親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

20王宮での演奏会

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 薄めを開けて声の聞こえる方を見た。どのくらいの広さがあるのか見当もつかないような広い部屋の奥にひな壇があり、そこに黄金色に輝く人が十人ほど座っている。その中央に一際大きな黄金色の椅子に座った、前身金色の服をまとい、大きな王冠を被った金色の男性が口を開いた。

「そなた達がこのヒラニプラで楽器を弾いているという者かね」

 今まで訊いたことのない、荘厳な声が部屋中に響き渡った。

 男性は四十代の半ばくらいの年齢だろうか、肌の色はもちろん、王冠の脇から見える髪の毛、鼻の下に生やした口髭、全てが金色だった。

「僕は弾けません。彼がこのギタラという楽器を弾くのです」

 アルハザードが神谷の背負ったギターケースを指差した。

 部屋にいた人たちのどよめきが聞こえた。ギタラという未知の楽器への興味と、アルハザードの声の美しさに対する驚きだろう。

「その楽器はギタラというのかね。街で評判になっているという演奏を私にも聴かせてもらえないだろうか」

 再び荘厳な声が響いた。

「あの方がこの島の王ラ・ムーですか」

 案内の女性に小声で訊ねた。

「そうです、あのお方がこの国を統治されている偉大なる王ラ・ムー様です」

 女性の目は神谷たちの方ではなく、ひな壇に向いていた。

 あたりを見回すと、ひな壇の上に乗って椅子にすわっているのは、金色の人々、おそらくは彼らがこの島の王族、金色人だろう。

 数え切れないほど部屋の中にいる白色人は、皆左右の壁の方に分かれて立っている。神谷の演奏に備えて、場所を空けているのだろうか。

「演奏をするにあたって、何か必要な物はありますか」

 案内の女性が神谷に訊ねた。

「腰掛けられる椅子が一つあれば、それだけで充分です」

 今日は邪神の手を借りることなく演奏の準備ができそうだ。

「分かりました」

 女性がその場を離れると、間もなく白色人の男性が、素材は分からないが、四角い箱を重そうに抱えてきた。色はもちろん黄色だ。

「これに腰掛けて下さい。見た目は石ですが、椅子として使われている物です」

 そういえば、ヒラニプラの公園で見た、白色人が腰掛けていた物と形は同じだ、唯色が黄色いだけだ。

 その石に腰を降ろした。やはり邪神の用意してくれた物の方が座り心地がいいが、それは仕方がない。

 ケースからギターを取り出した。

 周りの人々が乗り出すようにして凝視している。初めて見るギターという楽器に興味津々のようだ。

 チューニングをしていると、それだけであちらこちらから、溜息が聞こえる。

「先ほど弾いた曲をお願いします」

 案内の女性が神谷に小声で言った。よほど気に入ったのか、そうでなければ、王の好みにピッタリと思ったのだろう。

 先ほどと同じように速度をゆっくりめにアルハンブラ宮殿の想い出を弾いた。やはり、雑音が出ないように細心の注意を払いながら弾き終えた。

「素晴らしい、そのギタラという楽器を目にするのは初めてだ。その楽器を持って、近くに来てはくれないだろうか」

 ラ・ムーが両手を広げて感想を述べた。他の白色人たちは相変わらず無愛想だが、ひな段の上の黄金人たちだけは、楽しそうな顔をしている。


 間近で見るラ・ムーは長袖の法衣のようなデザインの服を着ている。白色人にそのまま金メッキをしたような顔立ちをしている。座っているだけで、他の金色人よりもかなり高身長なことが分かる。おそらくは二メートルを軽く越えているだろう。

「金色の人たちだけは嬉しそうな顔をしているね。彼らだけは表情が豊かなのかな」

「やっぱり、支配階級だからかな、それ以外にも何かありそうだけどね」

「何かって?」

「自分で調べろってさ、ゆっくりな曲を立て続けに聴いて少し機嫌が悪くなったみたいだな」

「それじゃあ仕様がないね」

「ああ、仕様がないね」

 立ち上がって、ひな壇に向かってゆっくりと歩き出した。アルハザードと案内係の女性が後ろからついて来る。

 ひな壇の真下に来て、頭を下げると「そうすることが、そなたたちの国の挨拶かね」頭上から先ほどと同じ荘厳な声が降りてきた

「そなたたちはこの島の者ではあるまい。黄色人の格好はしているが、どこから来たのかね」

 立ち居振る舞いの違いだけでこの島の人間ではないことがばれてしまったようだ。

「それだけではないよ。精神力増幅装置が関係しているようだね」

 アルハザードが小声で話しかけてきた。

「遠慮をすることはない、黄色人の扮装は解いて、本来の姿に戻るがいい」

 ラ・ムーの言葉が終わると同時に神谷とアルハザードは、本来の日本人とアラブ人の格好になった。

「さて、そなたたちはどこから来たのかね」

「海を越えてです」

 アルハザードが今までと同じように答えた。
「そなたたちはなぜこの国の言葉がしゃべれるのかね」
「この島に来てから荒野をしばらく放浪していましたから、その間に憶えました」

「ふむ、海の彼方にも人が住んでいる国がるという訳か。いや、信じられないことではない、しかし……」

 なぜかラ・ムーの顔が曇った。周りの黄金人たちも困惑の色を隠さなかった。

「どういうことかな」

 後ろにいるアルハザードに、ひな壇の上のラ・ムーには聞こえないように小声で話した。

「さてね、海の向こうから人が来ると困ったことでもあるのかもしれないね」

「何も教えてくれない?」

「ああ、さっき僕たちを黄色人から戻してくれた後から寝た振りをしているよ。こっちの話は聞こえているはずだけどね」

「そうだな、その男の言うことは間違ってはいない、この街の扉をそなたたちは開けることができないだろう、精神、体から発せられる波動と言ってもいいが、それがこれらの装置に反応していないからだ。この島の黄色人ならば反応するはずだからな。それにしても変わった格好をしているな、頭から布を被っているとは」

 ラ・ムーはアルハザードの被っているクウトラを指差して笑った。この島では男女を問わず、頭に布を被る習慣がないのだろう。

「そのようだね、僕の格好が異様に見えるらしい。その点、神谷はまだ普通に近いらしいよ」

 どうやら、邪神が目を覚ましたようだ。
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