マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第34話

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魔法の触媒をダンジョン内で受け渡しするという話がセリアと決まり、彼女が商会から届く触媒を受け取れる日時を相談する。


「届く前に言っていただければいつでも構いません。基本的には暇なので」


本人的には良くないのだろうがこちらとしては都合がいいので、触媒の購入が決まったら伝えに来るということにして解散となった。


「では、よろしくお願いします」


相談室のある別館をセリアと共に出ると、彼女は俺に一礼してダンジョン前のテントに戻る。

戻ったセリアに同僚らしき女性が声をかけているが……心配しているような表情だし、俺に変なことをされていないかを確認しているようだ。

すぐに否定の言葉が返ってきたのかホッとした顔になったので、変な疑いが晴れたらしいことに俺もホッとしてその場を離れた。

さて、次はフレデリカに教えてもらった"フータース"という商会へ向かうとしよう。

街の南西地区にあると言っていたがこの街は大きく、かなりアバウトな説明なので聞き込みながら向かうしかないな。




暫く歩き、時折人目のない路地に入ってコンパスで方角を確認しつつ南西地区へ向かう。

非武装の人も多いので、この辺りは商店街なのかな?と思って進んでいると……周囲の建物に比べて一際大きい建物が見える。

"フータース"は大きい商会だとフレデリカが言っていたし、あれがそうなのかもしれないな。

そう思って近づいてみるとやはり商店ではあったらしく、広い入口の前で客引きらしき女性達が呼び込みをやっていた。


「いらっしゃいませーっ!この時間だけお安くなってる商品がございますよーっ!」


露出がことさら多いわけではないが、身体に対してサイズがやや小さめの服で声を張る女性達。

赤いスカーフを巻いているので、彼女達自身が商品ということではないようだ。

少し離れた周囲には、彼女達を眺めている男達が居る。

高級店ではないと聞いているので、金がないからといって入店できないわけではないはずだ。

何らかの理由で出入り禁止にでもなったのだろうか?

それでも呼び込みの女性達は見ていたいということでここに来ているのかもしれないな。

そんな様子を見ながら店に近づき看板を確認する。

うん、"総合商店フータース"と書いてあるな。

それを確認していた俺に、呼び込みの女性達が声をかけてくる。


「いらっしゃいませ!冒険者の方がよくお求めになる物は3階と4階になっておりまぁす♪」


その言葉に上を見上げると、この建物は6階建てらしいのが見て取れる。

何階までが売り場なんだろうか?

1番上の階に責任者の部屋があるイメージだが、エスカレーターやエレベーターがないとちょっと面倒だよな。

他の客が出入りする中、その辺りをどうしているのか気にしていると再び呼び込みの女性に声をかけられる。


「お客様?」

「ああ失礼。お邪魔する」

「はい、ごゆっくりどうぞー♪」




"フータース"に入店すると、客が多くて見通しは悪いが、それでも店内の広さが窺えた。

100m四方はないぐらいに見えるが、バックヤードを含めるとそれぐらいはあるのかもしれない。

1階は食料品と日用品がメインのようで、どちらかというと女性客が多いようだ。

店員は幾分女性が多く見え男女それぞれの制服を着ており、男性はウェイターのような、女性は外で客の呼び込みをしていた人と同様に少しピチッとした制服だった。

どちらも外見が整っているように思えるので、それが採用基準において大きなウェイトを占めているのかもしれない。

当然のように女性店員に目を引かれる中、俺は先に来ているはずのイリスを探してみるが……見当たらないな。

この階には保存食などの冒険者が求めそうな物も置いてあるし、俺がうろついていてもおかしくはないはずだ。

だが、商品を見ず何も買う気配のない全身鎧姿の人間はやはり目立つようで、主に女性客から訝しむような視線が飛んできている。

そんな周囲の目を気にして、他の階を探そうとフロアの端にあった階段へ向かうが……そこでこの店の制服を着た女性に声をかけられた。


「お客様、なにかお探しでしょうか?」


長めの明るい茶髪をポニーテールにした若い美女だ。

例に漏れず身体のラインが出ており、メリハリのあるその身体に目が行くも……とっとと用事を済ませようという気持ちが勝って問われたことに返答する。


「ああ。探しているのは確かだが、それは先に来ているはずの俺の連れでな。この店で合流することになっているから店内には居るはずなのだが……」

「お連れ様、ですか?どのような方でしょう?」

「女の冒険者で20歳は行かないぐらいの、剣と防具を身に着けた……まぁ、美人だな」


そう答えると女性店員は思い当たる節があったようで、俺の名前を出してきた。


「あら、もしかしてモーズ様ですか?」

「ああ。それがわかるということは、イリスのことも知っているのか?」

「ええ。少し前に声をおかけしましたらウェンディ様にご用件とのことで、ある方の紹介状をお持ちでしたので先ほどご案内いたしました」


話に聞くとイリスは出入り口付近で俺を待っていたそうで、女1人とはいえ武装した者にその場で留まられるのは困るから声をかけたようだ。

俺と行き違いになるのを避けたかったんだろうな。

で、イリスがウェンディへの紹介状を持っていたので別室で待機させ、紹介状が本物だと確認されたのでウェンディのところへ案内したそうだ。


「そうなのか。ただ、それだと俺がモーズであることを証明する必要があると思うが……」

「あぁ、はい。ですのでその紹介状がどなたからの物かをお聞きしてよろしいですか?」


そう言って女性店員は俺に耳を向けてくる。

ある程度はそれで証明になるのかもしれないが……それでいいのか?と思いつつも、本人には違いないのでまぁいいかと向けられた耳に囁いて答える。


「フレデリカ・ヴァーミリオンからの紹介状だ」

「んっ♡……は、はい。モーズ様ご本人に違いないようですので、ウェンディ様の所へご案内いたします」


俺の囁きに少し変な反応をしていた女性店員だが、とりあえずは案内してもらうことに。


「ではこちらへ」

「ん?階段はそこだが……」


何故かすぐそこにある階段ではなく、反対側にあるドアへ向かう女性店員。

彼女は進みつつ俺の問いに答えた。


「一般の方は有料ですが、上の階へ楽に移動できる物があちらにありますので」

「ほう」


どうやらエレベーターのような物があるらしいのでついていくと……ドアの前に到着し、女性店員がそれを開く。


ガチャッ……ガチャッ

「どうぞ中へ」


開かれたドアの先には箱状のゴンドラ?があり、乗り口の柵も開けられて乗るように促された。

……大丈夫か?コレ。

街の技術的な発展度合いを見ていると、安全面に不安を感じてしまうのだが。

一応、人が落ちそうな隙間などはなく、天井には整備や非常時に使われるであろう乗降口があるので止まってもなんとかなるか。

そもそも俺は魔鎧で飛べるし、今日はダンジョンで魔石を使った魔力の補給もしているので、ゴンドラが落下したとしてもある程度は耐えられるはずだ。


「あの、大丈夫ですよ?魔石は必ず一定以上補充しておく決まりとなっておりますので、途中で落ちたりはしませんから」


ゴンドラに乗らず、中の様子を窺う俺に苦笑しながらそう言う女性店員。


「魔石?これはマジックアイテムなのか」

「ええ。ちょっと失礼……ここの箱に魔石が入っておりまして、ここから魔力がマジックアイテムへ供給されます」


俺の横を通ってゴンドラへ先に乗り込んだ女性店員は、壁についた箱を指してそう言った。

箱には溝が入っていて、中の魔石が見えている。

箱の表面に横線が入っているので、これが補充しておかなければならない量の基準なのだろう。

その隣に上下を表すボタンがあり、それで操作するのだと思われる。

となると……電気製品のないこの世界で電気的なスイッチは作れないだろうし、このゴンドラ全体がマジックアイテムなのかもしれないな。

細かい仕組みが気になるが彼女にも自分の仕事があるはずで、これ以上の時間を取らせるのも申し訳ないのでゴンドラに乗り込んだ。


バタン、ガチャン

「では、上へ参ります♪」


ドアとゴンドラの柵を閉じた女性店員が上昇するスイッチを押すと、ゴンドラは音もなく動き出した。

モーター音などはしないが……どうやら動かす間はスイッチを押し続ける必要があるらしく、女性店員はスイッチを押したままである。

ドアの裏に数字が書いてあるので、それで現在地を確認して手動で操作するようだ。

その様子を見ながら上の階に到着するのを待っていると、エレベーターと大して変わらない速さで6階へ到着した。

女性店員は少し出来ていた乗降口の段差をなくすように微調整し、それが終わるとスイッチから離れてドアと柵を開く。

ゴンドラは空中に留まる形になるが、この間は魔力を消費するのかが気になるな。


「どうぞ、お降りください」


促されてゴンドラを降りると、ゴンドラの柵とこの階のドアを閉じた女性店員も降りてきて再び俺を先導する。

派手ではないが高級そうな置物が置かれる通路となっており、各所に警備員が置かれているが……彼らは俺達に何も言わない。

店員が案内しているからだろうと気にせず進むと、応接室と書かれた部屋の前に到着した。


「こちらでお待ちです」


女性店員はそう言うと、ドアをノックしてその向こうへ入室の許可を取る。


「イリスさーん、お連れしたわよー」

「あ、はい!どうぞ!」


ん?この場合はウェンディ氏にお伺いを立てるものだと思ったが……今は部屋にイリスしか居ないのか?

だとしたら何故それを把握しているのだろう?

そんな疑問を持ちつつも、ドアを開いて「どうぞ」と入室を促されたので入ってみると……ソファから立ったらしいイリスと再会する。

無事にここへ通されていたことに安堵するも……彼女の口から発せられた言葉に俺は驚いた。


「あ、モーズ……ってウェンディさん、何故そんな格好を?」

「えっ」


その発言に案内してくれた女性店員を見ると、彼女は俺に自己紹介をする。


「はじめまして。"総合商店フータース"の管理部部長、ウェンディ・フータースです♪」
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