マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第77話

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”牛角亭”へ向かっていると、所々の酒場に貸し切りの看板が立っていた。

大手カンパニーの主力が戻り、ダンジョンの中で制限されていた様々なストレスを解消させるためにそうなっている店が多いのだと思われる。

となると……"牛角亭"も貸し切りになっている可能性があるな。

ただ、俺は飲食を自前で用意できるので押さえられている部屋だけ使えれば良く、貸し切りによってその部屋が使えなくなっていたとしてもマンションに帰ればいいだけだ。

なので顔を出すだけ出して、最悪ダンジョンから戻ってきていることを伝えておくだけでもいいかと思い、そのまま"牛角亭"へ向かうことにした。



で、"牛角亭"に到着したわけだが……その入口は閉ざされており、その傍らには"貸し切り"と炭か何かで雑に書かれた木箱の蓋らしき物が立て掛けてある。


「ガハハ……」
「オラオラ……」
「ギャハハハハ……」


中の様子を窺うと、あまり素行のよろしくなさそうな男達の声が聞こえてくる。

うーん、大丈夫なのか?

まぁ、全員ではないらしいが女性従業員は娼婦でもあるし、性的な行為も怪我をするような度が過ぎたものでない限りは問題なく対応できるだろう。

リンナやティリカさんが他の男に、というのは気にならなくもないが……別に俺のものというわけでもないし、これまでも俺以外の客を取っていないわけじゃないからな。

しかし別の懸念点もある。

先程の、ココルさんの一件で出くわした"宝石蛇"だ。

ココルさんと一緒にいたライルさんの発言からすると、ここ数日の"宝石蛇"は代金の踏み倒すなど傍若無人に拍車が掛かっている状態なんだよな。

万が一ここを貸し切っているのが"宝石蛇"だった場合、その代金を踏み倒されるかもしれないのだ。

俺は別に"正義の味方"をやるつもりはなく、ココルさんの件で首を突っ込んだのは偶然その現場に出くわしたというだけなのだが……色んな意味でしてもらっている所なので、トラブルが起きていそうならば手を貸すか。

まぁ、中に居るのが"宝石蛇"だとは限らないが。

とりあえず、ちょっと忍び込んで様子を見てみるとしようか。



俺は"牛角亭"の裏手に回ると透明になり、予約していた2階の部屋へと浮遊して向かう。

魔力の糸を極細にして窓の隙間から通すと、内側から窓を開けて誰も居ない部屋への侵入を完了した。


「?」


この部屋が空いているのは当然だが……周辺の部屋から物音が全くしない。

部屋も貸し切っているのか?

まぁ、女性を買うとなれば必要ではあるのだろうが……時間的に夕食時だし、今は1階の食堂で飲食が始まった頃だから静かなのかな。

俺はそう予想すると食堂の状況を確認するべく、部屋のドアの隙間から魔力の糸を外の通路に這わせ、誰も居ないことを確認してから部屋を出る。

足音を立てないため浮いたまま移動し、階段へ近づいてみると……階下から、入口前で聞いたような騒ぐ声が聞こえてきた。


「ホラ、こっちにも来いよ!」
「おっ、いい感触のケツしてんなぁ」
「こっちの乳もいい感じだぜ!」


そんな声が聞こえる中、聞き覚えのある声が大きな声で怒鳴りだした。


「ちょっと、アンタ達"宝石蛇"なんでしょ!他の客は追い出すし、代金を払う気はあるの!?」


あー……貸し切ってるのは"宝石蛇"だったか。

その声を聞いて揉めていそうだと思い、何かあれば割って入るつもりで食堂へ降りると……飲み食いしながら女性の身体に手を伸ばす男達50人ほどが食堂を占拠しており、その男達に怒鳴っていたのはティリカさんだったようだ。

どうやら貸し切りとして受け入れたわけではなく、他の客を追い出したから結果的に貸し切りになったらしい。

その上で彼女は最近の"宝石蛇"について知っていて、代金の踏み倒しをされかねないと考えて確認しているのだろう。

男性の従業員もいるはずだが、ティリカさんがその役を買って出ているのは女性だからか?

おそらく食後ののことを考えているだろうし、女性であれば怪我をさせられる可能性は小さいだろうしな。

体感ではあるが、こういう場合に男が声を上げると暴力沙汰になりやすいからなぁ……

まぁ、女性が相手でも暴力を振るう奴はいるし、その場合は男よりも怪我の度合いが酷くなるというリスクもあるので、この対応がベストだとは言えないが。

そんな中……1人の男が席を立ってティリカさんに歩み寄り、その正面から彼女を見下ろした。


ズシッ、ズシッ、ズシッ……ズンッ

「……」


結構な巨漢であり、どちらかと言えば肥満に近いスキンヘッドの男なのだが……ティリカさんは黙ったままの男に怯みつつも言葉を続ける。


「な、何よ。こっちだってタダで飲み食いされちゃ困るのよ!」


そう言ったティリカさんに男は自分の首に掛けたネックレスを摘み、そこに下げられた2枚のドッグタグをどちらも見やすいようにずらして見せた。

1枚は冒険者ギルドの登録証で、もう1枚は……フレデリカに聞いていた通りの、見えない何かに巻き付いているような蛇が細工された金属板だ。

ティリカさんは連中が"宝石蛇"だと知っているようだし、それを再確認させるために見せつけたのだろう。

そんな男が口を開く。


「俺達を"宝石蛇"だってわかっていながらよく吠えられるな」

「最近のアンタ達はやり過ぎでしょ。飲み食いどころか女までタダでヤッて、足りなきゃその辺の女にまで無理矢理手を出してるじゃない。"撲殺姫"だってそろそろ戻ってくる頃でしょうに、彼女が怖くないの?」


暗にフェリスへ訴え出ることを示唆するティリカさんだったが、男はそれを鼻で笑い飛ばす。


「フン、その"撲殺姫"はもうすぐただのメスになるぜ」

「ハァ!?」
「っ!?」


ティリカさんと同時に驚く俺。

ただのメスになるということは……あのフェリスを無力化というか、一般的な女性と変わらないほどに弱らせるということか?

一体どうやって……と疑問に思っていると、他の男が巨漢の男に苦言を呈す。


「隊長、その件はあんまり表に出さないほうが……」

「別にこれ以上のことは言いやしねぇよ」

「は、はぁ……」


ただの予想ではあるが……そのやり取りを聞く限り、フェリスを弱体化させる手段が確立したから最近の"宝石蛇"は調子に乗っているのだと思われる。

ただ、詳しいことを言うつもりはないようなので対応のしようがないな。

一応、警戒すべき情報として"銀蘭"に伝えておいたほうがいいか。

しかし俺1人では"銀蘭"の事務所には入りづらいので、問題なく入れる"銀蘭亭"に行って連絡してもらうことにしよう。

そう考えていると……ティリカさんはその言葉を信じられないのか、隊長格の男に反論していた。


「あの"撲殺姫"が?そんなわけないじゃない!」

「信じるかどうかは関係ねぇよ。重要なのは今、俺達がお前の言葉で出て行く気はねぇってことだし……をするってことだ!」

ガシッ、ビリリィッ!

「えっ?……キャアアッ!」


隊長格の男は言うと同時にティリカさんの胸元を掴み、その服を一気に引き裂いた。

ブラ代わりの下着は残っているが、服の拘束力が減ったぶんだけ大きな胸が揺れやすくなっている。

その胸を腕で隠すティリカさんだが、それを見て隊長格の男が脅すように言った。


「手ぇどけな。じゃねぇとここの女、ただヤるだけじゃなくて顔をボコボコにするぞ?」

「なっ!?文句を言ってるのは私だけでしょう?他の娘は……」

「関係ねぇことたぁねぇだろ。店全体の話なんだからよ」

「くっ……」


男の言葉にティリカさんは周囲の女性達を見回すと……自分のせいで女性達が顔に傷を負うのは不味いと判断したのか、悔しそうに腕を下ろしてその胸を解放する。


「……ヤるだけにするんでしょうね?」

「抵抗しなければの話だがな。まぁ、殴りはしなくてもコイツらの気が済むまでヤられるだろうから、子種まみれで酷い顔にはなるだろうけどな。ハハハッ!」

「くっ……」


機嫌を損ねて他の女性達に怪我をさせられては不味いからか、男の言葉に言い返せないティリカさん。

その様子に気を良くした隊長格の男は部下達に声を掛ける。


「おい、飯の間は触る程度にしとけって言ってたが、これからは女も好きにしていいぞ!」

「「おおっ!」」

「「キャアッ!」」


歓喜の声を上げる男達は近場の女性に手を伸ばし、次々に服を脱がせようとし始めた。

その中にはリンナもおり、他の女性達と同様に声を漏らしながらも強い抵抗はせずに胸を揉まれている。


「うぅ……」


……うーん、ここまでかな。

ここまで静観していたのはフェリスの弱体化について口を滑らせる者が出ないかと期待していたのもあるが、連中にどう対応しようかと考えていたからでもある。

姿を見せずに魔力の糸で締め上げるとすると……連中を生かすにしても殺すにしても、実行した者が明らかでなければこの宿にいた人達が疑われてしまう。

連中が上から手を出すなと指示を受けている"モーズ"になるとしても、"宝石蛇"と明確に敵対することとなり、その場合に俺を制御するためにイリスが目をつけられる可能性がある。

そうなってはイリスの目的を果たすこともできなくなるだろうし、あくまでも彼女の護衛という設定の"モーズ"が自分から"宝石蛇"に手を出してそうなるのは本末転倒だ。

まぁ、どちらも宿の人達がここに居る"宝石蛇"の連中について、その行く末を口外しないでくれるのであればどうとでもなるのだが……連中は暴力を厭わない組織だし激しい尋問をされるかもしれず、それに期待するのは酷だからな。

というわけで、また別の姿を用意しようかと考えた。

発音と口パクの表現は練習して合わせられるようになったので、口元を隠さなければならないという制限はなくなっている。

なのでどんな姿になっても良かったのだが……選択肢が増えると逆に迷ってしまうんだよな。


「オラッ、股ぁ開け!」

「キャァッ!」


そうこうしているうちに連中の1人がテーブルにリンナを仰向けで寝かし、その両脚を割り開いて自分の腰を押し入れた。

まだまでは挿れていないようだが、それも間もなくのことだろう。

周囲の女性はティリカさんも含め、自分も同じ目に遭うとわかっているからか諦めた表情である。


「うぅ……」


リンナは俺に売り込みを掛けてきた時とは違い、嫌悪感と悲しみ、それに諦めの混じった表情でが来るのを待つしかなかったのだが……


フワッ

「えっ?な、何だ?」


そこでその男の体が浮き、空中でジタバタする姿を見ることになった。
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