マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第6話

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ゴブリン以外の魔物も狩るようになり、それらまでも数が減っていると感じ始めた頃。

雪がちょくちょく降るようになって本格的な冬入りを感じさせられた。

テントに積もる雪を柄の長いブラシで払い落とし、その間に自分へ降り積もった雪も払い落としてテントに戻る。


「ハァ。テントの外にビニールハウスみたいなやつを張ってマシにはなったな」


テントを建てた状態で作成できることに気づいて用意した、25kgぐらいまでは積雪に耐えられるらしいドーム型のテントを追加で用意した。

光の反射が心配だが、この時期に獲物が少ない森へ入る人は少ないだろうから、これぐらいなら人目には付かないだろう。

そもそも、テントは山頂の中心に設営していて下からは見えないだろうしな。

朝の雪落としを終えた俺は朝食を済ませると、外出せずに読み書きの練習などをして過ごすことにする。

獲物がほぼほぼ見つからなくなったし、雪で歩きにくくなって魔鎧で移動せざるを得なくなったので、魔力の収支がマイナスになるからだ。

よって冬は引きこもり、魔力を節約しながら過ごすことにしている。


「読むのはいいけど、書くのは我流になるな」


家族による本の読み聞かせなどで読む方はある程度可能であり、それを元に勉強はできるのだが……書く方はペンの動きがわからないとなぁ。


「一応、書きやすいように掛けば正解に近くなるだろ。最悪書いた文字がちゃんと読めればいい」


そんな感じで勉強を始めるのだが身体的に長時間の勉強は難しく、ちょくちょく睡眠を取ることになっていた。

まぁ、寝る子は育つと言うし、それなりの体格にはなっておきたいので眠いときは我慢せずに眠る。

そうなりたいのは……冒険者という職業を目指しているからだ。

別に魔物や魔獣を狩って活躍したいとかではなく、俺の境遇を考えてのことである。

普通の職業に就くには相応の身分やコネが必要で、俺にはそのどちらもないからな。

身分と言っても、その土地で生まれ育ったことが証明されればいいらしいが……追放された身としては何の関わりもない土地に行かなくてはならず、そんな証明は不可能だ。

"紛い物"で作った物を売って稼ぐのも考えたが、もし"祝音の儀"のように物品のことを調べられる者がいたら問題だよな。

どんな判定をされるかわからないが、"紛い物"という結果が出れば偽造品を疑われ、最悪贋金作りも疑われてしまう可能性がある。

なので"紛い物"で作った物は基本的に他人へは渡さず、自分だけで使用・消費するつもりなのだ。

その点で言えば俺自身が"まがいもの"という称号を持っていることを調べられる能力を持つ者が存在するので、人里に近づくこと自体を避けた方がいいという話になるが……そこは"魔鎧者"の方だと言い張っておけばいいだろう。

少なくとも、"祝音の儀"を行える者には音声で伝えられるようだし、実際に使ってみせれば"魔鎧者"が俺の称号だと思い込ませられる可能性は高いはず。

まぁ、文字などで称号を見ることができる者も居るかもしれないのでバレるかもしれないが……あくまでも、俺が今ここで隠れ住んでいるのは力を貯めておくためである。

人里で俺がノルン・フェイカースだとバレたとして、俺を処分しようと放たれるかもしれない追手を跳ね除けられるだけの力を。

一生隠れて住むのはお断りだ。

すでに1人で居るのは飽きてるし。

その上、季節で魔石を稼ぎづらくなるようだから、別の土地で稼ぐのも考えないといけないし。

そんなわけで冒険者を目指しているのだが、読み書きの勉強もその一環である。

詳しくはわからないのだが、仕事の場所や内容などを確認するのに役立つだろう。

行った先で使われている文字が勉強しているものとは違う可能性もあるが……まぁ、無駄にはならないだろうから問題はない。

そもそも、冬の間は暇だしな。






そんなこんなで、おそらく年が明けたと思われるその日。

俺は……風邪を引いていた。


「ズズッ……不味いな」


介抱してくれる人などいないので病気にはかなり気をつけていたのだが、起きたらそれらしき症状が出ていたのだ。

まだ症状は軽めであるが"風邪は万病の元"とも言われていたぐらいだし、悪化すれば普通に命に関わると言っても過言ではない。

別の病気なのかもしれないが、とりあえず食事と薬を……と、ゼリー飲料を飲んでから薬を作成する。

風邪薬と言っても色々あるから、症状に合った物が良いんだろうけど……発熱のせいかどれが良かったか思い出せん。

いつも買ってたやつで良かったっけ?

面倒だな……手っ取り早く全部治るやつ、なんてな。

そう思いながら薬を作成してみると、出現したのは小瓶に入った黄色い液体だった。


「え、何だこれ?ラベルも無いな……飲んでも大丈夫なのか?」


そう言いつつも、「今まで期待通りの物を作成できたのだから、害があるわけではないだろう」と考え飲んでみる。


ゴクッ、ゴクッ……

スゥ……

「え」


その液体を飲むと効果はすぐに現れ、風邪の症状が全て消えてしまった。

ゲームなどでよくある、すぐに効果が出る回復アイテムのようだが……異世界ならではの薬だったのだろうか?

普通に流通している物ならいいが、そうでなければこれも使用を控える必要があるな。

少なくとも、実家にいる間は聞いたことなかったし。

まぁ……何はともあれ、風邪が治ったのは良いことなので、今後も体調を崩したらすぐに薬を作成しよう。

魔力の消費が結構大きいので、なるべく必要にならないようにするつもりだが。

その後、一層気をつけていたからか風邪を引くことはなく、適度な運動をしつつ引きこもり生活で冬を過ごした。






冬が明けると魔物は増え出し、それに安心した俺は魔石狩りの生活を再開する。

魔石を感知できることで基本的には先手を取ることができ、冬籠り前と変わらず魔石を稼いでいった。






暖かくなってからは徐々に防寒設備を減らし、テントも外側の透明な物を片付けた後にメッシュの窓がある風通しの良い物に変更して過ごしていたのだが……


「ハァ……最近暑くなってきたな。扇風機じゃ物足りないし、クーラーも作るか」


そう言って作成したクーラーの良さに外出が億劫になってしまったが、そのクーラーのために魔力の消費が多くなったので渋々魔石を稼ぎに出かけることとなった。

溜め込んでいる魔力に余裕はあるが、いつかいきなり大量に消費する事態になるかもしれないからな。

いきなり追放されることになったぐらいだし、急な病気で即効性のある"あの薬"がまた必要になるかもしれないし。

まぁ、幸い前世の日本ほど湿度は高くなく、特に大きなアクシデントも発生せず夏は過ごせたのだが。



そうして再び秋を迎える。






そんな生活を続けて5年ほど、俺はこの森に住み続けていた。

冬が明けると減っていた魔物は増えることがわかり、そのまま住み続けることが可能だと判断したからだ。

身体は順調に成長しており、身長は140cmを越えたぐらいである。

前世での平均身長はどうだったか……まぁ、調べて足りないと思ってもどうにもならないか。

下半身もすることが確認され、おそらく健康体だと思われるだけでも十分だろう。



この森での6度目の秋。

ある日、狩りに出かけるためテントの中で準備をしていると、遠くからやって来る強大な魔石の反応を感知した。


「っ!何だこれ!?」


オークとは比べ物にならないし、森を真っ直ぐ進んでる……空かっ!

それに気づいてテントの外へ出た俺が目にしたのは……空を飛んでこちらへ向かってくる、どう見てもドラゴンにしか見えないものだった。
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