マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第118話

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盗賊に襲われた次の日。

少なくとも肉体的にはスッキリした目覚めを迎えた俺は、それに楽しみながらも貢献してくれたイリスとセリアへ少しだけ報いることにする。

少しと言うだけあって大それたものではなく、ちょっと旅が楽になる程度の物としてIHコンロを"紛い物"で作成した。

これでお湯を沸かすのが楽になり、ついでに作ったIH対応の湯たんぽも使えば……南方とはいえ冷えるこの時期でも過ごしやすくなるだろう。

ガスコンロでも良かったのだが、これまで隠していたということにするにはそれなりの理由が必要だ。

なのでこれを貴重なマジックアイテムだということにし、それを納得させられるようにと目に見えて特殊な物を作成しようと考えた。

それで火が無いのに物を温められるという、知らなければ非常に不思議なIHコンロを選んだというわけだ。

バッテリーについての不安はあったが、こちらはボイスチェンジャーのときと同様に大きく魔力を減らしながらも長時間稼働させられる物が出来た。

この魔力消費は無視できないレベルではあるも、不要なときは魔力に戻せばいいので問題はないか。

結果……食事や身支度に湯たんぽと、お湯を沸かすために活用したことで2人には非常に喜ばれた。

まぁ、そのせいで


「これなら夜に裸でも大丈夫ね♡」
「沢山汗をかいても綺麗に拭けますしね♡」


などと身を寄せながら言ってきたりされたのだが。

好みの相手ならヤるのは吝かではないし、旅程に問題がない限りは別にいいけどな。






その10日後……俺達はイリスの故郷であるガヴレット領に入っていた。

予定からすると半分ほどの期間でここまで来ることができているのだが、これは人里をなるべく避けたためである。

イリスがダンジョン街へ向かったことは彼女の姉の件を考えれば可能な限り秘匿すべきであり、出入りで顔の確認などをされるのは都合が悪いからだ。

なので食料などの物資も一月分をとウェンディさんに頼んであったわけだし、寄るとしても厳しいチェックのない村で水や馬の餌を補充する程度に留めていた。

更にはガヴレットへ向かうために途中から西進したことで人目が減り、その上で盗賊に遭った件もあって移動速度を上げている。

その方法として、馬車を透明な魔鎧で浮かせて馬の負担を大幅に軽減することにした。

これなら地面スレスレなので墜落の危険はないし、人目が増えたら下ろして普通に動かすことにすればいい。

魔力の消費は気になるが、移動期間が短くなれば野営で夜通し防護壁を張っておくことが減るので許容できる範囲だろう。

まぁ……野営の回数が減るとわかったイリスは家に着けばどうしてもが減るからと俺を求め、それに対して俺が本当に彼女と結婚する可能性を減らそうとセリアも俺を求めてくることになったが。



そんなことがありつつも入ったガヴレット領は、一言で言うと田舎であるらしく。

その言葉通りに大きな町はイリスの実家がある領都のみで、その町も他領の領都に比べると小さいものであるそうだ。

いくつかの人里を越え、その領都が近くなると俺はイリスに確認する。


「門で気づかれるよな?」

「まぁ、気づかれるでしょうね」


商隊に紛れ込んで町を出たイリスが外から戻ってくれば、間違いなく結構な騒ぎになるだろう。

そこで町を出た理由に注目されるのは想像に難くなく、そこから彼女の姉の件を推察する者がいてもおかしくはない。

それでなくともイリスの姉を呪った人間かその仲間が潜伏しているかもしれず、イリスは通常では解決できない問題のために町を出たのだという推論を元に彼女の姉が何者かに呪われたのではないかと吹聴する可能性がある。

つまり、イリスの帰還をきっかけに彼女の姉が呪われた件を広めようとするのかもしれないわけだ。

それはイリスの家全体として困るだろうし、それを避けるにはイリスの帰還自体を秘匿すべきだな。

というわけで……俺はイリスを魔鎧で包み込み、透明にして町へ連れ込むことにした。

そうなると馬車の操作をどうするのかという問題があるのだが、そこは透明になったままのイリスが俺の膝の上に乗り、彼女が俺の手を掴んで馬を操ってもらうことにする。

道中で多少は馬の操り方を習うも、やはりまだまだぎこちないからな。

後の問題として、イリスを彼女の家に入れる方法だが……出るときは出入りの商人に協力してもらったらしいので、入るときにもその商人に協力してもらうつもりであるようだ。

そういったことを打ち合わせながら進んでいると、ガヴレットの領都であるガヴレッタという町に到着した。




町の門に着くと兵士が俺達をチェックする。


「冒険者とその付き人か……この町に来た目的は?」

「俺はフータースという商会に所属しておりまして、販路拡大の下調べをということで」


俺はそう答えつつある書類を出して見せる。

これはウェンディさんに作ってもらったもので、ガヴレット領にて市場調査を命じる内容となっていた。

俺とセリアだけであればダンジョン街から来たことが知られても構わないので、こんな書類を用意してもらったのだ。

この町を去る際にそこを突かれる可能性もあるが、目的を果たした後にその証拠としていくつかの商会を調査しておけばいい。


「へぇ……そのためにたった2人で?」

「えぇ、まぁ」


俺達に対応する兵士はそこそこのベテランに見え、だからか微妙に訝しんでいるようだ。

その理由はセリアだろう。

彼女にはこの町で俺の付き人という役割を演じてもらうことになっているため、それに見合う格好となり聖職者には見えないようになっている。

その格好は簡単に言うとメイド服であり、この時期の気温の低さから露出は少ないものにした。

もちろん俺が"紛い物"で作成した物ではあるが、ごく普通の服なので"フータース"の試作品だということにしてある。

そんな事情から、治安を考えれば男女2人だけだということが怪しまれているのだろうと思っていると……兵士は諭すように言ってきた。


「一緒になるんなら、駆け落ちは最後の手段にしておいたほうがいいぞ」

「ハァ?」


どうやら彼が訝しんでいるのは俺とセリアの関係性だったらしく、御者台で隣に座っていた彼女の俺に対する距離の近さでそう思ったらしい。


「フフッ♪」


その言葉にセリアは微笑んで俺の肩に頭を寄せるが、同時に俺の唇を透明な何かが奪う。


「むぐ」


それは透明になったイリスの仕業であり、俺の膝の上で身体を捻って実行したようだ。

呼吸のために顔の部分は開放してあったため、見えはしないがその感触が直に伝えられている。

いや、外套などが変に動いてその存在がバレかねないので止めてほしいのだが。

というわけで俺は魔鎧でイリスの体勢を戻し、若干濡れた唇を拭いてから兵士への対応を続けた。




しばらくして。

軽くではあるが荷物の検査を受け、俺達は領都ガヴレッタに入ることができた。

イリスがこの町を出たことで厳しい検査があるのではと警戒していたが、流石に食料を始めとした必要物資のみの荷物に彼女が潜んでいるとは思われず。

その結果、セリアとの誤解は解けなかったが何とか通過できたというところである。


「で、まずは商会か」

「ええ。私が家に入るのは外から見られないほうがいいでしょうしね」


俺の言葉に透明なままのイリスが小声で答えた。

打ち合わせ通り、町を出るときに協力してもらった商会に入るときも協力してもらう予定になっているが、イリスの件はその商会でもごく一部の人しか知らないらしく。

初顔の俺がその対象者をピンポイントで指名するのは不自然なのでイリスには手紙を用意してもらっており、ちょっとした売り込みの体で"フータース"からのものとしてその手紙を商会の会長へ届けてもらうということにした。

会長ならイリスの件を知っているそうだし、別の商会から手紙を届けるにもその他の会員に宛てるよりは不自然ではないからな。

その場ですぐに届けられればそれでいいが、そうでなければ適当な宿で待機することになっている。

ここで問題なのがセリアだ。

その会長はイリスに協力していることからわかるように、彼女の姉の件を把握している。

なのでイリスを連れてきた俺達も事情をすべて知っていると誤解されるかもしれず、イリスの姉が呪われていたことを伏せておきたいセリアがいる前でその話をされると都合が悪い。

そうなるとイリスと目的が被っていたことが彼女にバレるし、それで自分の母の件が後回しになりかねなかったことを良く思わないかもしれないからな。

それでイリスの姉の件を言い触らすことはないだろうし、口外しないように命じれば大丈夫だとは思うが……確実に秘匿するのなら、そもそもセリアに知らせないほうがいい。

となると、イリスとその会長を会わせる場にセリアが居ては不味いので、その間彼女は"フータース"の市場調査を行ったという実績を作るために店内を見ていてもらうとするか。



そうして俺達が向かったのは"アミラス商会"という商会で、地方とはいえ領主の屋敷に出入りするだけあってそれなりに大きかった。

まずは俺だけが店内へ赴き、2人には馬車を見ていてもらうことに。

広い店内は種類ごとにキッチリ分けて陳列されており、接客を担当する女性は胸をやや強調したデザインの制服を着ていた。

別に露出しているわけではなく、スカートをストラップで肩から吊り下げる形なのでそう見えるだけである。

実際に見たことはないが、前世で昔流行ったらしいどこかのファミレスみたいだな。

あちらと違ってミニスカートではないようだが。


「いらっしゃいませ!」


そんなことを気にしていた俺に声を掛けてきた店員は……背が低めながらも中々の胸部を持っていて、制服のデザインもあってそこが目立っていた。

バランスとしてはモノカさんに近いな。

肩ほどまでの明るめな茶髪は毛先が外へ撥ねており、それがよく似合った可愛い感じの女性なのだが……本人はそれを自覚した上で武器としているのか、俺の視線を感じた彼女は若干前屈みになると両腕で寄せて強調する。


ムニュウゥ……


とでも擬音が付きそうな体勢の彼女はこちらをチョロい客だと判断したようで、とてもいい笑顔で俺に売り込みをかけてくる。


「フフッ♪何かお探しですか?は売り物ではありませんが……良いお取り引きができれば少しはがあるかもしれませんよ?」

ムニュンムニュンッ


そう言いながら胸を上下に揺らす彼女。

そこが気になっている以上は俺がチョロい客であることに違いはないのだが、そこまで金を持っているように見えるのだろうか?

まぁ、それはさておき。

俺は目的を果たすため、イリスが書いた封書を取り出すと目の前の谷間に挿し入れた。


「フータースという商会の者です。そちらの会長にお渡しいただけますか?」
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