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ムー大陸編
57魔人の酸性雨対策2
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「この建物を造るというのかね」
頭の中に送られてきたアルハザードの描いた建物の完成予想図を見て、ラ・ムーが驚いて大声を上げた。
「地下から水を汲み上げる装置もありますよ」
今度はポンプの映像を送ったようだ。
朝一番でアルハザードと神谷は、昨日アルハザードが超高速で設計した建物についてラ・ムーに報告をするために最上階の部屋を訪れていた。
「そなたの国にはこのような物があるというのかね」
「ええ、そうです。建物は王宮の窓に使われている透明な板を使えば日の光を遮らないし、地下水を汲み上げて植物に蒔けば雨水とは違って、枯れることはないでしょう」
「しかし、この建物を造るにはそうとうの時間がかかるのではないか」
「そうですね、一晩という訳にはいかないでしょうね」
邪神の力を使えば一晩でできてしまうのだろうが、それは余りにも不自然だと思ったのだろうか。
「まずは透明な板をできるだけたくさん集めて頂きたい、そして木材も。地下水を汲み上げる装置は僕が作ります」
「承知した。全てそなたに任せる。力仕事は青色人に命じて好きに使っても良い、時間がない、今はそなただけが頼りだ、頼む」
ラ・ムーがこの国にはないはずの作法で頭を下げた。王にとって最高の礼と思ったのだろう。
「承知つかまつりました」
つられてアルハザードの返事も時代劇調になった。
ヒラニプラの国中の透明な板が、青色人に担がれて王宮の裏庭に運び入れられた。大きなもので二メートル四方、厚さが十センチほどだ、アルハザードに依るとある砂を高音でドロドロに溶かし、枠に流し入れて作られるのだという。
「この島にはガラス質を含んだ砂があるんだろうね。旧石器時代の技術とは思えないね」
板をしげしげを眺めると、全くの透明という訳ではないが、植物を育てるためのハウスの天井としては充分に機能を果たすと思われた。
「でも、大きさがこんなにバラバラでは使えないね」
「これをもう一度溶かして大きな板を作るんだよ」
「えっ、そんなことするの」
「そうしなければ植物を育てるだけの大きさの建物は造れないよ」
それは大変な労力だが、邪神の力を借りれば可能なのだろう。
青色人に依って木材も運び込まれてきた。
「まずはこの板を溶かす炉が必要だけど、こいつに頼んでいきなりここにそれが現れたら不自然だよね」
「それじゃあ、それはやっぱり夜中の作業」
「そうだね、それしかないね。昼間のうちにできることは屋根を支えつ壁を造っておくことぐらいかな」
アルハザードは青色人に命じて運び込まれた材木を木材に加工させ(この程度の技術はもっているのだ。普段から家を造っているのだから当然といえば当然だ)畑の北と西側を囲むように建てさせた。南と東側は透明な板で囲むつもりらしい。その作業だけで一日が費やされてしまった
。
昼食後、アルハザードは治療のために抜けたが、神谷は青色人の作業を眺めていた。
「作業は順調だね」
治療から戻ったアルハザードが弾むような軽やかな声で言った。
「そっちの治療も順調かい」
「うん、明日最後の治療を受ければ完全体になれるそうだ、もうほとんど元通りだけど、後一回、それで全てが終わる」
全ての畑には北西の二面が木の板で覆われていた。
「今日の作業はこれで終わりにしよう」
アルハザードの一言で青色人たちは王宮の中に引き上げて行った。
「さて、僕たちは少し休憩を取って、深夜の作業に備えようか」
二人で部屋に戻ると間もな夕食の時間となった。今日もメニューは黄金人用の物だった。
「神谷は仮眠をとらなくても大丈夫かい」
食事を終えたアルハザードがにこやかに話かけてきた。
「今日も徹夜の作業になるよ」
でも邪神はきっと仮眠用のベッドを神谷のために用意してくれるに違いない。
「そうだね、でも、夜中まではギタラを弾かなければならないよ」
「大丈夫だよ、王族のための夕食も頂いたしね」
赤ワインの入ったグラスを目の前に掲げた。
夜の十時過ぎ、王宮の誰もが寝静まった頃、二人は部屋を抜け出して、王宮の裏庭に出た。
「まずは板を決まったサイズに作り直すことだね」
アルハザードがいつの間にか自分が描いた図面を手にしていた。図面には建物のサイズも記されている。
目の前に大きさの違う黒い鉄製の四角い平べったい器が数種類現れた。
「まずはこの中にあの透明な板を入れるんだけど、その分量が微妙なんだ」
「どういうこと」
「この鉄の器はこいつの力で高温になり、中の板を溶かしてその後冷まして新しい一枚の板になる、入れる板の量に依ってでき上がる板の厚さが変わってしまう。だからこの作業は僕とこいつで行うから、神谷は何時ものやつを頼む」
背もたれつきの椅子が現れ、ギターをケースから取り出してチューニングを始めた。
アルハザードは微妙な計量が必要と言っていたが、見た目には目分量で砕きながら適当に器の中に放り込んでいるように見える。
全ての器の中に透明な板が入り、アルハザードがその場を離れた。
「少し熱くなるよ。ほんの十分くらいだけどね」
アルハザードの肩の上にいる邪神のエメラルド色の瞳が輝き、鉄の器が赤みを帯びた。
器の中身の砕かれた板が溶けて、其々が新しい薄い板となった。
「僕のすることは終わった、後は冷めるのを待つだけさ。三十分もかからないだろう、こいつが冷やしてくれるからね」
邪神が神谷の足元で体を丸めた。演奏の速度を上げた。周りにいくつもの黒い影が踊った。
三十分後、アルハザードが器を逆さまにして透明な板を取り出した。厚さが五センチほどの複数の大きさの板ができた。
「後はこれをたくさんコピーすれば今夜の作業は終わりだ」
またしても邪神の3Dプリンターの出番らしい。
頭の中に送られてきたアルハザードの描いた建物の完成予想図を見て、ラ・ムーが驚いて大声を上げた。
「地下から水を汲み上げる装置もありますよ」
今度はポンプの映像を送ったようだ。
朝一番でアルハザードと神谷は、昨日アルハザードが超高速で設計した建物についてラ・ムーに報告をするために最上階の部屋を訪れていた。
「そなたの国にはこのような物があるというのかね」
「ええ、そうです。建物は王宮の窓に使われている透明な板を使えば日の光を遮らないし、地下水を汲み上げて植物に蒔けば雨水とは違って、枯れることはないでしょう」
「しかし、この建物を造るにはそうとうの時間がかかるのではないか」
「そうですね、一晩という訳にはいかないでしょうね」
邪神の力を使えば一晩でできてしまうのだろうが、それは余りにも不自然だと思ったのだろうか。
「まずは透明な板をできるだけたくさん集めて頂きたい、そして木材も。地下水を汲み上げる装置は僕が作ります」
「承知した。全てそなたに任せる。力仕事は青色人に命じて好きに使っても良い、時間がない、今はそなただけが頼りだ、頼む」
ラ・ムーがこの国にはないはずの作法で頭を下げた。王にとって最高の礼と思ったのだろう。
「承知つかまつりました」
つられてアルハザードの返事も時代劇調になった。
ヒラニプラの国中の透明な板が、青色人に担がれて王宮の裏庭に運び入れられた。大きなもので二メートル四方、厚さが十センチほどだ、アルハザードに依るとある砂を高音でドロドロに溶かし、枠に流し入れて作られるのだという。
「この島にはガラス質を含んだ砂があるんだろうね。旧石器時代の技術とは思えないね」
板をしげしげを眺めると、全くの透明という訳ではないが、植物を育てるためのハウスの天井としては充分に機能を果たすと思われた。
「でも、大きさがこんなにバラバラでは使えないね」
「これをもう一度溶かして大きな板を作るんだよ」
「えっ、そんなことするの」
「そうしなければ植物を育てるだけの大きさの建物は造れないよ」
それは大変な労力だが、邪神の力を借りれば可能なのだろう。
青色人に依って木材も運び込まれてきた。
「まずはこの板を溶かす炉が必要だけど、こいつに頼んでいきなりここにそれが現れたら不自然だよね」
「それじゃあ、それはやっぱり夜中の作業」
「そうだね、それしかないね。昼間のうちにできることは屋根を支えつ壁を造っておくことぐらいかな」
アルハザードは青色人に命じて運び込まれた材木を木材に加工させ(この程度の技術はもっているのだ。普段から家を造っているのだから当然といえば当然だ)畑の北と西側を囲むように建てさせた。南と東側は透明な板で囲むつもりらしい。その作業だけで一日が費やされてしまった
。
昼食後、アルハザードは治療のために抜けたが、神谷は青色人の作業を眺めていた。
「作業は順調だね」
治療から戻ったアルハザードが弾むような軽やかな声で言った。
「そっちの治療も順調かい」
「うん、明日最後の治療を受ければ完全体になれるそうだ、もうほとんど元通りだけど、後一回、それで全てが終わる」
全ての畑には北西の二面が木の板で覆われていた。
「今日の作業はこれで終わりにしよう」
アルハザードの一言で青色人たちは王宮の中に引き上げて行った。
「さて、僕たちは少し休憩を取って、深夜の作業に備えようか」
二人で部屋に戻ると間もな夕食の時間となった。今日もメニューは黄金人用の物だった。
「神谷は仮眠をとらなくても大丈夫かい」
食事を終えたアルハザードがにこやかに話かけてきた。
「今日も徹夜の作業になるよ」
でも邪神はきっと仮眠用のベッドを神谷のために用意してくれるに違いない。
「そうだね、でも、夜中まではギタラを弾かなければならないよ」
「大丈夫だよ、王族のための夕食も頂いたしね」
赤ワインの入ったグラスを目の前に掲げた。
夜の十時過ぎ、王宮の誰もが寝静まった頃、二人は部屋を抜け出して、王宮の裏庭に出た。
「まずは板を決まったサイズに作り直すことだね」
アルハザードがいつの間にか自分が描いた図面を手にしていた。図面には建物のサイズも記されている。
目の前に大きさの違う黒い鉄製の四角い平べったい器が数種類現れた。
「まずはこの中にあの透明な板を入れるんだけど、その分量が微妙なんだ」
「どういうこと」
「この鉄の器はこいつの力で高温になり、中の板を溶かしてその後冷まして新しい一枚の板になる、入れる板の量に依ってでき上がる板の厚さが変わってしまう。だからこの作業は僕とこいつで行うから、神谷は何時ものやつを頼む」
背もたれつきの椅子が現れ、ギターをケースから取り出してチューニングを始めた。
アルハザードは微妙な計量が必要と言っていたが、見た目には目分量で砕きながら適当に器の中に放り込んでいるように見える。
全ての器の中に透明な板が入り、アルハザードがその場を離れた。
「少し熱くなるよ。ほんの十分くらいだけどね」
アルハザードの肩の上にいる邪神のエメラルド色の瞳が輝き、鉄の器が赤みを帯びた。
器の中身の砕かれた板が溶けて、其々が新しい薄い板となった。
「僕のすることは終わった、後は冷めるのを待つだけさ。三十分もかからないだろう、こいつが冷やしてくれるからね」
邪神が神谷の足元で体を丸めた。演奏の速度を上げた。周りにいくつもの黒い影が踊った。
三十分後、アルハザードが器を逆さまにして透明な板を取り出した。厚さが五センチほどの複数の大きさの板ができた。
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