マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第39話

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「あ、もう頭を上げていただいても……」

「は、はい」


少しの間、重力に引かれる胸を鑑賞させてもらうと……下着でも提供したい気持ちになったが、今のところは物を作る力を隠しているからな。

まぁ、知り合って間もない男から下着を渡されても気持ち悪いだろう。

というわけで、頭を上げてもらって話を次の段階に進める。


「で、いつ部屋を探しに行くかって話なんですが……」

「私の方はいつでも。今の時期には冒険者が増えますから、そういう人を囲うカンパニーが部屋を借り上げて安く住まわせたりします。なのでなるべくなら急いだほうがいいかと思いますが」


収穫の時期が過ぎると様々な理由で冒険者が増え、一攫千金を狙ってこの街に来るようだからな。

それらの新人冒険者を囲うってことは……人材の育成を考えているカンパニーもあるってことか。

新人は住居が確保できるし、カンパニーは人材が確保できる上に部屋の貸し主は遊んでいる部屋が減る。

そんなカンパニーなら規模は大きいのだろうし、そうであれば部屋の貸し主も安心して貸すだろうから手頃な部屋はどんどん埋まっていくか。


「じゃあ、これからでも構いませんか?」

「はい、大丈夫です。ただ……」

「何でしょう?」


モノカさんは急な部屋探しへの同行に了承するも、俺の姿を一通り見て何かが気になっているようなので聞いてみる。


「部屋でお過ごしになるのなら、それは"コージ"さんとしてですよね?不動産業者や部屋の貸し主との交渉はその姿でなさるのですか?」

「あー……」


部屋を借りる理由の1つは気兼ねなく風呂に入るためだし、そうでなくても素の姿で過ごすことは多いはずだ。

瞬時に魔鎧を纏うことはできるので、別に"モーズ"として部屋を借りてもいいのだが……イリスと"宝石蛇"の件で、"コージ"の代わりに注目を引き受けるために作った存在が"モーズ"である。

そんな"モーズ"なので、追跡されたり、他の住人から部屋へ出入りしていることを聞き出されたりすると面倒なことになりそうだよな。

それに、部屋を借りる交渉で筆談というのも煩わしいか。


「"コージ"として部屋を使うつもりなのでこの格好じゃ不味いですね。ただそうなると、"コージ"とモノカさんの関係についてどう説明するかという問題が」

「ああ、確かに」


フレデリカの紹介で知り合ったのは"モーズ"であり、ここに出入りするのも"モーズ"である。

なので"コージ"とモノカさんの接点がなく、なぜ彼女が"コージ"の保証人を引き受けるのかという話には必ずなるはずだ。

その点をどうするかという問題に、俺達はしばらく考え込むのだが……暫くして、モノカさんがこんな案を出してきた。


「あの、お嫌じゃなければなのですが……」

「ん?何かいい考えが?」

「えっと……いい考えかどうかはコージさん次第ですね」

「俺次第?どういうことですか?」


そう聞いてみると、彼女は恐る恐るその案を出してくる。


「その……あくまでも仮の話なのですが、私が貴方とお付き合いしているから、ということにしてはどうかと」

「え?そんな話にして大丈夫ですか?その、本物の方とかは……」


モノカさんは美女でスタイルも良いので本物の恋人がいる可能性は高く、そんな設定にして関係が破綻でもしたら申し訳ない。

そう思って聞いてみるが……彼女は勢いよく顔を横に振り、その勢いで胸も揺らしながら否定する。


「本物?い、いません!そんな人!」

「そうなんですか?なら、言っちゃ悪いけど丁度良かったのか」

「丁度良い?」

「ええ。偶々今はそういう相手がいなかったってことでしょう?」

「え、いや、それは……」


俺の言葉に言い淀むモノカさん。

ん?これは……


「もしかして、今までそういう相手はいなかったんですか?」

「う。ま、まぁ……端的に言うと……」


恥ずかしそうに答える彼女だが、この美貌でモテないことはないはずなので色々と事情があるのだろう。


「あぁ、そうだったんですか。まぁ、色々と"合う"人が見つからなかったら仕方のないことですからね」


外見や性格の好みは人それぞれだしな。

深く突っ込むのも良くないと思いそう言うと、彼女はこんなことを聞いてきた。


「あの……コージさんに私は"合う"んでしょうか?」

「ん?好みの話ですか?」

「はい。その、はお好きのようですが」

ユサユサ……


そう言いながら手で胸を揺らすモノカさん。

先ほども重力に引かれる様をしっかり見せてもらっていたが……こうして自ら躍動感に溢れる光景を見せてくれるのもまた良しだ。

そんな光景を見せてくれている彼女に俺は答える。


「それはまぁ、恋人がいるだろうと思ってたぐらいには魅力的だと思ってますので」

「っ!本当ですかっ!?」

ズィッ


再び俺に迫ってくるモノカさん。

こちらに両手をついた体勢なので、両腕に挟まれた胸が非常に強調されている。

やはりそこを気にしつつも、俺は彼女に言葉を返す。


「本当ですよ。まぁ、俺も今のところは恋人を作る気はないので、こちらから手を出す気もありませんが」


安心させるためにそう言ったところ、モノカさんは俺が恋人を作る気がないという部分に引っかかったようだ。


「え?じゃあイリスさんとは恋人ではないのですか?」

「違いますよ?まぁ、協力するお礼として身体を提示されたので楽しませてもらっていますが」

「そうなんですか?じゃあ……わ、私はどうでしょう?」

「どうって?」

「その、恋人に!」


仕事のこともあり、俺との関係をより強固にしようと思っているのか意を決したように言ってくるモノカさんだが……


「知り合って1日で決めるのはどうかと」

「う。それはそうなんですけど……」


俺は怯んだ彼女に続けて言う。


「それに、恋人を作らないのは俺個人の問題があってのことなので」

「個人の問題?」

「ええ。詳しくはお話できないんですが」


万が一だが、俺の出自がばれて追手を掛けられる可能性がある以上、いつでもこの街を離れられるようにしておかなければならない。

その点で言えばイリスとの関係も不味いのだが……最悪、目当てのマジックアイテムは俺が"コージ"でも"モーズ"でもない"誰か"として購入する方法を模索するか。

そんな俺の言葉に、モノカさんは諦めたわけではなさそうだが……一旦、恋人にという話は引っ込めた。


「じゃあ、その話は保留ということで……」


迫ってきた体勢からお尻を浮かし、俺とくっつくように座ってきた彼女が話を本題に戻す。

俺は魔鎧を通した触感を調整し、その柔らかさを感じながらその話を聞く。


「保証人については……やはり、お付き合いしているからということにしましょう」

「いいんですか?」

「イリスさんのことがあったから確認したのですが、私としては言い寄ってくる方をお断りしやすくなりますので♪」

「ああ、なるほど……というか、言い寄ってくる人がいるんならその中にはいなかったんですか?」

「いないことはなかったのですが……フレデリカ様が強く反対されて、そのあと相手の方の目的が孤児院の土地だったということがありまして……」

「それはなんというか、良かったのか悪かったのか……」

「ふふっ、良かったのだと思いますよ。ここも守れましたし、貴方にも出会えましたし♡」

むにゅり


言いながら押し付けられる胸の感触に、実態としては俺がフリーだということで積極的になった彼女へどう対応するかやや悩む。

それだけではなさそうなこともわかるが、気に入られている理由は稼ぎというか将来性だしなぁ。

フレデリカが引き合わせたという安心感があるのも大きそうだが……いや、そっちのほうが大きいのかもな。

それはさておき、この土地を狙ってるやつなんているのか。

まぁ、壁に囲われた街の中じゃ土地は限られているし、取れそうな土地を狙うのはわからなくもないけどな。

それはそれで面倒なことになりそうなのだが……そっちはフレデリカが対応するだろう。

そう考えた俺は頭を部屋探しに戻す。


「じゃあ、ということにして、これからお願いするということで……どこかで鎧を脱いできます。どこで待ち合わせればいいですか?」

「えっと、ここで脱いでいかれても構いませんが……」

「ここから、入っていないはずの"コージ"が出てきたらおかしいですから。誰が見ているとも限りませんし」

「ああ……」


土地を狙われたことがあるのなら、ここを注視している者がいてもおかしくはない。

なので俺はより警戒してそう言ったのであり、モノカさんもそれに納得したようだ。


「では……ダンジョン前の広場で、南東地区へ向かう道の入口でどうでしょう?」

「え?南東地区ですか?」

「何か問題がありましたか?」

「いえ、泊まってた宿が南東地区にあるってだけで。じゃあ、また後で」

「はい。では……あっ、そうだ」


待ち合わせ場所を決め兜の面を下ろして席を立った俺へ、モノカさんが思い出したように声を上げる。


「何か?」

「ええ。お預かりしている魔石で、仕分けができている分をお渡ししておこうかと。これからギルドの近くに行くわけですし、ついでに換金なさってはどうですか?」


おお、今の俺にはありがたいな。

何なら部屋探しが終わった後にダンジョンで稼いでこようかと思ってたし。

"モーズ"が持っていた魔石の袋を"コージ"が持ち歩くのは不味いので、魔鎧を解除するときに別の入れ物を作ってそれに詰めよう。


「じゃあ頂いていきます」

「はい。では今から持ってきますね」


そう言ってモノカさんは席を立ち、出口のドアヘ向かったのだが……彼女がドアを開くと同時に、3人の女の子が部屋の中へ倒れ込んできた。


キィッ

「わわっ……」
「ちょっ」
「おうふ」

ドサッ


その娘達は門で俺の応対した娘も含めた、孤児院の中へ入ったときにドアの隙間から見ていた娘達のようだ。

ハァ、面を下ろしておいて良かった。

正体を隠し通せることに安堵する俺だったが……ここの管理者であるモノカさんは俺との契約が白紙になる可能性もあるからか静かにキレているようだ。


「……夕飯抜きね♪」

「「「そんなっ!?」」」


朗らかな声の宣告に、食べ盛りと思われる3人の声が悲鳴混じりに上がるのだった。
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