親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

40ヒラニプラの神、邪神に謁見する

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「というと、あの者たちは唯海を越えてやって来たのではないと」

「ここへ呼んで参りましょうか」

「そうだな、……なんと……、何ということだ、このようなことが……」

 祭壇の金色の神が明らかに困惑している。

「いかがなされましたか」

「いや、間違いない。少しここを離れる。今日の礼拝はもう終了だ、よいか」

 それきり神の像は唯の金の固まりとなった。

「ラ・ムー様いかがなされましたか」

 すぐ近くにいた黄金人が王に訪ねた。

「神が行ってしまわれた」

「えっ、ではここにはもう」

「うむ、もうおられない」

「どちらに行かれたのでしょうか」

「それも分からぬ。こんなことは初めてだ」

「何か良からぬことが起こらねば良いのですが」

「そうだな、あの海を越えてやって来た者たちに関係するのかもしれんな」
 ラ・ムーが満点の星空を見上げた。

「やって来たようだね」

 アルハザードが邪神を見た。


「今までスクリーンで見ていた神様かい」

「決まってるじゃないか、ウルフシュレーゲルスタインハウゼンべルガードルフフォラルテンワレンウィッセンハフトシャフェルスウェッセンシャフェワレンウォ一ルゲプフレゲウントゾルグファルチヒカイトべシュツヱンフォンアングライフェンドゥルヒイーラウプゲーリグフェンデウェルヒフォラルテルンツォルフタオセントヤーレスフォランデ一ェルシェイネンワンデルェステールデンェンシュデラウムシフゲブラウヒフリフトアルスザインウァシュプルンクフォンクラフトゲスタルトザインランゲファールトヒンウィッシェンステイナルチグラウムアウフデアズーへンアッハディェステルンウェルヒゲハープトべウォーンバルプラネテンクレーゼドレーェンジヒウントウォヒンデアノイラッセウォンウェルスタンディグメンシュリックカイトコンテフォルツプランツェンウントジフェルフロイェンアンレべンスラングリフフロイデウントルーエミツニヒツアインフルヒトフオアアングライフエンフォンアンデラーインテリゲントゲシヨプスフオンヒンツイッシエンステルナルトグラウメンとかいう名前の神だよ」

「君はそれを一回僕から聞いただけで憶えてしまったのかい」

「ああ、憶えたよ、それがどうかしたかい」

 ここはあっさり流すところのようだ。

「いや、何でもない、この国の神様がもうすぐここに来るのかい」

「もうすぐというよりも、もう来ているよ」

 邪神がゆっくりと立ち上がり、スクリーンに向かって「ニャー」と鳴いた。途端にスクリーンが消えて、そこに白い霧が現れた。
 霧が一塊になって邪神の前に集まっている。

「こいつに挨拶に来たようだね。ようやく自分よりも遥かに高位の存在であることに気がついたらしいね」

 邪神は子猫の姿のまま、霧に向かって静かに腰を降ろした。

「君には神の姿が見えるのかい」

「いや、僕にも神谷と同じく唯の霧の固まりにしか見えない、唯こいつの目を通してならば見ることはできるよ。その画像を君にも見せてあげるよ」

 神谷の頭の中に金色の像にそっくりの人の映像が浮かんだ。少し違うのは映像の人間には背中に天使のような羽が生えていた。

「あの像にそっくりなんだね」

「というよりも、この神が自分に似せてあの像を作らせたんだろう、背中の羽はその時にはなかったんじゃないかな。あの像に羽はないからね」

「どういうこと」

「神などというものは、長い間人に崇拝されているうちに、その集団のエネルギーを自らの力に変えるのさ。この神のように数千年という歳月人に崇められていれば、羽くらい生えてくるだろう」

 そういうものなのだろうか、経験はないが説得力は充分だ。

「その神様がどんな挨拶をしに来たんだい」

「人間と同じだよ、拝謁でできて恐悦至極でございます、って感じかな」

 なんかテレビで見た時代劇みたいだ。

「この者たち、僕たちのことだよ、は本当に海を越えてきたのですか、と訊いてるね」
「そんなこと神様が何で気にするのかな」

「それはこの国にある教典、現代でいえば聖書やコーランに相当する物かな、そこに『ヒラニプラ歴二千年、時を越えた者がこの国に訪れし時、大いなる災いが起こるであろう』と記されているそうだ。教典と言っても紙のないこの国のことだから、あの祭壇のある部屋に置かれている板の束だろうけどね」

「時を越えてやって来る者たちって、僕たちのことじゃないか」

「そうだね、僕たちのことだね」

「ヒラニプラ歴二千年って今なのか、そして、そのせいで起こる災いって、まさか」

「ヒラニプラ歴というものは存在しない、ヒラニプラが建国されてからの年月を指しているのかもしれないが、増幅器が発明されてからの年月と合致するのも偶然とは思えない。そのせいで起こる災いについても何とも言えないね、但し、昨日雨を観察して分かったことは、この国の大気はかなりpHが酸性に傾いている。加えて地中内部の動きの活発さだ。これはもしかして、その日が近いのかもしれない」

「その日というのは、この島の最後ってこと」

「そうだね、加えてあの神は天上界のもっと上位の神、言わば上司からかなり怒られているらしい」

「どうして」

「それは、あの精神力増幅装置が原因だろうね」

「あれがそんなに良くないことなのかい」

「人間の生気を吸い上げて、特定の人間だけが長く生きるなんていうのは、神の嫌うところなんだろうね、神などというものは自分以外の存在全ての平等性を好むだろう。こいつなんかは何とも思っていないみたいだけど。加えて黒色人だ、あの装置によって邪悪な生物を生み出していることが悪魔の所業と判断されているのさ」

「それじゃあ、あの神様は増幅装置を止めさせようとしているんだね」

「ああ、何度も止めるように言ってるみたいだね」

「だけど、なぜ止めさせられないんだい」

「それは、僕にも分からないよ、およそ一万二千年のこの国の歴史の中で、精神力増幅装置は高々二千年にも満たない最近の発明だ、それによってこの島の人間六千四百万人を滅ぼすというのもいかがなものかというのが、神の考えなのかもしれないね。だから、この装置をなかったことにしようとしていることは確かだ。それの証拠となるかどうかは分からないけど、あの装置を発明した先代のラ・ムーは死んだ直後、その像が祭壇に設置された礼拝の夜、晴天にも関わらず、落雷により粉々に砕けてしまったそうだ。そして、何度作り直しても、その像だけが落雷により破壊されるため、もう作られることはないらしい」

「よほど神様たちの怒りを買っているいるんだね」

「そうだね」


「その神様たちにこの神様は入ってはいないのかい」

 まだ霧の固まりと対面している邪神を指差した。

「こいつは天上界の神とはまた別な存在さ、言わば違う部屋に住んでいるようなものだ。何たって神は神でも邪神だからね、天上界の神もこいつらには手を出せないのさ、滅ぼそうとしたら逆に自らが滅ばされてしまうからね」

 自分はとてつもない存在の神様に気に入られているようだ。
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