73 / 115
第73話
しおりを挟む
翌朝。
俺は"金獅子"の拠点にいると言ってあったので、万が一イリス達があちらへ呼びに行ったりすると少々不味い。
そう考えて早めに起きられるよう目覚まし時計を設定し、その時間に起きてから朝食や身支度を済ませると透明になって地上に降りる。
その後"モーズ"として姿を表した俺は、適当に荷物を作成したリヤカーを引いて"銀蘭"の拠点へ向かった。
「おはよう、モーズ」
「おはようございます、モーズさん」
『ああ、おはよう』
俺が拠点の入口から数百m離れた地点で待機していると、こちらに気づいた拠点の警備員がイリス達を連れてきてくれた。
そうして俺達は朝の挨拶を交わすと、イリスが今日の予定を確認する。
「今日は4区で狩るのよね?」
『ああ、そうだ』
昨日、フェリスには1人で街へ帰ると言っていたのだが、"銀蘭"の拠点を出る前に会ったイリス達から頼まれてこの第4区で狩りをすることになったのだ。
イリスはここのウサギが昼間であればさほど危険ではないと聞いたようで、セリアを成長させるのに丁度いいのではと提案してきた。
彼女はそのついでに自分もと言い出し、結局全員で狩りをしてみることになったわけだ。
今回の目的は"銀蘭"の拠点をイリス達が使えるようにすることだったし、彼女が貴族であると判明したので不要なリスクは避けるべきだろう。
1人でなら試しに5区へ入ってみてもいいが……第5区の地図もないし、未体験の場所にイリス達を連れていくのも気が進まないからな。
だったらイリスを狩りに連れ回さず"銀蘭"の拠点で待機してもらったほうがいいのだろうが、彼女としては解呪のマジックアイテムが手に入る瞬間を自分の目で確認し、それが本物であると確信して安心したいという考えのようだ。
それもあってイリスが狩りに同行するのは決定事項なので、今日も魔石の回収に精を出してもらうことにする。
そう考えてウサギ狩りを始めようとしたところ、セリアがある提案をしてきた。
「あの、今日も魔石のみが回収対象でしょうか?でしたら"銀蘭"にウサギ自体をお譲りするのはどうでしょう?」
「ああ……」
セリアの提案に納得したような顔をするイリス。
そんな彼女達に事情を尋ねてみる。
『どういうことだ?』
「えーっと……実は"銀蘭"の運営ってそこまでの余裕があるわけではないみたいで、放置するぐらいならあげてしまってもいいんじゃないかなって」
「少し前から保護する女性達が増えてきていて、フェリスさん達はあまり遠出ができなくなっているようでして……近場で数を稼ぐらしいので今のところカンパニーの維持に支障はないようですが、これからお世話になる以上は代価を支払っておいたほうがいいのではないかと」
『うーん……』
イリスが貴族だと断言できるシャーリーさんも貴族かそれに近い家の出だと考えられるし、"銀蘭"の運営資金には余裕があるのではないかと思っていたのだが……ここでも金の問題か。
ここの拠点で男に狙われた女性達を保護しているのはいいが、その女性達が戦力にならなければその数が増えるほど稼ぐ必要がある。
ただ、フェリスの存在自体が抑止力になっているのだろうし、彼女が拠点にいなくてもある程度は大丈夫なのではないかと思うのだが。
その点を聞いてみると……イリスとセリアは周囲を見回し、声を若干抑えてその疑問に答えた。
「昨夜、最近この拠点に来たって人達に聞いた話なんだけど……最近"宝石蛇"の動きが活発というか、怪しいみたいなのよ」
「”銀蘭”に直接何かをするわけではないようですが、何と言いますか……"銀蘭"の目に対してあまり遠慮しなくなってきているようです」
『それは……フェリスを恐れなくなってるってことか?』
聞き返す俺にイリスが答える。
「どうかしら?"銀蘭"に手を出していない以上、彼女を恐れていないわけではないと思うのだけど……」
『それ以外の女性には積極的に手を出している、と。そうなると……"銀蘭"に保護させる女性を増やして組織の維持をできなくするつもりか?』
「「さぁ……?」」
イリスとセリアが揃って首を傾けそう返す。
まぁ、直接関わろうとはしていないので、情報不足で予想のしようがないか。
うーん、困ったな。
俺の予想が当たっているかは別として、イリス達を安心して預けられると思って"銀蘭"の拠点を使えるように交渉したってのに。
まぁ、"銀蘭"に手を出していないのなら街にいるよりは安全なのかもしれないし……というか、イリスが街の入口で絡まれていたことやダンジョンの中で襲われたことも、"宝石蛇"の動きが活発になっていたうちの一部だったのかもしれないな。
とにかく、拠点の維持には問題ないと言っても世話にはなるわけだし放置する予定のものだからということで、俺達は魔石を抜いた後のウサギを"銀蘭"へ譲ることにした。
それを先方に伝えると……この提案は受け入れられたようで、荷車を引いた一団とニナがやってきた。
「私は目印役で」
ニナが来た理由を聞くと彼女はそう答え、昨日持っていた旗をフリフリと振ってみせる。
あちらの荷車が拠点へ荷物を運んでる間、俺達が普通に移動して狩りを続けられるようにと来たらしい。
これで丈のある草原の中、輸送隊が俺達を見失ってもすぐに見つけられるというわけだ。
輸送隊は5人で2人が荷車を担当し、残りの3人が護衛を担当するそうだ。
護衛の3人は警備担当なのである程度は戦えるらしく、昼間ならウサギが群れる規模も小さいので何とかなるとのこと。
ニナを含めて6人か。
人目は増えてしまうが、丈の高い草が生い茂る場所なら密かに魔力の糸を使っても気づかれにくいだろう。
それが見えそうなフェリスは拠点から出てきていないし、これなら先んじてウサギに糸を仕掛け、必要に応じて動きを抑制することで狩りやすくなるはずだ。
そう考えた俺はニナ達を引き連れ、第4区での狩りを始めることにした。
暫くして、輸送隊の1人が声を上げる。
「あの、そろそろ拠点に運んだほうがいいかと」
そう言った彼女の後ろには、魔石が抜かれたウサギを満載した荷車があった。
時間的には……おそらく1時間も経っていない。
俺達が倒して魔石を回収し、それを彼女達がある程度血を抜いて荷車に乗せるという形だったのだが……俺が魔石でウサギの位置を感知していることから狩るペースが早く、荷車が一杯になるまでさほど時間はかからなかったのだ。
ここが草原であり、見つけた獲物まで一直線に向かうことができたというのもこうなった理由の1つだろう。
ニナは元より、輸送隊もフェリスとの力試しで俺の力は知っていたので驚きはしていない。
そんな彼女達を拠点へ戻らせると……程なくして、別の女性達が空の荷車とともにやって来た。
「この時間であの量なら、と」
新たな輸送隊の1人によると、2部隊での交代制になったらしい。
ならばと自分のリヤカーに積んでいたウサギを彼女達の荷車に移し、その後はほぼノンストップで狩りを続けることとなった。
その結果……狩りを終えた俺達が"銀蘭"の拠点へ向かうと、トンファーを持ったフェリスが出迎えた。
「ヤリ過ぎ」
どうやら、肉や皮を処理するのに忙しくなりすぎたらしく、それで食事の準備などが遅れてしまっているらしい。
夜に拠点への襲撃があったときはもっと多いはずなのだが、その場合は夕食も済んでいたので問題はなかったのだろう。
土地や財政状況によるらしいが、この拠点ではお昼にも食事を取るらしい。
もちろんフェリスも昼食を取り、優先的に用意されてはいるそうだが……今日はそれが遅れており、夕食も遅れそうなことから若干ご機嫌が悪いようだ。
イリスによるとフェリスはかなり量を食べるらしいので、食事の時間や量と質にはかなり気を使っているらしい。
そう言えば……ルナミリアも人型では味にこだわっていたし、量もドラゴンのときに比べれば少ないが結構な量を食べられるようだった。
ふむ。
イリス達の滞在が認められたとは言え、無駄に機嫌を損ねるのは不味いだろう。
そう考えた俺は、自分の木箱の中である物を作ってフェリスに差し出した。
スッ
『よければどうぞ』
「ん?……ナニコレ、乾燥肉?」
そう言って俺が出した皮の小袋を受け取ったフェリスは、中に入っていた乾いた肉を取り出してチェックし出した。
「スンスン……香りからするとかなり上等な物ね。食べてもいいの?」
『ええ、どうぞ』
「じゃあ……あむ」
俺が何かを仕込んでいるとは疑っていないようで、フェリスは躊躇なくその肉を口に入れると咀嚼を始める。
「ングング……ゴクッ。ナニコレ、かなり美味しいんだけど。あむっ」
簡単な感想を述べるとすぐにまた肉を口にするフェリス。
好評なようで何よりだ。
この肉は前世で売っていた評判の良いビーフジャーキーであり、その中身だけを作成したものである。
街ではウサギ肉が一般的でオーク肉が少し珍しく、牛肉はかなりお高くなっているほど珍しい。
まぁ、珍しい程度であり得ない食材というわけではないので、俺が持っていて疑問に思われるのは味ぐらいになるだろう。
だが、すぐに食べてなくなるのであれば詳しく調べられる機会は来ず、"紛い物"だと知られることもないだろうと考えて出してみたのだ。
「アグアグ……ごくんっ」
それなりに空腹だったのかフェリスはビーフジャーキーを次々と口に入れ、あっという間に袋の中を空にした。
その匂いも気に入ったようで、袋を顔に当てて中の空気を吸い込んだ。
「スウウゥゥゥ…………ハアアァァァ……♡」
その表情は艶っぽく、見る人によればイケナイ物を吸っているのではないかと誤解されそうである。
そんなフェリスは暫くして正気に戻ると、
ガシッ!
と俺の肩を掴んできた。
魔力の消費量が増えたことから、その手に結構な力が入っていると思われる。
『な、何か……?』
そう尋ねた俺に笑顔のフェリスが聞き返してきた。
「もうないの?というかどこで手に入るの?」
グググ……
言いながら魔力の消費量を増やしてくるフェリス。
この世界というか、この時代に存在しない物では色々と怪しまれてしまうと考えてのチョイスだったのだが……気に入られすぎたせいで製造元を聞かれることになった。
なんとか誤魔化さないと。
『手持ちにはもうありませんね。作っている人のことは明かせませんが、買えたらまたお持ちしますので』
そう答えた俺だったが、フェリスは製造者について追求してくる。
「なんで作ってる人を教えられないのよ」
『作れる数には限りがありますから、権力者が独占しないようにと信用できる人にだけ売ってるんですよ』
「じゃあ私もその人を信用させればいいってワケ?」
『いや、お目当ての物のためにって時点で信用はされませんよ』
「ぐ……」
『当然、無理に作らせようとするなら拒否するでしょうし、そういう人が来るんだったら作り方を破棄して二度と作らないと言ってますから』
「ぐぬぬ……」
俺の言葉に悔しそうな顔をするフェリスだったが、その内容自体は理解できるのかそれ以上の追求はしてこなかった。
製造者が別にいるということにしたのは、俺自身が製造者だと言えば際限なく要求されそうだからで、こう言ったことで制限がありながらも俺から手に入れることができるということにするためだ。
狙ったわけではないが……これでまぁ、交渉事があってもある程度のカードにはなる。
そう思っていたところ、
「ちょっと来なさい。アンタ達はそこで待機ね」
とフェリスが俺とイリス達にそれぞれ言い、ガッシリと肩を掴んだままの俺を拠点の中心部にある会議室のテントへ連れ込んだ。
『えっーと……?』
何の用事か訪ねようとした俺に、フェリスはくるりと振り向き……
グィッ、ばるんっ
と、着ていたチャイナ服の胸元を中央に寄せ、その中身を弾けたように露出させた。
「ウサギの方はともかく、さっきの肉に関しては私個人のことだからね。触るだけなら好きにしていいわよ」
むにゅり
言いながら胸を持ち上げ、そこを揺らしてアピールするフェリス。
おそらく、度々俺の視線を感じていたからこれを代価として選んだのだろう。
『そんなに気に入ったんですか?でもそこまでしなくても……』
交渉カードに使うつもりなので、こうして代価を支払われると微妙に困る。
じゃあ今度は別の商品を、と軽々しく出すわけにもいかないしな。
そんな考えを察したのかは不明だが、フェリスは胸を揺らしながら俺との距離を縮めてきた。
ザッ、ザッ、ザッ……
プルンッ、プルンッ、プルンッ……
「変に借りを作ってると、後から困った形で借りを返せって言われるかもしれないからね。ほら、籠手を外しなさいよ」
そう言うとフェリスは胸を差し出すように身を反らし、手でタプタプと揺らして見せる。
んー……これは変に渋ると交渉事を考えていると思われかねない。
フリーパスというわけではないが、こうして拠点に入れてもらえた上にこんな代価を受け取れるようになっている。
となれば、今のところ良い関係性なのは確かだし、それを壊すような悪い印象を持たれるべきではない。
というわけで……俺はフェリスに1つ注文をつける。
『あの、できれば後ろからがいいんですが……』
触らせてもらうからには魔鎧の籠手を外さないと不自然で、外した籠手と俺が魔力の糸で繋がっているのを見られるのは不味い。
あくまでも、この鎧はマジックアイテムという俺から独立した存在だということになっているからな。
そんな俺に背後を取られる事自体は気にしなかったフェリスだが、別のことを気にしながら背中を見せる。
「え?別にいいけど……挿れたりはするんじゃないわよ?モノを潰しちゃうかもしれないから」
『ええ、わかってます』
俺はそう返すと普通の籠手を外すように魔鎧の籠手を外してテーブルに置き、
「はい、どうぞ♪」
とフェリスが空けた左右の脇に両手を通して数日ぶりの双丘に手を伸ばした。
俺は"金獅子"の拠点にいると言ってあったので、万が一イリス達があちらへ呼びに行ったりすると少々不味い。
そう考えて早めに起きられるよう目覚まし時計を設定し、その時間に起きてから朝食や身支度を済ませると透明になって地上に降りる。
その後"モーズ"として姿を表した俺は、適当に荷物を作成したリヤカーを引いて"銀蘭"の拠点へ向かった。
「おはよう、モーズ」
「おはようございます、モーズさん」
『ああ、おはよう』
俺が拠点の入口から数百m離れた地点で待機していると、こちらに気づいた拠点の警備員がイリス達を連れてきてくれた。
そうして俺達は朝の挨拶を交わすと、イリスが今日の予定を確認する。
「今日は4区で狩るのよね?」
『ああ、そうだ』
昨日、フェリスには1人で街へ帰ると言っていたのだが、"銀蘭"の拠点を出る前に会ったイリス達から頼まれてこの第4区で狩りをすることになったのだ。
イリスはここのウサギが昼間であればさほど危険ではないと聞いたようで、セリアを成長させるのに丁度いいのではと提案してきた。
彼女はそのついでに自分もと言い出し、結局全員で狩りをしてみることになったわけだ。
今回の目的は"銀蘭"の拠点をイリス達が使えるようにすることだったし、彼女が貴族であると判明したので不要なリスクは避けるべきだろう。
1人でなら試しに5区へ入ってみてもいいが……第5区の地図もないし、未体験の場所にイリス達を連れていくのも気が進まないからな。
だったらイリスを狩りに連れ回さず"銀蘭"の拠点で待機してもらったほうがいいのだろうが、彼女としては解呪のマジックアイテムが手に入る瞬間を自分の目で確認し、それが本物であると確信して安心したいという考えのようだ。
それもあってイリスが狩りに同行するのは決定事項なので、今日も魔石の回収に精を出してもらうことにする。
そう考えてウサギ狩りを始めようとしたところ、セリアがある提案をしてきた。
「あの、今日も魔石のみが回収対象でしょうか?でしたら"銀蘭"にウサギ自体をお譲りするのはどうでしょう?」
「ああ……」
セリアの提案に納得したような顔をするイリス。
そんな彼女達に事情を尋ねてみる。
『どういうことだ?』
「えーっと……実は"銀蘭"の運営ってそこまでの余裕があるわけではないみたいで、放置するぐらいならあげてしまってもいいんじゃないかなって」
「少し前から保護する女性達が増えてきていて、フェリスさん達はあまり遠出ができなくなっているようでして……近場で数を稼ぐらしいので今のところカンパニーの維持に支障はないようですが、これからお世話になる以上は代価を支払っておいたほうがいいのではないかと」
『うーん……』
イリスが貴族だと断言できるシャーリーさんも貴族かそれに近い家の出だと考えられるし、"銀蘭"の運営資金には余裕があるのではないかと思っていたのだが……ここでも金の問題か。
ここの拠点で男に狙われた女性達を保護しているのはいいが、その女性達が戦力にならなければその数が増えるほど稼ぐ必要がある。
ただ、フェリスの存在自体が抑止力になっているのだろうし、彼女が拠点にいなくてもある程度は大丈夫なのではないかと思うのだが。
その点を聞いてみると……イリスとセリアは周囲を見回し、声を若干抑えてその疑問に答えた。
「昨夜、最近この拠点に来たって人達に聞いた話なんだけど……最近"宝石蛇"の動きが活発というか、怪しいみたいなのよ」
「”銀蘭”に直接何かをするわけではないようですが、何と言いますか……"銀蘭"の目に対してあまり遠慮しなくなってきているようです」
『それは……フェリスを恐れなくなってるってことか?』
聞き返す俺にイリスが答える。
「どうかしら?"銀蘭"に手を出していない以上、彼女を恐れていないわけではないと思うのだけど……」
『それ以外の女性には積極的に手を出している、と。そうなると……"銀蘭"に保護させる女性を増やして組織の維持をできなくするつもりか?』
「「さぁ……?」」
イリスとセリアが揃って首を傾けそう返す。
まぁ、直接関わろうとはしていないので、情報不足で予想のしようがないか。
うーん、困ったな。
俺の予想が当たっているかは別として、イリス達を安心して預けられると思って"銀蘭"の拠点を使えるように交渉したってのに。
まぁ、"銀蘭"に手を出していないのなら街にいるよりは安全なのかもしれないし……というか、イリスが街の入口で絡まれていたことやダンジョンの中で襲われたことも、"宝石蛇"の動きが活発になっていたうちの一部だったのかもしれないな。
とにかく、拠点の維持には問題ないと言っても世話にはなるわけだし放置する予定のものだからということで、俺達は魔石を抜いた後のウサギを"銀蘭"へ譲ることにした。
それを先方に伝えると……この提案は受け入れられたようで、荷車を引いた一団とニナがやってきた。
「私は目印役で」
ニナが来た理由を聞くと彼女はそう答え、昨日持っていた旗をフリフリと振ってみせる。
あちらの荷車が拠点へ荷物を運んでる間、俺達が普通に移動して狩りを続けられるようにと来たらしい。
これで丈のある草原の中、輸送隊が俺達を見失ってもすぐに見つけられるというわけだ。
輸送隊は5人で2人が荷車を担当し、残りの3人が護衛を担当するそうだ。
護衛の3人は警備担当なのである程度は戦えるらしく、昼間ならウサギが群れる規模も小さいので何とかなるとのこと。
ニナを含めて6人か。
人目は増えてしまうが、丈の高い草が生い茂る場所なら密かに魔力の糸を使っても気づかれにくいだろう。
それが見えそうなフェリスは拠点から出てきていないし、これなら先んじてウサギに糸を仕掛け、必要に応じて動きを抑制することで狩りやすくなるはずだ。
そう考えた俺はニナ達を引き連れ、第4区での狩りを始めることにした。
暫くして、輸送隊の1人が声を上げる。
「あの、そろそろ拠点に運んだほうがいいかと」
そう言った彼女の後ろには、魔石が抜かれたウサギを満載した荷車があった。
時間的には……おそらく1時間も経っていない。
俺達が倒して魔石を回収し、それを彼女達がある程度血を抜いて荷車に乗せるという形だったのだが……俺が魔石でウサギの位置を感知していることから狩るペースが早く、荷車が一杯になるまでさほど時間はかからなかったのだ。
ここが草原であり、見つけた獲物まで一直線に向かうことができたというのもこうなった理由の1つだろう。
ニナは元より、輸送隊もフェリスとの力試しで俺の力は知っていたので驚きはしていない。
そんな彼女達を拠点へ戻らせると……程なくして、別の女性達が空の荷車とともにやって来た。
「この時間であの量なら、と」
新たな輸送隊の1人によると、2部隊での交代制になったらしい。
ならばと自分のリヤカーに積んでいたウサギを彼女達の荷車に移し、その後はほぼノンストップで狩りを続けることとなった。
その結果……狩りを終えた俺達が"銀蘭"の拠点へ向かうと、トンファーを持ったフェリスが出迎えた。
「ヤリ過ぎ」
どうやら、肉や皮を処理するのに忙しくなりすぎたらしく、それで食事の準備などが遅れてしまっているらしい。
夜に拠点への襲撃があったときはもっと多いはずなのだが、その場合は夕食も済んでいたので問題はなかったのだろう。
土地や財政状況によるらしいが、この拠点ではお昼にも食事を取るらしい。
もちろんフェリスも昼食を取り、優先的に用意されてはいるそうだが……今日はそれが遅れており、夕食も遅れそうなことから若干ご機嫌が悪いようだ。
イリスによるとフェリスはかなり量を食べるらしいので、食事の時間や量と質にはかなり気を使っているらしい。
そう言えば……ルナミリアも人型では味にこだわっていたし、量もドラゴンのときに比べれば少ないが結構な量を食べられるようだった。
ふむ。
イリス達の滞在が認められたとは言え、無駄に機嫌を損ねるのは不味いだろう。
そう考えた俺は、自分の木箱の中である物を作ってフェリスに差し出した。
スッ
『よければどうぞ』
「ん?……ナニコレ、乾燥肉?」
そう言って俺が出した皮の小袋を受け取ったフェリスは、中に入っていた乾いた肉を取り出してチェックし出した。
「スンスン……香りからするとかなり上等な物ね。食べてもいいの?」
『ええ、どうぞ』
「じゃあ……あむ」
俺が何かを仕込んでいるとは疑っていないようで、フェリスは躊躇なくその肉を口に入れると咀嚼を始める。
「ングング……ゴクッ。ナニコレ、かなり美味しいんだけど。あむっ」
簡単な感想を述べるとすぐにまた肉を口にするフェリス。
好評なようで何よりだ。
この肉は前世で売っていた評判の良いビーフジャーキーであり、その中身だけを作成したものである。
街ではウサギ肉が一般的でオーク肉が少し珍しく、牛肉はかなりお高くなっているほど珍しい。
まぁ、珍しい程度であり得ない食材というわけではないので、俺が持っていて疑問に思われるのは味ぐらいになるだろう。
だが、すぐに食べてなくなるのであれば詳しく調べられる機会は来ず、"紛い物"だと知られることもないだろうと考えて出してみたのだ。
「アグアグ……ごくんっ」
それなりに空腹だったのかフェリスはビーフジャーキーを次々と口に入れ、あっという間に袋の中を空にした。
その匂いも気に入ったようで、袋を顔に当てて中の空気を吸い込んだ。
「スウウゥゥゥ…………ハアアァァァ……♡」
その表情は艶っぽく、見る人によればイケナイ物を吸っているのではないかと誤解されそうである。
そんなフェリスは暫くして正気に戻ると、
ガシッ!
と俺の肩を掴んできた。
魔力の消費量が増えたことから、その手に結構な力が入っていると思われる。
『な、何か……?』
そう尋ねた俺に笑顔のフェリスが聞き返してきた。
「もうないの?というかどこで手に入るの?」
グググ……
言いながら魔力の消費量を増やしてくるフェリス。
この世界というか、この時代に存在しない物では色々と怪しまれてしまうと考えてのチョイスだったのだが……気に入られすぎたせいで製造元を聞かれることになった。
なんとか誤魔化さないと。
『手持ちにはもうありませんね。作っている人のことは明かせませんが、買えたらまたお持ちしますので』
そう答えた俺だったが、フェリスは製造者について追求してくる。
「なんで作ってる人を教えられないのよ」
『作れる数には限りがありますから、権力者が独占しないようにと信用できる人にだけ売ってるんですよ』
「じゃあ私もその人を信用させればいいってワケ?」
『いや、お目当ての物のためにって時点で信用はされませんよ』
「ぐ……」
『当然、無理に作らせようとするなら拒否するでしょうし、そういう人が来るんだったら作り方を破棄して二度と作らないと言ってますから』
「ぐぬぬ……」
俺の言葉に悔しそうな顔をするフェリスだったが、その内容自体は理解できるのかそれ以上の追求はしてこなかった。
製造者が別にいるということにしたのは、俺自身が製造者だと言えば際限なく要求されそうだからで、こう言ったことで制限がありながらも俺から手に入れることができるということにするためだ。
狙ったわけではないが……これでまぁ、交渉事があってもある程度のカードにはなる。
そう思っていたところ、
「ちょっと来なさい。アンタ達はそこで待機ね」
とフェリスが俺とイリス達にそれぞれ言い、ガッシリと肩を掴んだままの俺を拠点の中心部にある会議室のテントへ連れ込んだ。
『えっーと……?』
何の用事か訪ねようとした俺に、フェリスはくるりと振り向き……
グィッ、ばるんっ
と、着ていたチャイナ服の胸元を中央に寄せ、その中身を弾けたように露出させた。
「ウサギの方はともかく、さっきの肉に関しては私個人のことだからね。触るだけなら好きにしていいわよ」
むにゅり
言いながら胸を持ち上げ、そこを揺らしてアピールするフェリス。
おそらく、度々俺の視線を感じていたからこれを代価として選んだのだろう。
『そんなに気に入ったんですか?でもそこまでしなくても……』
交渉カードに使うつもりなので、こうして代価を支払われると微妙に困る。
じゃあ今度は別の商品を、と軽々しく出すわけにもいかないしな。
そんな考えを察したのかは不明だが、フェリスは胸を揺らしながら俺との距離を縮めてきた。
ザッ、ザッ、ザッ……
プルンッ、プルンッ、プルンッ……
「変に借りを作ってると、後から困った形で借りを返せって言われるかもしれないからね。ほら、籠手を外しなさいよ」
そう言うとフェリスは胸を差し出すように身を反らし、手でタプタプと揺らして見せる。
んー……これは変に渋ると交渉事を考えていると思われかねない。
フリーパスというわけではないが、こうして拠点に入れてもらえた上にこんな代価を受け取れるようになっている。
となれば、今のところ良い関係性なのは確かだし、それを壊すような悪い印象を持たれるべきではない。
というわけで……俺はフェリスに1つ注文をつける。
『あの、できれば後ろからがいいんですが……』
触らせてもらうからには魔鎧の籠手を外さないと不自然で、外した籠手と俺が魔力の糸で繋がっているのを見られるのは不味い。
あくまでも、この鎧はマジックアイテムという俺から独立した存在だということになっているからな。
そんな俺に背後を取られる事自体は気にしなかったフェリスだが、別のことを気にしながら背中を見せる。
「え?別にいいけど……挿れたりはするんじゃないわよ?モノを潰しちゃうかもしれないから」
『ええ、わかってます』
俺はそう返すと普通の籠手を外すように魔鎧の籠手を外してテーブルに置き、
「はい、どうぞ♪」
とフェリスが空けた左右の脇に両手を通して数日ぶりの双丘に手を伸ばした。
95
お気に入りに追加
421
あなたにおすすめの小説
元勇者の俺と元魔王のカノジョがダンジョンでカップル配信をしてみた結果。
九条蓮@㊗再重版㊗書籍発売中
ファンタジー
異世界から帰還した元勇者・冴木蒼真(さえきそうま)は、刺激欲しさにダンジョン配信を始める。
異世界での無敵スキル〈破壊不可(アンブレイカブル)〉を元の世界に引き継いでいた蒼真だったが、ただノーダメなだけで見栄えが悪く、配信者としての知名度はゼロ。
人気のある配信者達は実力ではなく派手な技や外見だけでファンを獲得しており、蒼真はそんな〝偽者〟ばかりが評価される世界に虚しさを募らせていた。
もうダンジョン配信なんて辞めてしまおう──そう思っていた矢先、蒼真のクラスにひとりの美少女転校生が現れる。
「わたくし、魔王ですのよ」
そう自己紹介したこの玲瓏妖艶な美少女こそ、まさしく蒼真が異世界で倒した元魔王。
元魔王の彼女は風祭果凛(かざまつりかりん)と名乗り、どういうわけか蒼真の家に居候し始める。そして、とあるカップルのダンジョン配信を見て、こう言った。
「蒼真様とカップル配信がしてみたいですわ!」
果凛のこの一言で生まれた元勇者と元魔王によるダンジョン配信チャンネル『そまりんカップル』。
無敵×最強カップルによる〝本物〟の配信はネット内でたちまち大バズりし、徐々にその存在を世界へと知らしめていく。
これは、元勇者と元魔王がカップル配信者となってダンジョンを攻略していく成り上がりラブコメ配信譚──二人の未来を知るのは、視聴者(読者)のみ。
※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる