マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第71話

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フェリスの力試しを終えた後、彼女と俺はとあるテントの中にいた。

俺を見ているフェリスが呆れたように言う。


「……まだイケるの?もう3度目よ?」

『はぁ、そう言われましても。そもそもどこまでイケるかわかりませんので』

「こっちとしても好きなだけっていうのは困るのよね。次で最後にしてくれない?」

『まぁ、構いませんが……』

「不満そうね。だからといって他に手を付けないでよ?」

『勝手にそんな事しませんよ』

「……ハァ。とりあえずもう一度出させるわね」


俺の返答に軽くため息をつくも、フェリスは仕方なさそうにしながら対応した。


「じゃあ、もう一箱持ってきて」

「はい」


彼女の指示にそう答え、すぐにテントを出ていったのはニナである。

彼女は外で待機していた人達にフェリスからの指示を伝えると、すぐにテント内へ戻ってきた。


「魔石はすぐにお持ちするとのことです」


ニナの発言からわかる通り、俺はフェリスの力試しで消費した魔力を補充させてもらっている。

事前の約束と鋼鉄の盾をボコボコに変形させたことから、予定よりも多く魔石を補填してくれることになった。

で、木箱3つ分の小型魔石を吸収し終えた俺に、今から4つ目の木箱が運ばれてくるという状況だ。

このテントは力試しの前にいたテントであり、俺が鎧に魔石を吸収させているところをなるべく見られたくないと言うとフェリスがここを指定したのである。

そんなテントへ4つ目の木箱が運び込まれるとこれまで通り、俺以外にはフェリスとニナだけが残る形となった。

フェリスはカンパニーの代表として、ニナはシャーリーさんへの報告をするためとして残っているのだ。

魔石がどう消費されたかを確認しておき、街の事務所で記録するようになっているらしい。

そんな中、それなら同席も仕方ないと許容していた俺は、木箱の蓋を開けると魔鎧を纏ったままの右足を突っ込む。


フッ


魔石が音もなく次々と減っていく光景に、フェリスとニナは身体を傾けたり屈めたりしながら観察していた。


「……右足の裏で触らないと吸収できないの?」

「そう言えば……道中でイリスさん達に回収させた魔石を受け取っていましたが、その時は吸収されておりませんでした」

「なら人に見られたくないのは納得ね。特定の場所で魔石に触れなければ魔力を吸収出来ず、それを知らなければ奪われたとしても魔力の補給ができないからいずれはただの鎧になる」

「魔石に足の裏で触れる、ということはあまりありませんか」

「落ちてるのをたまたま踏んじゃう、ぐらいの事はあるかもしれないけど……基本的に魔石は回収する物だし、落ちてることは少ないわ」

「では……あの鎧がフェリスさんの力にある程度耐えられるとしても、魔力の補給方法がわからなければ奪おうとする者はその優先度を上げにくいでしょうね」

「そうなるわね。まるで最初から奪われることを考えて作られたみたい」

『っ』


フェリスの言葉に俺は若干動揺する。

この方法での魔力補充は俺が考えた嘘で、彼女の言う通り盗難などを考慮した設定だからだ。

力試しをこの拠点の外でやっており、遠くとはいえ見ていた部外者もいたわけで。

その情報が広まれば、中にはこの鎧に目をつける者が居てもおかしくはないからな。

そこで、普通は魔石に触れることがなさそうな、鎧の足の裏で魔力を吸収するという設定にした。

実際には俺自身が魔力を吸収するわけで、直接触れる必要がある。

しかし、鎧に魔力を補充するというのに、俺の肌が魔石に触れなければならないというのは不自然だ。

だから魔石を鎧に吸収させるところを見られたくないと言ったのだが……マジックアイテムに魔力を補充するのは普通の事だし、この2人は立場上見ておかなくてはならないと言い張った。

まぁ、魔石は財産でもあるので、その用途を把握しておかなければならないというのはわからなくもない。

そんなわけで、俺は彼女達に見られながらも魔石を吸収する方法として、足の裏だけ魔鎧を解除し横から覗き込まれたぐらいでは視認できないようにしたのである。

それは目論見通りに彼女達を誤魔化せたようだが、フェリスの発言は俺の意図を察したかのようなもので少々焦った。

にしても……武装などで露出の少ないニナはともかく、上も下もサイドに深いスリットのあるチャイナドレスを着たフェリスが、身体を傾けたり屈んだりするとやけに肌の面積が多くなる。

力試しで鋼鉄の盾がボコボコになるぐらいの攻撃を受けることになったのは俺の視線がきっかけなので、あまり見ないようにはしているのだが……彼女の力にある程度は耐えられることがわかったし、彼女が美女であるのもあってついつい見てしまうんだよな。

女に飢えているわけでないにしても、魅力的だと思うものに目が行くのは自然なことである。

前世ではそれを"本能に逆らえない未熟な存在"であると断じる人もいたようだが……こういった部分もあったからこそ種の繁栄もあったわけで。

だからこそ発明や技術の進歩があったわけだろうし、それによって文明も発展していたのだから、政略結婚が普通に行われている現世のこの時代的にはこれぐらいでも丁度いいはずなのである。

とはいえ、その考えが受け入れられるかは相手次第なので……


「……」

『……スイマセン』


俺はジト目のフェリスにそう返し、魔石の吸収を粛々と続けたのだった。




4箱目の魔石をすべて吸収し終えると、その箱が外へ運び出されてから俺達は席に着く。

もちろん、今後についてのお話である。


「とりあえず、約束通りに様子見ってことで。シャーリーにもそう言っておくわ」

『様子見、ですか?』

「口は出さないと言ったけど、放っておくわけにはいかないじゃない?だからまぁ、何かあったら手は貸してあげるわよ」

『あぁ、なるほど。ありがとうございます』


様子見だと言うので継続してニナを同行させると言い出しかねなかったが、そういうわけではないようだ。

お礼を言った俺にフェリスはこちらの予定を尋ねてくる。


「で、そっちはこれからどうするの?あぁ、行動の方針ってわけじゃなくて、今日明日の予定のほうね」

『そうですねぇ……今日は"金獅子"の拠点に泊まって、明日は1人で街に戻ろうかと』

「1人で、ねぇ。ま、アンタなら大丈夫か。それでさぁ……」

『?』


俺の返答にそう返してきたフェリスだが、微妙に気不味そうな顔でこちらを窺う。

無理難題でも言われるのではないかと内心警戒していたところ……続いた言葉は俺にとって好都合だった。


「アンタが使ってたあの武器、普段使わないんなら貸してくれない?」

『トンファーを?何故でしょう?』


あの材質不明のトンファーは魔力を多く消費して作成した物なので、できれば魔力として回収しておきたい。

ただ、フェリスが使いたいと言うのであれば応じられなくもない。

俺が作成した物はその位置を把握できるので、それを持っていてくれさえいれば……彼女の位置を把握できることになる。

フェリスが体内に持つ魔石も感知できるのだが、それだけでは感知しても他の冒険者が魔石を持っているだけの可能性もあったからな。

そこで彼女がトンファーも持ち歩くというのであれば、2つの反応を同じ位置から感知することでそれがフェリスであると断定できる。

そうなれば必要なとき、彼女が近くにいれば助力を求めることもできるだろう。

できればいつも身に着ける物が良かったのだが……それなら近くに居ないことを確認でき、透明化も使いやすくなるのにな。

そう考える俺に、フェリスはトンファーを求める理由を説明した。


「ほら、私の攻撃で盾はボコボコだけど、あれは傷一つ付いてないじゃない?だったら私が使っても壊れないんじゃないかと思って」

『あぁ、今までは自分の力に耐えられる武器がなかったと』

「全く無かったわけじゃないんだけど……そういうのは希少品で持ち出すのに色々と制限があってね。それに刃物ばかりだから私にはちょっと合わなかったのよ」


自由に持ち出せないということは、フェリスの力があっても手を出せないどこかで厳重に保管されているということか。

刃物が合わないのは……性格かな?

普通の人でも武器には合う合わないがあるし、打撃武器なら刃の向きなどを気にしなくてもいいから扱いやすくはあるだろう。


『うーん……』


フェリスの言葉に俺は悩むフリをする。

こちらとしては無条件で譲渡してもいいのだが、それはそれで何らかの意図があるのではと怪しまれるよな。

だとすると……損壊や紛失をした際に補償を求めることにし、その内容を提示してみるか。

それをある程度重いものにすれば、俺はこの交渉に仕方なく応じたと判断されるだろう。

そう考えた俺は、フェリスに問い質す形で話を進める。


『お貸しすることは可能ですが、壊したり失くしたりした場合はどう補償されるおつもりですか?』

「何よ、身体でも差し出せって言うの?言っておくけど、力が強いのはもだからね。何かの拍子に締め潰されるかもしれないわよ」


先程の魔石を吸収していたときに感じた視線もあってか、俺が彼女の身体を欲していると思われたようだ。

ルナミリアという前例もあり、ヤろうと思えばヤれるのだろうが……まぁ、女には困っていないし、姿を見せることにもなるだろうからそのつもりはない。

ただ、やはり気分を害されては不味いだろうから、否定の仕方には気をつけないとな。


『それは残念です。まぁ、流石にそこまで受け入れられるとは思っていませんでしたが』


フェリスに魅力がないわけではなく、そこまで受け入れてくれない事情があることは理解している、という形で俺は言葉を返した。

これなら気を悪くすることもないだろう。

そう思っていると……彼女が気を悪くすることはなかったが、俺にとっては都合の悪いことを言い出した。


「ふぅん……じゃあ、口でお相手するってことでどう?口なら力を抑えられるし」

『え』


不味い。

前回、透明化のマジックアイテムを消失させたお詫びとして、彼女には既にモノを咥えられているのだ。

"モーズ"としても咥えられてしまっては、俺が"コージ"であるとバレてしまう。

今使っている鎧はあくまでも筋力を増強する物ということになっているので、魔鎧でモノを覆って見かけを変えることはできない。

そもそも素の身体を魔力で覆うという時点で、浮くスキルによって魔力を身に纏う"コージ"を連想される恐れがあるからな。

そんなわけで、俺はその提案をなんとか回避しようとする。


『いやあの、"銀蘭"の代表ともあろう方が軽々しくそんなことをされるのは……』

「別に軽々しくもないわよ。この力のせいで本格的にはヤれないってわかってるから男はあまり近づかないんだけど、だからといって口だけでもいいって男なら誰でもいいわけじゃないし。何日か前に1人、お詫びとして1回しゃぶってあげたぐらいね」


はい、俺の事ですね。

フェリスは発言の終盤で顔を少し赤くしており、若干色気を放ちながら二の腕などを擦る。


スリスリ……


「挿れさせはしなかったけど好きに身体を弄らせて、やたら気持ち良かったのよねぇ……」


あのときの事は余程お気に召したらしい。

ただ……"コージ"としてならともかく、"モーズ"としてお相手するわけにはいかない。

補償なんて言い出さなきゃ良かったな。

しかし言ってしまったものは仕方ないので、トンファーの損壊や紛失に対する補償についてはこんな提案をすることにした。


『あの、話を戻してもよろしいでしょうか?』

「ん?あぁ、そうね」

『では……補償という形ではなく、あのトンファーが壊れるような物を探して頂く、というのはどうでしょうか?』

「あー……なるほど。あれを壊すほどの物ならあれ以上の物を作れる、と」

『まぁ、そういうことです』


フェリスは俺が想定したとおりに察し、それを俺は肯定する。

もちろん嘘ではあるのだが。

あのトンファーを壊せるほどの物質なら、加工の可否にもよるが高性能な武器の材料にはなるだろう。

それを探してもらうというのであれば、あのトンファーを高く評価している彼女はあれを借りる事との釣り合いが取れると判断し、この提案を不自然なものだとは思わないのではないかと考えたのだ。

続けて俺はこんな注文をする。


『どこでその機会を得られるかわかりませんし、可能な限り携帯して頂きたいのですが』

「そんなにあれ以上の素材が欲しいの?あれでも十分だと思うんだけど」

『傭兵や冒険者が、より良い装備を求めるのは当然でしょう?』

「それはまぁ、わかるけど……そのために行動の方針を決めるわけにはいかないわよ?」

『わかってます。別に期限を設けるつもりもありませんし、何かのついでに試すぐらいで構いませんので』

「んー……わかったわ、それでいいでしょう。でも見つけたからといって回収してくるとは限らないからね?」

『それもわかってます』

「なら決まりね」


俺の言葉に少し考え込むフェリスだったが、俺の返答で自身にデメリットはないと判断したのかこの提案を受け入れた。

これによって、完全にというわけではないにしろフェリスの位置を把握することができるようになり、用事の済んだ俺はイリス達に会って無事であることを伝えると"銀蘭"の拠点を後にするのだった。
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