親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

24晩餐会での音楽鑑賞

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 二人が部屋で休んでいると、不意に頭の中に案内係の女性が立っている映像が浮かんだ。
「あの女性が来るみたいだね」
 アルハザードの頭の中にも同じ映像が浮かんだようだ。

 間もなく部屋のドアが開き、案内係の女性が現れた。
「今日は王族たちの晩餐会が催されます。そこに出席されるようにラ•ム一様より申し渡されてきました」
 相変わらず、こちらの都合など眼中にないようだ、もっとも、晩餐会への出席を断るような用事など何もないのだが。

 女性の後について歩いた。
「この女性が僕たちの面倒をみてくれる係みたいだね」
「それじゃあ、名前くらい訊いておいた方がいいかなj
「いや、この女性の名前は、日本語で発音するとケイ一ハナイ一クウカウアーカーヒーフーリへーエカハウナエレというらしい、とてもじゃないが憶えられないだろう」
「この島の住民はみんなそんなに長い名前なのかい」
「ラ・ムー以外の住民はみんなそうらしいよ、だから個人の名前なんか憶えられないよ」
「だったら、彼女には僕たちだけの呼び名金つけようか」
「そうだな、……」

 歩きながらアルハザードが色々と考えを巡らせていたが、「うん」と小さく頷いた。
「グラムダルクリッチなんてどうかな」
 グラムダルクリッチ、どこかで聞き覚えのあるはずの名前だが、思い出すことができない。
「神谷も読んだことがあるはずだよ。ガリバー旅行記の中で巨人の国編に出てくる女の子の名前さ」
 そこまで言われて思い出した。ガリバー旅行記の巨人の国編に出てくる、ガリバーの世話係の女の子にガリパ一がつけた名前だ。確か、意味はかわいい乳母さんだ。
「正解だ、愛想はないけど、かわいいからそれにしよう」
 こうして二人の案内係の名前は、グラムダルクリッチに決まった。

「こちらですよ」
 グラムダルクリッチが立ち止まり、壁に手をかけた。壁に人が通れるだけの空間ができた。
 中に入ると、初めに通された部屋と同じような広さだが、ひな段はなく、ざっと数えて三十は置いてある白いテーブルの上には、飲み物の入った瓶が並んでいた。テーブルはやはり天版だけで、椅子はなく、宙に浮いていた。椅子らしきものはどこにもない。立食形式のパーティーなのだろうか。

 神谷とアルハザードが会場の後ろの方のテーブルの脇に立っていると、誰もいない会場に前方から白色人がこの国では椅子である金色の箱を運んできた。

 自分たちの分も運ばれてくるのを待っていると、運ばれてきたのは金色の箱だけだった。
 どうやら、椅子に座れるのは金色人だけらしい。

 前方の真ん中には一回り大きい金色の椅子が置かれた。そこが王であるラ.ム一の席のようだ。
 暫くすると、会場の中に白色人が数名、料理を乗せた大きなトレイを持って現れ、各テープノレの上に配っている。飲み物用のグラスを置いている者もいる。
 最前列のテーブルだけは金色をしている。
 会場の中央部にはテーブルの置かれていない空間があった。おそらくは、そこで何かの催し物が行われるのだろぅ。
 二人と同じように会場に入ってきた白色人たちがテーブルの脇に立った。

 遅れて金色人たちが席につき、最後に王ラ・ム一が席についた。

 頭の中にラ・ム一がグラスを上に掲げている映像が浮かんだ。これが乾杯の合図かと思い、ボトルから液体を注いだグラスを持って待っていると、周りの白色人たちはすでにグラスをロにあて、液体を飲み始めている。
「あれは飲み始めろっていう合図さ、この国に乾杯なんていう習慣はないからねJ

 隣でほテルバザ一ドが十でにグラスの半分ほどの液体を飲んでいた。
「神谷も飲んでごらんよ、中々いけるから」
 恐る恐るロに入れた液体は、アルコールだった。味はワインに近い果実酒で酸味がかなり強い。度数もワインや日本酒並みだろう。
「これは美味しいね、まさかこの時代にこんなに美味しい酒があるとは思わなかったね」

 皿に盛られた料理は昨日部屋で食べた物とは違う、見たこともない形をした魚を煮込んだ料理、緑色が鮮やかな野菜のサラダなど、酒に合うスパイスの利いた料理だった。
「この国では海の幸は貴重な物だから、こういった特別な時にしか味わえないらしいね」
「へ一、ところで今日は特別な会なのかな」
「特別といえば特別かな、僕たちの歓迎会だよ」
 飲んでいた酒を吹き出しそうになった。
「歓迎会って、僕たちの紹介も何もないじやない」
「紹介はされてるよ、ここにいる全員の頭の中に僕たちの映像が送られているからね。それだけさ」
「だけど普通はあいさつとかするんじやないのかな」
「それは神谷の普通であって、彼らの普通はこれなんだ。まぁ、気楽でいいじやないか」
 言われてみれば、堅苦しいあいさつなどをしなくてすむのは、気楽といえば気楽だ。

 三十分ほどそのまま出された酒を飲んでいると、会場の奥から大きな金属製の棒が何本もついた板を白色人が三人がかりで運んできた。会場の真ん中の空いたスペースにテーブルが現れ、白色人たちは、その上に運んできた物を横たえた。
 金属製の棒は長さが短い物から長い物に並んでいる。これは粗雑に作られた鉄琴だ、と思っていると、ニメートルほどの大きさの半月型の木枠に素材は分からないが何本のも糸が張られた、さながらハープの原型のような物が運ばれてきた。

 これから演奏会が始まるのか、と思っていると、奥から二人の背の高い白色人の男性が姿を現した。二人が其々の楽器らしき物の前に立った。鉄琴らしき物の前に立った男性は両手に木の棒を握っている。
 もう一人の男性が、木に張られた糸をかき鳴らした。お世辞にも美しいとは言い難い雑音に近い音が会場に響き渡った。それに合わせて鉄琴もどきをもう一人の男性が手に持った木の棒で叩いた。こちらは雑音に近いというよりは雑音そのものだった。
 二つの楽器もどきはアンサンブルのつもりなのか、ゆったりとしたテンポでメロディーらしき音を交互に弾いているようだったが、独特の音階が存在しているのか、汚い音なりに不思議なハーモニーを奏でていた。

「やっぱり、こんなゆったりとした音楽が好みなんだね
「好みというよりは、ゆっくりとした音楽しか弾けないというのが正しいようだよ。彼らに神谷の早い音を聴かせてごらん、目を回すよ」

 音楽は聴衆を驚かせるためにあるのではない。感動させたり癒したりするための物だ。でも、こんな音楽しか知らない彼らに邪神の好むような音楽を聴かせてみたいような気もする。

「でも、止めておいた方がいいかな、ラ・ム一の機嫌を損なうかもしれないからね。音楽以外でもゆったりしたことが好きみたいだからね」
 それが長生きの秘訣なのだろうか。

「それだけで千年以上も生きられるはずがないじゃないか」
 何十億年の齢を経ている邪心を肩に乗せているアルハザードが、クスリと笑った。
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