親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

46ヒラニプラに黒鳥飛来

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「今日も外の様子を見に行こうか」

 ヒラニプラの神が再降臨した翌朝、起きがけにアルハザードが言った。

「別に構わないけど、天気はどうなの」

「今日は快晴らしいね、だから散歩にはちょうどいいんじゃないかな」

 昨日のヒラニプラの神の話などなかったかのように涼やかな声だ。

「何か面白いものが見られるみたいだよ」

 アルハザードや邪神の言う面白いものが、神谷の面白いものと同じとは限らないが、他にすることもないので一緒に行くことにした。

 胸のブローチの両掌を当てた後に部屋を出る、昼間ということでどこかに許可をもらったようだ。

 王宮の裏口にはいつもの通り甲冑に身に着けた青色人が二人立っていた。出口の外から見える畑の景色も特に変わった様子はない。

「何も変わったところは見受けられないけど」

「いい天気じゃないか、空を見て御覧よ」

 アルハザードに言われて、雲一つない青空を見上げた。アルハザードの言う面白いものとは、この澄み切った青空のことか、と思っていると視界の隅を何かがよぎった。
 速くて黒い物、まさかと思ってそちらに目をやると、そこには翼を大きくはためかせた巨大な黒鳥がヒラニプラの街の上空をジェット機のような速度で飛んでいた。

「あれって、もしかしてこの前スクリーンで見た鳥」

「そうだ、黒い玉から生まれた黒鳥だよ。オレンジ色の実をつける木が枯れてしまったから、あの鳥が死なずにこの街の上空を飛んでいるんだ」

「しかし、おそろしいほどの速さだね」

「あの速さで家畜や人を襲うんだ。だから、あの黒鳥を駆除するためにあの猛毒の実がなる木が植えられたんだよ」

「でも、それが全て枯れてしまったとなると、あの鳥にこの街が襲われることになるね」

「それについての対策会議を今、黄金人たちが開いているよ。昨日ヒラニプラの神がこいつに相談に来た理由の一つがこれだったんだよ」

「神様が相談に来るほどの事案なのかな」

 アルハザードの肩に乗っているはずの邪神の方を見た。

「でも、この島の雨が酸性化しているのは、この島の神様の上位の神様の指示なんでしょ」

「だから、こっそりとこいつに会いにきたんだよ。何とかなりませんかってね」

 それを鰾膠もなく追い返してしまったのだから、さすがに邪神だけのことはある。

「そういうことは、上位の神様がこの島の住人に試練を与えてるってことかな」

「試練ねぇ、それで済めばいいけどね」

 試練では済まないということは、予言の通りに大きな災難が起こるということなのか。

「どうかな、それについては、こいつも何も教えてはくれないしね。まあ、人間が考える範疇を越えているってことじゃないのかな」

「その人間にはこの島の王族も入っているってことだよね」

「もちろん、だからいくら会議を開いても、解決策は出てこないと思うよ。元々は自分たちで作った装置が原因で起こったことだしね」

 アルハザードが言っているのは精神力増幅装置のことだ。しかし、その作用を受けて自身の体を治そうとしているのも彼本人だ。

「神は自らを崇拝する者のみを愛し、逆らおうとする者には重き罰を与える、そんなもんだよ。神谷は旧約聖書を読んだことはあるかい」

「断片的にはね、後『十戒』っていう映画を見たことがあるよ」

「ならば少しは分かるだろう、集約聖書の神は『名もなき神』を名乗っているが、そこそこに高位の存在だ。そいつが何をしたと思う、自分を信仰する民の国を作るために、そこにいた先住民を全滅させたんだよ、何も悪いことをしていないのにね。そんなもんだよ、神なんて存在は」

 そのたとえ話をこの島の住民に当てはめることは、今は考えたくない。

「いずれにせよ、あの鳥はこれから数を増すだろうね」

 アルハザードも黒鳥の飛ぶ方向を見て小さく溜息をついた。

 午後、アルハザードが治療から戻って「黒鳥の対策が決まったようだから見てみようか」と言ったと同時に目の前に五十インチのスクリーンが浮かんだ。

 スクリーンの中では青色人が植物畑の上に青色のネットをかけている。畑の作物と黒鳥から守るための措置だろう。

 何も作物の作られていない土地では、赤色人が手に持った籠から植物の種らしき物を振り蒔いている。

「あれって何かの種」

「ああ、毒のある植物の種だよ、あのオレンジ色の実以外にも猛毒のある植物が開発されていたみたいだね、オレンジ色に実をつきる木は成木に育つまでに何年もかかるからね。今蒔いている種から生える植物は水仙の祖先のようだね、その猛毒はあらゆる生物に対して効き目抜群だそうだ」

「オレンジの次は水仙か、ネットで覆われていない場所だから黒鳥がそれを食べる可能性は高いよね」

「そうだろうね、でも、そんなに上手くいくかな」

「上手くいかない要素があるのかい」

「ああ、だって酸性雨のために植物が育ち難くなっているんだよ。毒のある植物だけが育つとは思えないけどね」

「あっ、そうか、あの種から上手く芽が出るとが限らないか」

「そういうことだね」

「それだとどうなるのかな」

「植物がなくなれば、動物しか食べる物がないのは明らかだね」

「家畜が襲われる」

「そう思って間違いないね」

「しかし、黄金人たちだってそこは考えている。家畜は全て宿舎に収納されたよ」

「それじゃあ、後は」

「そうだね、人間しか残っていないね」

「この時代に弓矢とかの飛び道具はないよね」

「あの人種ごとに色の違う棒しか闘う道具はないね。だから様子を見てみよう」

「どんな様子を」

「まだヒラニプラの街の上を飛んでいる黒鳥は一匹だけだこれ以上増えるようなら僕がラ・ムーに進言しようと思う」

「何をだい」

「僕が何とかするってこと」

「君が、どうやって」

「やり方は色々ある、要はあの鳥がいなくなればいいんだ、大して難しいことはないよ」

  砂漠の果ての荒野を一人で生き抜いた魔人にとって、このくらいのことは取るに足らないことなのだろう。



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