何となく勘づいた。
この兄弟が手伝いをしている隣人というのも、この人なんじゃないだろうか。
好きな人が残した幼い兄弟を庇護しているのだ……多分。
「いいえ。あの……ここって、どこ辺りなのか教えていただけませんか?」
めっちゃ愛想よく笑顔を返して、ここぞとばかりに地名を尋ねた。
「なんで日本人がこんな所にいるんだ!」みたいなリアクションをしない所を見ると、外人が集まって暮らしている謎の村で、どこにあるかも教えられん!みたいな事はないに違いない。
「え?ああ。ここは   ですよ」
「え?」
私は笑顔で固まる。
ぜんっぜん聞き取れなかった。
「ここは    ですよ。    から西にある。まあそのお陰で何もない平和な所なんですがね」
カルノヴァさんと呼ばれた男は、私に負けない愛想の良さで返事をしてくれた。
その目はめっちゃおっぱい見てるけど。視線で分かるんです。
視線は分かるんだけど、本当に彼の言葉の一部がまったく分からなかった。
なんだかゾクっとした。
「ええと、あの……トウキョウって……どこかご存じないですか?」
「ええ?聞いたことないなぁ。俺、あんまりここを離れたことないんで。お役に立てず申し訳ない」
なんだか上機嫌になってる隣人の農作業オジサンと、二言三言会話をしてから分かれて、兄弟の家に戻った。
家に戻ると、改めて二人にお礼を言い、そして今晩泊めてくださいとお願いして、「いつまででも大丈夫です。クルシュも喜びますから」と、そんな返事をもらった。

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