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ムー大陸編
17首都ヒラニプラでの演奏会2
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「取り敢えず、初めての演奏会は上手くいったな」
約一時間の演奏会を終えて、聴衆が公園を出て行った後でギターをケースにしまっていると、どこにいたのかアルハザードが背後から話しかけてきた。
「聴いていた人たちは、喜んでいたのかな、手応えがあんまりなかったけど」
「あれがこの島の住民の性質さ、感情を強く外に表すことがないんだ。それでもじっと聴き入っていたろう。かなり喜ばれていたよ。こいつが言うんだから間違いない」
アルハザードが見えない邪神の乗っている右肩を見た。
「こいつはあんまり好きな曲じゃなかったみたいだけどね」
「今日はこれからどうする」
「そうだな、泊まる所を探そうか、そして演奏会を行いながら、少しずつ王宮に近づいて行こうか」
「偉い神様にシェルターを出してもらわないの」
「うん、なるべく神谷の存在を白色人の街に広めるためには、宿泊施設を探した方がいい。それに、毎日不意に現れる家なんておかしいだろ」
それはそうだ。ここは荒野ではない街中なのだ。急に家が建っていたり消えたりしたら誰だって変に思うに決まっている。
「ここから歩いてすぐの所に宿泊施設があるようだ、取り敢えずはそこに行ってみよう」
アルハザードが歩き出し、神谷がそれに続いた。
公園から三十分ほど歩いた所でアルハザードの足が止まった。
「ここが宿泊施設、いわばホテルみたいだね」
言われて白いドーム型の建物を見たが、他のものと何ら変わりないように見えた。
「ほら、ここを見てごらん」
アルハザードが指を指した先には、小さなボタンと円形の金網で覆われたくぼみが見える。
「これがインターファンだよ」
アルハザードがボタンを押してから、金網に向かって何事かを喋った。すると、何もなかった壁に人が一人通れるだけの空間が生まれた。
「これが入り口だよ」
アルハザードに続いて建物の中に入った。
中は空調が完備されているのか、外よりも涼しく、快適な温度だった。
入り口の真正面にあるカウンターには白色人の男女が二人、無表情で立っている。
「やぁ、さっき公園で演奏していた方ですね」
地を走るような低い声で男性が口を開いた。通訳はもちろん邪神だ。
初めに会った白色人の女性も見かけによらず低い声だった。声が低いのは白色人の特徴か、と思っていると「とても素敵な演奏だったわ」やや高めの声で女性が続けた。声の高低は個人差によるものらしい。
「今日、こちらに泊まりたいんだが、空いている部屋はあるかい」
アルハザードが男性に向かって問いかけた。
「はい、黄色人用の部屋が空いております。係の者が案内します」
奥から現れたのは、黄食人の女性だった。まだ子供らしく、顔つきが幼く身長も神谷の胸のあたりまでしかない。
「こちらへどうど」
透き通るような声をしている。アルハザードほどではないが、美しい声の持ち主だ。
案内された部屋は階段を上がった突き当たりの部屋だった。壁の色が白に対して黄色いドアがやたらと目立った。
女性が部屋の前に立つと、ドアが上に上がり部屋の中が見渡せた。部屋の中は壁はもちろんテーブルもベッドも全てが黄色い色だった。
部屋に入り、女性が去ったところで「黄色人というだけで何もかも黄色なんだね、だったら白色人にしてもらった方が良かったんじゃないのかな」アルハザードに向かって言うと「ここは元々白色人と王族が住んでいた街だと言ったろう。白色人は顔も名前もみんなが知っているんだ。そこへ見たこともない白色人が現れたら、おかしいだろ。その点黄色人は外との出入りがあるから、名前や顔の知られていない者が多い、だから黄色人にしてもらったんだよ………、それに」
「それに?」
「ヒエラルキーの一番上の方にいるよりも、その下ぐらいにいる方が何かと便利なんだよ」
アルハザードがクスリと笑い、いつの間にか姿を現した黒猫姿の邪神がアルハザードの肩から飛び降りて、部屋の隅で尻尾を丸めて横たわった。
アルハザードなりの深い考えがあったようだ。
「ここは夕食は出るのかな」
「ああ、出るよ。日本の感覚とはかなり違った出方でね。それと、黄色人用の部屋にはシャワーはないからね。さっぱりしたかったら、あいつに頼むしかないよ」
アルハザードが部屋の隅でくるまっている邪神を指差した。
「白色人用の部屋にはあるってこと」
「そのようだね」
「その他の赤色人や青色人のための部屋には」
「彼らの泊まれる部屋はこの施設にはない。ここに泊まれるのは白色人と黄色人だけだよ」
「それじゃ、さっきここに案内してくれた女性は黄色人用の案内係?」
「いや、この街では白色人に仕えるのは黄色人、家畜の世話なんかの雑用は赤色人、肉体労働及び警備は青色人と大まかに決まっているんだ。だから、フロントの奥に控えていた黄色人の女性が僕たちを案内してきたのは、僕たちが黄色人だからじゃない」
「じゃあ、赤色人や青色人はどこに泊まるんだい」
「彼らには彼ら専用の宿泊施設がある。日本で言えばカプセルホテルかな」
「黄色人用のカプセルホテルはないの?」
「なんだ、料金の心配をしてるのかい、それなら大丈夫だよ、あいつが何とかしてくれるからね」
アルハザードが部屋の隅で丸まっている邪神を再び指差した。
「この島に通貨ってあるのかな」
「あるよ、金貨も銀貨もね、ちなみにここの宿泊代は一人につき銀貨一枚だそうだ」
「それをこの神様が払ってくれる」
「そう、もちろんその対価は分かってるよね」
「ああ、こいつだろ」
黄色く変色したギターケースを指差した。
「そういうこと」
二人の話を聞いていたのか、黒猫姿の邪神が大きくあくびをした。
「そろそろ夕飯の時間かな」
「さっき、僕の感覚とはかなり違った方法と言ってたけど、どんな方法で出てくるんだい」
「もうすぐ出てくるから、楽しみに待っているといいよ、だけど、その前にこいつが演奏をしろと言ってるよ。さっきの公園でのゆっくりとした曲を聴いて、いらっとしているみたいだね」
「でも、ここでギターを弾いたら周りの部屋に音が漏れないかな」
言った途端に邪神の寝ているあたりから、周りの壁、天井、床にグレーの物質が張りつくようにして広がり、あっという間に部屋中を覆った。
「これでこの部屋は完全防音になったと言ってるよ」
床に腰を降ろしたままケースから取り出したギターを構えた。
邪神はスペインの曲がお好みのようなので、イサーク・アルベニス作曲のアストゥリアス、副題がレイエンダ、伝説という邪神には相応しいリズミカルな、以前ザルツブルグでも演奏した曲を弾いた。
神谷の周りをいくつもの黒い影が踊った。
演奏が終わると「今日の宿泊費はこれで充分だってさ」アルハザードが笑いながら話しかけてきた。
「明日の演奏会に備えて指慣らしをしたいんだけど、いいかな」
「その前に、夕飯の時間になったらしい、ギターをケースにしまった方がいいよ」
アルハザードの言葉に従い、ギターをケースにしまうと、神谷の頭の中に不意にスープの入った皿の映像が浮かんだ。なんだか美味しそうだな、と思っているとそのものが実体化して、目の前のテーブルの上に現れた。
「これが夕食かな」
アルハザードの目の前にも同じスープが置かれていた。
「頭の中にこのスープの映像が浮かんだだろう。あれがこのホテルのメニューなんだ。あと何品か出て来るよ」
アルハザードの言葉が終わらないうちに、頭の中に野菜をみじん切りにした物と肉を焼いた物の映像が浮かび、目の前にその物が現れた。
茶色い飲み物が入ったグラスが最後だった。
「これも精神力増幅器とかいう物の作用なのかな」
「そうみたいだね、詳しいことは教えてくれないけど、そういうことだろうね」
並んだ皿の前にはスプーンとフォークが置かれていた。肉は一口大に切られているため、ナイフは必要ないということだろう。
スープの皿を手に取り、香りを嗅いでみた。ミントのような爽やかな香りがした。
「全部食べても大丈夫な物だよ」
蛇やさそりを食べて生き延びた魔人には大丈夫かもしれないが、神谷にとっては大丈夫とは限らない。
「僕は神谷にとってと言ったつもりなんだけどね」
アルハザードが気遣ってくれるとは、思いもしなかった。
「いや、ごめん」
アルハザードが肩をすくめて、クスリと笑った。
スープをスプーンですくって一口飲んでみると、酸味の強いトマト味という表現がぴったりの、甘くない味つけが好みの神谷向きの料理だった。肉はさっぱりとした牛肉だろうか、こちらは軽く塩で味つけしているだけなのだが、肉自体の味が濃厚なため、一皿をあっという間に食べ切ってしまった。
「中々、美味いね、何の肉なのかな」
「この街の入り口の門に牙の生えた馬の絵が描いてあっただろう、あれだよ、現代の馬の祖先らしいね」
一万二千年前の馬肉のステーキを食べさせてもらったようだ。
「この街の料理は皆こんなに美味しいのかな」
「ここが特に高級な宿泊施設ではないことを考えると、そういうことだろうね。もっとも、高級だから美味しいとは限らないけどね」
二人が食事を終えると、現れた時と同じように皿が消えた。
「こういうルームサービスは便利だね」
「彼らにとってはルームサービスなどではなく、普通の食事の提供方法だけどね。それに、もう日が暮れているのに部屋の中が明るいだろう。この島には電気というものは存在しない、天井を見てごらん」
アルハザードに言われて天井を見上げた。
「天井全体がほのかに明るいだろう、これも精神力増幅装置で作られた明かりだそうだ」
車を走らせたり、部屋を明るくしたり、人間の精神力というのはすごいものだ。
「だから、人間の精神力がすごいんじゃなくて、それを増幅する装置がすごいんだよ」
砂漠の果ての地を一人で生き抜いた、人智を越えた精神力の持ち主の言葉には、神谷には想像のできないほどの重みがあった。
約一時間の演奏会を終えて、聴衆が公園を出て行った後でギターをケースにしまっていると、どこにいたのかアルハザードが背後から話しかけてきた。
「聴いていた人たちは、喜んでいたのかな、手応えがあんまりなかったけど」
「あれがこの島の住民の性質さ、感情を強く外に表すことがないんだ。それでもじっと聴き入っていたろう。かなり喜ばれていたよ。こいつが言うんだから間違いない」
アルハザードが見えない邪神の乗っている右肩を見た。
「こいつはあんまり好きな曲じゃなかったみたいだけどね」
「今日はこれからどうする」
「そうだな、泊まる所を探そうか、そして演奏会を行いながら、少しずつ王宮に近づいて行こうか」
「偉い神様にシェルターを出してもらわないの」
「うん、なるべく神谷の存在を白色人の街に広めるためには、宿泊施設を探した方がいい。それに、毎日不意に現れる家なんておかしいだろ」
それはそうだ。ここは荒野ではない街中なのだ。急に家が建っていたり消えたりしたら誰だって変に思うに決まっている。
「ここから歩いてすぐの所に宿泊施設があるようだ、取り敢えずはそこに行ってみよう」
アルハザードが歩き出し、神谷がそれに続いた。
公園から三十分ほど歩いた所でアルハザードの足が止まった。
「ここが宿泊施設、いわばホテルみたいだね」
言われて白いドーム型の建物を見たが、他のものと何ら変わりないように見えた。
「ほら、ここを見てごらん」
アルハザードが指を指した先には、小さなボタンと円形の金網で覆われたくぼみが見える。
「これがインターファンだよ」
アルハザードがボタンを押してから、金網に向かって何事かを喋った。すると、何もなかった壁に人が一人通れるだけの空間が生まれた。
「これが入り口だよ」
アルハザードに続いて建物の中に入った。
中は空調が完備されているのか、外よりも涼しく、快適な温度だった。
入り口の真正面にあるカウンターには白色人の男女が二人、無表情で立っている。
「やぁ、さっき公園で演奏していた方ですね」
地を走るような低い声で男性が口を開いた。通訳はもちろん邪神だ。
初めに会った白色人の女性も見かけによらず低い声だった。声が低いのは白色人の特徴か、と思っていると「とても素敵な演奏だったわ」やや高めの声で女性が続けた。声の高低は個人差によるものらしい。
「今日、こちらに泊まりたいんだが、空いている部屋はあるかい」
アルハザードが男性に向かって問いかけた。
「はい、黄色人用の部屋が空いております。係の者が案内します」
奥から現れたのは、黄食人の女性だった。まだ子供らしく、顔つきが幼く身長も神谷の胸のあたりまでしかない。
「こちらへどうど」
透き通るような声をしている。アルハザードほどではないが、美しい声の持ち主だ。
案内された部屋は階段を上がった突き当たりの部屋だった。壁の色が白に対して黄色いドアがやたらと目立った。
女性が部屋の前に立つと、ドアが上に上がり部屋の中が見渡せた。部屋の中は壁はもちろんテーブルもベッドも全てが黄色い色だった。
部屋に入り、女性が去ったところで「黄色人というだけで何もかも黄色なんだね、だったら白色人にしてもらった方が良かったんじゃないのかな」アルハザードに向かって言うと「ここは元々白色人と王族が住んでいた街だと言ったろう。白色人は顔も名前もみんなが知っているんだ。そこへ見たこともない白色人が現れたら、おかしいだろ。その点黄色人は外との出入りがあるから、名前や顔の知られていない者が多い、だから黄色人にしてもらったんだよ………、それに」
「それに?」
「ヒエラルキーの一番上の方にいるよりも、その下ぐらいにいる方が何かと便利なんだよ」
アルハザードがクスリと笑い、いつの間にか姿を現した黒猫姿の邪神がアルハザードの肩から飛び降りて、部屋の隅で尻尾を丸めて横たわった。
アルハザードなりの深い考えがあったようだ。
「ここは夕食は出るのかな」
「ああ、出るよ。日本の感覚とはかなり違った出方でね。それと、黄色人用の部屋にはシャワーはないからね。さっぱりしたかったら、あいつに頼むしかないよ」
アルハザードが部屋の隅でくるまっている邪神を指差した。
「白色人用の部屋にはあるってこと」
「そのようだね」
「その他の赤色人や青色人のための部屋には」
「彼らの泊まれる部屋はこの施設にはない。ここに泊まれるのは白色人と黄色人だけだよ」
「それじゃ、さっきここに案内してくれた女性は黄色人用の案内係?」
「いや、この街では白色人に仕えるのは黄色人、家畜の世話なんかの雑用は赤色人、肉体労働及び警備は青色人と大まかに決まっているんだ。だから、フロントの奥に控えていた黄色人の女性が僕たちを案内してきたのは、僕たちが黄色人だからじゃない」
「じゃあ、赤色人や青色人はどこに泊まるんだい」
「彼らには彼ら専用の宿泊施設がある。日本で言えばカプセルホテルかな」
「黄色人用のカプセルホテルはないの?」
「なんだ、料金の心配をしてるのかい、それなら大丈夫だよ、あいつが何とかしてくれるからね」
アルハザードが部屋の隅で丸まっている邪神を再び指差した。
「この島に通貨ってあるのかな」
「あるよ、金貨も銀貨もね、ちなみにここの宿泊代は一人につき銀貨一枚だそうだ」
「それをこの神様が払ってくれる」
「そう、もちろんその対価は分かってるよね」
「ああ、こいつだろ」
黄色く変色したギターケースを指差した。
「そういうこと」
二人の話を聞いていたのか、黒猫姿の邪神が大きくあくびをした。
「そろそろ夕飯の時間かな」
「さっき、僕の感覚とはかなり違った方法と言ってたけど、どんな方法で出てくるんだい」
「もうすぐ出てくるから、楽しみに待っているといいよ、だけど、その前にこいつが演奏をしろと言ってるよ。さっきの公園でのゆっくりとした曲を聴いて、いらっとしているみたいだね」
「でも、ここでギターを弾いたら周りの部屋に音が漏れないかな」
言った途端に邪神の寝ているあたりから、周りの壁、天井、床にグレーの物質が張りつくようにして広がり、あっという間に部屋中を覆った。
「これでこの部屋は完全防音になったと言ってるよ」
床に腰を降ろしたままケースから取り出したギターを構えた。
邪神はスペインの曲がお好みのようなので、イサーク・アルベニス作曲のアストゥリアス、副題がレイエンダ、伝説という邪神には相応しいリズミカルな、以前ザルツブルグでも演奏した曲を弾いた。
神谷の周りをいくつもの黒い影が踊った。
演奏が終わると「今日の宿泊費はこれで充分だってさ」アルハザードが笑いながら話しかけてきた。
「明日の演奏会に備えて指慣らしをしたいんだけど、いいかな」
「その前に、夕飯の時間になったらしい、ギターをケースにしまった方がいいよ」
アルハザードの言葉に従い、ギターをケースにしまうと、神谷の頭の中に不意にスープの入った皿の映像が浮かんだ。なんだか美味しそうだな、と思っているとそのものが実体化して、目の前のテーブルの上に現れた。
「これが夕食かな」
アルハザードの目の前にも同じスープが置かれていた。
「頭の中にこのスープの映像が浮かんだだろう。あれがこのホテルのメニューなんだ。あと何品か出て来るよ」
アルハザードの言葉が終わらないうちに、頭の中に野菜をみじん切りにした物と肉を焼いた物の映像が浮かび、目の前にその物が現れた。
茶色い飲み物が入ったグラスが最後だった。
「これも精神力増幅器とかいう物の作用なのかな」
「そうみたいだね、詳しいことは教えてくれないけど、そういうことだろうね」
並んだ皿の前にはスプーンとフォークが置かれていた。肉は一口大に切られているため、ナイフは必要ないということだろう。
スープの皿を手に取り、香りを嗅いでみた。ミントのような爽やかな香りがした。
「全部食べても大丈夫な物だよ」
蛇やさそりを食べて生き延びた魔人には大丈夫かもしれないが、神谷にとっては大丈夫とは限らない。
「僕は神谷にとってと言ったつもりなんだけどね」
アルハザードが気遣ってくれるとは、思いもしなかった。
「いや、ごめん」
アルハザードが肩をすくめて、クスリと笑った。
スープをスプーンですくって一口飲んでみると、酸味の強いトマト味という表現がぴったりの、甘くない味つけが好みの神谷向きの料理だった。肉はさっぱりとした牛肉だろうか、こちらは軽く塩で味つけしているだけなのだが、肉自体の味が濃厚なため、一皿をあっという間に食べ切ってしまった。
「中々、美味いね、何の肉なのかな」
「この街の入り口の門に牙の生えた馬の絵が描いてあっただろう、あれだよ、現代の馬の祖先らしいね」
一万二千年前の馬肉のステーキを食べさせてもらったようだ。
「この街の料理は皆こんなに美味しいのかな」
「ここが特に高級な宿泊施設ではないことを考えると、そういうことだろうね。もっとも、高級だから美味しいとは限らないけどね」
二人が食事を終えると、現れた時と同じように皿が消えた。
「こういうルームサービスは便利だね」
「彼らにとってはルームサービスなどではなく、普通の食事の提供方法だけどね。それに、もう日が暮れているのに部屋の中が明るいだろう。この島には電気というものは存在しない、天井を見てごらん」
アルハザードに言われて天井を見上げた。
「天井全体がほのかに明るいだろう、これも精神力増幅装置で作られた明かりだそうだ」
車を走らせたり、部屋を明るくしたり、人間の精神力というのはすごいものだ。
「だから、人間の精神力がすごいんじゃなくて、それを増幅する装置がすごいんだよ」
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