親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

文字の大きさ
上 下
4 / 73
錬金術師編

03柱の街での演奏会1

しおりを挟む
 
 ギターケースを背負い、アルハザードの後ろから押し入れを通って砂漠の世界へと入った。
一これで何度目になるのかな一
 砂漠の世界は昼間は太陽光線が強烈に肌を焼き、夜間は冷たい風が吹きすさぶ、過酷な環境である。
 昼間でも薄い長袖を身につけたほうが涼しく感じられるのは、日差しが強烈で空気の乾燥している地域ならではの過ごし方だ。

「今回で五回目らしいよ」
 神谷が心の中で思ったことにアルハザードが答えた。
「君は人の心の声が聞こえるのかい」
「いや、これが教えてくれたのさ」
 アルハザードが足元で大きく欠伸をしている黒猫を指差した。

「何といっても、最高位の邪神だからね。出来ないことなど何もないのだよ」
「ならば、君の体を治す位は簡単に出来るのではないのかい」
 アルハザードがクスリと自嘲気味に笑った。
「彼らが僕らの願いを聞いてくれると思うかい。神等というものは総じて自分勝手で気まぐれなものさ。自分の気に入ったものしか愛さない、そんなものだよ」
 神を最も呪う者の言葉には、普通の人間には理解の及ばない重みがある。

「あそこ見てごらん」
 アルハザードが約五メートル先の幅十メートル、奥行き五メートルほどはありそうな、巨大な岩を真横に削ったと思われる平らな舞台を指差した。

「うん、舞台みたいだね」
「あそこが神谷の今日のステージだよ。用意はいいかい」
「大丈夫だよ、忘れものもないしね。あとは椅子があると嬉しいかな」
「こいつに椅子になってもらうかい」
 アルハザードが足元の黒猫を見下ろした。

「とんでもない。偉い神様を尻に敷くことなんてできる訳ないじゃないか」
「そうかな、結構座り心地がいいと思うけどね。もっとも、その後のことについての責任は持てないけどね」

 黒猫がゴロゴロと喉を鳴らしながら神谷を見上げた。
「あそこに腰かけるサイズの岩を置いてくれるかい」
 アルハザードが黒猫に向かって囁いた。

 黒猫がサファイア色の瞳を瞬くと、舞台の上に四角い石が現れた。
 このくらいのことは、叶えてくれるらしい。

「今日は機嫌がいいみたいだね」
「神様にも機嫌のいい時と悪い時があるのかい」
「それはそうさ。エジプトの神話や日本の昔話を読めば分かるじゃないか、神なんて人間そのままじゃないか。唯、雨を降らせたり、雷を落としたり、人間にはできないことができるだけさ」

「ふ一ん、まあ、そう言われればそうだけど」
「だから、干ばつや大雨なんて神の機嫌の悪さの象徴みたいなものじゃないかな」
 アルハザードが肩をすくめた。

「さて、演奏の準備をするとしようか」
 神谷がステージに向かって歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。 ただ、それだけだったのに…… 自分の存在は何のため? 何のために生きているのか? 世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか? 苦悩する子どもと親の物語です。 非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。 まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。 ※更新は週一・日曜日公開を目標 何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。 【1】のみ自費出版販売をしております。 追加で修正しているため、全く同じではありません。 できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...