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一章
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2XXX年 4月8日 00時02分
心音 シェアハウス
女子部屋でヘッドホンを付けながらベッドの上で横になって寛ぐ心音。スマートフォンを片手に触れている。そこへ、バイトから帰宅し入浴を終えた一つ歳上の先輩【忌部 深雪】が心音の顔を覗かせ声をかけた。
「どーしたの?みーたん」
「その呼び方、辞めてくれない?先輩よ?」
長髪の黒い髪、目や口は小さい。
平安時代なら美女として名高そうな顔である。
心音は身体を起こしてベッドに座る。深雪もその横に座って、心音の膝に左手を添えた。
そして、何気ない会話を始める。
「最近どうなの?」
「順調!みんな私のことを認めてくれる」
嘘はついていない。学校生活はともかく確かにクラブの中ではみんな心音(ジキルハイド)の存在を認めているからだ。
「誰も心音を傷つけてない?」
この問いにも心音は肯定的な応答をした。
心音に虐めを行っている菜々子も美海もジキルハイドのファンだから彼の姿でいる時は受け入れてくれる。
純粋で笑顔で答える心音に深雪はそれ以上踏み込むことはできなかった。
しかし、気がかりが無くならない。
深雪は彼女の背景に薄々気づいているだからこそ些細な合図でも良い、深雪は彼女に助けを求めて欲しかった。
八時間後、
緑陽に在籍し二回目の登校、友里は早まる鼓動に抗いながら目を瞑って教室に足を踏み入れた。
教室には菜々子や美海、純の姿もないどころか心音も居ない。心音が居ない事は気にしたが平穏な空間だった。友里はスッカリ肩の力が抜け、安心して教室の中に足を進み入れ自身の席に着席する。
気を張ることの無い、背もたれに全体重を乗せて天井を見上げる。天国にやってきたかのような安楽さ、身体が軽い宙に浮かび上がる感覚を味わった。
チャイムが鳴りホームルームが開かれる。担任教師が入室し委員長に挨拶を任せた。しかし、心音は不在である為、応答は無い。
「何?いないのか」
心音が居ないことを確認する教師、ついでに純や菜々子達も居ないことを認識する。ふと、顎に手をやってでかい独り言を言う。
「朝見かけたんだがな…」
突如胸騒ぎに襲われた。
担任教師が副委員長の男子生徒に委員長の事を尋ねた瞬間、友里は身体が勝手に動いており教室を出ていた。担任教師が止めるも彼女は気にしない。
娯楽室に駆けつけ勢いよく扉を開く、重量の荷物を落としたような音が部屋に響き、娯楽室の中に居た純の機嫌を損ねさせた。怒りを殺し平然を装った顔で純は友里をソファーから見上げて目線を合わせる。
「何かようか転校生?」
友里は娯楽室に心音が居ないことを確認すると、純の言葉には聞く耳を持たず、無断で部屋を後にしようとした。すると、いつも純の左右に居る丸刈りで金髪の長身の男が出口を塞いだ。
「無断で入って出ていけるとでも思ってんの?」
友里は一歩身を引いた。身体が緊張し震えそうだった。目を瞑って息を整え昨日の心音の言葉を思い浮かべる。
【もう一人の自分】
イメージを浮かべる。
強者にも立ち向かう怖いもの知らずの自分を。
もう一人の自分を作り出す事は、なりたい未来の自分をイメージすること。友里が心音から得た言葉は心音とは少し違った解釈のあり方で確立した。
噛み付け…言葉で食らいつけ…。
「どいてください…」
小さいが意思が強く乗っている。怯えず言葉にした事に意味があり彼女に取っては大きな一歩であった。
丸刈りの男は姿勢を低くして耳を傾ける。
「今なんていった?」
男が友里の髪を掴もうとしたその時、純が一声で止めた。
そして、友里の目的を直感で悟り心音の居場所を知りたいのかを問いかける。友里は真剣な眼差しを純に向けると、純は乾いた口を舐めて「良いだろう」と一言残す。
昨夜、クラブで菜々子は純を彼氏と勘違いされ彼の不届きな行動が彼女の顔に泥を塗った。ネットで叩かれた苛立たしさを心音にぶつける為に早くに登校していた心音を体育館裏倉庫に連れ去っていた。
「どうして知ってて助けないの?」
友里は純に問いかけると彼は鼻で笑って言った。
「どうでもいいからに決まってるからだろ」と。
その答えに友里は更に質問を重ねた。
「なら私に助言するのは何故?」
一瞬静まり返ると彼は鋭い視線を友里に送った。
「何を勘違いしてるか知らねぇが、心音(アイツ)の所に行きたかったら勝手にしろ。その後はどうなっても俺はどうだっていい」
純が無慈悲な言葉を吐くと丸刈りの男は扉から退いて友里を通した。友里は、彼が言っていた体育館裏倉庫に向かう。明確な場所は知らないが大体の場所は初日に心音が案内をしていた為、大凡の位置は想定が付いていた。
体育館裏倉庫前、扉は閉まっている。
友里は呼吸を整え息を呑んだ。
音を立てずに慎重に扉に近づく、鼓動が早いのは走った疲れか緊張感か、或いは両方か。
扉に手を刺しかけた時、倉庫内から高い笑い声が聞こえてきた。
何かを嘲笑うかのような笑い方。自然と心音が酷い仕打ちを受けているのだと友里は考える。
友里は、恐怖と葛藤しながらも勇気を振り絞る。
「もう一人の自分、なりたい自分を…イメージ……私はなりたい自分になる!」
扉を開こうとする、だが、中から鍵が掛けられていて扉は開かなかった。
倉庫内にいる菜々子と美海そしてその他加担者三名と椅子に縛られている心音は扉を開こうとする音に気がついた。心音は助けを呼ぼうとしたがガムテープで口を塞がれており思うように声を出せなかった。
舌打ちをし警戒する菜々子、裏倉庫は基本、体育祭や文化祭等行事で使用する物しか置いていない。始業式や入学式を終えたこの時期に裏倉庫に教師が踏み入れる事は無いに等しい。
菜々子は美海に何者かを尋ねるように命令した。
美海の声を聞いて中に心音が居ることを確信した友里。彼女は震える声を押し出した。
「……っあけて!!」
友里の声を聞いた菜々子たちは不気味な笑みを浮かべた。そして美海に扉を開けさせる。
その途端、倉庫内にカメラのシャッター音が響いた。
隙を突かれ目を見開いて驚く菜々子、思わず声が上げる美海、だったが何故か先制を仕掛けた筈の友里が衝撃の光景を目にし固まっていた。
「…ひどすぎる」
両目から涙を溢れさせる心音の姿、制服は脱がされインナーはハサミで裂かれていた。その為、肌は所々露出されている。
友里のスマートフォンを奪い取ろうとすぐ近くにいた美海が飛びかかった。必死に奪われまいと抵抗する友里は無我夢中で振り払い、美海のみぞおちに前蹴りを入れた。
「あなた達がした事、バラされたく無ければ心音を今すぐ解放して!」
蹲る美海に寄り添う菜々子、その姿勢から友里に殺気じみた視線を送った。手の空いた菜々子の囲い三名が心音を解放した。心音はすぐに友里の元へ俯きながら寄った。顔は真っ青で死んだ魚のようだ。目に光りもなかった。
「行こ、心音」
どういう時も常に笑顔を振る舞う心音を底まで追いやられているのが感じ取れる。足の力が抜けていて支えが無いと歩けない状態だった。心音は細い声で問いかける。
「…どこに行くの?」と。
友里は希望と菜々子達への怒りが混ざり合った真っ直ぐな声で答えた。
「決まってる先生のとこだよ。証拠を叩きつけてやるの!」
それを聞いた心音は友里を払い除けてその場で俯きながら立ち止まった。友里は突然の心音の行動に戸惑いながらも身体を心配する。
立ち止まる心音は、顔を上げると涙を零しながら弱々しい声で言った。
「その写真を見せるの…?」
服が裂かれ露出した肌を思春期まっさなかの女子がほぼ毎日顔を合わせる他人の教師に見られるなんて耐え難いものだろう。
だが、友里は心音の気持ちをすぐに汲み取る事ができず正義を貫こうとした。
「でも、これさえ見せつければ終わるんだよ!ジキルハイド何かにならなくてもいいんだよ!もう一人の自分はいらないの!」
心音の表情百八十度変わった。
目を赤く充血させながら大きく瞳孔を開いた。
友里は必死になって心音を説得する。
「偽りの自分作り出すんじゃない、勇気を振り絞ってなりたい自分に心音もなろ!」
だが彼女は目を一度瞑るとゆっくりと絶望に満ちた目で友里を見た。
「…知り合って間もない貴女に何が分かるの?」
ゆっくりと友里に近づく心音、友里は訳が分からず混乱している。何故、彼女が怒っているのかも理解が出来なかった。もうすぐで菜々子の首に手が届くのに何故そうしないのかも分からない。少し冷静になろうと自分に言い聞かせ、目を瞑った。そして、羞恥心の件を考えていなかったのは悪かったと反省する。
「は、恥ずかしいよね。ごめんね。気持ちを汲み取ってあげれなくて。で、でも分かるけど!」
状況に焦りを感じ興奮状態に陥る友里、珍しく声も張り上がった状態で早口になっていた。そんな彼女を心音は一言で黙らせた。
【何も分かってない!】
そう言って、友里が手に持つスマートフォンを奪い取って地面に叩きつけると踏み潰した。画面は粉々で電源がつかない。
「え…?」
友里は思わず腰を抜かした。
「助けてくれたのは感謝するよ。けど、貴方は私と私を否定したのよ…。」
心音はそう言い残し影のように消えていった。
突然吐き気に襲われる友里、急いで体育館の中にあるトイレへと駆け込み便器の中に顔を向けると胃の中の全ての物を吐き出した。
どうして?………最悪だ…。
心音 シェアハウス
女子部屋でヘッドホンを付けながらベッドの上で横になって寛ぐ心音。スマートフォンを片手に触れている。そこへ、バイトから帰宅し入浴を終えた一つ歳上の先輩【忌部 深雪】が心音の顔を覗かせ声をかけた。
「どーしたの?みーたん」
「その呼び方、辞めてくれない?先輩よ?」
長髪の黒い髪、目や口は小さい。
平安時代なら美女として名高そうな顔である。
心音は身体を起こしてベッドに座る。深雪もその横に座って、心音の膝に左手を添えた。
そして、何気ない会話を始める。
「最近どうなの?」
「順調!みんな私のことを認めてくれる」
嘘はついていない。学校生活はともかく確かにクラブの中ではみんな心音(ジキルハイド)の存在を認めているからだ。
「誰も心音を傷つけてない?」
この問いにも心音は肯定的な応答をした。
心音に虐めを行っている菜々子も美海もジキルハイドのファンだから彼の姿でいる時は受け入れてくれる。
純粋で笑顔で答える心音に深雪はそれ以上踏み込むことはできなかった。
しかし、気がかりが無くならない。
深雪は彼女の背景に薄々気づいているだからこそ些細な合図でも良い、深雪は彼女に助けを求めて欲しかった。
八時間後、
緑陽に在籍し二回目の登校、友里は早まる鼓動に抗いながら目を瞑って教室に足を踏み入れた。
教室には菜々子や美海、純の姿もないどころか心音も居ない。心音が居ない事は気にしたが平穏な空間だった。友里はスッカリ肩の力が抜け、安心して教室の中に足を進み入れ自身の席に着席する。
気を張ることの無い、背もたれに全体重を乗せて天井を見上げる。天国にやってきたかのような安楽さ、身体が軽い宙に浮かび上がる感覚を味わった。
チャイムが鳴りホームルームが開かれる。担任教師が入室し委員長に挨拶を任せた。しかし、心音は不在である為、応答は無い。
「何?いないのか」
心音が居ないことを確認する教師、ついでに純や菜々子達も居ないことを認識する。ふと、顎に手をやってでかい独り言を言う。
「朝見かけたんだがな…」
突如胸騒ぎに襲われた。
担任教師が副委員長の男子生徒に委員長の事を尋ねた瞬間、友里は身体が勝手に動いており教室を出ていた。担任教師が止めるも彼女は気にしない。
娯楽室に駆けつけ勢いよく扉を開く、重量の荷物を落としたような音が部屋に響き、娯楽室の中に居た純の機嫌を損ねさせた。怒りを殺し平然を装った顔で純は友里をソファーから見上げて目線を合わせる。
「何かようか転校生?」
友里は娯楽室に心音が居ないことを確認すると、純の言葉には聞く耳を持たず、無断で部屋を後にしようとした。すると、いつも純の左右に居る丸刈りで金髪の長身の男が出口を塞いだ。
「無断で入って出ていけるとでも思ってんの?」
友里は一歩身を引いた。身体が緊張し震えそうだった。目を瞑って息を整え昨日の心音の言葉を思い浮かべる。
【もう一人の自分】
イメージを浮かべる。
強者にも立ち向かう怖いもの知らずの自分を。
もう一人の自分を作り出す事は、なりたい未来の自分をイメージすること。友里が心音から得た言葉は心音とは少し違った解釈のあり方で確立した。
噛み付け…言葉で食らいつけ…。
「どいてください…」
小さいが意思が強く乗っている。怯えず言葉にした事に意味があり彼女に取っては大きな一歩であった。
丸刈りの男は姿勢を低くして耳を傾ける。
「今なんていった?」
男が友里の髪を掴もうとしたその時、純が一声で止めた。
そして、友里の目的を直感で悟り心音の居場所を知りたいのかを問いかける。友里は真剣な眼差しを純に向けると、純は乾いた口を舐めて「良いだろう」と一言残す。
昨夜、クラブで菜々子は純を彼氏と勘違いされ彼の不届きな行動が彼女の顔に泥を塗った。ネットで叩かれた苛立たしさを心音にぶつける為に早くに登校していた心音を体育館裏倉庫に連れ去っていた。
「どうして知ってて助けないの?」
友里は純に問いかけると彼は鼻で笑って言った。
「どうでもいいからに決まってるからだろ」と。
その答えに友里は更に質問を重ねた。
「なら私に助言するのは何故?」
一瞬静まり返ると彼は鋭い視線を友里に送った。
「何を勘違いしてるか知らねぇが、心音(アイツ)の所に行きたかったら勝手にしろ。その後はどうなっても俺はどうだっていい」
純が無慈悲な言葉を吐くと丸刈りの男は扉から退いて友里を通した。友里は、彼が言っていた体育館裏倉庫に向かう。明確な場所は知らないが大体の場所は初日に心音が案内をしていた為、大凡の位置は想定が付いていた。
体育館裏倉庫前、扉は閉まっている。
友里は呼吸を整え息を呑んだ。
音を立てずに慎重に扉に近づく、鼓動が早いのは走った疲れか緊張感か、或いは両方か。
扉に手を刺しかけた時、倉庫内から高い笑い声が聞こえてきた。
何かを嘲笑うかのような笑い方。自然と心音が酷い仕打ちを受けているのだと友里は考える。
友里は、恐怖と葛藤しながらも勇気を振り絞る。
「もう一人の自分、なりたい自分を…イメージ……私はなりたい自分になる!」
扉を開こうとする、だが、中から鍵が掛けられていて扉は開かなかった。
倉庫内にいる菜々子と美海そしてその他加担者三名と椅子に縛られている心音は扉を開こうとする音に気がついた。心音は助けを呼ぼうとしたがガムテープで口を塞がれており思うように声を出せなかった。
舌打ちをし警戒する菜々子、裏倉庫は基本、体育祭や文化祭等行事で使用する物しか置いていない。始業式や入学式を終えたこの時期に裏倉庫に教師が踏み入れる事は無いに等しい。
菜々子は美海に何者かを尋ねるように命令した。
美海の声を聞いて中に心音が居ることを確信した友里。彼女は震える声を押し出した。
「……っあけて!!」
友里の声を聞いた菜々子たちは不気味な笑みを浮かべた。そして美海に扉を開けさせる。
その途端、倉庫内にカメラのシャッター音が響いた。
隙を突かれ目を見開いて驚く菜々子、思わず声が上げる美海、だったが何故か先制を仕掛けた筈の友里が衝撃の光景を目にし固まっていた。
「…ひどすぎる」
両目から涙を溢れさせる心音の姿、制服は脱がされインナーはハサミで裂かれていた。その為、肌は所々露出されている。
友里のスマートフォンを奪い取ろうとすぐ近くにいた美海が飛びかかった。必死に奪われまいと抵抗する友里は無我夢中で振り払い、美海のみぞおちに前蹴りを入れた。
「あなた達がした事、バラされたく無ければ心音を今すぐ解放して!」
蹲る美海に寄り添う菜々子、その姿勢から友里に殺気じみた視線を送った。手の空いた菜々子の囲い三名が心音を解放した。心音はすぐに友里の元へ俯きながら寄った。顔は真っ青で死んだ魚のようだ。目に光りもなかった。
「行こ、心音」
どういう時も常に笑顔を振る舞う心音を底まで追いやられているのが感じ取れる。足の力が抜けていて支えが無いと歩けない状態だった。心音は細い声で問いかける。
「…どこに行くの?」と。
友里は希望と菜々子達への怒りが混ざり合った真っ直ぐな声で答えた。
「決まってる先生のとこだよ。証拠を叩きつけてやるの!」
それを聞いた心音は友里を払い除けてその場で俯きながら立ち止まった。友里は突然の心音の行動に戸惑いながらも身体を心配する。
立ち止まる心音は、顔を上げると涙を零しながら弱々しい声で言った。
「その写真を見せるの…?」
服が裂かれ露出した肌を思春期まっさなかの女子がほぼ毎日顔を合わせる他人の教師に見られるなんて耐え難いものだろう。
だが、友里は心音の気持ちをすぐに汲み取る事ができず正義を貫こうとした。
「でも、これさえ見せつければ終わるんだよ!ジキルハイド何かにならなくてもいいんだよ!もう一人の自分はいらないの!」
心音の表情百八十度変わった。
目を赤く充血させながら大きく瞳孔を開いた。
友里は必死になって心音を説得する。
「偽りの自分作り出すんじゃない、勇気を振り絞ってなりたい自分に心音もなろ!」
だが彼女は目を一度瞑るとゆっくりと絶望に満ちた目で友里を見た。
「…知り合って間もない貴女に何が分かるの?」
ゆっくりと友里に近づく心音、友里は訳が分からず混乱している。何故、彼女が怒っているのかも理解が出来なかった。もうすぐで菜々子の首に手が届くのに何故そうしないのかも分からない。少し冷静になろうと自分に言い聞かせ、目を瞑った。そして、羞恥心の件を考えていなかったのは悪かったと反省する。
「は、恥ずかしいよね。ごめんね。気持ちを汲み取ってあげれなくて。で、でも分かるけど!」
状況に焦りを感じ興奮状態に陥る友里、珍しく声も張り上がった状態で早口になっていた。そんな彼女を心音は一言で黙らせた。
【何も分かってない!】
そう言って、友里が手に持つスマートフォンを奪い取って地面に叩きつけると踏み潰した。画面は粉々で電源がつかない。
「え…?」
友里は思わず腰を抜かした。
「助けてくれたのは感謝するよ。けど、貴方は私と私を否定したのよ…。」
心音はそう言い残し影のように消えていった。
突然吐き気に襲われる友里、急いで体育館の中にあるトイレへと駆け込み便器の中に顔を向けると胃の中の全ての物を吐き出した。
どうして?………最悪だ…。
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