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一章
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2XXX年 4月8日 8時56分
時は遡る。
心音が友里のスマートフォンを破壊したその後の事、彼女は早退し心音もその日は早退していた。
体育館裏倉庫では、友里にみぞおちを前蹴りされ蹲っていた美海が何とか体制を取り戻し座って身体を落ち着かせていた。
菜々子が美海の背を摩って吐き気を抑えている。
「友里のやつ絶対に許さない」
美海の言葉を聞いて菜々子は悪巧みをする。
「心音を揶揄うのも飽きたっしょ、タゲチェンしとく?」
美海は不敵な笑みを浮かべた。
翌日の昼休憩、心音は遅れて登校し菜々子と美海は目を付けた。心音は身体を萎縮させていると二人は好意的に関わり昼食に誘いかけた。
「あの写真センコーに見せてないっしょ?」
「ウチら呼び出し受けてないしね~」
心音はあの後の事をジキルハイドが自分である事を伏せてその他のありのままを二人に話した。余計な事をしてまたあの様な仕打ちを受けるのも避けたいからである。その件を伝えると、菜々子は相槌を打つ。
「つまり、心を許したと思っていた相手にあんたの中のあんたを否定された訳っしょ。それってムカつかね?」
心音は静かに頷く。すると、不意に悪魔に憑依されたかのような表情で心音の顔に急接近し彼女の左耳にある事を囁いた。
「裏切られたままは嫌じゃん。一緒にやり返そうよ」
更に右耳に美海がこう囁く。
「そしたら、あんたを解放してあげる」
心が揺らいでいる事を本人も自覚している。
思考を巡らせた。
誘いに乗れば開放されるかもしれない。
その代わりに友里が傷つく羽目になる。
しかし、人が傷つくことを嫌う善人の心音が誘惑に惑わされまいと抑制していた。
だが、ジキルハイドを軽視する友里ならば罪悪感は無いのではと心の弱さが善人の心音を呑み込んでいく。
【ジキルハイドの何かにならなくてもいいんだよ!もう一人の自分はいらないの!】
ジキルハイドは私が作り出した、
私であって私ではない不安定な存在
他者から見ればジキルハイドはジキルハイドで私であって私でないの。
でも、私だからこそジキルハイドは私がいないと存在できない。
【ジキルハイド何かにならなくていい】
【もう一人の自分はいらないの】
彼女はあの時、そう言った。
ジキルハイドは私の生き甲斐。
彼が存在できているから私は生きていけた。
楽しさを見いだせた。
なのに、彼女は意図も簡単に存在を否定した。
ジキルハイドであろうとする私を否定した。
ジキルハイドは私であって
私はジキルハイドなの。
無理にジキルハイドにあろうとしている訳では無い。
決して、法月心音という存在を消滅させる為にジキルハイドを生み出した訳では無いのに。
私は私であるし、現実から逃れようとする弱い私を受け入れている。
ただ、ジキルハイドというもう一人の私の存在が私を安息させていたんだ。
仮に私を虐める菜々子の証拠を提出して彼女らが私に対する直接的な行為を辞めたとしても、ジキルハイドの私は変わらない。
あの証拠を提出し現実の私が羞恥する事になるなら提出しない方がマシだった。
それに担任教師も菜々子達のグルであることは知っている。
三木菜々子が在籍している事は学校にとっても誇りではあるがリスクも伴っている。
どんな形であれ、学校の知名度を上げてくれる生徒は援護したい。逆に言えば、世間的にも有名な菜々子が虐めの主犯者とバレれば学校の評判が落ちる。
本人達は今までバレずに虐めを実行出来ていると考えているのだろうが、実際は教師側が見て見ぬふりをしているだけだ。
だからあんな写真を見せても【きっと】意味が無い。
けど、友里は私の羞恥も気にしないで。
無意味な正義を貫こうとした、
ジキルハイドの否定してまで…。
彼女なら私の代わりになっても…いいよね。
「どうしたい?逃れたいっしょウチらから」
「一緒に楽しんじゃおうよ~」
心音は、感情を無にして頷いていた。
それから、友里の欠席が続いたが心音は菜々子たちから手を下されることもなくなった。
「まぁじっくり待つっしょ」
菜々子がよく言っている言葉だ。
このまま、友里が来なかったらまた私は虐められるかもしれない。と彼女は考えていたが少なくとも今は普通の学校生活を送れることが出来た。
普通の生活なのに込み上げるような喜びを感じ、笑顔を彼女は取り戻していた。
2XXX年 4月12日 13時22分
休日、心音は先輩の深雪と外食に出かけていた。そこはケーキの食べ放題であった。モンブランやティラミスなど一口サイズにカットされた物がズラリと並んでいる。心音は目を星に光らせ喜んでいた。
「奢りだし食べ放題だからとことん食べなよー」
心音は満面の笑みで頷く。
深雪は最近になってようやく心の底から笑うようになった心音を見て嬉しかった。
「最近どうよ?学校は?」
「分からない。けど、迷いは多分無くなった。今を維持できるように頑張るつもり」
前まで息苦しかった事を多少混じえながら本音を話せるようになった心音、彼女が菜々子達との契約を結んだこと、例えそれが正解とは言えないものであっても、今後自分が苦しまない生活を求めた。
「そっかそっか!よーし、食べるぞー」
どんな形であれ心音が笑えればいい。まだ彼女の中に揺らぐものがあっても深雪はそれ以上深く追求はしない。
二人はテーブル一面に広がるケーキを堪能した。頬をとろけさせながら次々と頬張っていく。心音は一つ一つを味わっていくのに対して深雪は次から次へと胃へと送っていく。あまりの速さに心音はフォークを口に入れたままにして凝視した。
「みーたんってやっぱり見た目に合わず大食いだよねー」
瞬きをする心音、深雪は口に入れているケーキを飲み込むと斜め上に目をそらしながら考えた。
「まぁ中学バスケ部だったし、体を動かしたぶんよくご飯食べてたからかなぁ~」
「いっぱい食べられて羨ましいよ」
「そう?」
深雪は愛おしいものを見る目で微笑んでいた。普段、毎日いると自然と少なくなる何気ない会話、こうしたスイーツな時間を設けて長時間心音と居られる事が彼女にとっては安心尚且つ幸せな時間なのだ。
17時、帰宅する二人。心音は女子部屋に入りクラブに行く為に猫の着ぐるみを着た。今日もジキルハイドとなり、会場を盛り上げに向かう。 出かけるのを見送った深雪はリビングに行き、ソファーに座って映画を視聴する横川の隣に座った。
「香水つけてる?」
そう言われた横川は右手を反対側の首に触れ、首元に張っている湿布を深雪に見せつけた。
「あぁ、湿布の匂いだ」
「湿布がそんなにいい匂いするかっ」
横川は緑陽の生徒会長兼ね空手部部長だ。かなりの高身長で顔も平均並みなことからそれなりにモテる。香水も好かれているマネージャーから定期的に貰っているようだ。
「ねぇそれよりも心音前より明るくなったよね」
「まぁ本音から笑うようにはなったなと感じる」
テレビに顔を向けたまま応答をする横川、それが若干深雪を不満に思わせたのか、軽く横川の頭を払った。それでも横川は気にせず映画の視聴を続けていた。呆れた深雪は溜息をつきながら深雪が立ち去ろうする。すると、横川は映画を一時停止したのちに彼女を呼び止めた。
「そんな訳なかろう。アイツが助けを求めることがあれば俺は全力で助ける。アイツが自分でなんとかしたいなら俺はその気持ちを尊重する。それだけだ。今は少なからず良い方に向かっているなら俺らは見守ることが最善だと思うが」
彼の言っていることはよく分かるし彼女も同意見だった。深雪は一言同意すると長い髪をかきあげながらシャワールームへと向かった。
地下
ジキルハイドが音源を流す。
明るい雰囲気の音源の中に情熱が組み込まれジキルハイドのパッションを感じさせる。
観客もそれに応えるかのようにリズムに乗っていた。いつも以上に盛り上がっているようにジキルハイドは感じた。中の人の日々が好転的に向かっているからこそ普段の景色も良く感じるのかは分からない。
だが、いつも以上に気持ちよかった。
「みんな!!もっと盛り上がっていこうぜぇ!」
時は遡る。
心音が友里のスマートフォンを破壊したその後の事、彼女は早退し心音もその日は早退していた。
体育館裏倉庫では、友里にみぞおちを前蹴りされ蹲っていた美海が何とか体制を取り戻し座って身体を落ち着かせていた。
菜々子が美海の背を摩って吐き気を抑えている。
「友里のやつ絶対に許さない」
美海の言葉を聞いて菜々子は悪巧みをする。
「心音を揶揄うのも飽きたっしょ、タゲチェンしとく?」
美海は不敵な笑みを浮かべた。
翌日の昼休憩、心音は遅れて登校し菜々子と美海は目を付けた。心音は身体を萎縮させていると二人は好意的に関わり昼食に誘いかけた。
「あの写真センコーに見せてないっしょ?」
「ウチら呼び出し受けてないしね~」
心音はあの後の事をジキルハイドが自分である事を伏せてその他のありのままを二人に話した。余計な事をしてまたあの様な仕打ちを受けるのも避けたいからである。その件を伝えると、菜々子は相槌を打つ。
「つまり、心を許したと思っていた相手にあんたの中のあんたを否定された訳っしょ。それってムカつかね?」
心音は静かに頷く。すると、不意に悪魔に憑依されたかのような表情で心音の顔に急接近し彼女の左耳にある事を囁いた。
「裏切られたままは嫌じゃん。一緒にやり返そうよ」
更に右耳に美海がこう囁く。
「そしたら、あんたを解放してあげる」
心が揺らいでいる事を本人も自覚している。
思考を巡らせた。
誘いに乗れば開放されるかもしれない。
その代わりに友里が傷つく羽目になる。
しかし、人が傷つくことを嫌う善人の心音が誘惑に惑わされまいと抑制していた。
だが、ジキルハイドを軽視する友里ならば罪悪感は無いのではと心の弱さが善人の心音を呑み込んでいく。
【ジキルハイドの何かにならなくてもいいんだよ!もう一人の自分はいらないの!】
ジキルハイドは私が作り出した、
私であって私ではない不安定な存在
他者から見ればジキルハイドはジキルハイドで私であって私でないの。
でも、私だからこそジキルハイドは私がいないと存在できない。
【ジキルハイド何かにならなくていい】
【もう一人の自分はいらないの】
彼女はあの時、そう言った。
ジキルハイドは私の生き甲斐。
彼が存在できているから私は生きていけた。
楽しさを見いだせた。
なのに、彼女は意図も簡単に存在を否定した。
ジキルハイドであろうとする私を否定した。
ジキルハイドは私であって
私はジキルハイドなの。
無理にジキルハイドにあろうとしている訳では無い。
決して、法月心音という存在を消滅させる為にジキルハイドを生み出した訳では無いのに。
私は私であるし、現実から逃れようとする弱い私を受け入れている。
ただ、ジキルハイドというもう一人の私の存在が私を安息させていたんだ。
仮に私を虐める菜々子の証拠を提出して彼女らが私に対する直接的な行為を辞めたとしても、ジキルハイドの私は変わらない。
あの証拠を提出し現実の私が羞恥する事になるなら提出しない方がマシだった。
それに担任教師も菜々子達のグルであることは知っている。
三木菜々子が在籍している事は学校にとっても誇りではあるがリスクも伴っている。
どんな形であれ、学校の知名度を上げてくれる生徒は援護したい。逆に言えば、世間的にも有名な菜々子が虐めの主犯者とバレれば学校の評判が落ちる。
本人達は今までバレずに虐めを実行出来ていると考えているのだろうが、実際は教師側が見て見ぬふりをしているだけだ。
だからあんな写真を見せても【きっと】意味が無い。
けど、友里は私の羞恥も気にしないで。
無意味な正義を貫こうとした、
ジキルハイドの否定してまで…。
彼女なら私の代わりになっても…いいよね。
「どうしたい?逃れたいっしょウチらから」
「一緒に楽しんじゃおうよ~」
心音は、感情を無にして頷いていた。
それから、友里の欠席が続いたが心音は菜々子たちから手を下されることもなくなった。
「まぁじっくり待つっしょ」
菜々子がよく言っている言葉だ。
このまま、友里が来なかったらまた私は虐められるかもしれない。と彼女は考えていたが少なくとも今は普通の学校生活を送れることが出来た。
普通の生活なのに込み上げるような喜びを感じ、笑顔を彼女は取り戻していた。
2XXX年 4月12日 13時22分
休日、心音は先輩の深雪と外食に出かけていた。そこはケーキの食べ放題であった。モンブランやティラミスなど一口サイズにカットされた物がズラリと並んでいる。心音は目を星に光らせ喜んでいた。
「奢りだし食べ放題だからとことん食べなよー」
心音は満面の笑みで頷く。
深雪は最近になってようやく心の底から笑うようになった心音を見て嬉しかった。
「最近どうよ?学校は?」
「分からない。けど、迷いは多分無くなった。今を維持できるように頑張るつもり」
前まで息苦しかった事を多少混じえながら本音を話せるようになった心音、彼女が菜々子達との契約を結んだこと、例えそれが正解とは言えないものであっても、今後自分が苦しまない生活を求めた。
「そっかそっか!よーし、食べるぞー」
どんな形であれ心音が笑えればいい。まだ彼女の中に揺らぐものがあっても深雪はそれ以上深く追求はしない。
二人はテーブル一面に広がるケーキを堪能した。頬をとろけさせながら次々と頬張っていく。心音は一つ一つを味わっていくのに対して深雪は次から次へと胃へと送っていく。あまりの速さに心音はフォークを口に入れたままにして凝視した。
「みーたんってやっぱり見た目に合わず大食いだよねー」
瞬きをする心音、深雪は口に入れているケーキを飲み込むと斜め上に目をそらしながら考えた。
「まぁ中学バスケ部だったし、体を動かしたぶんよくご飯食べてたからかなぁ~」
「いっぱい食べられて羨ましいよ」
「そう?」
深雪は愛おしいものを見る目で微笑んでいた。普段、毎日いると自然と少なくなる何気ない会話、こうしたスイーツな時間を設けて長時間心音と居られる事が彼女にとっては安心尚且つ幸せな時間なのだ。
17時、帰宅する二人。心音は女子部屋に入りクラブに行く為に猫の着ぐるみを着た。今日もジキルハイドとなり、会場を盛り上げに向かう。 出かけるのを見送った深雪はリビングに行き、ソファーに座って映画を視聴する横川の隣に座った。
「香水つけてる?」
そう言われた横川は右手を反対側の首に触れ、首元に張っている湿布を深雪に見せつけた。
「あぁ、湿布の匂いだ」
「湿布がそんなにいい匂いするかっ」
横川は緑陽の生徒会長兼ね空手部部長だ。かなりの高身長で顔も平均並みなことからそれなりにモテる。香水も好かれているマネージャーから定期的に貰っているようだ。
「ねぇそれよりも心音前より明るくなったよね」
「まぁ本音から笑うようにはなったなと感じる」
テレビに顔を向けたまま応答をする横川、それが若干深雪を不満に思わせたのか、軽く横川の頭を払った。それでも横川は気にせず映画の視聴を続けていた。呆れた深雪は溜息をつきながら深雪が立ち去ろうする。すると、横川は映画を一時停止したのちに彼女を呼び止めた。
「そんな訳なかろう。アイツが助けを求めることがあれば俺は全力で助ける。アイツが自分でなんとかしたいなら俺はその気持ちを尊重する。それだけだ。今は少なからず良い方に向かっているなら俺らは見守ることが最善だと思うが」
彼の言っていることはよく分かるし彼女も同意見だった。深雪は一言同意すると長い髪をかきあげながらシャワールームへと向かった。
地下
ジキルハイドが音源を流す。
明るい雰囲気の音源の中に情熱が組み込まれジキルハイドのパッションを感じさせる。
観客もそれに応えるかのようにリズムに乗っていた。いつも以上に盛り上がっているようにジキルハイドは感じた。中の人の日々が好転的に向かっているからこそ普段の景色も良く感じるのかは分からない。
だが、いつも以上に気持ちよかった。
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