マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第21話

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朝食後。

俺は店を出ていく人達を見送ると、まだ忙しそうにしていたリンナを手招きで呼ぶ。

客が全て出払ったわけではないし、この後は部屋の掃除があるらしいので必要なことだけを確認する。


「なぁに?」

「中古の武器や防具を扱ってる店って知ってるか?」

「中古?今持ってるのを修理にでも出すの?壊れてそうには見えないけど」


リンナの部屋を出る際に自分の荷物は持ち出しており、持っていた武具は魔力に戻すところを見られるわけにはいかないので装備している。

そんな武具を見ながら彼女はそう言うが、当然壊れてなどいない。

新品で質が良さそうなこれらは目立ち、変に注目されるのを避けたいので中古の武具を買うつもりなのだ。

"紛い物"で適当な冒険者の武具を作成し、ある程度使い込まれた感じを出してもいいが……今の武具を知られていれば、替えた理由を聞かれるのは自然なことだ。

なのでこの武具を使わなくなる、なるべく自然な理由をでっち上げた。


「えーっと……これは借り物なんで、なるべく無傷で返したいんだよ」

「あら、そうなんだ。でも中古の武具ねぇ……」


聞けば、冒険者が多い街だけあって鍛冶屋は多いが、騒音対策でダンジョン入り口の周辺に集中しているらしい。

ただ、鍛冶屋としては新品を売りたいので買い取りを行っておらず、中古の武具は普通の商店で取り扱っているとのこと。


「まともお店なら程度に合った値付けをしてるんでしょうけど、そうでないお店ならしっかり見極められないと粗悪品を売りつけられるわよ?だからそのままそれを使ったほうが安全だと思うんだけど」

「そういうわけにもいかないからなぁ……まぁ、普通の店に売ってるのがわかればそれでいいよ。適当に見て回るから」


使い込まれている見た目であれば、実際の性能はどうでもいいからな。




というわけで、宿を出た俺は中古の武具を探しに周辺をぶらつくことにした。

今俺がいるのは南東地区であり、宿や酒場が多い地区だ。

なので鍛冶屋は多くないのだが、日用品の修理がメインの鍛冶屋もあるらしく、それらは地区に関係なく営業しているそうだ。

小規模の店舗でも対応できるからかな。

ただそうなると、店が狭いぶん扱っている商品も包丁などの小型に限られているだろうし、普通の鍛冶屋に倣って新品しか扱わないかもしれない。

というわけで、俺は普通の商店をメインに見て回ることにする。

"牛角亭"から少し離れた路地で人目がないことを確認すると、革の防具一式を魔力に戻して普通の街人のような格好になった。

剣は元のショートソードのままだが、防犯を気にして変更しない。

服は……昨日から着ていてダンジョンもこれで歩き回ったし、このままでいいだろう。

生地はともかく、デザインはこの世界に準拠した物だしな。

そうして路地から出た俺は、中古の装備を探すために近場の商店へ入ってみた。



しばらくして、数件見て回った俺は渋い顔で次の店を探していた。

中々良い物が見つからなかったのだ。

今まで使っていた物は、所々を金属で補強された革の防具だった。

それに比べてややランクの低い物にするつもりなのだが、程度が悪すぎる物は金に余裕がないように見られ、窃盗などを疑われやすくなりそうなのでなるべく避けたい。

何も悪さをする気がないのに店員にやたらと警戒されるのは、相手も仕事だし仕方がないとはいえ傷付くものだからな。

そう考えて適度な状態の中古品を探すが……丁度いい物は中々見つからなかった。

装備を買い替えるタイミングといえば、修理できないほど壊れたか、もっとランクの高い物が欲しい時か。

それに加えて、自身に冒険者はやれないと判断して売り払う場合もあるそうで、商店での買い取り自体はそれなりにしているようだ。

しかし……冬前のこの時期は家の財政状況などで冒険者になる者が増えるらしく、この街にもダンジョンに入って稼ぐつもりでやって来る。

よって、程度の良い物は大手のカンパニーがこぞって買い集め、新人や"運び屋"と言われる荷物運びの役割を担う者に貸与しているそうだ。

会社の備品みたいな感じだろうか。

結果……商店に置いてある、新人が使いそうなランクの品は、新品同様の物かボロボロの物のどちらかになっていた。





「いらっしゃい。何をお探しで?」

「中古の防具を探してるんですが」

「ああ、だったら2階に置いてあるよ。上にも店番が居るからそっちに対応してもらってくれ」

「はい、どうも」


"牛角亭"から結構離れた、雑貨屋らしき商店。

その店主らしきおじさんに言われて2階へ上がると、20畳はなさそうなフロアの一部に武具が陳列されていた。

それ以外は……冒険者向けの道具や食料かな?

この店も例に漏れず、武具に関しては程度の良すぎる物と悪すぎる物にほぼ二分されていた。

階段を上がった正面にカウンターがあり、気弱そうな若い男性店員がいる。

俺が上がってくる音でこちらを向いたが、それまではフロアの何処かを見ていたようだった。

他の客を見張っていたりしたのだろうか。


「あ。い、いらっしゃいませ」

「中古の防具を見たいんですが」

「あ、はい。あの辺りですのでご自由にどうぞ」


大体の位置を手で示されて特に案内などはされないが、一般的にはこれが普通の対応である。

変に気を使われないことに安心し、防具が並ぶ棚へ向かったのだが……いくつかの棚を見て回ると、武器が並ぶ棚の方で見たことのある顔を見つけた。

あれは……昨日この街に入る前、冒険者らしき集団から絡まれていた娘だな。

昨日と同じ様に武装しているので、これからダンジョンにでも入るのだろうか。

今は3人の男達に囲まれているが、今日は赤いスカーフを巻いているからか前回のように何かをされているわけではない。

その3人も冒険者のようで彼女へ親しげに話しかけているが……何だか微妙な雰囲気だな。


「なぁ、そろそろダンジョンに入らねえか?」
「そうだな。中はともかく、入り口は空いてくる頃だろうし」
「中古じゃ良い武器なんてそうそう見つかんねえしよ」

「……わかったわ」


彼女達はダンジョンに入る準備としてこの店に来ていたようだ。

男達の声に応じて彼女が階段へ向かうと、機嫌を良くした男達がそれに続く。

本人が同意しているからには同じチームの仲間なのだろう。

そう考えて、特に何をするでもなく見送ろうとしたのだが……男の1人がちょっと気になる発言をした。


「ま、安心しなって。昨日お前を助けたスキルもあっからよ」


ん?昨日?

街の門前でのことであれば、あの男は俺を騙ってあの娘とチームを組んだことになるな。

だが、あの娘だってあの男が本当に自分を助けた力を持っているのかぐらい確認するだろう。

となると……昨日は昨日でも門前のことではなく、別件で彼らに助けられたのかな?

あの娘、助けが必要なトラブルに1日で2回も遭遇してたのか。

女性の冒険者という珍しい属性が引き寄せるのかもしれないが……難儀だなぁ。

見た目が良いのは得もするだろうが、危険に関しては下手すると普通の人より酷い目に遭う可能性もありそうだ。

モテすぎる男友達も大変そうだったしな。

その点で言えば……俺は現世でも程々の顔だったので丁度良かった。

このぐらいでも身形や態度次第では好感を持たれるらしいことが実証されているからな。

そんなことを思いつつ探した武具の方だが……やはり丁度いい物は置いていなかった。

店員に聞いてみるも、


「そこに無ければ無いですねぇ」


と言われたので店を出ることにする。


「じゃあ、他を探します」

「あ、はい……」


……?

どうもこの店員の態度が気になる。

さっきからソワソワしていて、心ここに在らずといった感じなのだ。


「……どうかしましたか?」


気になって聞いてみると、店員は不安そうな顔で答える。


「いえ、その……さっきの女性、大丈夫かなって」

「さっきの?4人組にいた人ですか?」


俺が来店する前に退店した女性が居なければ、他には客が居なかったのでおそらく彼らのことだろう。


「はい。どうやら、昨日彼らに助けられたことで彼女がチームに入ったらしいことを話してまして……」

「はあ、それがどうかしましたか?」

「10人以上の冒険者に囲まれていたところを助けられたようですが、そんな人達が目をつけた女性に近づくからにはその人達に対抗できるだけの力が必要なはずです」

「まぁ、彼女のことを諦めない可能性もあるでしょうしね」

「ええ。でも彼らの装備からするとそこまでの力はなさそうなんですよね。そんなに力があれば、もっと稼いでもっと良い装備に替えているんじゃないでしょうか?」

「彼らが街に来たばかりということは?」


俺のように新人冒険者の可能性もある。

そうであれば、力はあっても装備が粗末である場合もあるだろう。

そう考えて聞いたのだが……


「見たことはある顔ですし、彼女にダンジョンを案内するみたいなことを言ってましたので……」

「そうですか……なら、彼らはどうやって彼女を助けたんでしょうね?」

「ああ、それは彼女にも詳しくわかっていないらしいんですよ。何らかのスキルらしいのですが、ダンジョンの中で見せるとは言ってましたね」

「ダンジョンで?彼女を助けたときもダンジョンの中だったんですかね?」


彼らの誰かが持つスキルはダンジョン内限定のスキルなのだろうか。

そして彼女も俺と同じ様にこの街に着いてすぐダンジョンへ向かい、彼らの助けを受けることになったのかとそう聞いたのだが……返ってきた店員の言葉で俺はすぐに店を出た。


「いえ、街に入る前の列に並んでいたときだったそうですが」
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