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闘技場へのいざない
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南スラム
私はその足で、ズカズカと南スラムに向かい、ヴィクターに面会して、北の使者とのやり取りを伝えた。
「……という訳だから」
「お前、なんか怒ってないか?」
「別にぃ」
本当は勢い込んで、北を潰すの手伝う宣言したい気持ちもあるけど、それはそれ。
組織規模の抗争とは別に、個人的な喧嘩が出来るならアイツをボッコボコにして転がした後、ズボンを膝まで降ろしてお尻に木の枝でも活けてやるところだけどね。
「教えて。私がスラムの戦いに加わらなくてもいい手を。お願いします」
「凄腕剣士だと思ったら、実は脅威でも何でもなかった……と思い込ませればいい」
なるほど、なんかプライドに触るけど、名案。
「それにはどうしたら?」
「怒るなよ?」
「え、怒りそうなことなの?」
「明日の晩、闘技場のモンスターファイトに出て負ける事さ」
「いやそれ大怪我するんじゃ……怒らないけど、それは困る……」
例によって全裸でベッドの上にいたヴィクターは立ち上がり、サイドテーブルから鍵束をつまみ上げ、私について来いという。
彼について、薄暗いアジトの中を歩く。
目の前には、彫刻のような、形のいい引き締まったお尻。
「闘技場はわかるか」
私が思い描くのは、剣闘士奴隷たちの姿。スパルタカスの叛乱とか、グラディエーターとか、映画で見たっけ。
「たぶん」
「じゃあ分かるだろうが、人対人の試合だと、負けて死ぬこともあるし、大抵は負けたら相手の所有物になる。だから負けを前提にした場合、人を相手にするのはお前の望むところではないだろう」
細かいルールはともかく、望まないのはそう。それはそう。
「モンスターを相手にした場合は、基本的に負ければそのまま殺される」
「おい……」
死んでるじゃん!そりゃ死んだら脅威じゃなくなるわ!
いえ、ヴィクターは馬鹿じゃない。この話には先がある。きっとある。
彼は地下への階段を下りて、厳重に閉ざされた鉄扉の前に立った。
なんか呻き声が聞こえる。
「残酷な見世物だけだと、闘技場は衰退する。そこで様々な趣向が凝らされるようになった」
ギギギと鉄扉が開かれ、風が流れ出し、獣臭や生臭さと似て非なる死骸臭が溢れ出した。
私はこの匂いを知っている。
あの時は森だったけど、今は密閉空間。充満した異臭におえっとえずいて、涙がでてくる。
「おいおい、大丈夫か」
「だ。大丈夫……」
彼は平然と中に進み、私はヘロヘロとそれに続く。
そこは牢獄だった。
ただし、収監されているのは、罪人ではなくモンスター……あれ?人もいる。
人みたいに見える魔物なのか、それとも罪人もここに入れられてるのか。
南スラムの王の、冷酷な統治者としての一面を見た気がする。
ヴィクターは奥へ奥へと進み、一つの檻の前で留まる。
そしてその入り口の施錠を解く。
「ち、ちょ!危ないんじゃないの!?」
「こいつは飛び出してはこない」
彼はそう言って入り口正面を私に譲った。
私は譲られるままに入り口に立ち、中を覗き込む。
「う゛!」
そこには、イソギンチャクと類似性が見て取れるけど、明らかにそうではない、そもそも体長にして1メートル、胴囲は直径で50センチはありそうな大きさの、ウネウネグシュグシュと蠢く、まさに魔物と言うべき生き物がいた。その動きが妙に生々しい。むき出しの内臓をみているかのような不快感がある。
きっも!!!!
悪寒が身体を貫いて、無意識に後ずさった私の身体を、ヴィクターが抱き留める。
「なんでこんなの飼ってるのよ」
「試してみるか」
「え?」
彼が私の背中を、ドンっと押す。
スローモーションに思える程、時間がゆっくり流れる中、姿勢を崩した私は、いっぽ歩に歩さーん歩、のタイミングで、モンスターの目の前に躍り出た。
「はい?」
ヴィクター!?
私はその足で、ズカズカと南スラムに向かい、ヴィクターに面会して、北の使者とのやり取りを伝えた。
「……という訳だから」
「お前、なんか怒ってないか?」
「別にぃ」
本当は勢い込んで、北を潰すの手伝う宣言したい気持ちもあるけど、それはそれ。
組織規模の抗争とは別に、個人的な喧嘩が出来るならアイツをボッコボコにして転がした後、ズボンを膝まで降ろしてお尻に木の枝でも活けてやるところだけどね。
「教えて。私がスラムの戦いに加わらなくてもいい手を。お願いします」
「凄腕剣士だと思ったら、実は脅威でも何でもなかった……と思い込ませればいい」
なるほど、なんかプライドに触るけど、名案。
「それにはどうしたら?」
「怒るなよ?」
「え、怒りそうなことなの?」
「明日の晩、闘技場のモンスターファイトに出て負ける事さ」
「いやそれ大怪我するんじゃ……怒らないけど、それは困る……」
例によって全裸でベッドの上にいたヴィクターは立ち上がり、サイドテーブルから鍵束をつまみ上げ、私について来いという。
彼について、薄暗いアジトの中を歩く。
目の前には、彫刻のような、形のいい引き締まったお尻。
「闘技場はわかるか」
私が思い描くのは、剣闘士奴隷たちの姿。スパルタカスの叛乱とか、グラディエーターとか、映画で見たっけ。
「たぶん」
「じゃあ分かるだろうが、人対人の試合だと、負けて死ぬこともあるし、大抵は負けたら相手の所有物になる。だから負けを前提にした場合、人を相手にするのはお前の望むところではないだろう」
細かいルールはともかく、望まないのはそう。それはそう。
「モンスターを相手にした場合は、基本的に負ければそのまま殺される」
「おい……」
死んでるじゃん!そりゃ死んだら脅威じゃなくなるわ!
いえ、ヴィクターは馬鹿じゃない。この話には先がある。きっとある。
彼は地下への階段を下りて、厳重に閉ざされた鉄扉の前に立った。
なんか呻き声が聞こえる。
「残酷な見世物だけだと、闘技場は衰退する。そこで様々な趣向が凝らされるようになった」
ギギギと鉄扉が開かれ、風が流れ出し、獣臭や生臭さと似て非なる死骸臭が溢れ出した。
私はこの匂いを知っている。
あの時は森だったけど、今は密閉空間。充満した異臭におえっとえずいて、涙がでてくる。
「おいおい、大丈夫か」
「だ。大丈夫……」
彼は平然と中に進み、私はヘロヘロとそれに続く。
そこは牢獄だった。
ただし、収監されているのは、罪人ではなくモンスター……あれ?人もいる。
人みたいに見える魔物なのか、それとも罪人もここに入れられてるのか。
南スラムの王の、冷酷な統治者としての一面を見た気がする。
ヴィクターは奥へ奥へと進み、一つの檻の前で留まる。
そしてその入り口の施錠を解く。
「ち、ちょ!危ないんじゃないの!?」
「こいつは飛び出してはこない」
彼はそう言って入り口正面を私に譲った。
私は譲られるままに入り口に立ち、中を覗き込む。
「う゛!」
そこには、イソギンチャクと類似性が見て取れるけど、明らかにそうではない、そもそも体長にして1メートル、胴囲は直径で50センチはありそうな大きさの、ウネウネグシュグシュと蠢く、まさに魔物と言うべき生き物がいた。その動きが妙に生々しい。むき出しの内臓をみているかのような不快感がある。
きっも!!!!
悪寒が身体を貫いて、無意識に後ずさった私の身体を、ヴィクターが抱き留める。
「なんでこんなの飼ってるのよ」
「試してみるか」
「え?」
彼が私の背中を、ドンっと押す。
スローモーションに思える程、時間がゆっくり流れる中、姿勢を崩した私は、いっぽ歩に歩さーん歩、のタイミングで、モンスターの目の前に躍り出た。
「はい?」
ヴィクター!?
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