親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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錬金術師編

08錬金術師とホムンクルス

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 ギターをケースから出して足代をセットして構えた。チューニングを確かめてから、少し間を取り一曲目を弾き出した。
  曲名は「愛のロマンス」、映画「禁じられた遊び」のテーマソングである(世間では「禁じられた遊び」が曲のタイトルと勘違いしている人が多いが、「愛のロマンス」が曲のタイトルである。

 スピードをゆっくり目に保ち、雑音が出ないように細心の注意を払う。

 ギターは弦楽器の中でもフレットがあるため、左手の押さえそこないなどでびれ音が出やすい楽器なのだ。神谷は左の移動の際に微かに指を浮かせるという技術を使って、雑音を最小限に抑えている。これは簡単そうに見えて中々真似のできない高等技術だ。

 演奏が終わり、再度チューニングを確かめていると、

「素晴らしく美しい音ではないか。もう一曲頼むよ」

 パラケルススが頬を緩めて呟いた。隣ではアルハザードがクスリと笑っている。

 神谷が次に選んだのは先程(と言っても時間の流れがまるで分からないのだが)砂漠の廃墟で演奏した「パラグアイ舞曲」を作曲したバリオスの作曲した「フリア・フロリーダ」という曲だ。

 バリオスの作品の中では珍しくテクニカルではない、ゆったりとしたロマンティックな曲だ。


「彼が弾いているのは何という楽器かね」

 パルケルススがアルハザードに小声で話しかけた。

「ギタラという楽器らしいですよ」

 答えたアルハザードの肩の上で黒猫の姿をした邪神が、いかにも眠たそうに大きな欠伸をした。やはりこのようなゆっくりとした曲はお好みではないらしい。

「今までにあの楽器を見た記憶がない、何故だろうね」

 当たり前だ、この時代にはない楽器なのだから。

「しかし、素晴らしい音色だ。もう少し聴いていたいのだが、私も何かと急がしい身でね。賢者の石とホムンクルスだったね、いいだろう、私の研究の成果を見せてやることにしよう」

 演奏が終わるとそれを待っていたアルハザードが「神谷、また合格したよ。彼の研究の成果を教えてもらえるようだよ」アルハザードが歌うような口調で声をかけてきた。
「その楽器を見せてもらえるかな」
 パルケルススが神谷に近づいてきた。
 少し迷ったが、賢者の石とホムンクルスの情報のために、ギターを手渡した。

「君はこの楽器をどのくらい弾いているのかね」
「六歳の頃から弾いてますから、もう二十年になりますね」
「やはり子供の頃からの修練か、でなければあのような美しい音は出せないということだな」
 子供の頃から練習をしていても、汚い音しか出せない者はたくさんいるのだが。

 パラケルススが右手の指で弦を弾いた。「ビシッ」という雑音が発せられた。
「指先で弾く楽器ですから、指の手入れをしていないと、いい音は出ませんよ」
「リュートの演奏は聴いたことがあるのだが、この楽器のような良い音ではなかったし、音量も小さかったな」
 そのリュートの末裔がこの楽器だとは言えない。

「定期的に私の所に来て演奏をしてくれると、何か新しい発想が湧いてくるような気がするのだが、お願いできないかね」
「ええ、大丈夫ですよ」
 また、アルハザードが神谷への断りもなしに勝手に答えた。
「定期的にって、そんな約束して大丈夫な訳ないだろう」
「それはこれから彼の研究の成果を見てから決めよう。もし、彼の研究が役に立つものであれば、希望は叶えなればね」
 
  アルハザードの希望のためになぜ自分が使役されなければならないのか?
「それは神谷のためになることかもしれないからさ」
「それはどういうことだい」
「もし、賢者の石やホムンクルスが本物なら、神谷だって不老不死になれるかもしれないだろう」
 アルハザードが本気とも冗談ともとれる口調で言いながら、クスリと笑った。

「僕は別に不老不死なんかになりたくないよ」
「どうしてだい、死という恐怖から解放されるんだよ」
「そうかな、不老不死なんか唯退屈なだけじゃないのかな」

 年をとらないことによって、膨大な知識が得られるとも思えないし、楽器を弾く技術にしても限界があるだろう。そのような状態で永遠の命を与えられても、二百年もすればやることがなくなってしまうのではないのだろうか。
「ふ一ん、中々さばけたことを言うね。もし僕が切り落としの刑にあった時にそういう考えを持てたら幸せだったのかな」

 アルハザードが珍しくうなだれた。その時、アルハザードの顔が鼻と耳を切り落とされた醜いものに見えた、ほんの一瞬であったが。
「危ない、ちょっと気を許すと顔にかけてある魔術が解けてしまうから、気を抜けないんだ。見たろ僕の顔を」
「うん、一瞬だけどね」
「僕が欲しいのは永遠の命ではない。まともな体に戻りたいだけなんだ」

 魔人となり邪神を友としているアルハザードだが、常人としての幸のみが欠如しているのだ。
「では、二階の研究室に案内するとしようかな」
 パラケルススが椅子から立ち上がった,
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