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第67話
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教会の相談室にて、イリスとセリアをダンジョン内にある"銀蘭"の拠点に滞在させる件をセリアに伝えた。
まずは俺の実力テストのようなものがあることも伝えると、それを了承したセリアの派遣予約を入れてから教会を後にする。
次のダンジョン活動はそのテストが主な目的であり、そこまで長い派遣期間ではなかったので普通に予約を入れることができた。
「では、明日はお預かりしていたものをすべてお持ちしますね」
『ああ。じゃあまた明日』
再び"モーズ"になっていた俺はそう言うと、これからダンジョン前の救護テントへ向かうセリアと別れる。
彼女は解呪のマジックアイテムを購入することになるかもしれないので、少しでも稼いでおきたいとのことだ。
まだお昼前ではあるし、救護テントで待機していれば貰える手当に減額などの影響はないと言っていた。
その額は普通の人が1日に稼ぐのと同等らしい。
治癒魔法やそれに使う触媒を独占しているからか、教会は金に余裕があるんだろうな。
その後は"銀蘭亭"へ向かい、戻ってきていたニナに翌日出発することを伝える。
彼女はいつでも良いと言っていただけあって異論を唱えず、独自に用意すると言ったので俺達は物資の準備をして明日に備えた。
まぁ、水や食料は俺が用意する事になっているし魔力で作成すればいい。
なので購入すべきものはイリスの細々とした物だけであり、すぐに終わった買い物の後は"銀蘭亭"で夜まで共に過ごした。
それはイリスに誘われたからだったが……ダンジョンで過ごすことが増えればセリアも近くにいることが増えるだろうし、彼女はヤる機会が減ると考えたからのようだ。
翌日に備えて夜にはイリスの部屋を出ると、ニナにジト目で見送られながら俺は"牛角亭"へ戻る。
マンションに帰っても良かったが……交渉事でお偉いさんと外泊すると言ってあったので、無事であることを知らせておく必要もあったからな。
で、"コージ"に戻って帰還の報告をした結果。
リンナやティリカさんにモノも無事であることを確認させろと言われたが、流石にイリスで満足していたし、翌日はダンジョンへ入るからと言って断った。
まぁ、2人掛かりで反応することまでは確認されたが。
翌日。
身支度を整えると食事を取り、宿を出てから路地で"モーズ"になる。
同時にリヤカーや物資を作成してダンジョン前へ向かうと、やはり若手の冒険者で賑わうダンジョン前の広場へ。
で、すり替えておいた自作のスカーフを探知してイリスを探すと……お、居たな。
誰かと一緒に居たので注意して近づくと、隣にいたのは武装したニナだった。
イリスと似た感じの装備で、皮の防具に扱いやすさを重視した小さめの盾とショートソードを身に着けている。
彼女は丁度こちらに気づき、イリスに俺の事を伝えたようだ。
『おはよう』
「おはよう、モーズ」
「おはようございます」
俺達がそう挨拶を交わしていると、教会の方からセリアが現れた。
「お、おはようございます」
『おは……よう』
たった4文字の挨拶が途切れたのは、セリアが両手で抱える木箱に胸を乗せるような形で現れたからだ。
1日では戻ってこない予定だからかそれなりに荷物も用意したようで、背負った鞄のストラップだけでも強調されている胸が木箱に乗っていることで更に強調されていた。
周囲は男性冒険者が多く、非常に視線を集める事になっている。
おそらく、この木箱は預けてあった魔法の触媒なのだろうが……恥ずかしそうにはしているので、箱の大きさで仕方なくそうなっているということだろう。
『……取り敢えず俺の荷車に荷物を載せろ。イリスとニナもな』
「あ、うん」
「はい」
俺の言葉で即座に動く2人だったが、ニナは動く前に確認をしてきた。
「私の荷物もいいのですか?」
『ああ。何か問題があるのか?』
「いえ、そういうわけではありませんが……」
彼女は冒険者ではないようだし、体力的にはセリアと大差はないと思われる。
であれば、途中で疲れて監視の目が甘くなり、それで正確な審査が出来なかったのでもう一度と言われる可能性がないとは言えない。
まぁ……"銀蘭"の拠点へ行ってそこの関係者にイリスを引き合わせた時点で、俺にイリスを害するつもりなど無いと証明できるはずではあるが。
そこまでしておいてイリスに何かがあったら"銀蘭"から真っ先に疑われるのは俺なのだし、あのフェリスに狙われるとわかっていて事を起こすわけがないからな。
そんなわけで一応ではあるが、ニナには下手に疲れられると困るので荷物を預かり、最悪彼女自身もリヤカーに乗せるつもりである。
『とりあえず荷物を載せろ。俺以外は女ばかりだし、変に絡まれると面倒だ』
「あぁ……わかりました、では」
セリアが先程の姿で周囲から注目されており、美女を3人連れている俺も注目されていると考えたほうがいいだろう。
先日のように女性目当てで襲われるのも面倒なので、そんな説明をしてニナの荷物もリヤカーに乗せさせた。
そうして出発の準備ができた俺達は、用意しておいた松明に近くの篝火から火を移してダンジョンに入る。
第1区ではいつものようにゴブリンの取り合いになっていたので、最短ルートで第2区へ。
その第2区へ入って暫く進んだ所で魔物を感知し、それらがこちらへ向かってきていたので他の3人に戦闘態勢を取らせた。
『来るぞ。数は……5体ぐらいかな』
「そこまでわかるのですか?」
警戒を促す俺に、ニナが剣と盾を準備しながらそう聞いてくる。
当然、魔石で感知しているとは言えないので、
『魔物が多い土地で暮らしてたんでな』
とだけ答えておく。
程なくしてやってきた魔物はゴブリン3体と魔狼2体であり、向かってくるそれらに対して俺は魔力で出来ている盾を通路いっぱいに広げた。
「……」
この"盾の拡大"についてはここまでの道中でニナに話しており、実際に拡大して見せてもいたので驚きはしていない。
「ガァアアアッ!」
「ギギャァッ!」
ドンッ!ドドッ!
吠えながら向かってきた魔物達は俺の盾にその突撃を抑えられ、少しだけ空いている隙間からその身を滑り込ませようとする。
そうしてねじ込まれた体に、俺は斧を振り下ろす。
ガズッ!
ズドッ!
魔物も逃げるときは逃げるのだが、それは個体差がある知能によるものであるらしい。
第2区の魔物にはそこまでの知能はないようで、程なくして5体全てが俺に割られることになった。
イリスとセリアが倒した魔物から魔石を回収していると、剣を収めたニナが声を掛けてくる。
「盾を大きく出来るのはともかく、重さはどうなっているのですか?」
『重さ?特に変わらないが……』
重量が変わるとなれば拡大した際に扱い難くなるはずで、それによってイリスの護衛に支障が出ると思われるかもしれないのでそう言っておいた。
その返答にニナはジト目をしてみせた。
「ということは、魔物5体を押し止めるだけの腕力があるということですよね?でしたら私の力には楽に抗えたはずですね」
弱いゴブリンでも、成人男性と大差ないぐらいの力は持っている。
それを複数、盾の重さもそのままなのに受け止められるとなれば……俺の腕力がかなり強いことになり、その力があれば部屋に引っ張り込もうとしたニナに抵抗できたはずだと言っているのか。
つまり、あのときはエロい事を期待して抵抗を控えたのだと推察され、それでジト目の表情を見せられているということだ。
イリスと愉しんだ後だったし、そのつもりは一切なかったのだが……それを言うと「では何故抵抗して立ち去らなかったのか?」という話になるな。
事実通りに「内密な話だと思った」と言ってもいいのだが、街に来て間もない俺に内密な話をする者などそうはいない。
となると内密な話をされる何らかの事情があるのだと思われてしまうだろうし、それがイリスに係ることだと判断されるかもしれないか。
実際、ニナはあのときイリスがこの街に来た理由を探ってきたしな。
その推察が彼女の解呪したい女性にまで至ってしまう可能性もあるので……ニナの誤解はそのままにしておいた。
この件が済めば関わることはなくなるだろうし、必要以上に親しくなるつもりはないからな。
その後、何度かの戦闘を重ねながら第3区の手前にある小部屋で休憩し、食事を取ってから先へ進んだ。
第3区に入ると俺は警戒を強める。
周囲に電撃をばら撒く魔狼が存在し、今回からは同行者を守りながら対応することになるからだ。
今日は暗視ゴーグルも使えず魔力の糸で拘束することもできないので、どうしてもあちらに先手を取られることになるんだよな。
なので……魔物を感知すれば早めに戦闘態勢へ移行し、イリス達から距離を取って対応するつもりである。
『向こうから来るな。雷を放つ魔狼がいるから少し離れて処理をする』
「わかったわ。灯りは大丈夫?」
『そこまで離れるわけじゃないが……一応もう1本用意しておくか』
第2区までとは違った通路の中、灯りの心配をするイリスにそう返して予備の松明に火を着けた。
「ガァアアウッ!」
バチバチバチッ!
程なくしてやってきた魔物の集団に盾で通路を塞ぎ、ここまでと同じように対応していると……例の魔狼が電撃を放つ。
数が減るまで待っていたようなので、味方を巻き込むのは避けたいと考える程度の知能はあったようだ。
ガスッ
「ギャッ……」
もちろん俺には通用せず、その魔狼は他の魔物と同じ運命を辿って戦闘は終了した。
「あの光るやつ、びっくりしたわ」
「雷と同じようなものだとは聞いておりましたが……あれだけで死にはしなくとも、体が動かなくなって結局殺されてしまうことになるそうなので注意しましょう」
イリスの感想にセリアがそう答えていると、ニナが俺を気遣うように質問してくる。
「直撃はしなくとも、金属を身に着けていれば近くにいるだけで影響を受けると聞きましたが……大丈夫なのですか?」
イリスとセリアはこの鎧が金属でなく、大抵のダメージを受けないとわかっていたから心配はしていない。
しかしニナはそれを知らず、金属の鎧が雷を通してしまうことを知っていたから俺を心配したようだ。
困った……これに対しての答えは用意してなかったな。
装備自体に耐雷効果があることにすると、その情報が外部へ漏れた場合に装備を狙われてしまうだろう。
かと言って俺のスキルか何かだと言えば、第3区を行き来する機会が多い人達から俺自身を狙われる。
『あー……まぁ、問題ない。当たらなければ』
「はぁ。それはそうでしょうけど」
俺の返答にイマイチ納得のいっていない顔をしていたニナだったが……そんなとき、遠くから大量の魔石がやって来るのを感知した。
魔石の集まりは大きいものが1つと……その周囲に小さい集まりが複数か。
おそらく、これは人が運んでいるものだ。
大きい集まりは荷車か何かに載っている分で、小さい集まりはその周囲にいる人が個人で持っている分だろう。
それ自体はいいのだが……その移動速度が気になった。
結構早い気がする。
魔物と遭遇するかもしれないわけだし、それを避けるためにいそいでいるのかな。
『……』
「どうしたの?」
黙り込んだ俺に3人の視線が集まっており、その中から聞いてきたイリスの質問に俺は答える。
『いや、大勢の足音が聞こえてきた気がしてな』
ニナの前で魔石を感知したとは言えないので、そう言ってこちらへ向かってくるであろう団体への警戒を促した。
急いでいるのなら最短ルートを通るだろうし、それは奥へ向かう俺達と同じルートである。
実際、魔石の反応からは最短ルートを使っていることがわかるので、規模によっては通路いっぱいに広がっているかもしれず、俺達が邪魔になって揉め事になるのは面倒なのでルートを変えた。
確か、今日は"宝石蛇"の輸送隊が街に帰還する予定だと聞いているし、現時点ではまだイリスと接触させないほうがいいだろうからな。
そうして、その団体が最短ルートで街の方へ去っていくのを把握しながら暫く進み、俺達は門番の部屋に到着した。
まずは俺の実力テストのようなものがあることも伝えると、それを了承したセリアの派遣予約を入れてから教会を後にする。
次のダンジョン活動はそのテストが主な目的であり、そこまで長い派遣期間ではなかったので普通に予約を入れることができた。
「では、明日はお預かりしていたものをすべてお持ちしますね」
『ああ。じゃあまた明日』
再び"モーズ"になっていた俺はそう言うと、これからダンジョン前の救護テントへ向かうセリアと別れる。
彼女は解呪のマジックアイテムを購入することになるかもしれないので、少しでも稼いでおきたいとのことだ。
まだお昼前ではあるし、救護テントで待機していれば貰える手当に減額などの影響はないと言っていた。
その額は普通の人が1日に稼ぐのと同等らしい。
治癒魔法やそれに使う触媒を独占しているからか、教会は金に余裕があるんだろうな。
その後は"銀蘭亭"へ向かい、戻ってきていたニナに翌日出発することを伝える。
彼女はいつでも良いと言っていただけあって異論を唱えず、独自に用意すると言ったので俺達は物資の準備をして明日に備えた。
まぁ、水や食料は俺が用意する事になっているし魔力で作成すればいい。
なので購入すべきものはイリスの細々とした物だけであり、すぐに終わった買い物の後は"銀蘭亭"で夜まで共に過ごした。
それはイリスに誘われたからだったが……ダンジョンで過ごすことが増えればセリアも近くにいることが増えるだろうし、彼女はヤる機会が減ると考えたからのようだ。
翌日に備えて夜にはイリスの部屋を出ると、ニナにジト目で見送られながら俺は"牛角亭"へ戻る。
マンションに帰っても良かったが……交渉事でお偉いさんと外泊すると言ってあったので、無事であることを知らせておく必要もあったからな。
で、"コージ"に戻って帰還の報告をした結果。
リンナやティリカさんにモノも無事であることを確認させろと言われたが、流石にイリスで満足していたし、翌日はダンジョンへ入るからと言って断った。
まぁ、2人掛かりで反応することまでは確認されたが。
翌日。
身支度を整えると食事を取り、宿を出てから路地で"モーズ"になる。
同時にリヤカーや物資を作成してダンジョン前へ向かうと、やはり若手の冒険者で賑わうダンジョン前の広場へ。
で、すり替えておいた自作のスカーフを探知してイリスを探すと……お、居たな。
誰かと一緒に居たので注意して近づくと、隣にいたのは武装したニナだった。
イリスと似た感じの装備で、皮の防具に扱いやすさを重視した小さめの盾とショートソードを身に着けている。
彼女は丁度こちらに気づき、イリスに俺の事を伝えたようだ。
『おはよう』
「おはよう、モーズ」
「おはようございます」
俺達がそう挨拶を交わしていると、教会の方からセリアが現れた。
「お、おはようございます」
『おは……よう』
たった4文字の挨拶が途切れたのは、セリアが両手で抱える木箱に胸を乗せるような形で現れたからだ。
1日では戻ってこない予定だからかそれなりに荷物も用意したようで、背負った鞄のストラップだけでも強調されている胸が木箱に乗っていることで更に強調されていた。
周囲は男性冒険者が多く、非常に視線を集める事になっている。
おそらく、この木箱は預けてあった魔法の触媒なのだろうが……恥ずかしそうにはしているので、箱の大きさで仕方なくそうなっているということだろう。
『……取り敢えず俺の荷車に荷物を載せろ。イリスとニナもな』
「あ、うん」
「はい」
俺の言葉で即座に動く2人だったが、ニナは動く前に確認をしてきた。
「私の荷物もいいのですか?」
『ああ。何か問題があるのか?』
「いえ、そういうわけではありませんが……」
彼女は冒険者ではないようだし、体力的にはセリアと大差はないと思われる。
であれば、途中で疲れて監視の目が甘くなり、それで正確な審査が出来なかったのでもう一度と言われる可能性がないとは言えない。
まぁ……"銀蘭"の拠点へ行ってそこの関係者にイリスを引き合わせた時点で、俺にイリスを害するつもりなど無いと証明できるはずではあるが。
そこまでしておいてイリスに何かがあったら"銀蘭"から真っ先に疑われるのは俺なのだし、あのフェリスに狙われるとわかっていて事を起こすわけがないからな。
そんなわけで一応ではあるが、ニナには下手に疲れられると困るので荷物を預かり、最悪彼女自身もリヤカーに乗せるつもりである。
『とりあえず荷物を載せろ。俺以外は女ばかりだし、変に絡まれると面倒だ』
「あぁ……わかりました、では」
セリアが先程の姿で周囲から注目されており、美女を3人連れている俺も注目されていると考えたほうがいいだろう。
先日のように女性目当てで襲われるのも面倒なので、そんな説明をしてニナの荷物もリヤカーに乗せさせた。
そうして出発の準備ができた俺達は、用意しておいた松明に近くの篝火から火を移してダンジョンに入る。
第1区ではいつものようにゴブリンの取り合いになっていたので、最短ルートで第2区へ。
その第2区へ入って暫く進んだ所で魔物を感知し、それらがこちらへ向かってきていたので他の3人に戦闘態勢を取らせた。
『来るぞ。数は……5体ぐらいかな』
「そこまでわかるのですか?」
警戒を促す俺に、ニナが剣と盾を準備しながらそう聞いてくる。
当然、魔石で感知しているとは言えないので、
『魔物が多い土地で暮らしてたんでな』
とだけ答えておく。
程なくしてやってきた魔物はゴブリン3体と魔狼2体であり、向かってくるそれらに対して俺は魔力で出来ている盾を通路いっぱいに広げた。
「……」
この"盾の拡大"についてはここまでの道中でニナに話しており、実際に拡大して見せてもいたので驚きはしていない。
「ガァアアアッ!」
「ギギャァッ!」
ドンッ!ドドッ!
吠えながら向かってきた魔物達は俺の盾にその突撃を抑えられ、少しだけ空いている隙間からその身を滑り込ませようとする。
そうしてねじ込まれた体に、俺は斧を振り下ろす。
ガズッ!
ズドッ!
魔物も逃げるときは逃げるのだが、それは個体差がある知能によるものであるらしい。
第2区の魔物にはそこまでの知能はないようで、程なくして5体全てが俺に割られることになった。
イリスとセリアが倒した魔物から魔石を回収していると、剣を収めたニナが声を掛けてくる。
「盾を大きく出来るのはともかく、重さはどうなっているのですか?」
『重さ?特に変わらないが……』
重量が変わるとなれば拡大した際に扱い難くなるはずで、それによってイリスの護衛に支障が出ると思われるかもしれないのでそう言っておいた。
その返答にニナはジト目をしてみせた。
「ということは、魔物5体を押し止めるだけの腕力があるということですよね?でしたら私の力には楽に抗えたはずですね」
弱いゴブリンでも、成人男性と大差ないぐらいの力は持っている。
それを複数、盾の重さもそのままなのに受け止められるとなれば……俺の腕力がかなり強いことになり、その力があれば部屋に引っ張り込もうとしたニナに抵抗できたはずだと言っているのか。
つまり、あのときはエロい事を期待して抵抗を控えたのだと推察され、それでジト目の表情を見せられているということだ。
イリスと愉しんだ後だったし、そのつもりは一切なかったのだが……それを言うと「では何故抵抗して立ち去らなかったのか?」という話になるな。
事実通りに「内密な話だと思った」と言ってもいいのだが、街に来て間もない俺に内密な話をする者などそうはいない。
となると内密な話をされる何らかの事情があるのだと思われてしまうだろうし、それがイリスに係ることだと判断されるかもしれないか。
実際、ニナはあのときイリスがこの街に来た理由を探ってきたしな。
その推察が彼女の解呪したい女性にまで至ってしまう可能性もあるので……ニナの誤解はそのままにしておいた。
この件が済めば関わることはなくなるだろうし、必要以上に親しくなるつもりはないからな。
その後、何度かの戦闘を重ねながら第3区の手前にある小部屋で休憩し、食事を取ってから先へ進んだ。
第3区に入ると俺は警戒を強める。
周囲に電撃をばら撒く魔狼が存在し、今回からは同行者を守りながら対応することになるからだ。
今日は暗視ゴーグルも使えず魔力の糸で拘束することもできないので、どうしてもあちらに先手を取られることになるんだよな。
なので……魔物を感知すれば早めに戦闘態勢へ移行し、イリス達から距離を取って対応するつもりである。
『向こうから来るな。雷を放つ魔狼がいるから少し離れて処理をする』
「わかったわ。灯りは大丈夫?」
『そこまで離れるわけじゃないが……一応もう1本用意しておくか』
第2区までとは違った通路の中、灯りの心配をするイリスにそう返して予備の松明に火を着けた。
「ガァアアウッ!」
バチバチバチッ!
程なくしてやってきた魔物の集団に盾で通路を塞ぎ、ここまでと同じように対応していると……例の魔狼が電撃を放つ。
数が減るまで待っていたようなので、味方を巻き込むのは避けたいと考える程度の知能はあったようだ。
ガスッ
「ギャッ……」
もちろん俺には通用せず、その魔狼は他の魔物と同じ運命を辿って戦闘は終了した。
「あの光るやつ、びっくりしたわ」
「雷と同じようなものだとは聞いておりましたが……あれだけで死にはしなくとも、体が動かなくなって結局殺されてしまうことになるそうなので注意しましょう」
イリスの感想にセリアがそう答えていると、ニナが俺を気遣うように質問してくる。
「直撃はしなくとも、金属を身に着けていれば近くにいるだけで影響を受けると聞きましたが……大丈夫なのですか?」
イリスとセリアはこの鎧が金属でなく、大抵のダメージを受けないとわかっていたから心配はしていない。
しかしニナはそれを知らず、金属の鎧が雷を通してしまうことを知っていたから俺を心配したようだ。
困った……これに対しての答えは用意してなかったな。
装備自体に耐雷効果があることにすると、その情報が外部へ漏れた場合に装備を狙われてしまうだろう。
かと言って俺のスキルか何かだと言えば、第3区を行き来する機会が多い人達から俺自身を狙われる。
『あー……まぁ、問題ない。当たらなければ』
「はぁ。それはそうでしょうけど」
俺の返答にイマイチ納得のいっていない顔をしていたニナだったが……そんなとき、遠くから大量の魔石がやって来るのを感知した。
魔石の集まりは大きいものが1つと……その周囲に小さい集まりが複数か。
おそらく、これは人が運んでいるものだ。
大きい集まりは荷車か何かに載っている分で、小さい集まりはその周囲にいる人が個人で持っている分だろう。
それ自体はいいのだが……その移動速度が気になった。
結構早い気がする。
魔物と遭遇するかもしれないわけだし、それを避けるためにいそいでいるのかな。
『……』
「どうしたの?」
黙り込んだ俺に3人の視線が集まっており、その中から聞いてきたイリスの質問に俺は答える。
『いや、大勢の足音が聞こえてきた気がしてな』
ニナの前で魔石を感知したとは言えないので、そう言ってこちらへ向かってくるであろう団体への警戒を促した。
急いでいるのなら最短ルートを通るだろうし、それは奥へ向かう俺達と同じルートである。
実際、魔石の反応からは最短ルートを使っていることがわかるので、規模によっては通路いっぱいに広がっているかもしれず、俺達が邪魔になって揉め事になるのは面倒なのでルートを変えた。
確か、今日は"宝石蛇"の輸送隊が街に帰還する予定だと聞いているし、現時点ではまだイリスと接触させないほうがいいだろうからな。
そうして、その団体が最短ルートで街の方へ去っていくのを把握しながら暫く進み、俺達は門番の部屋に到着した。
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