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ムー大陸編
43アルハザード訓練終了
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「この国の神から連絡が入ったみたいだね」
朝起きるとアルハザードが声をかけてきた。
「連絡ってどこに」
「こいつのところに決まってるじゃないか」
アルハザードが邪神の頭をなでた。
「この前直接会ってから、回線が繋がったみたいだね」
回線が繋がるというのは、インターネットの工事が済んだようなものだろうか。
「工事が済んだというよりも、名刺交換が済んで、お互いのメールアドレスを交換した、と言った方が比喩としては正しいかな」
神同士の名刺交換、絵面を思い浮かべると何だか笑える。現実に見たのは白い霧の固まりと子猫なのだが。
「で、神様は何と言ってきたんだい」
「詳しいことは教えてくれないけど、何か切羽詰まってる感じだね」
「何かの危機が迫ってるってこと」
「或いはそうかもしれない」
「この国の神様は、この国以外の場所には降臨しないのかい」
「神としてはまだまだ半人前だからね、この国を試しに任されているってところかな」
齢一万年が神としては半人前の存在ならば、人間などは本当に虫けら程度の存在なのだろう。
「そんなことはないさ、人間だって生まれ変わりがあるからね。七、八十年の人生だからってそれだけの存在じゃないよ。輪廻転生って聞いたことがあるだろう」
輪廻転生は確か仏教の言葉ではなかったか、棄教したとはいえ、元イスラム教徒の口から出る言葉とは思えない。
「人は死んだらそれで終わりではない、何百回も生まれ変わって、やがて神格を持つまでになる者もいるんだよ」
神谷は無神論者ではない、まして今は常に邪神が側についている。アルハザードと時空を超えた友人もいる。嫌でも神の存在を認識せざるを得ない。
「僕を友人と思ってくれるだけでも嬉しいね。僕にはこの邪神たち以外には、蛇や蠍しか友と呼べる存在がいないからね」
それは友人ではなく食料ではないのか。
「例えば君だって犬や猫を飼っていたとして、何も食料がない状況に置かれたら、それを食べるだろう、それと同じだよ」
とてもではないが想像をすることだできない。しかし、極限状態に追い込まれた人間はそれくらいのことはするのだろう。
「極限状態に追い込まれたことのない者には考えつかないのだろうね」
アルハザードが遠くを見る目をした、思い出したくもないことを思い出してしまったらしい。
「別に思い出したくないことなんかないよ、忘れたしまったことはたくさんあるけどね」
アルハザードが紙の束を手にした途端に目の前にテーブルが現れた。
「また勉強かい、ずいぶん熱心だね」
「ああ、時間が惜しいからね、それにもう少しなんだ、もう少しで完全にあの機械の波動と同調できるんだ。そうすれば増幅器のエネルギーを与えられる」
魔人の目が輝いている。アルハザードにとってはこの島の未来よりも自分の体の方が重要なのだろう。
「当たり前じゃないか、この島のことはこの島の者が考えることさ。僕は僕の体のことを優先する、当然のことだろう」
やはり、友人にするには恐ろし過ぎるか。
「そんなことはないと思うけどね、神谷に足りないのは人としての経験値だね」
アルハザードの言う経験値とはどれ程恐ろしいものなのか。
「別に僕と同じような経験が必要とは言ってないよ、普通の人としての経験だよ」
その普通が普通ではないと思うのだが。
その日の昼食後の訓練も長時間に及び、アルハザードが部屋に戻ったのは夕食間際だった。
今日はラ・ムーから神谷への呼び出しはなかった。またアルハザードの訓練に立ち会っているのかもしれない。
「今日も遅かったね」
「今日であの機械に入る訓練は終了したよ」
アルハザードが感慨深げに言った。
「そうか、それじゃあ次は」
「次はいよいよ増幅器で作ったエネルギーを供給されるそうだ、それによって体が元に戻れる可能性が出て来るそうだ」
「あくまでも可能性だね。それじゃあ、明日からその装置に入るのかい」
「ああ、黄金人が使う物をそのまま使わせてくれると言っていたよ」
「ラ・ムーが言ったのかい」
「そうだよ、今日も僕の訓練に立ち会っていたからね」
ラ・ムーはアルハザードの訓練の様子がよほど気になるようだ。
「明日からは別の部屋に行くんだろう」
「そうだね、初めだけはグラムダルクリッチが迎えに来てくれるらしい、僕はこの王宮の見取り図は全て頭に入っているから、別に必要ないんだけどね」
「今日はさすがに疲れたかな」
言いながらアルハザードが横になって目を閉じた。
「あの訓練のお陰でこの国の人間の精神構造がかなり分かってきたよ」
「どんな風に、僕たちとは大分違うのかい」
「そうだね、基本的には一緒だけど、価値観といよりも、道徳観が多少違うかな」
「例えばどんなところ」
「生命に対する考えが違うね、この国の人間はまず、生まれ変わりというものを信じてはいない、だから当然天国とか地獄という観念もない。神を信じ満月の度に降臨されているというのに、考え方は唯物論者に近い、だからラ・ムーは長く生きることにあそこまで執着しているんだろうね」
「神に直に接しているのに唯物論者って全く理解できないね」
「理解できないだろう、彼らは皆死んだらそれで終わりと思っているんだろうね、だから、この国の神が未熟なのさ。彼らにきちんとした道徳観を教えられていない。もっとも、これは僕が言うことではないけどね」
「神様にも位があるっていうことだね。そうだね、前にも言った通り、こいつに比べればこの国の神は使い走りがいいところだろう」
アルハザードがそう言って邪神の喉をゴロゴロとなでた。
朝起きるとアルハザードが声をかけてきた。
「連絡ってどこに」
「こいつのところに決まってるじゃないか」
アルハザードが邪神の頭をなでた。
「この前直接会ってから、回線が繋がったみたいだね」
回線が繋がるというのは、インターネットの工事が済んだようなものだろうか。
「工事が済んだというよりも、名刺交換が済んで、お互いのメールアドレスを交換した、と言った方が比喩としては正しいかな」
神同士の名刺交換、絵面を思い浮かべると何だか笑える。現実に見たのは白い霧の固まりと子猫なのだが。
「で、神様は何と言ってきたんだい」
「詳しいことは教えてくれないけど、何か切羽詰まってる感じだね」
「何かの危機が迫ってるってこと」
「或いはそうかもしれない」
「この国の神様は、この国以外の場所には降臨しないのかい」
「神としてはまだまだ半人前だからね、この国を試しに任されているってところかな」
齢一万年が神としては半人前の存在ならば、人間などは本当に虫けら程度の存在なのだろう。
「そんなことはないさ、人間だって生まれ変わりがあるからね。七、八十年の人生だからってそれだけの存在じゃないよ。輪廻転生って聞いたことがあるだろう」
輪廻転生は確か仏教の言葉ではなかったか、棄教したとはいえ、元イスラム教徒の口から出る言葉とは思えない。
「人は死んだらそれで終わりではない、何百回も生まれ変わって、やがて神格を持つまでになる者もいるんだよ」
神谷は無神論者ではない、まして今は常に邪神が側についている。アルハザードと時空を超えた友人もいる。嫌でも神の存在を認識せざるを得ない。
「僕を友人と思ってくれるだけでも嬉しいね。僕にはこの邪神たち以外には、蛇や蠍しか友と呼べる存在がいないからね」
それは友人ではなく食料ではないのか。
「例えば君だって犬や猫を飼っていたとして、何も食料がない状況に置かれたら、それを食べるだろう、それと同じだよ」
とてもではないが想像をすることだできない。しかし、極限状態に追い込まれた人間はそれくらいのことはするのだろう。
「極限状態に追い込まれたことのない者には考えつかないのだろうね」
アルハザードが遠くを見る目をした、思い出したくもないことを思い出してしまったらしい。
「別に思い出したくないことなんかないよ、忘れたしまったことはたくさんあるけどね」
アルハザードが紙の束を手にした途端に目の前にテーブルが現れた。
「また勉強かい、ずいぶん熱心だね」
「ああ、時間が惜しいからね、それにもう少しなんだ、もう少しで完全にあの機械の波動と同調できるんだ。そうすれば増幅器のエネルギーを与えられる」
魔人の目が輝いている。アルハザードにとってはこの島の未来よりも自分の体の方が重要なのだろう。
「当たり前じゃないか、この島のことはこの島の者が考えることさ。僕は僕の体のことを優先する、当然のことだろう」
やはり、友人にするには恐ろし過ぎるか。
「そんなことはないと思うけどね、神谷に足りないのは人としての経験値だね」
アルハザードの言う経験値とはどれ程恐ろしいものなのか。
「別に僕と同じような経験が必要とは言ってないよ、普通の人としての経験だよ」
その普通が普通ではないと思うのだが。
その日の昼食後の訓練も長時間に及び、アルハザードが部屋に戻ったのは夕食間際だった。
今日はラ・ムーから神谷への呼び出しはなかった。またアルハザードの訓練に立ち会っているのかもしれない。
「今日も遅かったね」
「今日であの機械に入る訓練は終了したよ」
アルハザードが感慨深げに言った。
「そうか、それじゃあ次は」
「次はいよいよ増幅器で作ったエネルギーを供給されるそうだ、それによって体が元に戻れる可能性が出て来るそうだ」
「あくまでも可能性だね。それじゃあ、明日からその装置に入るのかい」
「ああ、黄金人が使う物をそのまま使わせてくれると言っていたよ」
「ラ・ムーが言ったのかい」
「そうだよ、今日も僕の訓練に立ち会っていたからね」
ラ・ムーはアルハザードの訓練の様子がよほど気になるようだ。
「明日からは別の部屋に行くんだろう」
「そうだね、初めだけはグラムダルクリッチが迎えに来てくれるらしい、僕はこの王宮の見取り図は全て頭に入っているから、別に必要ないんだけどね」
「今日はさすがに疲れたかな」
言いながらアルハザードが横になって目を閉じた。
「あの訓練のお陰でこの国の人間の精神構造がかなり分かってきたよ」
「どんな風に、僕たちとは大分違うのかい」
「そうだね、基本的には一緒だけど、価値観といよりも、道徳観が多少違うかな」
「例えばどんなところ」
「生命に対する考えが違うね、この国の人間はまず、生まれ変わりというものを信じてはいない、だから当然天国とか地獄という観念もない。神を信じ満月の度に降臨されているというのに、考え方は唯物論者に近い、だからラ・ムーは長く生きることにあそこまで執着しているんだろうね」
「神に直に接しているのに唯物論者って全く理解できないね」
「理解できないだろう、彼らは皆死んだらそれで終わりと思っているんだろうね、だから、この国の神が未熟なのさ。彼らにきちんとした道徳観を教えられていない。もっとも、これは僕が言うことではないけどね」
「神様にも位があるっていうことだね。そうだね、前にも言った通り、こいつに比べればこの国の神は使い走りがいいところだろう」
アルハザードがそう言って邪神の喉をゴロゴロとなでた。
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