61 / 73
ムー大陸編
48ヒラニプラの王ラ・ムーの憂鬱3
しおりを挟む
「黒長は取り敢えずいなくなったけど、きっとまた来るよね」
部屋も戻ってアルハザードに話しかけると、「その時はまた退治するだけだよ」と涼やかに答えられた。
この魔人にとっては腹ごなしの運動にさえならないのだろう。
「そうだね、たまには運動もしないとね」
軽くウォーキングでもした後のような口調だ。
「戦って実感したよ。生まれが同じなだけに、あの鳥も黒色人と同じく邪悪の固まりだね。それを作りだしている原因がここの増幅装置なんだから、何とも救いのない話だね」
そうだった、ラ・ム一たち王族は自らのために作られた増幅機装置のために、邪悪な生き物を生み出し、それに自分たちが悩まされている。しかし、黄金人は増幅装置により恩恵を受けているのだから、自業自得と言えなくもない。
それに対して黄金人以外の人々は、増幅装置に生体エネルギーを吸われ、尚且つそれによって生み出された邪悪な生き物に苛まれているのだ。アルハザードが救いがないと言ったのは、そのことだろう。
「ヒラニプラ以外の国にもあの鳥は飛んでいるんだろうね」
「そうだろうね、この国が特別という訳ではないからね」
「あの鳥に襲われたらすごい被害が出るよね」
「出るだろうね、ネットを張るぐらいじや防げないだろうしね」
「君ほど強い者もいないだろうしね」
「そうだね、誰も黒色人に勝てないと言ってたからね、いないだろうね。邪神もいないしね」
アルハザ一ドの肩に乗っているはずの邪神は、おそらく少し離れた所で戦いを見学していたのだろう。
しばらくすると昼食の時間となり、その後アルハザードは治療のために部屋を出て行った。
すぐにグラムダルクリッチの映像が頭に浮かんだ。またラ・ム一からの呼び出しがあるらしい。
グラムダルクリッチの後について最上階の祭壇の隣の部屋に入ると、ラ・ム一は窓辺に立ち外の様子を窺っていた。
アルハザードによると、ラ・ム一の視力は四、〇だそうなので、神谷には見えない遠くの景色が見えているがだろう。
「そなたは、アルハザードほどには強くないのだろうな」
いきなりラ・ム一が外を眺めながら訪ねてきた。
「僕ですか、僕に戦いなどできませんよ。彼と比べてというよりも、この王宮の中で一番弱いと思いますよ。僕にできることはこの楽器を弾くことだけです」
背負っているギターケースを指差した。
「そうか、やはり彼が特別ということなのだろうね」
「そうです、あの姿を見ても分かる通り、彼は僕たちとは違う壮絶な人生を体験しています。だからこその強さですよ」
「そうか、肉体的にも精神的にもあれだけの強さ持つには、それだけの代償を払っているということなのだな」
ラ・ム一は腕を後ろで組んで、外の様子を眺めたまま動かなかった。神谷には見えない物がラ・ム一には見えているのだろうか。
「あの黒鳥なのだが、この王宮以外の場所でも色々と被害が出ていてな。この国の戦士であの鳥に太刀打ちできる者はいないのだよ。先ほど彼が見せたような圧倒的な強さを持つ者がもう一人いればと思ってな」
「青色人の方でもダメなんですか」
「ああ、あの鳥の速さについていくことができない。どんなに訓練を積んでもダメだろうね」
先日の闘技場での動きを見た限り、ラ・ム一の言うとおり青色人ではあの鳥の速さに追いっくことはできないだろう。
「鳥を駆除するための木の実は枯れ、新たに植えた草は、なぜか芽が出ない。不思議なことだ」
この国の科学知識では酸性雨に依る被害という現実を知ることができないのだろう。
いっそのこと、精神力増幅装置の使用をやめてはどうかと言いかけたが、それを言ってしまうと、あの黒鳥の元が黒玉で、それがあの増幅機で作られていることを知っていることが分かってしまう。
なぜそのことを知っている? と聞かれることは間違いない。まさか邪神の作りだしたスクリーンで黒鳥が生まれる瞬間を見た、とは言えない。
「アルハザードの体が元に戻ったら、逆に彼の強さの秘密を検証させてもらうのもいいかもしれないな」
それは絶対に無理なのだが、それを口にすることはできない。
いつものようにゆっくりとした曲を三十ほど弾いて、ラ・ム一が満足したところで部屋を辞した。
「あの黒鳥に依って色々と被害が起こっているみたいだよ」
今日の治療を終え、アルハザードが部屋に戻って来た。
「そうだろうね、でも、いくら僕でも一人で全部の黒鳥を退治するのは無理だよ。数が多いしね」
「毒草の芽が出ないことを不思議に思っているみたいだね」
「酸性雨なんて知識がないんだろうね」
「一万ニ千年前にしては文明が進んでいると思うけど、科学的にはそうでもない感じだね」
「それはそうだろう、この時代は世界的には旧跡時代だからね。理由は分からないけどこの島は特別だね。クトウルフが僕にこの国に来るように勧めたのは、偏にあの精神力増幅機の存在故だろうねからね」
アルハザードの言うとおり、この時代に車や飛行船があるだけでも充分に驚異に値するのだ。しかし、それがこの鳥の耒来に暗い影を投げかけているかもしれないのも事実だ。
「まあ、王宮に飛来する黒鳥くらいならば、いっでも僕が退治してあげられるのだけどね」
「そう言えば、ラ・ム一が君の異常なほどの強さにっいて検証してみたいとも言っていたよ」
「まあ、検証の仕様がないだろうね。こいつのことが分からないのと同じ様に」
アルハザードがクスリと笑いながら邪神の喉をゴロゴロとなでた。
部屋も戻ってアルハザードに話しかけると、「その時はまた退治するだけだよ」と涼やかに答えられた。
この魔人にとっては腹ごなしの運動にさえならないのだろう。
「そうだね、たまには運動もしないとね」
軽くウォーキングでもした後のような口調だ。
「戦って実感したよ。生まれが同じなだけに、あの鳥も黒色人と同じく邪悪の固まりだね。それを作りだしている原因がここの増幅装置なんだから、何とも救いのない話だね」
そうだった、ラ・ム一たち王族は自らのために作られた増幅機装置のために、邪悪な生き物を生み出し、それに自分たちが悩まされている。しかし、黄金人は増幅装置により恩恵を受けているのだから、自業自得と言えなくもない。
それに対して黄金人以外の人々は、増幅装置に生体エネルギーを吸われ、尚且つそれによって生み出された邪悪な生き物に苛まれているのだ。アルハザードが救いがないと言ったのは、そのことだろう。
「ヒラニプラ以外の国にもあの鳥は飛んでいるんだろうね」
「そうだろうね、この国が特別という訳ではないからね」
「あの鳥に襲われたらすごい被害が出るよね」
「出るだろうね、ネットを張るぐらいじや防げないだろうしね」
「君ほど強い者もいないだろうしね」
「そうだね、誰も黒色人に勝てないと言ってたからね、いないだろうね。邪神もいないしね」
アルハザ一ドの肩に乗っているはずの邪神は、おそらく少し離れた所で戦いを見学していたのだろう。
しばらくすると昼食の時間となり、その後アルハザードは治療のために部屋を出て行った。
すぐにグラムダルクリッチの映像が頭に浮かんだ。またラ・ム一からの呼び出しがあるらしい。
グラムダルクリッチの後について最上階の祭壇の隣の部屋に入ると、ラ・ム一は窓辺に立ち外の様子を窺っていた。
アルハザードによると、ラ・ム一の視力は四、〇だそうなので、神谷には見えない遠くの景色が見えているがだろう。
「そなたは、アルハザードほどには強くないのだろうな」
いきなりラ・ム一が外を眺めながら訪ねてきた。
「僕ですか、僕に戦いなどできませんよ。彼と比べてというよりも、この王宮の中で一番弱いと思いますよ。僕にできることはこの楽器を弾くことだけです」
背負っているギターケースを指差した。
「そうか、やはり彼が特別ということなのだろうね」
「そうです、あの姿を見ても分かる通り、彼は僕たちとは違う壮絶な人生を体験しています。だからこその強さですよ」
「そうか、肉体的にも精神的にもあれだけの強さ持つには、それだけの代償を払っているということなのだな」
ラ・ム一は腕を後ろで組んで、外の様子を眺めたまま動かなかった。神谷には見えない物がラ・ム一には見えているのだろうか。
「あの黒鳥なのだが、この王宮以外の場所でも色々と被害が出ていてな。この国の戦士であの鳥に太刀打ちできる者はいないのだよ。先ほど彼が見せたような圧倒的な強さを持つ者がもう一人いればと思ってな」
「青色人の方でもダメなんですか」
「ああ、あの鳥の速さについていくことができない。どんなに訓練を積んでもダメだろうね」
先日の闘技場での動きを見た限り、ラ・ム一の言うとおり青色人ではあの鳥の速さに追いっくことはできないだろう。
「鳥を駆除するための木の実は枯れ、新たに植えた草は、なぜか芽が出ない。不思議なことだ」
この国の科学知識では酸性雨に依る被害という現実を知ることができないのだろう。
いっそのこと、精神力増幅装置の使用をやめてはどうかと言いかけたが、それを言ってしまうと、あの黒鳥の元が黒玉で、それがあの増幅機で作られていることを知っていることが分かってしまう。
なぜそのことを知っている? と聞かれることは間違いない。まさか邪神の作りだしたスクリーンで黒鳥が生まれる瞬間を見た、とは言えない。
「アルハザードの体が元に戻ったら、逆に彼の強さの秘密を検証させてもらうのもいいかもしれないな」
それは絶対に無理なのだが、それを口にすることはできない。
いつものようにゆっくりとした曲を三十ほど弾いて、ラ・ム一が満足したところで部屋を辞した。
「あの黒鳥に依って色々と被害が起こっているみたいだよ」
今日の治療を終え、アルハザードが部屋に戻って来た。
「そうだろうね、でも、いくら僕でも一人で全部の黒鳥を退治するのは無理だよ。数が多いしね」
「毒草の芽が出ないことを不思議に思っているみたいだね」
「酸性雨なんて知識がないんだろうね」
「一万ニ千年前にしては文明が進んでいると思うけど、科学的にはそうでもない感じだね」
「それはそうだろう、この時代は世界的には旧跡時代だからね。理由は分からないけどこの島は特別だね。クトウルフが僕にこの国に来るように勧めたのは、偏にあの精神力増幅機の存在故だろうねからね」
アルハザードの言うとおり、この時代に車や飛行船があるだけでも充分に驚異に値するのだ。しかし、それがこの鳥の耒来に暗い影を投げかけているかもしれないのも事実だ。
「まあ、王宮に飛来する黒鳥くらいならば、いっでも僕が退治してあげられるのだけどね」
「そう言えば、ラ・ム一が君の異常なほどの強さにっいて検証してみたいとも言っていたよ」
「まあ、検証の仕様がないだろうね。こいつのことが分からないのと同じ様に」
アルハザードがクスリと笑いながら邪神の喉をゴロゴロとなでた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。


もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる