マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第12話

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とりあえず、あの娘を囲んでいた連中は衛兵達に連れて行かれた。

随分大人しく従っていたようだが……だからこそ拘束はされたりはしていなかったのかな。

俺はもう大丈夫そうなことをを確認すると、連中の首を締め上げるのに使ったワイヤー状の透明な魔鎧を消しておく。

おっと、絡んでいた男達を見送ったあの娘が周囲を見回しているな。

仲良くなればがあるかもしれないが……出来れば目立ちたくないので、目を逸らして知らんふりをしておこう。





暫く検問の順番を待っていると、俺の後ろに数人の冒険者らしき集団が並んだ。


「やっぱ結構並んでんなぁ。昨夜は早めに寝たってのに何で遅くなってんだか」

「そうは言っても女は買ってたじゃねぇか。そこで体力を使ったから寝る時間が増えたんだろ」

「しょうがねぇじゃねぇか。"中"の女に比べると"外"の女は安いし、税金を考えるとなるべく"外"で買って節約しねぇとよ」

「そりゃわかるけどよ……だったら"外町"に住んだらどうだ?」

「バカ言え。"中"に住んでなかったら門を通る度に金を取られるじゃねぇか。デカいのを当てるまではダンジョンに通うんだからよ、それまでは"中"で頑張らねぇと」

「それもそうか」

「しかし昨夜の女は中々の掘り出し物でよ……」



その辺りで彼らの話題は昨日買ったという女性の話にシフトした。

現世ではドラゴンのルナミリアでを知っていたので、彼らの話す内容は中々興味深いものだったのだが……そうか、街の中では高いのか。

まぁ、今は所持金が少ないし、暫くはお預けだとは思ってるんだけどな。

買うとしても……正体を隠す以上、は個人情報を話す気にならない、ビジネスライクな女性のほうが俺には都合が良い。

俺が気をつければいいだけの話ではあるが、親密になれば口を滑らせる可能性は大きくなるだろうからな。



それとは別に気になるのが、街に住んでいないと通行料を取られるという話だ。

出入りのどちらか、もしくはどちらにもお金を払うことになっていたとして、住んでる住んでないの区別はどう付けるのかと気になっていると……それは検問で自分の番が来たときに判明した。


「次……ん?新顔か?」

「はい」

「ならこれに触れ」


そう言って担当者が丸い玉を指し示す。


「これ、何ですか?」

「この街に初めて来たのかがわかるマジックアイテムだ。初めてなら光る」

「へぇ。何か体に害があったりしませんか?」

「そんな話、聞いたこともないな」

「そうですか……じゃあ」


前世で読んだ創作物の中……いや、現実でも普通に使われている物が危険なものだったということはあったので不安があったが……ここで渋ったら街には入れないだろうし、後ろに並ぶ人達の迷惑になる。

そう判断して玉に触れると、3秒ほど白く光ってすぐに消灯した。

それを確認した担当者は別のことを確認してくる。


「よし、本当に初めてのようだな。格好からすると冒険者だよな?ギルド証はあるか?」

「いえ、まだです」

「ならすぐにギルド証を作っておけ。色々と理由はあるが、特に重要なのが税に関わることだ。詳しくはギルドで聞け。場所はまっすぐ進んだ先の広場にある、かなり大きな建物だ」

「はあ、わかりました」


順番待ちが多いからか手短に説明する担当者にそう返し、俺は門を通過して街へ入った。

あれ、通行料を請求されなかったな。

入るときはいらないのか?

だが、後ろで話していた人達は通る度にって言ってたよな。

初めて来た場合だけ免除されるのだろうか?

まぁ、その辺りは後で確認しよう。




街に入ると騒がしく、かなり活気のある印象を受けた。

街を出入りする人達で混んでいる中、場所柄か1番多く聞こえるのは宿の案内……というより客引きだ。

客を捕まえるのに効率を考えてか、見た目の良い女性が多い。


「お兄さん、宿はお決まり?お兄さんなら個人的にサービスしてもいいんだけど」


ある女性がそう言って、大きめに開いた胸元を揺らしながら誘ってくる。

美人だし、揺らされている胸も中々のサイズなので"個人的なサービス"に興味はあるが……


「この街には初めて来たんで、自分がどのぐらい稼げるかを確認してから決めるつもりなんですが」

「あら、そうなの?でもそうなると……すぐダンジョンに入るつもり?」

「ギルドで登録してからになりますが……まぁ」

「えぇ……」


宿の客引きをしてきた20代らしき女性は、何故か俺の発言に引いていた。


「何か?」

「いや、登録からってことは冒険者になってすらいないんでしょ?装備は新品っぽいし、ちゃんと魔物を狩れるの?」


あ、"紛い物"によって作成した物で装備の傷がほとんど無いからか、俺は素人だと思われているわけか。

冒険者としては実際に素人ではあるが……


「魔物は毎日のように狩ってましたから、少なくとも経験のある相手なら大丈夫かと」

「そうなの?にしても今から登録して、1人みたいだから浅い所で狩ることになるでしょうし……大して稼げないんじゃない?」

「かもしれませんね」

「ハァ、暢気ねぇ」


呆れたようにそう言った女性は顔を近づけ、お金の話だからか声を潜めて進言してくる。


「ある程度はお金を持ってるなら、早いうちに部屋を確保しておいたほうがいいわよ?」


あんまり焦っているように見えないからか、ある程度はお金を持っていると思われたようだ。


「やっぱり、早いうちに決めておいたほうが良いですか」

「そりゃあね。遅くなるとまともな部屋は空いてなかったり、足元見られてぼったくられたりするし」


まぁ、ネットで悪評を広められたりするわけでもないし、その辺りは遠慮なくやってくるか。

口コミで広まるとしても……一攫千金を狙ってこの街を訪れる人は多く、来たばかりの人にはその悪評も伝わりにくいだろうからな。

1人で納得している俺に、客引きの女性は再び宿の売り込みをしてくる。


「ウチはそんなに高くないし、一晩泊まってみて稼ぎに合わないって思ったら他の宿に移ればいいのよ?」

「そうは言われても……おいくらですか?」

「一番安い部屋の朝食付きで、一晩3000オールよ」


オールがこの国の通貨単位なのは道中で知り合った商隊と同行しているときに聞いており、

角銅貨100オール
丸銅貨500オール
角銀貨1000オール

といった形で、銅・銀・金・白金と価値が上がっていくらしいことがわかっている。

100オールで100円ぐらいだと思っていいようで、そうなると宿代は3000円ぐらいになるわけか。


「払えなくはないですけど、ちょっと厳しいですね」


そう返すと……再び女性は引いた。


「えぇ……そんなのでよくここに来たわね。税金だって毎月あるし、滞納したら追い出されて街に入りにくくなるのよ?」

「ああ、そんな話は聞きましたね」

「そう。この国ってこの街のお陰で潤ってるから、この街独自の税も認めてるのよね。まぁ、国に納める税と別枠ってわけじゃないし、どっちかって言うと冒険者を積極的にダンジョンに入らせる為のものだけど」


別枠じゃないってことは、二重に税金を取っているわけではないのか。


「まぁ、その辺はこれから試しますよ。支払いは月末ですよね?まだ時間はあるでしょう?」

「あと10日ぐらいしかないじゃない。それだけの期間で一月分払えるの?」


ん?そういえば税金の詳しい額を聞いてないな。

それを客引きの女性に聞くと、呆れた顔で教えてくれた。


「ハァ、来たばっかりじゃしょうがないけど、危機感が足りないんじゃない?冒険者の場合はランクがあって、それが上がるごとに税金も上がるのよ。一番下のランクで……確か、30000オールぐらいじゃなかったっけ?」

「普通はどのぐらい稼ぐんですかね?」

「1人でダンジョンに入る事自体があんまりないから……ただ、新人のチームだと1人5000オールぐらいが1日の稼ぎじゃないかしら?」


1日5000?

チームを組むことで数を稼いでいるはずだが……それで一人頭1日5000オールなのか。

単純計算だと10日で50000、飲食費は"紛い物"で賄えばいいとして、そこから宿代が掛かるとなると……厳しいな。

あくまでも普通の稼ぎなので、俺がその通りにしか稼げないとは限らないが。

ゴブリンの集団に襲われていた商隊を手助けしたお礼は、出先だったこともあってか10000オールと一晩の宿だったが……結構奮発してくれたのか?

しかし……


「さっき聞いた宿代だと、半分以上が消えることになるんですが……」

「別に毎日うちに泊まれなんて言ってないわよ。街に来た初日はなるべくいい宿に泊まって、しっかり休んでからダンジョンに挑んだ方が良いでしょう?」

「はぁ、なるほど」


結局は試してみてからだな。


「とりあえず、ギルドに行ってダンジョンにも行ってみます。自分がどれぐらいやれるかを確認しないとどうにもならないんで」

「そう……仕方ないわね。変な所に泊まるんじゃないわよ?」

「はい、ありがとうございました」


そうして、客引きの女性と別れた俺は冒険者ギルドへと向かった。
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