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15話

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「あー……これも秘密にしないといけないね」


新品同様になった馬車を見て、驚きと呆れが混ざったような表情でリョーガさんはそう言った。


「やっぱりそうなりますか」

「治癒能力に比べたらある程度は誤魔化せると思うけど、それでも表に出す魔石はこのぐらいまでにすべきだよ」


彼はそう言いながら、馬車の修理に使った直径10cmほどの魔石を指差す。


「誤魔化せるってことは、このぐらいの魔石なら持っててもおかしくないってことですか?」

「あくまでも、普通の人が数を集められれば倒せる程度の魔物はそれぐらいが限界って話だけどね。もちろん、ちゃんと戦う訓練をしていたり、戦いに慣れた人の場合はまた話は変わるんだけど」

「なるほど」


これぐらいが戦いを生業としない人達で対応できる限界ってことか。


「ただ、そんな魔物を倒したことにするなら、それが可能な戦力になる人全員と口裏を合わせなきゃいけない。それが無理なら人前で出すのは避けたほうがいいね」

「あー……そうなると信用できるのは父ぐらいですし、このぐらいの大きさでも表には出せませんね」


俺がそう返すと、リョーガさんは馬車を撫でながら言ってくる。


「まぁ、それぐらいまでなら誤魔化せるっていうのは君が出す場合の話だけどね」

「ん?ああ、強い冒険者なら持ってても自分で倒したって言えますね」

「いや、それだとどこで何を倒したかって聞かれるでしょ?」

「ああ、確かに。となると……」


誰ならこれぐらいの魔石を持っていても不自然じゃないのかと考える俺に、リョーガさんが自身をビシッと指差した。


「商人だよ。よっぽど大きな魔石でもない限りは、どこかで誰かから買い取ったことにすればいいし。まぁ、そんなことが何度もあったら疑われるかもしれないけどね」

「なるほど。じゃあ……」


ここで、俺はあることを考えた。

大きな魔石は小さい物に比べると段違いに価値が上がる。

魔力の量だけで言えば、小さい魔石を集めて大きい魔石と同等に出来るのだろうが……おそらく、俺が金属を変形されるために必要だったように、魔石の出力が重要な場合もあるのだろう。

価値が跳ね上がるということは、大きな魔石でないと作動しないマジックアイテムがあるということだろうしな。

大きい物のほうが入手難度は高いはずなので、それもあって大きな魔石は価値が跳ね上がわけだ。

そこで、リョーガさんの持つ魔石を俺が大きな物にしてしまい、価値を上げる手間賃としていくらか金を貰おうかと思ったのだ。

それを彼に伝えると……一旦、今回だけで少数のみという条件で了承された。


「さっきも言ったけど、頻繁にこういう事があると疑われるだろうからね。まとめて魔石を仕入れた相手は冒険者ギルドだし、取引した記録があるはずだから大きな魔石を入手したのは道中ということになる」

「あぁ、そうなると道中に大きな魔石を持つような魔物が何体もいたって思われるかもしれませんね」

「そういうこと。だから……元々どこかで入手していた物と、道中で誰かから入手した物で……2,3個ぐらいかな」

「わかりました、俺はそれでいいです」

「うん、じゃあ後はお金の話だけど……」




と、その後魔石を合成する手間賃を交渉した結果……複数の小さい魔石と大きい魔石を相場の価格で売った場合の利益から、その半分ぐらいを頂くことに決まる。

直径約10cmの魔石を作るのには大体100個ほどの小さい魔石を使うことになるのだが、大きい魔石にすれば利益は20倍から30倍ほどになるようだ。

だいぶ跳ね上がるが……難易度を考えるとこのぐらいの価値がなければ討伐依頼を受けてもらえないそうな。

小さい魔石は売値が150コールぐらいらしいので、利益は1つ50コールでそれが100個分なので5000コール。

それをリョーガさんは「今後の関係も考えて……」と利益は最大値の30倍である150000コールと設定し、その半分の75000コールを手間賃とした。

それが3個分で225000コールだな。


「ハッキリ言って、やってることに対してはかなりの安値なんだけど……いいの?」

「俺にとっては十分大金なんですが……まぁ、何度も使える方法じゃありませんし、ちょっと稼いでおきたかっただけなんで。欲しい物があったときに、イチイチこんな交渉するのは面倒でしょう?」

「それはそうだね。取引を簡潔に済ませるためにお金という物が出来たんだろうし」

「それに、こういう交渉はリョーガさんとしかできないわけですし、他の商人さん相手にはお金じゃないと」

「他の商人か……できれば僕から買って欲しいところだね」

「ずっとここに居るわけじゃないでしょう?だったら他の商人さんから買うことも考えておかないと」

「まぁ、そうだね。あっ、どのぐらいこの村に滞在するかって話なんだけど」

「はい」


話の流れでリョーガさんが村を離れることに言及すると、彼はこの村を出発する予定について話し出した。


「ある程度は長居しようかって話だったけど……ジオ君のお父さんが戻ってきたら街道を封鎖した魔物の情報を聞いて、それを領主様に届けてくれないかって村長さんに頼まれててね」

「あら、そうなんですか」


まぁ、結構な数の魔物だったらしいし、それなりの戦力を用意するなら統治者である領主に頼るのは当然か。


「僕達がこの村に来たのだって南側の街道で川の橋が落ちてて通れなかったからで、村の規模的には2,3日で離れるぐらいだから丁度いいしね」


彼らが訪れたのは西側からであり、その彼らがこの村を統治している領主の居る、東の方の町へ向かうルートは大きな森を挟んで2つある。

比較的人口の多い村や街がある南側のルートと、小規模な人里しかない北側のルートだ。

基本的には一定の利益が見込める南側を通る商人が多く、北側を通るのは領主の依頼を受け、現場以外での利益を確保している商人だけらしい。

税金の優遇でもしてるのかな?

まぁ、そんなわけで普段通らない北側の街道を使うことになったリョーガさんは、金額だけで言えば予定よりも利益を上げられそうにないのでさっさと出発したいのだ。

商品の中には劣化していく物もあるだろうし、大きな町に急ぎたいのは当然か。

村としても街道が封鎖された件はとっとと領主へ報告してほしいだろうし、俺としても怪我を治したことがバレる前に村を離れてもらったほうが良いとは思っている。


「というわけで、君のお父さんの報告待ちなんだけど……まだ戻ってきてないよね?」

「おそらくは。知らない間に戻ってきてて、報告のために村長の家へ行ってるのかもしれませんが」


俺がそう返すと、リョーガさんは難しそうな顔をする。


「うーん……」

「どうかしました?」

「いや、街道を封鎖して崖上と後ろから襲うってことを考えられるような連中だし、人間が自分達を調べに来ることも予想してたりしないかなって」

「どうでしょう。父は元冒険者ですし、最初から調べるだけのつもりなら魔物に近づかれた時点で逃げてくると思いますが」

「だろうね。僕としても無事に戻ってほしいんだけど……往復で1日掛かるとして、向こうでも最低1日は留まるよねぇ」

「まぁ、それぐらいは掛かりそうですね」


遠くから見るだけなら明るい内だけしか見えないと思うが、身を隠す以上は灯りが使えず夜の移動は難しいので、帰還を始めるのは夜明けを待ってからだろうしな。


「まぁ、魔物の集団が確認できた時点で戻って来るかもしれないから、もっと早く返ってくるのかもしれないけど……」

「はぁ、そうかもしれませんが……それが?」


父が早く戻ってくれば、その分リョーガさん達の出発も早くなるはずだが……彼はなぜか微妙な顔をしている。

そんな彼が、身を屈めて小声で言う。


「いや……護衛の彼女達、また護衛を頼むならなるべく機嫌良くしておきたいんだよね」


どうやら、リョーガさんは今後も彼女達に護衛を頼みたいらしい。


「そりゃ機嫌は良いほうが良いんでしょうけど……そもそも女性の冒険者って男性冒険者より良いんですか?」

「戦力としてだけなら男のほうが良いんだけど……女性が多いほうが良い場合もあるからね」

「どういう場合ですか?」

「襲撃されて逃げる場合だよ。体重が軽めで体格が小さいから、最悪少しの荷物を捨てれば馬車に乗せても動けるし、女性を利用するつもりの相手の場合だけど……女性なのがわかったら手加減するかもしれないからね」

「あー……女性なら生かして捕まえようとするってことですか」

「まぁ、そうだね。今回逃げ切れたのもそれが影響してそうだし」

「でも、当たり所が悪ければ死んでたってフレイさんは言ってましたが……」

「そりゃ手加減はしてても僕達を足止めしなきゃいけないんだし、それなりの攻撃はしてくるよ。それで僕みたいな個人で動いてる商人には少数で女性の護衛って都合が良いんだよね」

「それはわかりますけど……で、彼女達の機嫌がを取りたいと?」

「うん。かと言ってお金が掛かりすぎるのはなぁ……」


そう言って悩むリョーガさん。

別に、報酬さえまともに払っていれば仕事は受けてくれるんじゃないかと思うが……ん?

ここで俺は思いつく。

さっき作った浴場を使ってもらうのはどうだろうか?

ここでしか楽しめないとなれば彼女達はこの村を通るルートを望み、往路か復路のどちらかはその要求が通るかもしれない。

そうなれば商人が村に来る機会は増えて買い物しやすくなるし、俺もちょっとした細工物を売って小遣い稼ぎもできるだろう。

問題は……風呂に入る事が喜ばれるかだな。

サリーさん母娘や俺の母は町で暮らしていた事があるわけだし、そんな彼女達が喜んでいたのである程度は喜ばれそうだが。

リーナさんの友達は時間的に今日は入りに来ないと思うので、今日で良ければ……と提案してみる。


「えっ、湯浴みができる建物を作ったのかい?大きい街にはあったりするけど、この辺じゃ庶民に使える施設はないから間違いなく喜ぶと思うよ。何なら僕も使いたいぐらいだし」

「はぁ。お湯を用意するのに必要な魔石さえいただければ構いませんが」

「いいのかい!?で、いくつぐらい必要なのかな?」


俺の言葉に喜んだリョーガさんは、入浴用と掃除用に使う魔石の大体の数を聞くと馬車を車庫に仕舞い、店番をしていたテレーナさんにこの事を伝えた。




そして夕食後……明かりを灯した浴場内では3人の美女がその身体を晒していた。

俺の目の前で。
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