跼蹐のゴーレムマスター~ビビリ少女ラヴィポッドはゴーレムに乗って~

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第40話 キヤの頼み

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 半日ほど歩くと、視線の先にぽつぽつと建物が見えてきた。街道沿いにある、それなりの規模をした宿場町。名前は知らないし、そんなに興味もない。とりあえずの目的地だ。
 当初の予定では、しばらく滞在するつもりだった。人が多ければ、用心棒を求める情報も手に入りやすい。戦後のリュールは、この方法で生き延びてきた。
 
 リュールが町に向かうのは、少女を身請けしてくれる場所を探すという目的もある。この見た目であれば、料理店の看板娘にでもなれるだろう。
 剣ということになっているが、少女は少女だ。危険と隣合わせの生活は送らせたくない。
 リュールの考えを伝えたら、きっと彼女は拒否する。説得する言葉を探してみても、思い付きはしなかった。

「おー、町ですねー」
「ああ、町だな」
「あそこに行くんですか?」
「ああ」
「やっとお手入れしていただけますね」

 少女の瞳が輝く。お手入れという言葉は気にかかるが、彼女を血で汚れたままにはしておきたくない。宿にでも行けば風呂場くらいはあるだろう。

「なぁ、町に入る前に、口裏合わせをしてくれ」
「はい?」
「普通の人間は、剣が人になったなんて理解できない」
「はぁ、そうでしょうか?」
「そうなんだよ」
「んー、おかしいのかなぁ」

 複数の細い街道が本道に合流する。その先には、簡易な門があるはずだ。
 門番に血まみれの少女を見られたら、確実に怪しまれる。場合によっては追い返されるかもしれない。運悪く王国の警備兵でも居ようものなら、その場で逮捕される可能性だってある。
 だから、今のうちにそれっぽい言い訳を考えておく必要があった。

「君は俺が盗賊団から救った少女だ。故郷の村は盗賊によって滅んだ」
「はぁ」
「その血は俺が盗賊と戦った返り血だ」
「はぁ」
「助けられた君には、帰る場所がない。だから俺と同行している」
「はぁ」
「ここまでいいか?」

 なんとも煮え切らない返事に、リュールは不安を覚える。本当にわかっているのだろうか。

「わかりました。嘘はつきたくありませんが、リュール様のご命令なら仕方がありません」
「ボロが出るといけないから、基本的には喋らないでくれ」
「はい、おまかせを」

 少女は、にっと歯を見せた。歯並びの良さに感心しつつも、リュールの不安は拭えなかった。

 町に近づくにつれて、人通りが増える。目深に外套を羽織った少女を訝しげに見つめる者も少なくない。
 奴隷商人とでも思われているのだろうか。用心棒として雇われるならば信用が重要だ。周囲から悪い印象を抱かれるのは好ましくない。
 とはいえ、外套の下は血だらけの美少女だ。たぶんそっちの方が怪しい。リュールは意図せず少しだけ歩く速度を上げた。それがいけなかった。

「待ってください、リュール様ー」

 少女のよく通る声は、幅の広くなった街道に響いた。複数の視線が集まる。
 喋るなと言ったのに。不安が的中したリュールは、頭を抱えたい気分だった。
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