マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第23話

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雑貨屋で聞いた話にダンジョンへ向かった俺は、魔鎧で姿を消してあの女性冒険者を探し回った。

別に助ける義理も義務もないのだが、犯人側が俺を騙っているというのが無関係じゃない気にさせるのだ。

まぁ、俺が先に名乗り出てれば良かったわけだしな。

あの男達が何をするのかは確定できないが、少なくとも人の多い第1区で犯行に及ぶとは考えにくい。

なので真っ直ぐ第2区まで進んだ俺は、魔石の反応を頼りにして探し始める。



浮遊して足音で俺の存在がバレないようにしたが、風の動きや風切り音も気にしたことで移動速度に制限が掛かることになった。

魔物をスルー出来たのもあってそれだけでも十分早い捜索速度だったはずだが、魔石の反応は魔物の一団あたりの数が多いことで冒険者のチームと区別が付きにくい。

だからか、発見したときには全裸にされたあの娘が1人の男に挿れられる直前だった。

すぐに魔鎧のワイヤーで首を締め上げ、手足もまとめて壁に張り付ける。

他の男達も全員同じ目に合わせ、あの娘が逃げるのを待って引き上げるつもりだったのだが……彼女は全裸のまま、おそらく魔法の炎を男達に放った。


「"解放リリース"!」

ゴウッ!


あの娘、魔法が使えたのか。

昨日は口を塞がれていたから使えなかったのか?

ゴブリンの場合だが、呪文を口にする必要があったようだしな。

にしても、ずいぶん短い呪文だな。



暫くして、その場にいた男が全員されたので、順次消去していた魔鎧のワイヤーも全てが消去できた。

散乱する黒焦げの"何か"。

まぁ、そうなること自体は男達の自業自得であり、この国の法的にどうなのかはわからないが……彼女の権利だと考えられなくもないな。

人が殺されるところを見るのはそれなりに精神的なストレスだったが、ゴブリンやオークなど、人型の魔物を倒してきたのもあってそこまでの衝撃は受けなかった。



そんなわけで……俺はあの娘の権利行使を見届けた後、その場を離れようとした。

解体場のフレデリカの件もあったし、やはり面倒事は極力避けて暮らしたいからだ。

だがそんな時、あの娘はその部屋の入口へも手を伸ばし、小指を立ててその先端をこちらへ向ける。

こちらは曲がった通路の陰だし、炎が届いたとしても魔鎧があるので大丈夫だとは思うが……俺にも魔法を放つ気なのか?

男達を拘束した力が自分のものではないとあの娘自身はわかっているはずだし、その指の先に居ると思っているのは手を貸した相手だともわかっているはず。

やはり相応の言い分があっても殺人は不味いということで、それを見られているから口止めをと考えたのかもしれない。

このまま去ってしまうと……あの娘はずっと密告に怯えて過ごすことになるのか。

そう思っていると、その娘は魔法の炎ではなく言葉を放ってきた。


「出てきたらどう?」


どうやら話す気はあるようなので、すぐに攻撃されることはなさそうだ。

なら、顔を見せて「俺も共犯だから密告などできるわけがない」と言って安心させてやろう。

そう考えて魔鎧を迷彩モードから透明モードに変更し、昨日と同じ装備の姿になって部屋の入口に立つ。


「貴方は……」


俺を見て彼女は驚きの表情を見せる。

予想外だったのだろうか?

スキルにも慣れや上達はあるようだし、ここまでのことを俺ぐらいの年齢でやれるとは思えないのかな。

彼女は半身に構えて左手をこちらへ伸ばし、右手で胸を隠している。

それによって全体的にスタイルを強調するような体勢となっており、顔も含めてその姿に気を取られていると……彼女は再び口を開く。


「昨日も含めて、助けてくれたのは貴方なの?」

「……まぁ」


俺がそう答えると彼女は……怒った。


「っ!どうしてすぐ教えてくれなかったのよ!?相手がわかってたらこんな目に遭わず済んだのに!」


ご尤もな言い分ではある。

だが……


「そう言われてもなぁ。連中、あの後拘束もされずに街へ入って行っただろ。で、今日もこんな事ができてるぐらいなんだし、大きな組織か権力者と繋がってるんじゃないか?だとしたら、目を付けられた君に近づきたくないと思うのは当然だろう」

「それは……でも、こんな力があるんならどうとでもなるんじゃないの?」

「この街に来たばかりなのに、常に警戒し続けて暮らせって言うのか?それに、俺は対応できても宿とか店なんかに何かされるかもしれないだろ」

「う」


容易に想像できたのか、気まずそうな顔をする彼女に俺は言葉を続ける。


「まぁそういうわけで、今日の件も君に関わったことも口外する気はない。今後も関わるつもりはないから安心しろ」


この美貌は惜しいと思うが……状況としては銃を突きつけられているようなもので良い気はしないし、言っておくことは言えたので帰ろうとした。

そんな俺の態度に、彼女は慌てて引き留めようとする。


「えっ?……あ、ちょ、ちょっと待って!」

「ん?まだ何か?」

「いやその……えーっと……」


向けられていた左手の指は全てが開かれ、同時に一歩こちらへ踏み出したことで半身の構えが解かれて彼女の身体をほぼ正面から見ることになる。

胸は隠されたままだが……股間は普通に全開だった。

彼女のは、文字通りの不毛地帯のようだ。


「?……あっ!」


そんな俺の視線を感じたのか、彼女は左手でそこを隠す。

まぁ、好きで露出しているわけでもないのでジロジロ見るのはよろしくないか。


「ああ失礼。俺はもう行くんで服を……」

「あっ、いや、だからちょっと待ってって!」

「いや、だから何?」


再び引き止められたことに若干迷惑そうな顔をしてそう返すと……彼女は両手を下ろして隠していた部分を曝け出した。


「は、話があるのよ。その……み、見ててもいいから聞いてくれない?」


真っ赤な顔で彼女はそう言う。

今は自ら見せているわけだから、遠慮なく鑑賞したいところではある。

しかし……俺は首を横に振る。


「あまりゆっくりはしていられない。見張りらしい連中がまだ残ってるし、暫くすれば様子を見に来るはずだ」

「え?始末して来たんじゃないの?」

「いや、隙を見て素早く通ってきた」


実際は透明になっていたから気づかれずに通れたわけだが、ここでは適当に誤魔化しておく。

透明化も普通に悪用できる技術だし、疑われると否定のしようがないし。


「そうなの?ここに無関係な人が来ないように見張らせてたらしいし、そんなことできるのかしら……」


俺の説明に不可解そうな彼女だったが、見張りが残っているという話に慌て出す。


「って、今はそんな事を気にしてる場合じゃないわね。私は顔を見られてるでしょうし、このまま外へ向かえば……」

「ん?さっきみたいに魔法で片付けるわけにはいかないのか?」

「無関係の人間を装われたら、連中の仲間だと確認できるまでは下手に手を出せないわ」


流石に、無関係の人間に誤射するのを良しとはしない考えのようだ。


「ああ、そういうこともあるか……じゃあ、俺が連中の仲間のフリしてそいつらをここに連れてこようか?」

「貴方が?あの連中は同じカンパニーみたいだし、難しいんじゃないかしら」

「やっぱりそうか……」

「それに上手くいったとして、焦げ臭い匂いは松明や焚き火だと思われるかもしれないけど、この部屋から男達の声が聞こえなければ怪しんだ誰かが偵察に来るでしょうから……」

「そいつが離れた仲間に知らせて逃げられるかもしれないか。すぐに始末したとしても誰かは外へ連絡しに行くだろうな」

コクリ


俺の言葉に彼女は頷くと、続けて戦力的な問題を口にする。


「それに……その、実はもう魔法は使えなくて」

「え?なんで……あ、触媒か?」

「いえ、魔力のほうね。触媒が少ないのも確かだけど」

「うーん……」


最悪"一時的に誰にも気づかれないマジックアイテム"を使用することにして俺が魔鎧でこの娘ごと覆い、来たときと同じ様にダンジョンを脱出してもいいのだが……それではこの部屋の連中がこの娘に殺されたと認識され、こいつらの仲間や後ろに付いてる奴から狙われ続けるかもしれない。


となると……仕方ない。


ザッ、ザッ、ザッ……

「ハァ……おい、動くなよ」

むにゅり


俺はあることを決めて彼女に近づくと、そう言うと同時に彼女の胸を掴んで揉み始める。

当然、彼女は驚いた。


「え?……キャッ!な、何を?」


状況的に大きな声を上げるべきではないと判断したのか抗議の声は小さなものだったが、自身の両手で俺の両腕を掴むことで抵抗してくる。

後ろに下がらないのは動くなと言った影響だろうか。

そんな彼女に俺は行動の理由を説明する。


「これからやることへの報酬を先に払ってもらってる」

「これから?」

「見張りの連中は始末してここに運んでくる必要があるだろう。ただな……俺は人型の魔物を殺したことはあるが、人は初めてなんでな」

「あ……」


その発言で、俺の両手への抵抗に使われていた彼女の両手が下ろされる。

彼女についての情報は少ないが、非情な人間ではないようなので俺の心境を理解できたのだろう。


「んぅ……その、気が済むまでいいから」


小さく発せられた言葉に、俺は暫く両手を動かし続けると……その後、その部屋には20体以上の"何か"が増えた。
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