マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第28話

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ダンジョンの第2区を進む俺達は何度か魔物達との戦闘を熟した。


「ギッ!?」
「グゲッ」
「ギャンッ!」

「終わったぞ」

「ええ……何度見ても戦闘というよりは作業ね」


俺が拘束していた魔物達の頭を斧で割ると、魔物が動かなくなったのを確認してイリスがそう言う。

彼女の言う通り、動かないものを処理するだけになっているからな。


「まぁ、今のところはな。進んで行けば物を投げてきたり、何かを放ってくる奴も出てくるだろう」

「でしょうね。でも、私は本当に戦わなくていいの?」


魔物達から魔石を摘出しつつイリスが聞いてくる。

これまで一度だけ魔法を使って見せてもらったが、それ以降は待機させていたんだよな。

魔法が使えなければ普通の女だし、戦力に数えられるほどの力は無いしな。

これは彼女が魔法使いであり、それを補強するようなスキルがあることを秘密にしているからだ。

今、俺達が居る第2区は人目が少ないとは言え全くないわけではないし、俺のように姿を消せる力を持つ者もいるかもしれない。

姿を消せることについては秘密なので……とりあえず、誰に見られるかわからないからと言って魔法を控えさせている。


「魔法を使うとしばらくその場に影響が残るんだろ?なら使わないほうが良いだろうからな」

「それはそうだけど……いいのかしら?」

「いいんだよ。俺だって大した労力を使ってるわけじゃないし、俺ではどうにもならないときのために温存してるとでも思ってればいい」

「貴方の力でどうにもならない場合、私の魔法でどうにかなるとは思えないのだけど……」


ワイヤー状の魔鎧と斧で魔力と物理の両方を使っているので、俺の力が通じない時点でイリスの魔法も通じない可能性は確かにある。

だが……


「まぁいざというときに取れる手があるってだけでも、精神的に落ち着いて行動できるかもしれないからいいんだよ」

「そう。でも、その鎧は魔力で出来てるのよね?ずっと使ってるけど大丈夫なの?」

「あー……まぁ、消費してるわけじゃないからな。魔力として自分に戻せるし」


魔力を消費していることにすると俺の魔力の量が異常だと思われそうなので、とりあえずそう説明しておく。


「魔力を戻せる……それって"魔力の糸"とは別のスキルなの?」

「さあ?"祝音の儀"では1つしか聞いてないぞ」


これは事実だ、内容は違うがな。


「じゃあ、スキルの使い方の1つってこと?」

「多分な」

「ふーん……まぁ、それはそれとして、魔石の回収ぐらいしかすることがないのはどうかと思うのだけど」


俺の答えに理解はしても納得はしていなさそうなイリスだったが、話を戻して自分の役割を再び気にし始める。

元々女性だけが加入できるカンパニーの力を頼るつもりだったわけだし、そのカンパニー全体へ分散するはずだった気持ちが俺1人に集中しているんじゃないだろうか。

同じ施しを受けたとしても、団体から受けたものへの謝意は団体全体に対して向けられるのだろうが、それが一個人に集中することで申し訳なさを強く感じてしまうのかもしれない。

うーん……その立場故の気持ちはわかるが貴族かそれに近しい人間なんだろうし、護衛を依頼している商人みたいに人を使っているつもりでもいいんだけどな。

俺も使わけだし。




しばらくして。

運べる荷物の量を考え魔石のみを回収しながら歩き回った俺達は他のチームを避け、タイミングを見て誰もいない休憩部屋で休むことにした。

他人を避ける理由はイリスが絡まれるのを避けるためと、俺の変装に欠点があるからだ。

それは声。

流石に声を変えられる道具を持っていては都合が良すぎてイリスに怪しまれてしまうだろうと考え、声には手を加えないことにした。

なので姿はともかく声をあまり誤魔化せないと判断し、外部の人間との会話を避けようとしているわけだ。

頭部も魔鎧で覆っているので籠もった声になるし、声色を変えれば何とかなるかもしれないが……まぁ、念の為ということで。

そんな俺は部屋の入口から見えにくい場所に座り、食事のために頭部を晒すと……イリスがいきなりキスをしてきた。


「ンッ♪ンチュ……」

「むぐ……ん?」

ちゅるっ……ゴクッ


何かを流し込まれる。

まあ、さっき彼女が口に含んだ水だとわかっているので飲み込んだ。

一口分の水を飲み切るもイリスの口は離れず、その舌が侵入してきて俺の舌に絡みつく。


ちゅっ……ちゅるっ…………ぷはっ


一頻り俺の舌を味わった彼女は口を離すと、今度は俺の股間に手を伸ばした。


「あの、良かったら口でするけど」


どうも大して仕事していないのを気にしているらしい。

聞かれるたびに気にしなくていいと返していたんだがな。


「いや、水の口移しはまだいいんだがそこまでは……人が来ないとも限らないし」


そう言って俺はやんわり断ろうとする。

実際、もしも魔石を1つも持たずに近づかれたら感知できないからな。

そうなると……この部屋へ繋がる通路の地面に仕掛けておいた、魔鎧の網による重力感知でしか察知することができない。

ここでは板状にすると踏んだときに違和感があるだろうから、魔鎧の糸を網状にして設置した。

一応、普通の人の3歩分ぐらいの面積にしてあるので、浮いたりしない限りは気付けると思うが。

俺は自分を特別な人間だとは思っていないタイプだ。

なので、自分にできることは"誰か"も実行できる可能性があると考えて断ろうとしていると……イリスはこんなことを言い出した。


「口でしてるだけなら見られてもいいわ。むしろ見られたほうが"モーズ"の女だと思われて、"コージ"との関係があるとは思われないんじゃない?」


"モーズ"というのは全身鎧姿のときの俺のことで、前世の家名である"模栖もず"を伸ばしただけである。

こっちで前世の家名を名乗ったことはなかったはずだからと採用した。

それはいいとして……イリスの発言には問題がある。


「いや、俺は見られるだろ」


そう、彼女が肌を見られることはなくても、俺の股間は露出しているはずなので普通に見られてしまうのだ。

それを指摘したのだが……返ってきたイリスの発言で俺は微妙に悩むこととなる。


「え?男の人はに自信があれば見せつけるぐらいだって聞いたのだけど……あの大きさでも自信ないの?」

「えーっと……」


昨日の件で彼女には十分な大きさだと思われているようだが……この世界の平均なんて知らないからな。

ダンジョン街に来る道中で出会った冒険者達とは一緒に用を足すこともあったし、そのときのことを思い返せば自信を持てないほどのサイズではない。

ここで断れば……俺はに自信がないと思われるのか。

それは気に入らないな。

一応、イリスがその立場の場合を想定した質問をしてみる。


「じゃあ、イリスだったら女に胸を見られても恥ずかしくないのか?」

「同性なら別に気にならないわよ?」

「あー……そうか」


こいつは大きいし、形や先端とその周りのバランスが良いので自信があるのだろう。

見られる事自体の恥ずかしさはないのかと思ったがもしかして……こいつはメイドさんなどに着替えを補助されており、見られることに慣れているのではないだろうか。

あくまでも同性に限った話だろうけど、こいつがお偉方のお嬢様なのではと暫定的に判断していたがその可能性がより高まることとなった。

で、俺の方だが。

好き好んで見せる性格ではないが、余程集中して見られなければまぁ別に、という感じである。

というわけで……俺は魔鎧の一部を解除して前を開けた。

今日は行動を共にするきっかけを作るアリバイ作りで来ているようなものだし、魔物を狩るのも俺の戦い方などを見せる意味合いが強いので時間には余裕があるからな。


「ほら、好きにしな。でもやり方は知ってるのか?」

「ええ。貴方が帰った後、あの席に案内してくれた店員が教えてくれたの。無理矢理されそうになったら、何度か出させれば諦めさせられるからって」


何教えてんだ、あの店員。

だがまぁ、口で何とか治めさせればそれ以上のことを回避できる可能性はあるのかもしれないので無意味ではないだろうけど。

そんな事を考えているとイリスは早速舌を出し、顔をへ近づける。


「じゃあ、やるわね。レロォッ……」

「っ……」

「あ、硬くなってきた。じゃあ……あむ」

ちゅぽっ、ちゅぽっ……

「っっ……」


熱心に頭を動かすイリスとその感触に、俺が無理矢理女を襲うような男だとあの店員に思われていたらしいことは水に流し……その後、人の気配に気をつけながら休憩を愉しんだ。




休憩を終えた俺達は再び第2区で狩り回る。

休憩なのに体力を消費してしまったので、水で薄めた栄養ドリンクをイリスと分け合った。

その味に不思議そうな顔をされたが、その薬特有の味だと言って誤魔化す。

お陰で問題なく狩りを再開できるようになったのだが……正直退屈である。

魔物の位置はわかるし拘束して斧で頭を割るだけなので、気をつけるのは魔石を持っていない冒険者ぐらいだった。

戦利品の魔石を仲間内で分散しているチームもあれば、誰か1人に集中して持たせている場合もあるからな。

その中から魔石を持たない者が偵察に出ていたりすると、こちらは目や耳で気をつけるしかなくなってしまうのだ。

で、退屈ならばと第3区に進んでも良かったのだが、そこで別の問題が浮かび上がる。


ズシッ

「……それ、重くない?」


戦闘という作業の終了後、魔石を回収して鞄を背負った俺にイリスがそう聞いた。

戦利品用の袋は魔石のみでもかなりの大きさと数になっており、それを収納した鞄も相応に膨らんでいる。

魔石は鞄に仕舞うと見せかけて、不自然に思われない程度には少しずつ吸収していたのだが……それを上回るペースで稼げてしまったのだ。

それでも魔物が枯れなかったのはダンジョンの性質なのかな?

で、鞄は魔鎧の上から背負っているので重さを感じてはいないのだが、動くのに邪魔だとは思っていた。

それによって魔力の消費も幾分増えているので、それをイリスに伝えると帰還を提案される。


「じゃあ、今日はもう帰りましょうか」

「いいのか?」

「ええ。今日はお試しみたいなものだったし、あなたの力は十分把握……はできてないけどわかったから。浅い場所ではマジックアイテムなんてほぼ出ないそうだし、魔石だけでそんな荷物になるとわかって次からの方針も変えられるしね」

「次からは道中の魔物はなるべく避けて、可能な限り奥へ向かうってことか?」

「ええ。ただ、奥へ行くのなら水や食料を考えると荷車があってもいいのかしら。貴方なら荷車を引いていても魔物に対応できるでしょ?」

「まぁな。だが最初はずいぶん遠慮してたのに、少々人使いが粗くなってきてないか?」


そう言うとイリスは情欲の籠もった目でニヤリとする。


「使った分だけ使いいと考えただけよ。貴方の力を見て、目的のためには遠慮している場合じゃないと思って♪」

「へぇ……じゃあ、今日は早く戻るし時間はあるな?」

わしっ


そう言いつつ無造作にお尻を掴む俺に、彼女は承諾しつつも1つの断りを入れた。


「んっ♪……それはいいのだけど、買い物を済ませてからでいいかしら?」

「買い物か。水や食料に……荷車もか?」

「それもあるけど、魔法の触媒も買い足しておきたいの」

「触媒を?買ったことが何処からか漏れたら、魔法使いなのがバレるんじゃないか?」


そう聞くとイリスは困った顔でそれに答える。


「問題はそこなのよねぇ。今までは家から持ち出した分で賄えていたのだけど、昨日の件で減ってしまったし……」

「じゃあ、"コージ"として買って"モーズ"として渡すことにするか。それなら"コージ"が魔法使いだと思われるだけで済む」

「いいの?それはそれで貴方が注目されてチームやカンパニーに誘われそうだけど」

「む、それは……たしかに面倒なことになるな」


"宝石蛇"みたいなカンパニーがあるわけだし、魔法使いだと思われれば強引な手段を取られるかもしれないか。

イリスが入ろうとしたカンパニーの面接担当者によれば、魔法は戦闘に使えなくても水を出せるだけで重宝され、魔法使いというだけで大抵のチームやカンパニーには加入できるそうだ。

触媒さえ用意できれば使える魔法の属性に制限はないし、水を出すぐらいは誰でも可能らしいからな。

もちろん、人格によっぽどの問題がなければだそうだが。

まぁ、"宝石蛇"でなくても"コージ"としては誰とも組む気がないので、断ることが確定している件で時間を取られるのも煩わしい。

そんなわけで、


「「うーん……」」


と2人で悩んでいたところ、ある物を思い出した。

森に住んでいた頃、魔法を使うゴブリンから回収した赤い石だ。

これを持ったまま魔鎧を使うと身体が炎に包まれたが……これも魔法の触媒なのか?

3つのうち1つは偶然使ってしまったが、残った2個はそのまま取ってある。

イリスが火の魔法で使っていたのは赤い粉末だったので、あれは磨り潰した物か別物かわからないが……これを彼女に渡してみるか?

ただ、これは俺にも使えた物だし、奥の手として取っておきたい気持ちもあるんだよな。

となれば……俺は密かに手の中であの石を作成する。

ん。

今までは必要がなかったので試さなかったのだが、問題なく作成することができた。

なら、他の触媒も作成が可能だと思っていいのかもな。

さて……これをどうするか。

すぐに消費するのなら粉末にしてから渡してもいいが、そうでない以上は落としてしまったりして他人に渡ってしまう可能性がある。

そうなればそれが偽造品だと判明するかもしれないし、そこから物を偽造できる能力を持つ者を捜されて実家にそのことが伝わるかもしれない。

うーん、面倒だ。

イリスのことは……ヤることはヤッたし性格が良いのもわかっているのだが、件の呪いを解くマジックアイテムと引き換えに俺の情報を要求された場合、それに応じないとは限らない。

身内の方が可愛いのは当然だろうし、俺なら悩むだろうけど結局応じてしまう可能性が高しな。

となると……これはやはり渡せないか。

何か詮索され難いルートがあればいいのだが。



結局、俺達は街に帰ったら触媒以外の買い物をすることになった。
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