親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

13 首都ヒラニプラ間近

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「そろそろ食事にしようかと言ってるよ」

 アルハザードが邪神の頭をなでながらぼそりと言った。空を見上げると、たくさん浮いていた飛行艇の数が明らかに減っている。金色の大きな飛行艇の周りに白と青のもの二挺だけだ。

「飛行艇の数が減ってるね。昼食に戻ったのかな」

 邪神がアルハザードの肩の上で大きく欠伸をして体を丸めた。

 今回邪神が用意してくれた椅子は、俗にピアノ椅子と呼ばれる背もたれのついた、高さ調節のできるものだ。

 神谷が腰を降ろすと、調性の必要のないちょうどいい高さに合わされていた。

「だんだんとサービスが良くなっているんじゃないのかい」

「うん、そうみたいだね、こうなると良い演奏をしないといけないというプレッシャーを感じるね」

「そうかな、こいつらにそんな気持ちはないと思うよ、唯そうしたかったからそうした、それだけのことだろう」

 サービスの一環ではないにしろ、この環境の中で最上の演奏を披露しようと思うのは、演奏家として挟持だろう。
 神谷が今回選んだ曲は近代ブラジル音楽の父と呼ばれたエイトル・ヴィラロボス作曲の練習曲 一番、十一番、十二番、十二曲ある練習曲集の中から軽快な曲ばかりを選んだ内容だ。

 椅子の周りでは今日も黒い影が飛び回っていた。

「今日の演奏はもう良いみたいだよ。満足してるみたいだ」

 立ち上がると、椅子が消え、変わりに目の前にテーブルに乗ったトレイが現れた。トレイの上にはサンドイッチをコーヒーが乗っている。サンドイッチは昨日の物に比べて明らかに二倍はある。

 アルハザードの前にあるトレイには、やはりサンドイッチと茶色い液体の入ったグラスが入っている。

「今日の君の飲み物はなんだい」

「今日は普通の紅茶だよ。蛇の生き血はたまに飲めば良いんだ」

 普通の人間にたまにでも飲む必要はない、しかし、相手はアラブの魔人だ、一般人の常識は通用しない。

 食休みも取らず、また二人並んで歩き出した。

 二時間ほど過ぎたあたりから徐々に周りの様子が変わって来た。茂み以外に杉のような大きな樹木が道の端に立っているのが目立つになり、その木にはオレンジ色の大きな実が沢山なっていた。

「オレンジの実がなっているみたいだね」

「あれには、猛毒があって少しでも食べると即死するみたいだよ」

「へーっ。見た目は美味しそうだけどね」

「首都の住民が首都に変な生き物が近寄らないように植えているらしいね」

「この他にも首都を守っているものはたくさんあるみたいだよ」

 守らないといけないということは、それだけ敵が沢山いるということなのだろうか。

「敵が多いというよりは、用心深いということなんだろうね。まぁ、敵が全く居ない訳じゃあなさそうだけどね」

 赤色人が「戦士になったら」と言ったのを思い出した。考えてみれば、敵が全くいない状況では戦士は必要ない。
 
「神谷、今まで歩いていて、鳥類を全く見なかったろう、それはこの木の実のせいなんだ。このあたりの鳥類はこの木の実を食べたせいで絶滅したんだ」

 鳥類どころか人間以外の動物を全く見ていないのだが。

「何か恐ろしい話だね」

「始めに言ったように、この島は十の国から成り立っている。しかし、首都のヒラニプラ以外は、全くの後進国なんだ。だから僕たちは首都を目指すしかないんだよ」

「でも、さっき会った赤色人や、昨日の白色人は用事があると言っていたじゃない。そんな後進国に用事なんてあるのかな」

「後進国というよりも首都とその植民地と言った方が分かりやすいかな」

「その全ての頂点に立っているのが、ラ・ムーということ?」

「そういうことのようだね」

 オレンジ色の果実を見ながらアルハザードがクスリと笑った。
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