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第54話
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いつものように若手の冒険者で混み合うダンジョン前の広場。
そこへ到着した今日の俺は"コージ"の姿のままだった。
これは元の姿でダンジョンへ出入することで、冒険者としてちゃんと働いているというアピールのためである。
特定の誰かにというわけではないのだが……休みが多いのに生活には余裕がありそうだと思われれば、いろんな思惑で近づいてくる人間が増えそうだからな。
"モーズ"でないのはイリスの護衛という設定もあり、1人でダンジョンへ入るのは少し不自然かとなるべく控えるつもりだからだ。
まぁ……こっちはこっちで、下見だとでも言っておけばいいとは思うがな。
何気なく聖職者の救護テントの方に目を向けると、そこにセリアの姿は見えなかった。
昨日の途中までではあるが、俺達への同行を諦めさせるために散々走らせたので疲れて休んでいるのかもしれない。
嫌がらせに近かった気がしないでもないが……アイツはアイツでやらかしていたので、申し訳ないという気持ちは少ししかないな。
そんなテントから視線を外すと松明を売っている露店で数本購入し、隣の串焼き屋で火を貰いつつ何らかの肉の串焼きも購入する。
塩焼きなのは先日買ったときと同じだが、あのときと違ってオーク肉ではないようだ。
「これ、何の肉ですか?」
「兎だよ、第4区の。獲りに行くのかい?」
第4区ということは、ダンジョン内で獲られた物なのか。
今から入るところなので……
「それが目当てってわけじゃないんですが……まぁ、見つけたら狙ってもいいかなと」
肉質が気になってなんとなく聞いてみただけであり、今日は下見が主目的なので魔物に関しては襲われない限り見逃すつもりである。
しかし、冒険者が獲物の話を聞いて狙わないというのも不自然かと思ってそう答えると……串焼き屋の店主は微妙な顔をしてその兎について教えてくれた。
「4区から先に居るらしいけど、4区は大手のカンパニーが抑えててね。昼間は結構な人数が探し回ってるからあんまり見つからないと思うよ」
「ああ、そうなんですね……ん?ダンジョンの中に昼と夜があるんですか?」
「あるらしいよ?あぁ、新人さんみたいだからそこまでは知らなかったのかな」
「聞いたような聞いてないような……」
街へ来た当初はダンジョンの奥に行くのが目的ではなかったからか、そういった部分については割と聞き流していたかもしれない。
そんな俺に、串焼き屋の店主は追加で情報を教えてくれた。
「ま、新人じゃ行けない奥の話を聞いても聞き流しちまうだろうね。で、4区の話だけど……夜ならある程度は人目が少なくなるって聞くから、狙うんなら夜のほうが揉め事にはなりにくいよ」
「昼夜があるんなら獲物も時間に合った行動を取ると思うんですが……」
「夜なら兎も寝るだろうって話かい?それがダンジョン内の魔物は寝ないみたいでね。その上で灯りを目指して襲ってくるからどこのカンパニーも拠点の防衛に集中するって聞いてるよ」
昼間は人の多さで取り合いになっているようだが、夜になれば動ける人間が減って拠点の防衛に集中せざるを得ないということだろう。
「だから夜はかち合いにくい、と?」
「そうだね。ただ灯りを目指して襲ってくるのは個人に対しても同じらしいから、結局ウサギ狩りはお勧めしないんだがね。素材として買い取るにも大手が数の多さで値段を抑えてくるから、個人じゃ大して金にならないし」
「へぇ、だからオークの串焼きより少し安いんですね。まぁ、さっきも言った通りそれが目当てじゃないんで、襲われない限りは放っておきますよ」
「それが良いだろうね。大手のカンパニーと揉めるのは面倒なことになるだろうし」
やはり、一般の人でも認識している程度に大手のカンパニーは影響力を持っているようだな。
となると……イリスの件はもう暫く気をつけて、フレデリカの調査で安全が確認できるまでは慎重にいこう。
ついでに、第4区へ行ければ大手のカンパニーに加入しやすいという話についても聞いてみる。
「そういえば4区まで行ければ大手に入りやすくなるって聞いたんですが、自力ではそこまで行けない人達がそれ目的で数を揃えて行くわけにはいかないんですかね?」
「そのために即席のチームを作るってことかい?止めたほうが良いね」
「それは何故でしょう?」
「2区まではともかく3区は格段に魔物が強くなってるらしいし、門番って言われる魔物が相当強いらしいからね。数だけ揃えても4区までは行けないだろうし、行けても大勢じゃ大手のカンパニーはそれぞれの実力を示したとは見てくれないよ」
「なるほど。ギルドがその方法で大手のカンパニーに入るのを教えてくれないのはそのせいですか」
「だろうね。何年も前だけどそれで200人ぐらいがまとめて死んだって聞いたし、ギルドとしては稼ぎ手を無駄に減らしたくないだろうからね」
串焼き屋を離れた俺はそのままダンジョンに入り、獲物の取り合いで魔物が少ない第1区を通過して第2区へ入る。
その第2区では奥へ行くほど人の数が減るので、俺は更に人目の少ない通路に入って自身を魔鎧で覆った。
今回は"モーズ"の姿というわけではなく、呼吸用の通気孔を開けておいての透明な姿である。
当然、目立ってしまう灯りは使えないので、松明を消して暗視ゴーグルを使用する。
これは、ゴーグルに搭載されたライトから赤外線を放つことで暗闇でも見えるようになる道具だ。
人はともかく、魔物が暗視ゴーグルから放たれる赤外線に気づくかが懸念点だが……気づかれたら普通に始末してしまおう。
始末できなかったら即撤退で。
さて、下見の準備はこれでいいか。
ああ……この姿では他人から認識してもらえず、万が一ぶつかったりすると正体不明の魔物だと思われかねないので注意しよう。
そうして透明になった俺は、第2区から第3区に入った。
ここからは洞窟というより石造りの通路に近い様相で、第1区と第2区の境目よりも移り変わりが明確だ。
魔物がその境目を越えない理由が気になるが……今はいいか。
大手のカンパニーやチームが通るとき以外はあまり人通りがないらしく、足音を出せば遠くに居るかもしれない人にまで気づかれそうなので浮遊したまま進むことにする。
で、第3区には武装したゴブリンや少し見た目の違う魔狼が徘徊していたのだが……いきなり気づかれた。
「グルルル……」
「……」
唸る魔狼に静かなゴブリン。
俺に気づいたのは5体ほどの集団であり、1体の稲妻の記号みたいな形の角を持つ魔狼が率いているようだ。
やはり暗闇で活動しているだけあって人とは違う視界を持つのか、赤外線を発している暗視ゴーグルから俺の位置を認識しているらしい。
普通は即座に襲いかかってくるのだろうが、すでに魔力の糸で動きは封じてある。
なので始末しようと思っていると……魔狼が吠えた。
「ガァァオウッ!」
カッ
バチバチッ!
「「ギッ!?」」
「「ギャンッ!」」
リーダーらしき魔狼が吠えると周囲に強い光が放たれ、それと同時に稲妻が走る。
その角の形が示すように、奴は電撃を放つ魔物だったらしい。
しかし、それはゲームのように敵味方の区別がつくわけではないようで、近くにいた味方を普通に巻き込んだ。
「ギ……」
「クゥン……」
その電撃は効果が高かったのか、巻き添えを食らった魔物達は弱々しい声を上げたのだが……俺の糸で倒れることなく、操り人形のようにその場で佇んでいる。
そんな中、電撃そのものは魔鎧で防ぐことができ、暗視ゴーグルに備わっていた保護機能で強い光も防げていた俺は何の影響もなく宙に浮いていた。
魔物達を始末し魔石を回収すると……俺はため息をついた。
「ハァァァァ……あんなのもいるのか、びっくりした」
そうか。
魔法を使うゴブリンがいたぐらいだし、魔物がああいう特殊な能力を持っていてもおかしくはないのか。
人間だって称号やスキルを持っているわけだし、なんなら前世でも電気を発生させる生き物は存在したからな。
そんなことを考えつつ、俺は電撃を発生させた魔狼を見る。
こういう魔物の素材は高く売れるのかもしれないが、荷物はあまり増やしたくないんだよな。
ダンジョンへ入る際にリヤカーを持ち込んでいないので、持っていなかったはずのリヤカーを引いて出ていけば盗品を疑われかねない。
なので……
「これだけ回収していくか」
と、電撃狼の角だけを回収して先へ進んだ。
魔物に対し、魔鎧で俺自身は見られないようだが赤外線は感知されるとなると……暗視ゴーグルを使っていれば今後も普通に襲われるのだろう。
しかし、人間に気づかれないことを優先すればこれの使用は避けられないので、魔物に関しては発見次第すぐに始末することに決めた。
「ガフッ……」
ドサッ
何度目かの戦闘……というか作業を終え、倒した魔物達を観察しながら魔石の回収を進める。
今片付けたのはゴブリンの集団だった。
剣に槍、弓を使う者もいて合計で7体だったのだが、この装備はどこから手に入れた物なんだろうな。
もしかして、ダンジョンに吸収された物だったりするのか?
確認のしようはないがこいつらだけが武装しているわけではないだろうから、これも気をつけて進むことにする。
地図で進路を確認し、時折魔物を処理しながら進むと……俺はある部屋の前に辿り着いた。
地図によればここが"門番"の部屋であるらしい。
広さは50m四方ぐらいで、高さは20mほどだ。
入口にドアなどはないが部屋の最奥には両開きのドアがあり、あのドアは門番を倒さなければ開かないと地図に書いてある。
ただ、部屋に入らない限りその門番は現れないそうで、外から覗き込んでいるだけの今は何者も居ない。
ここまで冒険者とは遭遇しておらず、中にも居ないとなれば人目を気にせず挑戦してみても良いだろう。
そんなわけで門番の部屋に入ってみると、部屋の中央に数体のゴブリンと電撃狼が現れた。
出現の演出などは特にないようだ。
現れた魔物達は、道中と同じように武装していたり特殊な個体であるようだが……それに加えてやけに大きなゴブリンが居た。
身長2mぐらいはあるか?
あくまでも普通のゴブリンに比べてなので、めちゃくちゃに大きいというわけではない。
剣と盾で武装したそいつは体格の良さもあって強そうには見えるが、当然ほかの魔物と同じように魔力の糸で拘束済みである。
グッ、ググッ……
「グ……グアァァアッ!」
周囲の魔物と共に、吠えながら何とか動こうとする大きなゴブリン。
そいつだけ格段に力が強いのか、魔力の糸で固定するために消費される魔力が多い。
「ガァウッ!」
バチィッ!
電撃狼の電撃も放たれ、魔鎧で防ぐことによる魔力消費も少し増えた。
これで困る程度の損害ではないにしても、食事で言えば数回分の被害にはなる。
余裕があるとは言え、避けられる損害は避けるべきなので……
「ガッ……」
ドサッ
門番として現れた魔物も道中と同じように処理し、魔石を回収してから奥のドアへ向かった。
そこへ到着した今日の俺は"コージ"の姿のままだった。
これは元の姿でダンジョンへ出入することで、冒険者としてちゃんと働いているというアピールのためである。
特定の誰かにというわけではないのだが……休みが多いのに生活には余裕がありそうだと思われれば、いろんな思惑で近づいてくる人間が増えそうだからな。
"モーズ"でないのはイリスの護衛という設定もあり、1人でダンジョンへ入るのは少し不自然かとなるべく控えるつもりだからだ。
まぁ……こっちはこっちで、下見だとでも言っておけばいいとは思うがな。
何気なく聖職者の救護テントの方に目を向けると、そこにセリアの姿は見えなかった。
昨日の途中までではあるが、俺達への同行を諦めさせるために散々走らせたので疲れて休んでいるのかもしれない。
嫌がらせに近かった気がしないでもないが……アイツはアイツでやらかしていたので、申し訳ないという気持ちは少ししかないな。
そんなテントから視線を外すと松明を売っている露店で数本購入し、隣の串焼き屋で火を貰いつつ何らかの肉の串焼きも購入する。
塩焼きなのは先日買ったときと同じだが、あのときと違ってオーク肉ではないようだ。
「これ、何の肉ですか?」
「兎だよ、第4区の。獲りに行くのかい?」
第4区ということは、ダンジョン内で獲られた物なのか。
今から入るところなので……
「それが目当てってわけじゃないんですが……まぁ、見つけたら狙ってもいいかなと」
肉質が気になってなんとなく聞いてみただけであり、今日は下見が主目的なので魔物に関しては襲われない限り見逃すつもりである。
しかし、冒険者が獲物の話を聞いて狙わないというのも不自然かと思ってそう答えると……串焼き屋の店主は微妙な顔をしてその兎について教えてくれた。
「4区から先に居るらしいけど、4区は大手のカンパニーが抑えててね。昼間は結構な人数が探し回ってるからあんまり見つからないと思うよ」
「ああ、そうなんですね……ん?ダンジョンの中に昼と夜があるんですか?」
「あるらしいよ?あぁ、新人さんみたいだからそこまでは知らなかったのかな」
「聞いたような聞いてないような……」
街へ来た当初はダンジョンの奥に行くのが目的ではなかったからか、そういった部分については割と聞き流していたかもしれない。
そんな俺に、串焼き屋の店主は追加で情報を教えてくれた。
「ま、新人じゃ行けない奥の話を聞いても聞き流しちまうだろうね。で、4区の話だけど……夜ならある程度は人目が少なくなるって聞くから、狙うんなら夜のほうが揉め事にはなりにくいよ」
「昼夜があるんなら獲物も時間に合った行動を取ると思うんですが……」
「夜なら兎も寝るだろうって話かい?それがダンジョン内の魔物は寝ないみたいでね。その上で灯りを目指して襲ってくるからどこのカンパニーも拠点の防衛に集中するって聞いてるよ」
昼間は人の多さで取り合いになっているようだが、夜になれば動ける人間が減って拠点の防衛に集中せざるを得ないということだろう。
「だから夜はかち合いにくい、と?」
「そうだね。ただ灯りを目指して襲ってくるのは個人に対しても同じらしいから、結局ウサギ狩りはお勧めしないんだがね。素材として買い取るにも大手が数の多さで値段を抑えてくるから、個人じゃ大して金にならないし」
「へぇ、だからオークの串焼きより少し安いんですね。まぁ、さっきも言った通りそれが目当てじゃないんで、襲われない限りは放っておきますよ」
「それが良いだろうね。大手のカンパニーと揉めるのは面倒なことになるだろうし」
やはり、一般の人でも認識している程度に大手のカンパニーは影響力を持っているようだな。
となると……イリスの件はもう暫く気をつけて、フレデリカの調査で安全が確認できるまでは慎重にいこう。
ついでに、第4区へ行ければ大手のカンパニーに加入しやすいという話についても聞いてみる。
「そういえば4区まで行ければ大手に入りやすくなるって聞いたんですが、自力ではそこまで行けない人達がそれ目的で数を揃えて行くわけにはいかないんですかね?」
「そのために即席のチームを作るってことかい?止めたほうが良いね」
「それは何故でしょう?」
「2区まではともかく3区は格段に魔物が強くなってるらしいし、門番って言われる魔物が相当強いらしいからね。数だけ揃えても4区までは行けないだろうし、行けても大勢じゃ大手のカンパニーはそれぞれの実力を示したとは見てくれないよ」
「なるほど。ギルドがその方法で大手のカンパニーに入るのを教えてくれないのはそのせいですか」
「だろうね。何年も前だけどそれで200人ぐらいがまとめて死んだって聞いたし、ギルドとしては稼ぎ手を無駄に減らしたくないだろうからね」
串焼き屋を離れた俺はそのままダンジョンに入り、獲物の取り合いで魔物が少ない第1区を通過して第2区へ入る。
その第2区では奥へ行くほど人の数が減るので、俺は更に人目の少ない通路に入って自身を魔鎧で覆った。
今回は"モーズ"の姿というわけではなく、呼吸用の通気孔を開けておいての透明な姿である。
当然、目立ってしまう灯りは使えないので、松明を消して暗視ゴーグルを使用する。
これは、ゴーグルに搭載されたライトから赤外線を放つことで暗闇でも見えるようになる道具だ。
人はともかく、魔物が暗視ゴーグルから放たれる赤外線に気づくかが懸念点だが……気づかれたら普通に始末してしまおう。
始末できなかったら即撤退で。
さて、下見の準備はこれでいいか。
ああ……この姿では他人から認識してもらえず、万が一ぶつかったりすると正体不明の魔物だと思われかねないので注意しよう。
そうして透明になった俺は、第2区から第3区に入った。
ここからは洞窟というより石造りの通路に近い様相で、第1区と第2区の境目よりも移り変わりが明確だ。
魔物がその境目を越えない理由が気になるが……今はいいか。
大手のカンパニーやチームが通るとき以外はあまり人通りがないらしく、足音を出せば遠くに居るかもしれない人にまで気づかれそうなので浮遊したまま進むことにする。
で、第3区には武装したゴブリンや少し見た目の違う魔狼が徘徊していたのだが……いきなり気づかれた。
「グルルル……」
「……」
唸る魔狼に静かなゴブリン。
俺に気づいたのは5体ほどの集団であり、1体の稲妻の記号みたいな形の角を持つ魔狼が率いているようだ。
やはり暗闇で活動しているだけあって人とは違う視界を持つのか、赤外線を発している暗視ゴーグルから俺の位置を認識しているらしい。
普通は即座に襲いかかってくるのだろうが、すでに魔力の糸で動きは封じてある。
なので始末しようと思っていると……魔狼が吠えた。
「ガァァオウッ!」
カッ
バチバチッ!
「「ギッ!?」」
「「ギャンッ!」」
リーダーらしき魔狼が吠えると周囲に強い光が放たれ、それと同時に稲妻が走る。
その角の形が示すように、奴は電撃を放つ魔物だったらしい。
しかし、それはゲームのように敵味方の区別がつくわけではないようで、近くにいた味方を普通に巻き込んだ。
「ギ……」
「クゥン……」
その電撃は効果が高かったのか、巻き添えを食らった魔物達は弱々しい声を上げたのだが……俺の糸で倒れることなく、操り人形のようにその場で佇んでいる。
そんな中、電撃そのものは魔鎧で防ぐことができ、暗視ゴーグルに備わっていた保護機能で強い光も防げていた俺は何の影響もなく宙に浮いていた。
魔物達を始末し魔石を回収すると……俺はため息をついた。
「ハァァァァ……あんなのもいるのか、びっくりした」
そうか。
魔法を使うゴブリンがいたぐらいだし、魔物がああいう特殊な能力を持っていてもおかしくはないのか。
人間だって称号やスキルを持っているわけだし、なんなら前世でも電気を発生させる生き物は存在したからな。
そんなことを考えつつ、俺は電撃を発生させた魔狼を見る。
こういう魔物の素材は高く売れるのかもしれないが、荷物はあまり増やしたくないんだよな。
ダンジョンへ入る際にリヤカーを持ち込んでいないので、持っていなかったはずのリヤカーを引いて出ていけば盗品を疑われかねない。
なので……
「これだけ回収していくか」
と、電撃狼の角だけを回収して先へ進んだ。
魔物に対し、魔鎧で俺自身は見られないようだが赤外線は感知されるとなると……暗視ゴーグルを使っていれば今後も普通に襲われるのだろう。
しかし、人間に気づかれないことを優先すればこれの使用は避けられないので、魔物に関しては発見次第すぐに始末することに決めた。
「ガフッ……」
ドサッ
何度目かの戦闘……というか作業を終え、倒した魔物達を観察しながら魔石の回収を進める。
今片付けたのはゴブリンの集団だった。
剣に槍、弓を使う者もいて合計で7体だったのだが、この装備はどこから手に入れた物なんだろうな。
もしかして、ダンジョンに吸収された物だったりするのか?
確認のしようはないがこいつらだけが武装しているわけではないだろうから、これも気をつけて進むことにする。
地図で進路を確認し、時折魔物を処理しながら進むと……俺はある部屋の前に辿り着いた。
地図によればここが"門番"の部屋であるらしい。
広さは50m四方ぐらいで、高さは20mほどだ。
入口にドアなどはないが部屋の最奥には両開きのドアがあり、あのドアは門番を倒さなければ開かないと地図に書いてある。
ただ、部屋に入らない限りその門番は現れないそうで、外から覗き込んでいるだけの今は何者も居ない。
ここまで冒険者とは遭遇しておらず、中にも居ないとなれば人目を気にせず挑戦してみても良いだろう。
そんなわけで門番の部屋に入ってみると、部屋の中央に数体のゴブリンと電撃狼が現れた。
出現の演出などは特にないようだ。
現れた魔物達は、道中と同じように武装していたり特殊な個体であるようだが……それに加えてやけに大きなゴブリンが居た。
身長2mぐらいはあるか?
あくまでも普通のゴブリンに比べてなので、めちゃくちゃに大きいというわけではない。
剣と盾で武装したそいつは体格の良さもあって強そうには見えるが、当然ほかの魔物と同じように魔力の糸で拘束済みである。
グッ、ググッ……
「グ……グアァァアッ!」
周囲の魔物と共に、吠えながら何とか動こうとする大きなゴブリン。
そいつだけ格段に力が強いのか、魔力の糸で固定するために消費される魔力が多い。
「ガァウッ!」
バチィッ!
電撃狼の電撃も放たれ、魔鎧で防ぐことによる魔力消費も少し増えた。
これで困る程度の損害ではないにしても、食事で言えば数回分の被害にはなる。
余裕があるとは言え、避けられる損害は避けるべきなので……
「ガッ……」
ドサッ
門番として現れた魔物も道中と同じように処理し、魔石を回収してから奥のドアへ向かった。
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