マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第47話

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イリスとセリアを伴ってダンジョンに入ると、第1区は人が多くて獲物はほぼ見えず。

朝だからというのもあるが、今日も混んでるなぁ。

月末に近くて納税の時期でもあるからか?

まぁいい。

元々人目のない場所で魔法の触媒を受け取ることになっているし、戦闘ペースを見せつけてセリアが恒常的に同行するのを諦めさせるためにも第2区へ向かう。


ゴトゴトゴトゴト……

俺が引くリヤカーの音が響く中、隣を歩くセリアを見る。

彼女の格好はいつものローブと革のブーツで、腰にベルトで小さめの鞄を提げている。

あれに治癒魔法の触媒である聖水が入っているそうだ。

イリスのような革の防具を持っていないのかと聞いたのだが、効果の低い自分の治癒魔法をなるべくスムーズに発動させるためローブのみにしているとのこと。

なんなら身体を締め付けるベルトもなるべくしたくないらしく、外に居たときと違って緩めにし、鞄の自重による傾きで腰に留めている。

それに加えてリュックタイプの鞄も背負っていたが、まぁ何と言うか……両肩のストラップにより胸が非常に強調され、周囲の目を引いていたので俺のリヤカーに載せさせていた。

俺達の依頼品である魔法の触媒も詰まっているからか、それなりに重量があったので良い判断ではあったのだろう。

そうして進んでいると、徐々に魔物の反応を察知できるようになってきた。

奥へ行くにつれて人が減り、狩られずに無事な魔物が増えたからだ。

そんな中、俺達に気づいたらしい一団がこちらへ向かってくるのを察知した。

魔石の反応は1つずつだし、人である可能性は少ないな。

通路を曲がった先なのだが、匂いにでも反応したのだろうか。

とりあえずは戦闘態勢を取る。


「2人共、その先から魔物の集団が来るぞ。数は……8」

「「っ!?」」

ザッ!


俺の報告に2人は身構えると、イリスは剣を抜き、セリアは持っていた松明を壁際に立てかけて杖を構える。

この杖は真っ直ぐな物で、魔力を集中させ、発動の際に指向性を持たせるための物だ。

なので攻撃性能はただの棒と同じであり、彼女に強い腕力があるわけでもないので主に防御用である。

そんな彼女達が通路の先を見つめる中、俺は後ろでリヤカーを止めてから前に出た。

同時に盾の裏から片手斧を外して右手に持つと、盾を巨大化させ、少しの隙間を残して通路の大半を塞いだ。

その光景にセリアが驚く。


「っ!?それが……」

「あぁ。俺のスキル、”盾の拡大”だ」


これはセリア用に設定したものであり、魔力で盾を一時的に拡大するスキルだということにした。

鎧全体を可変させられるスキルにすると、"魔鎧者"へ辿り着くかもしれないからな。

それに加え、スキルが強力すぎるとチームの専属にと言い出しそうだし、このぐらいならいいのではないかと考えたのだ。


ドッ!ガリガリッ

「ガウゥッ!」


来たか。

セリアに答えた俺は斧を振り上げ、盾と通路の隙間から顔を出した魔狼に振り下ろす。


ガズッ!

「ギャンッ!」


魔鎧による力もあって一撃で魔狼は倒れ、その死骸の上から他の魔狼やゴブリンが体を滑り込ませようとするが……


ガッ!

「ギャウンッ!」

ズガッ!

「ギッ……!」


1体ずつ、あるいは数体をまとめて強引に斧で




「「……」」


何度か斧を振り下ろすと後ろの2人も含めて静かになったので、隙間から盾の向こうを覗き込む。

魔石の反応からして動く魔物がもう居ないのはわかっているが、魔物の位置がわかることは秘密なのでこういう行動が必要だ。

ただ……盾の向こうは暗いので、これで確認出来たというのは不自然か。

そう考えると俺はセリアに指示を出す。


「セリア、松明を」

「……は、はい!」


若干の間の後にそう答えた彼女は、壁に立て掛けていた松明を拾って来て俺に渡す。


「……よし、居ないな」


それを受け取って盾の向こうを照らすと、わかってはいたが動く魔物は居なかった。

それを確認すると盾を元の大きさに戻し、松明をセリアに返して斧に付いた血を振り払いながらイリスに指示を出す。


「イリス、魔石の回収を」

「ええ」


それに応え、剥ぎ取り用のナイフを持ったイリスが魔石の回収に取り掛かると……セリアがリヤカーの方へ向かう。

周囲の警戒をしつつ彼女の動向を注視していると、セリアは自分の鞄から新品ではなさそうな布を出してイリスに近寄る。


「イリスさん、魔石を拭くのは私が」

「じゃあ、はい」


魔狼の皮は多少の金になるらしいが、こちらとしては荷物が増えると困るので見過ごすことになっており、それ故に魔物の死骸を切り開くのは雑でも構わない。

よってイリスは素早く魔石の回収を進め、それに何とかついていこうと急いで魔石の血を拭いていくセリア。

魔石しか回収しないのは伝えてあったし、血を拭き取るための布を用意していたのか?

単にいつも用意しているだけかもしれないが。



問題なさそうなのでそのまま作業を続けさせていると、2人は全ての魔石を戦利品用の木箱に収めて移動する準備を整えた。

俺もリヤカーを引くために彼女達へ近づくと、セリアが"盾の拡大"について質問してくる。


「あの、大きくできるのはその盾だけなんでしょうか?」

「いや、俺が持っていればどの盾でも可能だ」


俺が持っている盾しか大きく出来ないことにすると、この盾自体に仕掛けがあると思われてその情報を換金されるかもしれない。

その情報を元に、この盾をマジックアイテムだと思い込んだ連中が来ても困る。

なので、あくまでも俺のスキルだということを強調するため、俺が持っていればいいとセリアに話すわけだ。

試しに別の盾でと言われても……魔鎧でその盾を覆い、外観を模倣して巨大化させてみせればいい。


「そうなんですか。なるほど……」


俺の説明に納得してか頷くセリア。

しかし、スキルについてそこまで細かい設定を考えているわけでもないので……これ以上聞かれないように移動を再開する。

狩りのペースをなるべく上げなきゃならないからな。


「ほら、行くぞ」

「あっ、はい」







暫くして。


ドズッ!

「ギィ……」


俺の斧を頭頂部に受け、膝から崩れ落ちるように倒れたゴブリン。

盾の大きさを戻すと……そこには同じ手段で倒された魔物が積み重なっており、近くで動く魔物はいなくなっていた。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


後ろで息を切らしているのはセリアだ。

狩りのペースを上げるため、移動速度も上げているのでだいぶ疲れている。

俺は魔鎧によるサポートをしていたので大して疲れておらず、彼女からすれば普通はついて行けないと考えるはずだ。

イリスは護衛対象ということになっているので、リヤカーに乗っていて当然疲れてはいない。

さて、これ以上疲れさせて怪我でもされると良くないだろうし……


「セリア、次の移動からリヤカーに乗ってていいぞ」


イリスが魔石の回収作業を始め、それに参加しようとするセリアにそう言うと、


「ハァ、ハァ……そっ……ハァ、それは……」


と、断ろうとしてくる。

んー……もしかして、チームに入る試験でも受けているつもりなのだろうか?

で、俺の申し出を受ければ不合格になり、の機会が来なくなるとでも思っているのかもしれない。

別に、魔法の触媒が減ったらまた手伝ってもらうつもりなんだが。

あ、そうだ。

今、魔物を片付けたここは第2区の奥深くで、行き止まりの広めな部屋なんだよな。

ここなら人は滅多に来ないだろうし、魔法の触媒を俺の木箱に移しておくか。

人の鞄を勝手に開けるのは不味いので、持ち主である彼女に出してもらおう。


「セリア、そろそろ魔法の触媒を受け取りたいから出してくれないか?」

ビクゥッ!


俺の言葉に身体を跳ねさせるセリア。

何だ?

その様子を不審に思っていると、彼女はイリスの方を指して言う。


「いやあの……あっちの作業が」

「いや、荷物を出すだけなんだからすぐに済むだろう?」

「それは、その……」


言い淀みながら顔色が悪くなっていくセリアに、俺はある予想をする。


「……持ってきてないのか?」


そう聞くとセリアは首を横に振る。


「いえっ、そういうわけでは……」

「ならさっさと出せばいいだろ」

「は、はぁ。じゃあ……」


そう言うと彼女はリヤカーに近づき、自分の鞄に手を伸ばす。

俺達のやり取りを不審に思い、イリスが傍にやって来たところで……セリアは袋に入った魔法の触媒を出してみせた。


「ど、どうぞ……」


そうして差し出された物を見た率直な感想は……イリスが簡潔に述べた。


「……少なくない?」

「う」


気不味そうに呻くセリアが持っているのは片手に収まるほどの小袋で、"フータース"で買った量にしてはかなり少ない。

それを見て、俺は彼女を問い詰める。


「何故こんなに少ないんだ?換金でもしたのか?」

「いえ!そんな事は!ただその、次の機会をなるべく増やそうと……申し訳ありません!」

ザザッ!


セリアは事情を説明すると、即座に額を地に着けた。

土下座か……直接見るのは初めてだな。

いや、それはどうでもいい。

問題はこの件をどう処理するかだ。

思えば、リヤカーに乗るのを拒否していたのはこの件があって気不味いというか、より怒りを買うのではないかと考えてのことだったのかもしれない。

ここまでの戦闘で巨大化させた盾を使って魔物を押し潰したりもしていたので、俺の力を知ってただじゃ済まないと思ったのかもしれないな。

今後の触媒受け渡しを依頼されなくなるだけならともかく、自分の都合で俺達に不利益をもたらしているわけだし。

元々聖職者を雇う予定のなかった俺達は教会から聖職者の派遣を拒否されても困らず、それ故に彼女は直接的な制裁を受けるかもしれないと危惧しているのだろう。

ここで、イリスが魔法使いであることを口外するなどと言って自分の希望を通そうとする可能性もあるが、今のところはそのつもりがないようで……


「……」


じっと静かにこちらの対応を待っているようだ。

まぁ、イリスの件をばらされてもどうとでもなるけどな。

魔法が使えることの証明は容易いが、使えない証明は難しい。

そこで俺が触媒による魔鎧の変化を見せれば俺が魔法使いで、その上でイリスが魔法を使えないと言い張ればいいからな。

そもそも、連れが魔法使いだとは言ったが、それがイリスだとは言ってないし。

ただ、それがない以上は許せないほどの悪人というわけでもないので処分に悩む。

セリアが俺達に同行したいのは自身の治癒能力を高めたいからで、それは誰かを治したいからだと聞いている。

それが事実である証拠はないが、本当に悪人なら協力者を募って待ち伏せでもさせ、そこへ誘導しているだろう。

うーん……預けてある触媒を回収して、運び屋の依頼を打ち切るだけでもいいか。

甘いかもしれないが、取引を打ち切るだけでもセリアにとっては今後の展望が崩れる十分なダメージになるだろうしな。

そう考えていると……イリスがセリアの背後に回り、突き出されている形のお尻を叩く。


パァンッ!

「痛っ!?な、何を……」


突然の衝撃に振り返るセリアだったが、そんな彼女にイリスは無表情で言った。


「脱ぎなさい」

「え?(え?)」


そのとき、俺の心の声がセリアの声とハモった。
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