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7話

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一旦今後の話を区切ると、俺と父は取り除いた雑草の山を処理しようとする。

とは言っても雑草は乾燥させてから燃やすだけなので端に寄せてすぐ終わり、続いて石の山に取り掛かった。

父が畑を離れる原因となった大きめの物も含めて大小あるが、これらを残しておいたゴブリンリーダーの魔石でゴーレムにしてみる。

これだけ少し大きかったのだが父によると、同じ種族でも何らかの秀でたところがある者は魔石が大きくなり、内包する魔力も多くなるそうだ。


ガガガガッ……


小山が収まる程度に収集範囲を指定し、その小山の分が魔石に集まった所で収集を止めた。

やはり、埋まっていた状態に比べると既に掘り出してあるほうが魔力の消費は小さいな。

今の状態は磁石に砂鉄がくっついているようなもので1つ1つは別の物体であり、これでは魔石から解放すればその場にバラけてしまうだけだ。

ここで俺はそれらの石を混ぜ合わせ、成型肉のように均一化して1つの物体にしてみせた。

石と言ってもいろんな種類があるはずで、混ぜ合わせたことで強度に問題が出るかもしれないから……それを一枚の板にして魔石から解放する。

厚さは5cmほどの、両手で抱えられる程度の長方形であり、色合いが灰色に統一されたそれを父に持ってもらった。


「これは……一応見ていたが石、なんだよな?」

「うん。こうして形を変えて色んな細工物を売ろうかと思って。石でやれたんなら木でもやれるだろうし、魔石の数があればだけど建物も出来なくはないと思うんだよね」

「その方法で自分の家を、というわけか。だが強度がわからんうちにいきなり住むのは危ないぞ」

「わかってる。だからとりあえず、その石板で強度がどうなってるかを試してくれない?」

「これをか……試すということは割ってみろということだよな?」


強度試験を頼んでみるが、父は軽く叩きながら微妙な顔をした。


「何か不味い?」

「いや。強度はともかく、こうも綺麗な形だと割れたら惜しいと思ってな。表面も滑らかだし、このままでも石材として売れそうだろう?」

「それはわかるけど……魔石があれば直せるし、最初に試しておかないと。その前に売っちゃって、割れてけが人でも出たらどんな文句を付けられるか怖いからね」


怪我の治療費や、それによって発生した損害に対する賠償金をなどと言われたら面倒だ。

この世界というか、この国の制度がどうなっているかによるけどな。


「まぁ、確かにそうか。自分が雑に扱ったせいなのに、鍛冶屋に文句を言う奴もいるからな」


うぇ、この世界にもそんなのがいるのか。

だとしたら作る商品自体にも気をつけないとな。

何かしら危険がありそうなものは避けないと。

というわけで、俺の懸念点をわかってくれた父は石板の強度試験をやること自体は了承した。


「で、やるのはいいがここじゃ使えそうな道具がないな。家に手斧ぐらいのつるはしならあるが……強度を試すのには力不足だよな?」

「そうだね。なるべく強く叩ける物が良いかな」

「なら村長の所に行くか。大きいつるはしはあそこぐらいにしかない」

「わかった」


そうして村長宅へ向かおうとすると俺達だったが、そんな俺達の元へ駆け寄ってくる者がいた。


タッタッタッタ……


「ん?あれは……」

「ゴランだね。後ろから村長も来てるから、俺のゴーレムについて聞きに来たのかも」

「だろうな」





程なくしてゴラン君とその父親のツガロさんがやって来て、予想通り俺の"ギフト"についての話を始めた。

ツガロさんは父と同年代ぐらいで、年上の村民からの圧をまとめて受ける苦労人だというのが俺の記憶から受ける印象だ。

父と並ぶと細く見えるのでその印象がより強まっているが……そんな彼が俺の"ギフト"で作った石板を弄っている。


「で、これもその"ギフト"で作ったのか。形が自由なら色々と作れそうだな」

「ああ。ただ必ず魔石を使うようだから、村の在庫について聞きたいのだが」


父の質問に、ツガロさんは首を横に振って答えた。


「数日前に来た商隊に売ったからほとんどないぞ。お前が2日前に狩ってきた物を含めて7個だ」

「む、それだけか……」

「お前のお陰で家の村にはあまり魔物が来なくなったからな。この間の商隊から聞いた話じゃどっかの村で何人もの女がゴブリンにさらわれて、頭の働くゴブリンが増えちまったらしいじゃねぇか」

「ああ、そんな話は聞いたな。奴らの巣から救出した後にその……ができていなかったとか」


俺やゴラン君がいるから言葉を濁したようだが、助け出した女をまでしっかり調べなかったか経過観察を怠ったのかな。

サリーさんの話じゃ被害に遭った女は監視役に使ことになるそうだし、魔物にヤられて人にもヤられるというのは追い打ちをかけるようなものだから、相手との間柄によってはササッと軽く調べる程度にしてしまったりする人もいるのかもしれない。


「まぁ、お前が動ける限りはこの村での必要はないだろうが、その上にジオが"ギフト"に目覚めるとはな。やれることによっては村全体の利益にもなりそうだが……そのためには魔石が必要か」

「そうだな。ただ、下手に商隊から買うのもあまり良くはない」

「権力者に目を付けられるだろうしなぁ。だが、ゴランも含めて既に何人にも見せてるんだろ?だったら下手に隠さず、可能な限り高く評価されるようにしたほうが良いかもしれんぞ」

「ああ、わかっている。そのためにこの石板の強度を調べようと思ってつるはしを借りに行こうとしていたところだ」

「なんだ、うちに来るところだったのか。じゃあ行こう」





というわけで、俺達はツガロさんの家へ移動し、納屋からつるはしを持ってきてもらう。

父の体格的にはやや小さく見えるのだが、一般的な大きさのつるはしである。


「これでいいか?」

「ああ。じゃあ、最初は軽く行くか」


ツガロさんからつるはしを受け取った父はそう言うと、鍬で畑を耕すぐらいの力で振り下ろす。


ガッ!


「む……」

「ん?んー……ほとんど削れてねぇな」


唸る父に石板を確認したツガロさんがそう言った。

彼が言うように、つるはしが当たった場所にはかなり小さな傷ができているだけで、割れるどころか穴と言えるほどのものにはなっていない。

ならばと父は再びつるはしを振り上げるが……それは徐々に力を強めつつも10回ほど繰り返され、最終的に全力でつるはしを振り下ろすも少し窪みが出来た程度に留まった。


「ハァ、ハァ……これだけやってこの程度か」

「こりゃあ、相当な硬さだな。これなら色々と使えそうではあるが、結局は魔石の確保ができるかどうかだ」

「ふぅ……まぁ、次の商隊がいつ来るかわからんし、2日前に村の近くでゴブリンを狩ったから暫くは魔物も近づかんだろうがな」


汗を拭いながら言う父に、ツガロさんは1つの袋を差し出す。


「そうなるな。とりあえず今ある分だけ持っていきな」

「いいのか?」

「そこまで高く売れる大きさでもないからな。それに……」

「それに?」

「ゴランがゴーレムに乗せてもらう約束だと言ってたんだが、どういう意味かいまいちわからなくてな。それを見せてくれないか?」


どうやら、ゴラン君の説明では"足の生えた箱"のイメージがつかなかったようだ。

というわけで、サイズは縮小させたが約束通り足のついた箱にゴラン君を乗せてみせ、ついでにツガロさんや父も交代で乗せて辺りをグルグルと周った。




村長宅での用事が済んで、父は見回りをしてから帰るというので俺は1人で先に帰る。

石板は円形にして転がしながら持ち帰った。


「あら、おかえり。今日はもう農作業終わったの?」


家に帰った俺を出迎えた母は少し水で濡れており、父と同様に軽く身体を綺麗にしたのだろうと思われる。

男よりも周囲の目を気にしなければならないので川で水浴びとはいかず、おそらく濡らした布で拭いただけなのだろう。

日本人としての記憶を思い出した俺なら少々不満に感じるのだろうが、それでも溜まっていたストレスを発散できたからかスッキリとした笑顔である。

少々艶があることに緊張というか気不味くなるが。

そんな母に帰りがいつもより早い事情を話す。


「実は便利な"ギフト"が使えるようになってね。それを使って畑を結構広く出来たから、今日はもういいって父さんが」

「えっ!?」


それを聞いた母はやたら驚いているようだが、珍しいからかと1人納得していると……ちょっと変わったリアクションを見せた。


「その、大丈夫なの?農作業に使えるのはいいけど、代わりに何かおかしなことは起きてない?」

「いや、別に?」

「そ、そう。ならいいんだけど」

「?」


母の質問は少々気になるが、答えた通り特に問題はないので気にしないことにする。


「あ、これ置く所ある?」


そう言って俺は石板を入口の陰から出して見せると、この石板がどういった物かまで説明した。


「へぇ、石を集めて作ったの?足があればテーブルなんかには使えそうだけど……」

「なら、形を変えて足を生やしてもいいよ?」


貰った魔石もあるし、この石材の強度なら足を生やした分だけ天板が薄くなったとしても問題はないはずだ。

なので石板の加工を提案するが……母は首を横に振った。


「いいわ。魔石だって多くはないんだし、このままでも困ってないから。それに重くなりそうだし」

「ああ、確かに。掃除するとき動かしづらくなるし、テーブルにする必要はないね」


というわけで別の案を考えていると……母は父や村長と同じ懸念点について聞いてきたのでそれにこう返した。


「少なくとも次の納税時期を過ぎるまでは、偉い人に目を付けられることにはならないんじゃないかな?」

「どうして?他にも知ってる人は居るって言ってたじゃない?」

「村の人なら俺になるべくこの村に居てほしいでしょ?手伝わせれば色々と仕事が楽になるし」


畑の拡張に石や雑草の除去、それに水撒きなどの作業は俺がやれば格段に楽になる。

魔石と言うコストは必要だがそれは村全体で負担し、作業が残っている場所に人手を集中させればいい。

そう答えた俺だったが、母の不安は外部の人間についてだった。


「それはそうかもしれないけど……商人とかの外から来る人が偉い人に教えるかもしれないわよ?」

「ああ、それも一応は考えてるんだよね。木や石で何か売れそうな細工物があれば、少なくともお役人に見つかるまでは自分の利益のために黙っててくれるんじゃないかなって」


魔石と材料があればその場で注文を受けていくらでも商品は作れるわけだし、商人である以上は俺がお偉方に独占されるより、バレるまで黙って利用する方を選ぶ可能性は十分ある。

まぁ、そのお偉方に自分を売り込もうとして俺の情報を売る可能性もあるのだが……その辺りの考えを話すと母は微妙な顔をした。


「アンタいつの間にそんなに賢くなったの?別に今までがバカだったってわけじゃないけど」

「あー……、"ギフト"に目覚めたとき、少しだけ知恵が湧いて出たみたいなんだよ」


やはり、大した教育を受けたわけでもない俺が、この歳でここまでのことを考えられるのは普通ではないのだろう。

だが、"ギフト"の影響だろうと話すと、母は父同様に納得したようだ。


「なるほどねぇ……まぁ、外の人間に対してはそれでいいけど、村の中でも気をつけなさいよ?」

「村の中?」


俺が村内で持て囃されることを気に入らない者に襲撃される、とかだろうか?

一応、ゴーレムを作る速さは調整でき、やろうと思えばほぼ一瞬で作成できるので魔石さえあれば大丈夫だと思うが……

作る速さが上がると魔力の消費量は増えるが作成にかかる時間は短くなるので、総合的には作成コストに変化はほぼないし問題ない。

そう考えていたのだが……母の懸念点はそこではなかったようだ。


「女が寄ってくるだろうから気をつけなさい。その……2人きりだとか、人目のない場所に連れ込まれないように」

「……あ、うん。わかった」


母の警告はご尤もだと受け止めつつ、そこでサリーさんとリーナさん母娘の肢体を思い出してしまい少々気不味くなる俺であった。
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