親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

25黄金色の飛行船に乗る1

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 それからも太鼓のような物、木の板の上に張られた金属製の弦を木の棒でこするヴァイオリンのような物など、様々な楽器が運び込まれ、演奏が行われた。

 十数名の白色人の女性が音楽に合わせて、会場の中を行進する曲も会った。ダンスをする訳でもなく、唯列を作ってテーブルの間を行進するだけの、神谷から見ると異様な光景だったが、会場内の他の者はそれをじっと見ている。
 彼らにとってはこれが普通ということなのだろう。
 
 不意に頭の中に自分がギターを弾いている映像が浮かんだ。
「これってもしかして、僕にギターを弾けってことかな」
「ギターを弾けってことだろうね」
「ギターは部屋に置いてきたから、取りに行かないといけないね」
「後ろを見てごらん、その必要はないみたいだよ」

 振り返ると、すぐ後ろにグラムダルクリッチが神谷のギターケースを抱えて立っていた。
「これじゃあ、弾かない訳にはいかないね」
「そうだね、弾かない訳にはいかないね」
 白色人の男性が白い石を中央部に置いた。

 グラムダルクリッチが神谷にケースを渡しながら「一曲目は昨日の曲をお願いします。王ラ・ム一がいたく気に入っていた御様子でしたから」と小声で言った。
「分かりました」とだけ答えて、白い石に向かって歩き出した。
 白い椅子に座ると会場中の人々が食事の手を止めて神谷を注目していることが分かる。
 チューニングを確かめて、ゆっくりとしたテンポでアルハンブラ宮殿の思い出を弾いた。

 弾き終わるとラ・ム一が人差し指を一本立てている映像が頭の中に浮かんだ。もう一曲弾けということだろう。
 ニ曲目には依然、公園でも弾いたロベルト.シューマン作曲の「子供の情景」からトロイメライを弾いた。先ほど白色人の演奏を聴いて、あまり複雑な曲よりも、単純な分かりやすい曲の方が良いだろという判断だった。

 会場のあちらこちらからため息の漏れる音が聞こえる。最前列の金色人は皆にこやかな顔をしている。アルハザ一ドが靜かに近づいてきた。
「皆かなり喜んだようだね、ラ.ム一なんか、これは天上の音楽だと言ってるよ」
 先ほど指を一本立てていたのは、天を指差していたのか。

「まあいいじゃないか、褒美を与えたいのだが何が良いかとも言ってる」
「これは君の体のことを頼むチャンスじゃないのかいJ
「そうだな、頼んでみようか、一緒に来てくれないか」

 アルハザードがグラムダルクリッチに「ラ・ム一と話がしたいのだがいいだろうか」と問いかけると彼女は「少々お待ち下さい」と言って、胸の文様に両掌を当てた。
「構わないということです。前に進んで直接お話し下さい」
 グラムダルクリッチの言葉にアルハザードの目が大きく見開かれた。

 アルハザードが神谷を伴って最前列に向かった。ラ・ム一は椅子に座ったまま、じっと二人を見つめている。
「偉大なる王ラ.ム一よ、僕の望みを叶えてはくれないだろうか」
 ラ・ム一の目の前でアルハザードが両手の指を組んだが、ラ.ム一にその意味は通じるはずはない。
「何なりと望みを言うが良い」
 ラ・ム一の荘厳な声が答える。
「ラ・ム一よ、人払いの出来る部屋を用意してはくれないだろうか」
「そなたの体を皆に晒したくはないということだな、良いだろう」

 驚いたことに、ラ・ム一はアルハザードの体のことを分かっていた。
 ラ・ム一は隣の黄金人と小声で話をした後、席を立ち歩きだした。伴の者らしき白色人数名がそれに続き部屋の奥に向かっている。全員後ろを振り返りもしないが、二人について来いということなのだろうと思って、その巨大な背中を追った。

 ラ・ム一たちは広間を出て廊下の突き当たりにある階段をゆっくりと上って行った。神谷たちもそれに続いて階段を上った。階段は椅子と同じく石製で、手すりなどもなく、滑りやすく危なかった。アルハザードは何の苦もなく上って行くが、神谷は金色の壁に手をついて慎重に階段を上った。

 行きついた先は最上階らしく、階段がそこで途切れていた。
 廊下を通り伴の白色人が部屋の扉を開けると、そこにはム一人陸初めてついた時に見た金色の飛行船が置いてあった。
「今日は陽気も良いことだし、この船の中で話を聞くことにしよう」
 飛行船は大型のクルーザーほどの大きさがあった。

「燃料の補充は済んでいるな」
 ラ・ム一が船に向かって声を張り上げると、黄金人が舳先の方から顔を出して「はい、充分です」と答えた。

 部屋の隅から白色人たちが運んでいた、大きな木で造られた階段を船に横づけし、ラ・ム一がそれを上がって船に乗った。神谷たちもそれに続いたが、白色人は下で見送るだけで乗ろうとはしない。やはり、金色人の乗り物に白色人は乗れないということか。

 神谷たちは客人なので特別扱いということなのだろう。
 船に乗り込むと当然中は全てが金色だった。

 ラ・ム一の後ろについてデッキから船室に入ろうとした時、建物の天上に船が通過できるだけ巨大な穴があいた。
 三人が船室に入ると、船ががくんと浮かび上がった。そして、ゆっくりと上昇して行く。
「構わぬよ、腰を降ろしなさい」
 ラ・ム一が船室にある横長の金色の石を指差した。この国に来て始めて座る金色人の石は、他の石と比べてクッシヨンが入っているように柔らかく、座り心地が良かった。
「どうだね、外の景色を眺めては、この船からの眺めは最高だろう」
 船室には大きな窓があり、そこにはガラス製だろうか、透明な板がはめ込まれていた。

 高度がどんどん上がっている。
「大分高くなったね。どのくらいの高さかな」
「今、大体八百メートルくらいみたいだね」
 窓の近くに立って下を靦くと、ヒラニプラの街並みが見える。黒い道に連なる大きな楕円形の外側か青、赤、黄、白と並んで真ん中に大きな金色の建物がある、さながら大きな団扇のようだ。かなり模様のセンス悪いが。

 街の外側はほとんどが緑の森のようだ。

「ヒラニプラの他の国は見えないんですね」
「他の国は大分離れているからね。君たちはこの街の外で車に乗った者を見たようだが、一番近い町でもあの車で二日はかかるからね」
「この街以外では人種ごとに住み分けているんですか」
「住み分けているという表現が適当かどうか分からないが、青色人、赤色人、黄色人が其々の街を作って住んでいるのだよ。黒色人の街というのはないがね。彼らは荒野に家族ごとに点在しているからね」

 この街だけが様々な人種が住んでいるのは、なぜなのだろうか。

「それはそのうち分かるらしいよ」
 望みがかなうかもしれないアルハザードがクスリと笑った。
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