マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

文字の大きさ
上 下
1 / 88

第1話

しおりを挟む
ゴトゴトゴトゴト……ガタンッ

っ!


目が覚めた時、自分の状況を理解するのにあまり時間はかからなかった。

ガタゴトと進む幌馬車の中、いくつかの荷物とともに5歳の自分だけが載っている。

……ああ、馬車でところか。

5歳の子供が何処かへ捨てられに行くというのに、その当事者である俺が落ち着いていられるのは……今、前世の記憶を取り戻したからだ。



俺は模栖 甲士もず こうじという、32歳の日本人男性で……仕事を終えて帰る途中、車の事故に巻き込まれたところまでは覚えてるな。

交差点で事故った車の1台が、信号待ちしていた俺の方に突っ込んで来たから……恐らくそれで死亡したのだと思われる。

疲れていてボーっとしていたのもあるが、大きな交差点だったからか、周囲には俺と同じ信号待ちの人達が大勢居て動けなかったんだよな。

俺以外の人達はどうなったんだろうか?

流石に全員亡くなったりはしていないと思うが……

まぁ、気にしてもどうしようもないし、死んでしまったものはしょうがないので頭を切り替えるとして。

俺には……現世でも命に関わる問題が発生していた。



現世での俺はノルン・フェイカースという名前であり、ファンタジー世界の中世西洋風な国にて田舎貴族の第6子として生まれたようだ。

王族や平民、奴隷なども存在する階級社会の国の中、1つの村を治める程度のほぼ平民と変わらない家で細々と暮らしていた。

そんな俺は5歳になった今年、村から馬車で日中を掛けて最寄りの町へと連れて行かれる。

その理由は"祝音の儀"というもので、教会で自分の才覚や適職を聞ける儀式であるらしい。

聞けるというのは、教会の担当者……司祭か何かが神託として聞けるらしく、それで聞いた内容を対象者や保護者に伝えるという形だ。

中でも、もしも"称号"というものがあれば、特殊な力である"スキル"を得られる可能性が高いらしい。

どの程度の範囲で行われているのかは知らないが、少なくともこの国では5歳以上になるとこの儀式を行う場合があるとのこと。

どうやらこれは5歳以上になれば誰もが行うというものではなく、家業を継ぐなどの将来的な進路が決まっている場合は知る必要がないと判断され、その儀式を行わない人もいるのだとか。

まぁ、教会にそれなりのお布施が必要らしいしな。

で。

第6子である俺が家を継ぐ可能性は低く、家を出て生きていくことになるだろうということで、何かしらの才能がないかと儀式を行ったわけだが……その時のやり取りを、ノルンとしての記憶から思い出す。




『男爵様、大変申し上げにくいのですが……』

『ああ、何もありませんでしたか。まぁ、無いものは仕方ありませんな』

『いえ、その……無いわけではないのですが……』

『ん?では何故言いづらいのですかな?』

『その、あまり人聞きのいいものではありませんので』

『……内容はともかく、儀式を行った事自体は記録されるはず。聞かずにこのまま帰り、この子がその才覚で事を起こせば……知らなかったでは済まされません』

『それは……そうですね。ではお伝えしますが、ノルン様には"称号"があり、その内容は……"まがいもの"と聞こえました』

『"まがいもの"?あの、偽造品などの"紛い物"のことですか?』

『そう聞こえるだけですので、必ずしもそうだとは言えませんが……おそらくは』

『っ!?本当ですか!?』

『はい。間違いなく、私にはそう聞こえました』

『…………あの、この事は……』

『"聞き手"の制約により私から口外する事はできません。ご安心ください』

『ああ、そうでしたな』

『その、なんと言ったらいいか……』

『お気遣い、ありがとうございます。我々はこれで』

『はい……お気をつけて』




と、こんなやり取りがあり、教会を出てからの父はかなり口数が少なくなっていた。

前世の記憶を取り戻す前のノルンが、言葉の意味を理解していなかった"まがいもの"について聞いても教えてくれなかったしな。

その後、儀式の結果について喋ることを一切禁じられ、村に帰ってからもそれが続いたことで、不審に思った母や兄姉が俺の儀式について聞くと……俺が寝静まったと思われた夜、その内容が母だけに明かされた。

そして……ノルンはそれを隠れて聞いていたようだ。




『"紛い物"?何と言うか……人聞きの悪い称号ですね』

『ああ。よって……ノルンは追放とする』

『そんなっ!?あの子が何を……』

『"まだ"何もしていないな。だが今後、あの子の才覚が悪用などされれば大事になるかもしれん。"紛い物"などという称号であれば、物の偽造に向いた才覚である可能性が高い。万が一、貨幣や貴重品の偽造でもされてみろ。重罪故に当家が全員処刑されるのは間違いないぞ』

『っ!』

『それに当家だけではなく、すでに家を出て最寄りの町で衛兵になっているモーリスや、商家に嫁入りしたヒルダにまで疑いの目を向けられるだろう。モーリスからは捜査情報を流し、ヒルダは商会で贋金を使わせて広める形で協力したのではないか、とな』

『……』

『特にヒルダのほうが不味い。嫁入りしたあの子が商家の内部から広めたと思われれば……まだ残っている娘達を嫁に迎えようという家は現れなくなるだろうし、他の商家はヒルダと同じように入り込まれるのを警戒して、うちとの取り引き自体をしなくなるかもしれん』

『商人が来なくなると言うのですか?それじゃ村の人が……』

『ああ、困るだろうな。商人が来なくてもやっていける程、うちの村は強くない。そうならぬよう、早急にノルンを処分せねばならん……皆のためにな』

『そんな……』

『お前が気に病む必要はない。私が決めたことだ』

『うう……』




その話を聞いたノルンは優しい子だったのか皆のためと判断し、数日後、村を出る馬車に大人しく乗り込んで……今、こうして運ばれているわけだ。

世界全体なのかはわからないが、少なくともこの国には人を襲う魔物や魔獣が存在するらしく、そんな土地で5歳の子供を追放するとなればそれは殺処分を行うのと同義である。

ほぼ平民と変わらないフェイカース家では心情的に直接手を下せる者がおらず、その結果どこか遠くに運んで置き去りにするという方法を選んだようだ。

ここまでで既に4,5日経っており、目的地までは当家の家紋入りの鎧を着た者達が目的地までの御者の護衛、そして当家の者によって俺が処分されたと周囲にアピールする役割でついて来ている。

馬車の御者も含めて、皆ただの村人なのだが……彼らだって魔物などに襲われるかもしれないし、嫌な役回りで申し訳ないな。

まぁ、俺の境遇よりはマシだろう。

そう思っている俺だったが……しかし、生き延びることを諦めているわけではなかった。



"まがいもの"……普通に考えると"紛い物"だろう。

紛い物と言えば、偽造や模造した物ということになるが……そこから考えると、父が予想したように物品の製作に長けた才能であると俺も予想する。

偽物ではあるとしても、何かしら品物を造るのに適している可能性は高いだろう。

となると……何処かに置き去りにされるのなら、サバイバルに役立ちそうな物でも作れないだろうか?

今、荷台に乗っているのは俺だけで、周囲を見せないようにされているせいで外からも見られないし……あ、でも使える材料がないか。

物資は周りの人が管理してるし、不自然に減っていれば俺が生き延びようとしているのを悟られてしまう。

それに作れたとしても……置いて行かれる際に調べられ、取り上げられてしまうだろう。

向こうは俺に生き延びられちゃ困るわけだからな。

だからか、水や食事は与えられていても最低限といった量だった。

あくまでも追放処分なので、目的地までは死なせる気がないらしい。

お陰でかなりの空腹だ。

しかしそうなると……今の状況で何かしらの道具を作るのはほぼ無理だな。

物資を持ち出し、なんとかして逃げられればいいのだが……そもそも、この馬車は何処へ向かってるんだ?

家の前で乗せられてからずっと、後ろの布を降ろされていたから方角すらわからないんだよな。

休憩や野営の間ぐらいしか外を見てないし。

前世の記憶が戻る前に聞いてみたりもしたようだが、誰も教えてくれなかったようだ。

夜は野宿ばかりで同行者以外の人と会ってないから、人が少ない土地ではあるのだろうが……わからん、情報が少なすぎる。

とりあえず方角だけでもわかれば、何処かに置き去りにされたとしても外敵と遭遇さえしなければ人里へ向かえるかもしれないし、その道中で助けてくれる人に出会えるかもしれない。

なので100均の物でもいいからコンパス、つまり方位磁石が欲しいところだが……


スッ


「っ!?」


周りの人に気付かれないよう、俺は咄嗟に驚きの声を抑えた。

周囲に異常がないことを確認すると、次は自分の手に現れた物を確認する。

そこには……今、俺が思い浮かべていたコンパスが存在していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...