マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第68話

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「こんな方法で……貴方の力はどうなっているのですか?」


目の前の惨状に、ニナは訝しむ目で俺を見る。

その惨状とは、第3区の門番達の成れの果てだ。

この部屋の前に到着したはいいが、彼女の目があることから門番達を拘束する戦い方は使えない。

そこで俺が使ったのは……これまでと同じように、盾を部屋全体に広げて奥へと押し潰すという方法だ。

3人を通路に待機させると、俺は部屋に入ってすぐの位置で盾を目線の高さで横いっぱいに拡大し、少し奥へ進んで門番達が現れたら高さを天井まで広げて前進した。

その結果が奥側の壁で門番達が潰れたこの光景であり、ニナだけでなくイリスとセリアも嫌そうな顔をしている。

まぁ、イリスとセリアに関してはその理由が潰れた魔物を見ることそのものだけではなく、潰れた死体の中から魔石を回収しなければならないからというのもあるだろうけど。

その魔石を回収する作業を始めるイリス達を見ながら、ニナが通路からリヤカーを引いて戻った俺に言う。


「荷物の都合で回収するのが魔石のみだから取れる手段なのでしょうけど、他の物を回収する予定の場合はどうするのですか?」

『その予定はない。俺は冒険者ではないし、素材を回収する依頼は受ける気がないからな』

「では、収入は魔石のみということですか?」

『そうなるな。それでも十分に稼げるのは見ていただろう?』

「それは……確かに」


ニナはここまでの俺の戦い方を見て、その全てが"作業"だったことをわかっている。

だからこそ、今回のように先へ進むことを優先せず、魔物を狙うことを優先すれば十分な収入を得られると想像できたようだ。

そうこうしているうちにイリス達は魔石の回収……というよりは捜索に近かったが、とにかく作業を終えて俺に魔石を渡す。

ちなみに、ニナは監視のために同行しているだけなので、当然のことながら魔石の回収作業には参加していない。

一応、本人から手伝うとの申し出はあったのだが……今後は3人で行動するわけだし、その状態での俺達を見せておいたほうが良いだろうからと断っている。


ズザザザザッ……


渡された魔石を木箱に収めた俺は、奥のドアの前に残った魔物の死体を再び拡大した盾でブルドーザーのように退けた。

両開きのドアは触れると消えて通路が現れるタイプだったので、門番達の死体を退けなくても開けることはできたのだが……死体で滑ってリヤカーが壊れたりするとそれをニナが目撃するだろうから、修理するか購入しなければならなくなる。

その記録がどこにもないと、その後も普通にリヤカーを使うのは不自然だからな。

そうして第4区への道を開き、俺達はその先の通路を進んだ。




100mほどの通路を抜け、第4区の草原に出たところでニナに尋ねる。


『で、この後は?』

「えーっと……"銀蘭"の拠点はあちらですね。草の丈が低い範囲では夜にしか魔物が現れないそうですし、私が先導しますのでついてきてください」


そう言うとニナは自分の鞄から木の棒を取り出し、その先に巻かれていた赤い布を引き伸ばして旗の形にした。

その布には白い花の刺繍が施されており、この場で出したということは"銀蘭"の関係者を示すものなのだろう。

だとすれば……これは蘭の花なのか?

花の知識は薄いので、状況からの予想しかできないが。

それを見て旅行ツアーのガイドみたいだという感想を抱きつつ、俺はイリス達と共に"銀蘭"の拠点へと近づいていった。




「少々お待ちを」


"銀蘭"の拠点まで2、300mといった所で、ニナが俺達の進行を止める。


『俺はここで待機か』

「ええ、先に行って男性が来訪することを伝えておきます。周囲の監視はしているでしょうし、歩き方などで男性であることはわかるでしょう。ですが事情を知らない向こうからするといきなり男性が向かってくることになりますので、早まって攻撃されないように事情を伝えておきます」

『ん?俺も拠点に行かなきゃならないのか?』

「ええ。近づくつもりはないと言っても、急用でイリスさん達に連絡したい場合もあるでしょう?」

『そのときは別の拠点にいる女性にでも伝言を頼むつもりだが……』

「女性の冒険者や聖職者が必ず居るとは限りませんし、居ても貸してくれるとは限りませんよ?」

『金を払ってもか?』

「額にもよるとは思いますが……それでもです。"銀蘭"の拠点となれば女性だけで伝言へ向かわせることになるでしょうし、往復で他の冒険者達に絡まれる可能性もあります。となればその女性をずっと見ておかなければなりませんから、結局はその女性が所属するチーム全体に動いてもらうことになりますよね?」

『まぁ……それは嫌がるだろう、と?』

「ええ。伝言を頼めるということは相手が暇な状態で、それは体を休めたいか成果が上げられずに稼げていない状況ということになるでしょう。そんなチームを動かすとなれば結構な額を吹っ掛けられますよ」

『それぐらいなら"銀蘭"の拠点に顔を繋いでおけってことか?』

「ええ」


向こうからすれば俺がぼったくられようとどうでもいいはずだが……その点についての疑問は続くニナの言葉で解消された。


「それに……」

『それに?』

「貴方の実力に問題がなければですが、拠点におられる代表のフェリスさんに会わせておけというのがシャーリーさんからの指示でして」


そんな指示が出ていたのか。

イリス達を無事に第4区まで連れて行けたら、後はニナに彼女達の受け入れ手続きを任せればいいと思っていたのだが……不味いな。

フェリスに会ってしまうと俺が"コージ"であることに気づかれるかもしれない。

もちろん、会ったとしても昨日考えていたとおりに別人だと言い張るつもりではあるが、避けられるのであれば避けたかった。

しかし、彼女と会う事自体が予定に組み込まれているとなれば、今からそれを避けようとするのは何か疚しい事があるのではないかと怪しまれてしまうよな。

そう考えた俺は、フェリスと会うことに消極的な発言をしないことにした。


『わかった。イリス達はもう連れて行くのか?』

「ええ。残していけば拠点に押し入るための人質に使われる……と思われる可能性がありますので」

『ハァ。警戒するのはわからんでもないが、1人で押し入って何が出来るのかという疑問があるんだが』

「ここまでの貴方を見ていれば相当な力をお持ちなのがわかります。止められるとしたら代表達ぐらいではないかと思いますので、場合の事も考えて事前に代表と会っておいていただくというのはいい考えだと思います」


フェリスと会わせておいて、俺の動向に気づきやすくさせるのか。

犬に匂いを覚えさせておくようなものに近いのかな?

これは俺の実力が高い場合の話だったようだが……


『シャーリーさんはそこまで俺の実力が高いと予想していたのか?』

「どうでしょう?ただ、予定通りの人数で無事に第4区へ辿り着ければフェリスさんに覚えさせておくようにと」


つまりまぁ、一定以上の実力があったらフェリスと会わせることになっていたようだ。

……やっぱり犬扱いか?どういう関係なのだろうか。

シャーリーさんが何者なのかが気になったが、ここで時間を取りすぎると周囲から注目されそう……というか遠巻きにだが既に数組から注目されているので、今は彼女のことを気にしないことにした。


『まぁ、こちらとしてはそれで問題はない。そうなると自分の荷物も持っていったほうがいいんじゃないか?』


イリス達がここに残って人質の可能性を疑われるのであれば、貴重品などを取り上げられていて脅されている可能性だって疑われるだろうからな。


「そうですね。では……」


そう言ってリヤカーから自分の荷物を回収するニナに合わせ、イリス達も自分の荷物を持って3人は"銀蘭"の拠点へ向かう。


「じゃあ、少し待っててね」
「行ってきます」


そう言った彼女達を見送り、問題なく拠点の入口に辿り着いてニナが入口の担当者とやり取りを始めたことを確認した。

この位置からでは入口の向こう側は見えず、どんなやり取りがなされているのかは窺えないが……お、3人とも中に入っていったな。

とりあえず門前払いにはならなかったようなので大人しく待つとする。




そのまま暫く待っていると……拠点からニナが出て、俺の所へ戻ってきた。


「お待たせしました。私について来てください」

『荷物と武装は?』

「斧と盾は外して、荷車にでも仕舞っておいていただけますか?代表のフェリスさんは居られますが、お会いになる場所へ行くまでの間に他の女性が不安になると思いますので」


ぐ、やっぱりフェリスは居るのか。

できれば外出してくれていることを願ったが、それは叶わなかったらしい。

まぁ、シャーリーさんの指示的にフェリスと会うのは避けられないようなので、結局は会うことになるんだろうけどな。

にしても、拠点の中に居る女性が不安になるから武装を解除しろと言うのであれば、フェリスが入口まで出てくればいいと思うのだが……代表としての面子を保つためか?

前回は怪しいものが空に浮いているというだけですぐに調べに来ていてフットワークは軽そうだったし、拠点には保護している女性たちが居るのだから率先して出てきそうではあるのだが。

まぁ、それを考えると俺を拠点の中に入れること自体がおかしいんだけどな。

そのあたりの事情が気になるが、どうせ今更会いたくないとは言えないので会ってから本人に聞けばいいか。

というわけで……俺は斧を収納していた盾ごと木箱に仕舞い、それが載ったリヤカーを引いてニナに追従した。




「そちらが?」

「ええ。モーズさんです」

「そう……では、どうぞ」


"銀蘭"の拠点前でニナと門番の女性が簡潔なやり取りをし、おそらくはいつもより人を増やしているであろう警備班からの鋭い視線を浴びながら俺は拠点の中に入る。

周囲を警備班に囲まれながら進むと……パッと見た感じでは"金獅子"の拠点と似たような、居住用のテントと倉庫用のテントが並んでいた。

人の姿が武装した警備班らしきものしか見えないな。

男に目をつけられるのを避けたい女性が多く、皆テントに引っ込んでいるからだろう。

まぁ、こんな所に保護されているぐらいだからそうなるか。

物を投げられないだけマシだろう。

こんな状況だし、下手に周囲の警備班を刺激すると面倒なことになるかもしれないので、黙って先導するニナについて行く。



「こちらです」


足を止めたニナがそう言ったのは拠点の中心部にある大きなテントであり、入口の脇には以前フェリスと一緒に居たルカさんが立っていた。

前回と同じように白い鎧を身に着け、その表情からこちらを警戒しているようだ。

彼女は俺を一通り見回してから自己紹介をする。


「僕はルカ。代表のフェリスを補佐している」

『俺は……』

「ああ、聞いてるからいいよ。荷車はあそこに停めておいて」

『あぁ、わかりました』


名乗るのをキャンセルされた俺だったが気にはせず、彼女に指定されたテント横の空き地にリヤカーを停めておく。


「じゃあ、中へどうぞ」


ルカさんがそう言って入口の布を横に開けると……その奥には丸いテーブルが置いてあり、それを囲むように"コージ"として会った面々が着席していた。

奥の席にはフェリスが座っており、やはり赤いチャイナドレスでこちらを値踏みするように見てきている。

他のメンバーも同様で、ルカさんも席に着き、ニナがフェリスの近くに立ったところで話は始まった。
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