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ムー大陸編
38雨の中の周辺散策
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猛毒の木の実を使ってまで退治しなければならないということは、黒鳥は人間によほど害をなす生き物なのだろう。
「あの黒色人と同じ玉から生まれるんだから、邪悪な生き物には間違いないだろうね」
「あのトカゲみたいな生き物もそうなのかな」
「そうだろうね、幸い黒色人が全て食べてしまうようだけどね」
邪悪な人間が邪悪な動物を食料としている、では、その邪悪な人間を邪神は食べないのだろうか。
「こいつを人間と同じと思ってはいけないよ、こいつの食料はあくまでも人の絶望や不幸を吸うことさ命と一緒にね」
そうだった、ザルツブルグで聞いたパルケルススの絶叫が耳に蘇った。
「黒色人があの装置から出るカスから生まれるということは、黒色人はあの装置ができるまでは存在しなかったということになるね」
「そういうことになるね」
「あの装置はこの島の他の国にもあるのかな」
「いや、ヒラニプラにしかないそうだよ」
「ということは、この島に住んでいる黒色人は全てこの国によって生み出されているということだね」
「そういうことだね」
「戦士が必要な理由が分かった気がするよ」
「黒色人が邪悪の固まりであることもね」
その夜はいくらワインを飲んでも酔えない気分だった。
「今日も外を散歩しないかい」
朝起きてコーヒーを飲んでいると、アルハザードが話しかけてきた。
「暇だから構わないけど、見たい所でもあるのかい」
「別に見たい所がある訳じゃないよ、やっぱり毎日適度に運動をしないと体に悪いからね」
目の前にいる魔人が健康のことを考えているとは思わなかった。
「僕だって健康で長生きしたいんだよ。元の体に戻ってね」
「あの機械の中で横になってるのは運動にならないのかい」
「なる訳がないじゃないか、寝てるのと同じだよ。精神がつかれるだけだよ。多分体にはそうとう悪いんじゃないかな」
アルハザードがラ・ムーの許可を得て、今日も二人で王宮の外を散策することになった。
王宮の外に出てみると、雨が降っていた、それもかなりの土砂降りだ。裏口から外の様子をうかがっていると、アルハザードがそのまま外に出ようとしている。
「こんな天気の中に出かけるのかい」
「何か問題でもあるのか」
「だって、濡れるじゃないか」
「雨が降っていれば濡れる。当たり前のことじゃないか」
「偉い神様は、傘とか出してくれないの」
「この時代にそんな物があるはずがないじゃないか。普通に雨の中を歩くだけだよ」
門の横に立っている甲冑を身に着けた青色人たちも、ずぶぬれになりなっている。
目を凝らして昨日見た牧場を見ると、赤色人たちが畑をで働いている。はやり雨用の装備など身につけておらず、ずぶぬれになっているようだ。
「雨が降ったら濡れる、唯それだけなんだよ。黄金人たちは外にでないけどね。そうでない連中には他に選択肢がないんだ。そういう時代なんだよ」
「でも、それじゃ体に悪いだろう」
「雨に濡れて風邪をひく? それはそう思い込んでいるからさ。雨に濡れても別にどうにもならないと思っていれば、風邪なんかひかないよ」
病は気からということか。
「その通り、大体の病気はこんなことをしたら具合が悪くなるっていう思い込みからなるんだよ。病気になんかならないと思っていればならない、そういうもんさ」
それは君だからだ。普通の人間はそうはいかない。
アルハザードが雨の中へと歩き出した。仕方なくその後に従った。
「それに、こうやって雨に濡れて歩くのを、日本では風流と言うのだろう」
いや、違う、それは絶対に違う。
「そうかな、僕の記憶違いかな」
一度見た物を全て記憶してしまう魔人にも記憶違いということがあるようだ。
王宮の周りをぐるりと回って裏口に戻って来た時には雨も小降りになってきた。
邪神がもうすぐ小降りになるから、とは教えてくなかったのだろうか。
「天気予報をする気はないってっさ」
サービスの中に天気予報は入ってはいないようだ。
「さて、戻ろうか」
「えっ、何か収穫はあったのかい」
「いや、この国の雨の成分を知りたかっただけさ」
「どういうこと」
「雨の成分が分かると大気の性質が分かるんだ、今降っている雨はかなり酸性に偏っている、大気も酸性に偏っている証拠だ」
ならば、わざわざ雨に濡れなくても、コップに受ければ済むことではないのだろうか。
「自分の体で体感しないと詳しいデータが分からないんだ」
普通の人間は体で体感しても雨の成分など分かるはずもないのだが。
「それで、大気の成分が分かると、そこから何が分かるんだい」
「それは色々なことさ、昨日あたりから地中の活動が活発になっているようだ。感じないかい、大地の震動を」
「特に何も感じないけどね、君とは違って鈍感だからね」
「神谷は普通の人間だからと言いたいのだろうが、砂漠の荒野を生き抜いた僕とはアンテナの感度が違うのは当たり前のことだね」
多少の皮肉を込めたつもりなのだが、アルハザードは全く意に介していないようだ。
「この島に火山はないのに地中の動きが活発なのは、気になるところだね」
「明日は晴れるといいね」
部屋に戻る途中でアルハザードがぼそりと言った。二人の服はすっかり乾いている。天気予報はしてくれなくても服の乾燥はしてくれるらしい。
「何でだい」
「明日は満月だからね」
「満月、そうかやたらと長い名前の神様を崇拝する日だね」
「王宮の見取り図といっても憶えていないだろうけど、拝殿は最上階の飛行船置き場の隣にある。月が出ていれば天井を開けて月に向かって礼拝するらしいんだ、ラ・ムーが祭壇に座って周りを黄金人が参列するらしい、天井を取り払った時だけ神が降臨すると言われているんだよ」
「その時に神様を見ることができるかもしれない」
神様が本当にいるのだろうか、仮にいたとしても見ることなどできるのだろうか。
「いるのは確かだ、と言ってるよ。大した神じゃないらしいけどね」
宇宙の始まりから存在している邪神にとって、自分以上の神は存在しないのだろう。
「まあ、そういうことだろうね」
「見ることができるのかな」
「こいつの機嫌次第だろうね」
また邪神のためにサービスをする理由ができてしまったようだ。
「あの黒色人と同じ玉から生まれるんだから、邪悪な生き物には間違いないだろうね」
「あのトカゲみたいな生き物もそうなのかな」
「そうだろうね、幸い黒色人が全て食べてしまうようだけどね」
邪悪な人間が邪悪な動物を食料としている、では、その邪悪な人間を邪神は食べないのだろうか。
「こいつを人間と同じと思ってはいけないよ、こいつの食料はあくまでも人の絶望や不幸を吸うことさ命と一緒にね」
そうだった、ザルツブルグで聞いたパルケルススの絶叫が耳に蘇った。
「黒色人があの装置から出るカスから生まれるということは、黒色人はあの装置ができるまでは存在しなかったということになるね」
「そういうことになるね」
「あの装置はこの島の他の国にもあるのかな」
「いや、ヒラニプラにしかないそうだよ」
「ということは、この島に住んでいる黒色人は全てこの国によって生み出されているということだね」
「そういうことだね」
「戦士が必要な理由が分かった気がするよ」
「黒色人が邪悪の固まりであることもね」
その夜はいくらワインを飲んでも酔えない気分だった。
「今日も外を散歩しないかい」
朝起きてコーヒーを飲んでいると、アルハザードが話しかけてきた。
「暇だから構わないけど、見たい所でもあるのかい」
「別に見たい所がある訳じゃないよ、やっぱり毎日適度に運動をしないと体に悪いからね」
目の前にいる魔人が健康のことを考えているとは思わなかった。
「僕だって健康で長生きしたいんだよ。元の体に戻ってね」
「あの機械の中で横になってるのは運動にならないのかい」
「なる訳がないじゃないか、寝てるのと同じだよ。精神がつかれるだけだよ。多分体にはそうとう悪いんじゃないかな」
アルハザードがラ・ムーの許可を得て、今日も二人で王宮の外を散策することになった。
王宮の外に出てみると、雨が降っていた、それもかなりの土砂降りだ。裏口から外の様子をうかがっていると、アルハザードがそのまま外に出ようとしている。
「こんな天気の中に出かけるのかい」
「何か問題でもあるのか」
「だって、濡れるじゃないか」
「雨が降っていれば濡れる。当たり前のことじゃないか」
「偉い神様は、傘とか出してくれないの」
「この時代にそんな物があるはずがないじゃないか。普通に雨の中を歩くだけだよ」
門の横に立っている甲冑を身に着けた青色人たちも、ずぶぬれになりなっている。
目を凝らして昨日見た牧場を見ると、赤色人たちが畑をで働いている。はやり雨用の装備など身につけておらず、ずぶぬれになっているようだ。
「雨が降ったら濡れる、唯それだけなんだよ。黄金人たちは外にでないけどね。そうでない連中には他に選択肢がないんだ。そういう時代なんだよ」
「でも、それじゃ体に悪いだろう」
「雨に濡れて風邪をひく? それはそう思い込んでいるからさ。雨に濡れても別にどうにもならないと思っていれば、風邪なんかひかないよ」
病は気からということか。
「その通り、大体の病気はこんなことをしたら具合が悪くなるっていう思い込みからなるんだよ。病気になんかならないと思っていればならない、そういうもんさ」
それは君だからだ。普通の人間はそうはいかない。
アルハザードが雨の中へと歩き出した。仕方なくその後に従った。
「それに、こうやって雨に濡れて歩くのを、日本では風流と言うのだろう」
いや、違う、それは絶対に違う。
「そうかな、僕の記憶違いかな」
一度見た物を全て記憶してしまう魔人にも記憶違いということがあるようだ。
王宮の周りをぐるりと回って裏口に戻って来た時には雨も小降りになってきた。
邪神がもうすぐ小降りになるから、とは教えてくなかったのだろうか。
「天気予報をする気はないってっさ」
サービスの中に天気予報は入ってはいないようだ。
「さて、戻ろうか」
「えっ、何か収穫はあったのかい」
「いや、この国の雨の成分を知りたかっただけさ」
「どういうこと」
「雨の成分が分かると大気の性質が分かるんだ、今降っている雨はかなり酸性に偏っている、大気も酸性に偏っている証拠だ」
ならば、わざわざ雨に濡れなくても、コップに受ければ済むことではないのだろうか。
「自分の体で体感しないと詳しいデータが分からないんだ」
普通の人間は体で体感しても雨の成分など分かるはずもないのだが。
「それで、大気の成分が分かると、そこから何が分かるんだい」
「それは色々なことさ、昨日あたりから地中の活動が活発になっているようだ。感じないかい、大地の震動を」
「特に何も感じないけどね、君とは違って鈍感だからね」
「神谷は普通の人間だからと言いたいのだろうが、砂漠の荒野を生き抜いた僕とはアンテナの感度が違うのは当たり前のことだね」
多少の皮肉を込めたつもりなのだが、アルハザードは全く意に介していないようだ。
「この島に火山はないのに地中の動きが活発なのは、気になるところだね」
「明日は晴れるといいね」
部屋に戻る途中でアルハザードがぼそりと言った。二人の服はすっかり乾いている。天気予報はしてくれなくても服の乾燥はしてくれるらしい。
「何でだい」
「明日は満月だからね」
「満月、そうかやたらと長い名前の神様を崇拝する日だね」
「王宮の見取り図といっても憶えていないだろうけど、拝殿は最上階の飛行船置き場の隣にある。月が出ていれば天井を開けて月に向かって礼拝するらしいんだ、ラ・ムーが祭壇に座って周りを黄金人が参列するらしい、天井を取り払った時だけ神が降臨すると言われているんだよ」
「その時に神様を見ることができるかもしれない」
神様が本当にいるのだろうか、仮にいたとしても見ることなどできるのだろうか。
「いるのは確かだ、と言ってるよ。大した神じゃないらしいけどね」
宇宙の始まりから存在している邪神にとって、自分以上の神は存在しないのだろう。
「まあ、そういうことだろうね」
「見ることができるのかな」
「こいつの機嫌次第だろうね」
また邪神のためにサービスをする理由ができてしまったようだ。
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