マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第55話

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第3区の門番を片付けると魔石を回収し、奥の扉へ歩いて向かう。

地図ではこの奥も通路になっているらしいのだが、近づいてみるとドア自体はそこまで大きくなかった。

コンビニの両開きのドアぐらいかな。

これだと荷車なんかは通り難そうだし、大手のカンパニーは各々の拠点への物資輸送に苦労していそうだな……と思っていると、


フッ

「っ!」


俺の手がドアに触れた瞬間そのドアは消え去り、それと同時にここまでの通路と同じぐらいの広さを持つ通路が現れた。

その通路は100mほど続いており、奥には第4区からの光が見えている。

ダンジョン内に昼夜があるとは聞いていたが、この先は現在昼間のようだ。

奥からの明かりで真っ暗というわけでもないので、暗視ゴーグルはここで魔力に戻しておこう。

さて。

地図によれば第4区へ出ると見晴らしの良い広場があり、聞いた話によるとその広場に大手のカンパニーが拠点を置いているようだ。

スライムやダンジョンそのものが吸収してしまうからか、廃棄物の処理は楽だが水や食料の確保が大変らしい。

大手ともなれば大人数だろうし、人が増えれば必要な物資も増えるだろうからな。

ただ、水に関しては魔法使いを確保することである程度は解決していそうだし、食料もある程度は現地調達できそうだが……そうなるとギルドでの評価にならないのでそれに頼るとはいかないか。

そんな第4区へ、姿を消して浮遊したまま向かってみると……奥に人影が現れた。


「?」


なんだろうと様子を窺いながら、ゆっくりと進んでその人影に近づいていく。

次第にその人影が誰かとやり取りをしているのが見え、その相手が反対側から現れて2人でこちらを窺っている。

一方は背が低めで筋肉質、もう一方は背が高めでやや細い。

パッと見では強そうに見えないが、ここまで来ている以上はそれなりに実力はあるのか。

そんな2人は好意的に見れば大学入試の合否発表で合格者を勧誘しようとするサークルっぽいが、逆に自分達の稼ぎ場所を荒らす存在として排除するつもりのようにも見えなくはない。

どちらかな?と、更に近づいてみると……彼らのやり取りが聞こえてくる。


「ドア、開いてるよなぁ?誰もいねぇぞ?」

「うーん、門番を倒したところで死んだか帰ったのか?」

「あぁ、その可能性もあるのか。今日はどこかの"入荷日"でもねぇし、大手に入ろうとして無理した奴がいるのかねぇ」

「確認しに行くか?死んでるんなら何か金目の物が残ってるかもしれねぇが」

「開くところを見たわけじゃねぇし、どのぐらい時間が経ってるかわかんねぇからなぁ……いつ閉まってもおかしくねぇから危ねぇぞ」

「なら止めといたほうが良いな。"出口"から出て回り込まなきゃなんねぇし、それで時間がかかってこっちに戻り損ねたら2人じゃ戻れねぇ。街に戻るのも無理だろうし、他所の連中に頼み込んでついてくるのは上がいい顔しねぇしよ」

「だなぁ。金だけでも拾いに行けばよかったぜ」

「すぐ見に行けばよかっただろうに」

「万が一、大手が寄越した臨時の輸送隊だったら見に行くだけでも不味いだろ?負けるのを期待してると思われちまうぜ」

「"金獅子"ならデカいぶんそこまで揉めはしないだろうが……"銀蘭"や"宝石蛇"だと面倒だろうな。少なくともウチ程度じゃ詫びで何を要求されても断れねぇ」

「だろ?ハァ、もう行こうぜ」

「おう」


そう言うと、2人は景気の悪そうな顔で去っていった。

結局、彼らについては第3区を通過してきた者に対して何を目的としていたのかわからなかったので、もちろん善悪の判断をすることはできない。

まぁ、あのやり取りから所謂ハイエナ行為を狙っていたように思えなくはないが……それ自体は対象がすでに死亡しているのであればそこまで気にはならないな。

逆に気になったのは……おそらく"入荷日"というのが大手のカンパニーにおける物資の輸送スケジュールで、それを部外者らしい彼らも知っていることと、"銀蘭"と名付けられた大手のカンパニーが存在することだ。

前者については、もしかするとカンパニー外の冒険者と物資の取引をしているのではないだろうか?

大手というほどでなければ人数も少ないだろうし、そうなれば運べる物資の量はやはりネックになり得る。

狩りが上手くいって戦利品が増えれば荷物も増え、進行速度そのものが低下する上に魔物への対応も鈍くなるだろう。

そこで、金銭か戦利品で水や食料と交換したりしていれば……長期間稼ぎ続けることができるし、帰りの道中は荷物が少なくて済む。

あくまでも予想ではあるし、そうなるとギルドからの評価や収入がどうなるのかという疑問はあるが……そういったサービスをしているから、大手の物資輸送のスケジュールを部外者が知っていたのではないだろうか。

もっと他にも何か理由があるのかもしれないが、それは現地で調べたくなったら調べればいいだろう。

で、後者の気になる点だが……話の流れ的に"銀蘭"というのが大手のカンパニーの名前らしく、それがイリスの定宿している"銀蘭亭"と何か繋がりがあるのかと気になっただけだ。

これも機会があったら調べようかな。

そう決めた俺は通路を通り抜け、第4区の草原へと到達した。



草原へ出ると地図のとおりに芝生の広場が広がっており、数百m先ではあるが第3区からの通路の正面には杭の柵で囲まれた場所がある。

接近して少し上空から見てみると……そこには大小いくつものテントが設営された野営地のような物が出来ていて、中には大きめのテントが集中している区画もあるのであそこには物資が保管されているのではないだろうか。

その拠点へ出入りしている人達が入口で首に架かった何かを見せているので、それがこのカンパニーの所属を証明する物か、カンパニー外の者が入るための通行証なのだろう。

戦利品なのか荷物を持った人達を見ていると、その人達は拠点に入ってすぐの屋根と柱のみのテントへ立ち寄った。

ダンジョン入口にある救護テントと同じ物だな。

高度を下げてその中でのやり取りを見てみれば……先程の予想通り、戦利品で物資との取引をしているようだ。


「はい、半分は水と食料でもう半分はお金ですね」

「ああ、それでいい」


すると受付側の男性は紙と木の札を用意し、それぞれに何かを書き込んだ。


「では、これを。木札の方は街の事務所で換金するまで大事に取っておいてください。なくしてもこちらは責任を取りませんから」

「わかってる。じゃあな」


そう言って客側の冒険者達はその受付を離れていった。


なるほど。

ここで戦利品の査定をしてあの木札に査定額を書き込み、街にあるこのカンパニーの事務所で換金できるのか。

紙の方はここでの物資調達に使うようだが、木札と使い分けているのは街への道中で損壊する可能性を考慮してかな。

ギルドの仕事を奪っているような気がしないでもないが……街のギルド本部や解体場の様子を見ていると若手だけでも混む時間はかなり混むので、こういった場所である程度まとめてくれるのは都合が良いのかもしれない。

こうした取引による、カンパニー側の利益が気になるな。

査定をギルドより厳しくして、差額を自分達の収入にしていたりするのだろうか?

ダンジョンの中という場所であり、輸送中に損壊するリスクもあるのでそのぐらいの役得はあってもいいとは思うが。

とりあえず、ここで物資の取引ができることを確認すると再び上空からの観察に戻る。



拠点の中で多く見られるのは当然ながら男の姿なのだが、ごく偶に女性の姿も見えている。

まぁ……称号やらスキルやらがあるし魔法などの筋力に依存しない力もあるので、戦力になる女性が居てもおかしくはない。

今見ている女性はその魔法使いや聖職者ではないようだが……見た目はそこまで鍛えていそうに見えないので、称号かスキルを持っている人物なのだろう。

武装もしていない普通のワンピースに見えるし、今日は休日なのだろうと思っていると……そんな彼女はキョロキョロしながら、とあるテントに入っていった。

気になって近づいてみると……


「ねぇ、早く。ゆっくりしてるとバレちゃうから……」

「ああ、わかってる。じゃあ……」

「ンッ……♡」


という男性とのやり取りが聞こえ、俺はそそくさと上空へ離れることにする。

そういうことを盗み聞きする趣味はないし、彼女が冒険者でも派遣されている聖職者の場合でも、同意の上であれば他人が口出しすることではないからな。

ダンジョン内での女性問題において、数の少ない女性冒険者を誰かが独占するのは難しいと考えていたが……道中ならともかく、こうして安全が確保された人目につかない場所があればなんとかなるということか。

だからといって戦力にならない人を連れて来るわけにはいかないだろうからむやみに女性を増やすことはできず、結局は普段の女性への態度に気をつけなければならないということに代わりはないが。

そんな事を考えつつ、上空に戻った俺は正面の拠点から目を離すと……その左右にある拠点へ視線を向けた。

どちらも正面の拠点ほどではないが、ある程度離れた場所に広い敷地を確保した大きな拠点である。

その広場の外には遠くまで草原が広がっているのだが……左手にある拠点はやけに遠くにあり、広場の外縁部ギリギリの場所に存在していた。

何か理由があるのだろうか?

それはおいておくにしても、どの拠点にも共通した疑問点がある。

それは、設置物がスライムやダンジョンに吸収されないのかという点だ。

放っておいた物はどちらかに処理されるはずなのだが……と思っていると、正面の一番大きな拠点でちょっとした人の動きが見られた。

いくつかの数人の集団が方々へ散り、本当に軽くではあるのだがテントを揺らして周っている。

もしかして、あれで物がダンジョンに吸収されるのを防いでいるのだろうか?

少しでも動きがあれば吸収されないのなら、それを回避するのに有効ではあるのだろう。

拠点を囲む杭の柵も蹴ったりして揺らしているが、全ての設置物に同じ処置をしているわけではないようで……先ほどの女性が入っていったテントはスルーされている。

よく見るとテントの入口に"使用中"と書かれた板が置いてあり、他のスルーされているテントの入口にも同じ板が置いてあった。

中に人が居れば使用中とみなされ、ダンジョンには吸収されないから揺らす必要がないということなのか?

それで建築物が無くテントばかりなのか、と納得できなくはないのだが……判定基準がいまいちわからないな。



それはさておき、今後のために少し考えておくことがある。

この広場を通過する場合のことだ。

ここまで拠点が大きく人も居るとなると、普通の方法では誰にも見られずにというのは難しい。

さっきの2人のように、第3区からの通路に注目している人が居るかもしれないからな。

なるべく目立ちたくはないのだが、3人でここまで来たということがどう見られるかが問題だ。

これで腕が立つと見られて勧誘されたりしても、動きづらくなるのは困るので当然断ることになる。

あっさり諦めてくれればいいのだが、大手が相手だと面子を潰すことになるかもしれず、揉め事になる可能性まであるんだよな。

目的は解呪の指輪1つなので、物資を俺の"紛い物"で用意してしまえば荷物を極力減らすことができ、暗視ゴーグルを使って夜中にコッソリ通ることもできるのだろうが……俺が物を作り出せるのは極力他人に知られたくない。

イリスとセリアを信用していないというわけではないのだが、第三者にバレたときが面倒だしな。

それに別の問題もある。

身を隠してここを通過していると俺達はここを通っていないことになり、目撃情報がないという情報が共有されたりすれば……もっと奥での活動中に他人と遭遇した場合、俺達は怪しい存在として見られてしまう。

となると普通に通って、ウェンディさんに雇われているという立場だと表明して断るのが最善か?

それが通じるかという話になるが、少なくとも既にどこかへ所属しているというのであれば揉め事にはなり難そうだ。

問題は……フレデリカがもう話を通していて、俺が正式にウェンディさんに雇われていることになっているかだな。

まぁ、アイツは決まったことに関しては動きが早いので、一晩しか経っていないにしても書類上の処理は進んでいそうではある。

街に戻ったら会って確認するか?

昨日の今日ではこないだろうし、少量の魔石で"コージ"としての活動実績を積んでおくつもりだったしな。

そもそも勧誘されるとは限らないし、俺の取り越し苦労で済めばそれで良いのだが。



取り敢えずの方針を決めると大手カンパニーの拠点がある広場を離れ、実際の狩りを見学する。

広場の外は丈のある草が生い茂っており、その中で数人の集団がいくつも動いていた。

この密度だと……第2区ぐらいには魔物の取り合いをしているだろうな。

その中で、偶々目についた男性5人の集団に注目した。

下手に近づくと何らかのアクシデントで俺の存在に気づかれるかもしれないので、彼らが何を喋っているかわからない程度には離れた位置から見下ろすように観察するか。

しっかり見ようと思い、双眼鏡を作り出して彼らを見ると……素材はわからないが、1区や2区で活動している若手よりは良い装備を使っているように見える。

そんな彼らはここまで草を切り払いながら来ているようで、今はこの地点に目星をつけたのかそれぞれ違う方向を向いて剣で草を薙ぎ払っていた。

それが視界の確保をするためであるのは明白だが、となればそれが必要な小型の獲物を狙っているということだろう。

俺は魔石の位置で魔物がいる場所を把握できており、彼らの近くに居るそれが串焼き屋で聞いた兎かな?と思って見ていると……その予想は当たっていたようで、幾分短くなった草むらから1匹の兎が飛び出して彼らの1人に飛び掛かる。

小型と言えば小型だが、冒険者達と比較するとバスケットボールより一回りぐらい大きいように見えた。

何故か、前世のネットで見たやたらデカい兎を思い出す。

人よりデカかった気がするが、合成写真か何かだったのかな?

まぁ、それはいいかと彼らの戦いに意識を戻す。

狙われた男はその兎に剣を振り下ろすが、その兎は何も無い空中で更に跳ねて躱し、思い切り変えられた軌道の先には別の男が居た。

もちろん最初に狙われていた男はその時点で仲間に声を掛けていたようで、その次に狙われた男も軌道を変えた兎にそこまで驚いたりはせず、あっさりと躱して斬りかかる。

ここまで来ることができているぐらいだし、空中で軌道を変える程度の相手なら問題はないのか。

その一撃は上手く致命傷になったらしく兎は動かなくなり、彼らは警戒を続けながらも倒した兎を逆さにして持ち上げた。

血を抜いているのかな?

と、その様子を見ていると……魔石の反応から、数人の集団が遠くからやって来るのを感知した。

双眼鏡をそちらへ向けてみれば女性ばかりの集団のようで、彼女達はまっすぐこちらへ向かってきている。

眼下の冒険者達が草を刈ったルートを使っていることから、身体も含めてその姿を確認できるのだが……タイプは様々にしても美女ばかりだな。

武装しているので装備の上からではあるが、スタイルも良さそうに見えている。

1人は何故か肩ぐらいまでの髪と同じ赤いチャイナドレスで、前に張り出した胸部もあってやたらと目立っていた。

裾は長いがかなり深いめのスリットが入っており、袖がなくて元々露出している腕と一歩踏み出す度に見える肌が草で傷つきそうなのが少々気になる。

それよりも気になるのは……彼女達が戦闘態勢に入っているように見えることだ。

魔物がいる場所だからか皆一様に真剣な表情をしており、中には剣の鞘に手を掛けていたり、魔法の触媒を取り出したりしている者もいた。

俺が見ていた冒険者達に何か用があるのか?と思っていると……彼らも彼女達に気づいたようで、その雰囲気からか何やら動揺し始めた。

互いに顔を見合わせ、彼女達の方をチラチラ見ながら何かを言い合っている。

そうこうしているうちに彼女達は彼らの元へ到着し、その中から代表して白い鎧を着た女性が話し掛けた。

彼らの様子からすると彼女達は実力的か立場的かの上位者であるらしく、彼らは彼女達の雰囲気に警戒を強めていたのだが……少し話すとその警戒は解かれ、獲った兎を手にしてその場を離れていった。

何だったんだ?

と思っていたのだが……その場に残った女性冒険者達は彼らが十分に離れたのを確認すると、何かを警戒するように周囲を見回し始める。

そしてそれが一通り済んだのか、白い鎧の女性がチャイナドレスの女性に何かを言うと……その女性は






…………えっ?
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