親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

文字の大きさ
上 下
23 / 73
ムー大陸編

10アラブの魔人の食事事情

しおりを挟む
 二人でどこまでも続く一本道を歩き続けた。
 相変わらず景色といえば、前方の空に浮かぶ気球だけだった。

「さっきの黒色人は何処かで集団生活をしているのかな」
「このあたりで家族ごとに住みついているらしいね。木の上やほら穴に簡単な寝床を作って、生活しているのだそうだ」
「あんな凶暴な性格なのにきちんと家族は養ってるんだ」
「そうだよ、ライオンや虎と同じだね。知性がなくても自分の妻や子供という認識はあるんだろうね」

「人を襲うのは金品を強奪するためなのかな」
「それもあるね。凶暴で知性がない、まともな仕事ができるとは思えないからね、強盗ぐらいしかできないんだろうね。人を傷つけ、殺すことに何の躊躇もない、むしろそれを楽しんでいる。ああいう人種に会ったのは初めてだね」

 アラブの魔人でも理解できない人種がこの世にはいるということなのか。
「この世といっても一万二千年前の世界だからね、常識が通用しないこともあるさ」

 アルハザードのロから常識という言葉が出ると、ひどく違和感を感じる。
「神谷は神谷の常識があるように、僕には僕の常識がある。それが他人とはかけ離れていてもね、常識とはそんなもんだよ」

 腕時計を見ると間もなく十二時になろうとしていた。
「そろそろ、昼御飯だね」

「君は昼にも食事をするのかい」
「えっ、昼ご飯食べないの」
「食事は朝と晚の二回じゃないのかい」
「へ一、君の国ではそうなんだ」
「僕もいろいろな国を周ったけど、僕の知っている範囲では食事は早めの昼食と夕食の二回、これが常識だよ」

 そういえば、日本でも江戸時代には食事は朝と晚の二回だったと何かの本で読んだ記憶がある。ましてやアルハザードの生きていた時代のエジプトや中東など、裕福な階級以外の庶民に充分な食事が用意できるとは思えない、アルハザードの言うことの方が正しいのだろう。
「朝昼晩三回食事をするのは、かなりきつい肉体労働をする者くらいじゃないかな、現代に肥満が流行っているのは、ろくに体を動かさないのにバカバカ食べるからだろうね」

 肥満は流行りではないのだが、当面アルハザードと一緒の時は一日二食となりそうだ。これならば、朝食のサンドイッチをもう一人分お替りしておけば良かった。

「昼食がない代わりに夕飯はサービスすると言ってるよ」
 アルハザードの肩に乗っている邪神が小さく欠伸をして体を丸めた。

「もう黒色人の生息地は過ぎたようだね」
「それじゃあ、もうあの恐ろしい奴らには会わずにすむんだね」

 初めからそういう場所を選んでくれれば良かったのではないか。

「こいつは戦いを見るのがすきなのさ。僕と黒色人の戦いを観戦したかったんだろうね」
「それだけの理由?」
「それだけの理由さ」

 相手が人間だから良かったものの、獰猛な動物だったら大変なことだ。
「この島にはそういうライオンのような動物はいないそうだ。あの黒色人が一番獰猛で危険な生き物らしいよ。それに相手が獰猛な動物でも大して変わりはしないけどね」

 アラブの魔人にとって、人間もライオンも戦う相手としては大差がないということらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。 ただ、それだけだったのに…… 自分の存在は何のため? 何のために生きているのか? 世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか? 苦悩する子どもと親の物語です。 非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。 まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。 ※更新は週一・日曜日公開を目標 何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。 【1】のみ自費出版販売をしております。 追加で修正しているため、全く同じではありません。 できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...