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第38話 クアルと火の幻獣
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「待ちやがれクソガキ!」
「ひぃぃぃぃぃぃ!?」
ラヴィポッドは悲鳴を上げ、もさもさ頭を揺らしながら逃げ回っていた。
その後ろをマフィアが追う。
このままではいずれ追いつかれる。
どうすれば逃げ切れるか。
パニックになった頭では良い考えも浮かばず。
とりあえずマフィアの視界から外れようと室内に飛び込んだ。
そのまま廊下を走っていると、
「あ? なんだこのガキ……」
正面にもマフィアが。
「ひぃぃ!?」
振り返って逃げようとするも、
「そいつ捕まえてくれ!」
後ろからもマフィアが追いかけてくる。
ラヴィポッドは慌てて止まりキョロキョロ周囲を確認。
ちょうど横に階段を見つけた。
急いで駆け上がる。
そうして二階に上がり、近くで見つけた部屋に駆け込む。
「バカが、そこは行き止まりだ!」
ここは二階。
窓から飛び降りて無事で済む高さじゃない。
到頭追い詰めた、と勝利を確信した二人のマフィアが部屋に突入した。
だが。
「あ? どこに隠れやがった?」
ラヴィポッドの姿が見えない。
カーテンが閉め切られ、陽の光の入らぬ部屋。
視界が悪くて姿を捉えられないが、どうせ物陰に潜んで震えているのだろうとマフィアが進む。
……その後ろで。
内開きの扉の影から、ラヴィポッドがそろりと出てきた。
ドアノブを握って部屋を飛び出し、扉を勢いよく閉める。
バタン、という音でマフィアが振り返り、部屋が真っ暗になったことで何が起きたのか理解する。
「あんのクソガキ!」
額に青筋を浮かべて部屋を飛び出そうとするが。
「ふぎっ!?」
扉を開けると……何故か壁があった。
予想だにしていなかったマフィアが激突。
顔面を強打し踏鞴を踏んだ。
暗がりの中、ゆっくりと手を伸ばして壁を確認。
「土……? 魔術か!?」
その手触りから、壁が土魔術によるものだと気づく。
閉じ込められたことに気づいたマフィアたちから冷や汗が流れる。
詠唱し土壁に魔術を撃ち込むが、魔術が弾けて掻き消える。
魔術を受けてもビクともせず、健在の土壁が憎たらしく立ち塞がっていた。
壁の破壊が無理なら外の仲間に助けを乞おうと窓に近づきカーテンを開ける。
すると、ご丁寧に窓の内側にも土の壁が立ち塞がっていた。
更に数倍の冷や汗が溢れ出す。
脱出する手段がない。
このままでは魔術が消滅するまでこの部屋で過ごすことになる。
魔術が持続、維持される時間は魔術師の腕次第だが、土壁の高い強度から考えて相当長く持続するだろう。
……笑えない。
二人のマフィアが必死に土壁を叩き始めた。
「出しやがれ! ……ちょ、ほんとに頼む!」
「どうやって出んだよこれ!?」
一方ラヴィポッドはマフィアの嘆きを遠くに聞きながら走っていた。
「あぶに~」
二人を撒いたが、ここはマフィアのアジト。
「脱走したガキが入ってきてんぞ!」
「舐めやがって!」
セファリタが起こしている倉庫での騒ぎを聞きつけ、増援に向かっていたマフィアの集団に遭遇してしまう。
「ひぃぃぃぃ!?」
脱兎の如く逃げ出すラヴィポッド。
角を曲がってマフィアの視界から外れた。
「待てやコラっ!」
マフィアがラヴィポッドを追って全速力で角を曲がる。
すると角を曲がってすぐ。
陸上競技のハードルのような土壁が設置されていた。
大きさは通常のそれと大きく異なる。
横幅は廊下の端から端まで。
高さは平均的な大人の身長程。
ちょうど顔や首くらいの高さに、頑強な土の板が仕掛けられているような状態だった。
「「「のわっ!?」」」
勢い余ったマフィアたちがハードルに顔面や首を強打。
ぶつかって尚、勢いのついた体は前に進もうとする。
結果、体が逆上がりのように浮き上がり、次々と仰向けに倒れていった。
「どどどどうしよっ!?」
ラヴィポッドは罠を潜り抜けたマフィアから逃げ、階段を駆け上がり三階へ。
そして振り返り、
「て、ていや!」
岩石を落とす。
階段は一本道。
逃げ場はない。
「し、死ぬぅっ!?」
「どうなってんだこのガキ!?」
売り捌く予定の子どもが一人逃げ出しただけ。
そう思っているマフィアは、ラヴィポッドが無詠唱で魔術を撃ってくるなど考えてもみない。
対抗手段を持たないマフィア。
為す術無く転がる岩石に巻き込まれて落ちていく。
「ふぅ……」
ラヴィポッドが額の汗を拭い、一息つく。
「無詠唱魔術……ただの子どもじゃないな」
しかしそんな暇はなかった。
三階の廊下。
とある一室の前に置かれた椅子へ、大男が腰かけていた。
まるでその部屋を守るように。
大男がラヴィポッドに鋭い眼差しを向けて立ち上がる。
「し、失礼しました!」
ラヴィポッドは階段の手すりにしがみ付いて滑り下りる。
「逃がさん」
大男が跳躍し、一気に階段の下まで先回りした。
着地した衝撃で、岩石に巻き込まれて倒れていたマフィアたちが吹き飛ぶ。
「ひぃぃ!?」
ラヴィポッドはこのままではまずい、と手すりに強くしがみ付いて止まり、今度は逆に手すりをよじ登る。
「ぬんっ!」
そして土壁を作って階段を塞いだ。
しかし安心するのも束の間。
衝撃音が響き、土壁に少し罅が入った。
壁の向こうで大男が何かしているのだろう。
他のマフィアとは一線を画すパワー。
このままではいずれ突破されてしまう。
「あ、あのおじさんヤバイ人なんじゃ……」
ラヴィポッドは大慌てで土の壁を何重にも重ね、大男が守っていた部屋の中に飛び込んだ。
閉めた扉を背にして、へなへなと力が抜けたように座り込む。
これで少しは時間を稼げるはず。
目を瞑って胸元を押さえ、バクバクとうるさい心臓を落ち着かせる。
人心地ついて目を開くと、椅子に座った少女と目が合った。
年齢はラヴィポッドよりも上。
十四、五歳といったところか。
本を読んでいたのだろう。
どこまで読んだかわかるように開いたままの本を逆さにして卓に置き、座ったまま体をラヴィポッドの方へ向けていた。
澄み切った波打ち際の海のような、透き通ったターコイズブルーの髪。
少女はそれを低い位置でツインテールに括っている。
パンツのウエスト部分に入れ込んだ白いノースリーブのブラウスには、綺麗な半円を描くターコイズブルーのフリル襟があしらわれており、サイドは脇から臍の高さまで切れ込みが入っている。
その上にはフードの付いた薄手の外套を羽織っていた。
肩に掛けるのではなく、二の腕に巻き付けて固定する変わった造り。
トップスから独立した肘から先のみの白い袖は、先に行くにつれて広がるフレア袖。
外側に付けられた、魚の背ビレのようなヒラヒラしたターコイズブルーの装飾が特徴的だった。
一見してスカートのように見えるゆったりとしたショートパンツは髪色より少し濃い青色。
胸元には首から下げたターコイズブルーの雫型ネックレスが揺れている。
ヒラヒラとしたお嬢様のような服装と、目力の弱い眠たげな目元が合わさって、どこか儚い印象を受ける少女だった。
「だ、だれですか?」
ラヴィポッドが震えながら問う。
「私のセリフ。ここ私の部屋」
至極御尤も。
「そ、そうですよね。ら、ラヴィポッドです」
ぺこりと頭を下げる。
「クアル」
少女──クアルも淡白に名乗り、慎ましく頭を下げた。
「す、素敵なお名前ですね。し、失礼しました……」
クアルの抑揚の少ない口調に圧力を感じ、ラヴィポッドが逃げるように部屋を出る。
扉を開くと、影が差した。
キョトンとしたラヴィポッドが顔を上げると……
「随分と手間をかけさせてくれたな」
大男が立っていた。
「……」
ラヴィポッドは無言で大男との間に土壁を作り出し、部屋に戻る。
更に土壁で内側から扉を塞ぎ、気休め程度に背中で押さえた。
「はぁ……はぁ……」
顔を青褪めさせて肩で息をするラヴィポッド。
その一連の動きを見ていたクアルが口を開く。
「ヤシンがいるのにどうやって入ってきたのかと思ったけど……」
この部屋はトゥルトゥットファミリーが雇った大男──ヤシンが守っている。
まずマフィアのアジトに潜り込むことすら困難だというのに、更に凄腕の番人がいる。
侵入者など一度たりとも許したことがない。
ラヴィポッドが入ってきたときは偶然が重なって、ヤシンがトイレにでも行っている隙に忍び込んだのかと思っていた。
しかし無詠唱魔術で即席の壁を作る姿を見れば、この部屋へ侵入できたことにも納得がいく。
「……それで、もさもさちゃんは何しにここへ来た?」
「こ、怖いおじさんたちから逃げてたらここに……」
「じゃあアジトにはなんで来た?」
「お、お金を返してもらわないとで、でもわたしは絶対来たくなかったんですけど、気づいたら連れてこられてました」
「……ここの人にお金盗まれた?」
「は、はぃ」
「ふーん」
事情を聴いたクアルが興味なさそうに立ち上がる。
「お金返すように話してあげる」
クアルの提案に、ラヴィポッドが目を丸くする。
「……も、もしかしてこ、怖い人たちのボスのお子さんなんですか?」
クアルの口振りだと、マフィアはクアルの言うことなら聞くのかもしれない。
質の良い調度品に、少女一人には広い部屋。
クアルをボスの子どもだと予想するのも頷けるが……
「違う」
違うらしい。
「話しに行くから、これどけて」
クアルが部屋を出ようとして、出入り口を塞いでいる土壁を指さす。
それを聞いた途端、ラヴィポッドは何かに気づいたようにハッとクアルを見つめた。
細められた目に疑惑の色が浮かぶ。
「そ、そうやってわたしを追い出そうとしてるんじゃ……」
部屋の先には大男がいる。
土壁を解いた後でクアルが裏切ったら、ラヴィポッドは捕まってしまう。
ここ最近騙されてばかりだ。
セファリタは優しくしてくれたが、嫌だと言っているラヴィポッドをマフィアのアジトに強制連行した。
すぐに人を信用しては、また大変な目に合うかもしれない。
「違うけど。ずっと部屋塞がれるの困るし、どけてほしい」
「や、やです!」
「実は漏れそう」
「そ、それなら開けないと……や、やっぱダメです! 漏らしてください!」
危うく魔術を解きそうになったラヴィポッド。
だがクアルの尊厳と自分の命なら後者の方が大事。
クアルには悪いがここで尊厳を失ってもらう他ない。
「嘘だから大丈夫」
「う、嘘……や、やっぱりそういうことだったんですね! 騙されないんですから!」
「……ごめん。どうすれば信じてくれる?」
クアルとしてはちょっとしたジョークのつもりだったが、ラヴィポッドの疑念を深める結果になってしまった。
その後もラヴィポッドとクアルはあれこれと言葉を交わすが話は平行線。
クアルが土壁を解くよう説得を試みるが、ラヴィポッドは「そんなこと言って、本当は罠なんじゃないですか!?」の一点張り。
その間、部屋の外側で大男がアクションを起こしていたようで土壁に何度も罅が入った。
ラヴィポッドはその度に土壁を修復し、厚みを持たせて対抗していた。
そんな不毛な時間は、唐突に終わりを告げる。
「か、火事だ!」
「水魔術師はいねえのか!?」
「水かけても消えねえんだよ!」
「なんなんだよこの紫の火は!?」
マフィアたちの悲鳴が土壁の向こうや外のあちこちから聞こえてきた。
クアルとラヴィポッドが顔を見合わせる。
「火事だって」
「ひ、火がいっぱいあるんですか!?」
ぽつりと言うクアルに、ラヴィポッドが嬉しそうに瞳を輝かせて声を張る。
「なんで嬉しそう? 二人とも危ない。早く壁をどけないと」
クアルの抑揚の少ない口調は相変わらず。
傍目からは危機感を感じないが、若干早口になっている。
わかりにくいが焦っているのだろう。
「こ、このままじゃ危ないですよね」
後ろ手を組み、もじもじとするラヴィポッド。
どこか心が浮き立っているように見える。
「そう言ってる」
クアルはラヴィポッドの様子に嫌な予感を感じた。
具体的なイメージはない。
ただ、どうも目の前でフリフリと体を揺らしている少女が良からぬことを考えている気がしてならない。
訝っていると、土壁の縁から紫の火の粉が出てきた。
「え……」
それに気づいたクアル。
ぽかんと口が開いたままになる。
やがて強まる火の手が土壁を避けるように広がり、部屋が紫の炎に包まれる。
あまりの熱で視界が歪む。
茹だるような暑さに汗がドッと流れ出した。
「これもう手遅れなんじゃ……」
煙を吸って咳き込む。
窓側からも紫炎が迫り、逃げ場がない。
明らかに普通の火とは違う、執念のようなものを感じる紫の火。
世界が終わる瞬間に立ち会っているような絶望が押し寄せた。
息苦しさは煙の所為だけではない。
不安が、恐怖が、呼吸器に影響を及ぼしている。
無意識に一歩後退り、ラヴィポッドを見る。
何やらバックパックを漁っているが……
(もさもさちゃんだけでも逃がさないと……)
クアルにはやり残したことも使命もある。
でも。
たとえクアルが死んでも、代わりは現れる。
決意したクアルが雫型のネックレスを掴んで瞳を閉じた。
ネックレスから靄のような淡いターコイズの光が溢れ出す。
ラヴィポッドに近づくと、球状の膜が二人を包んだ。
雫型のネックレス──『ターコイズの瞳』の継承者を守護する結界。
悍ましい紫炎をどれだけ防げるかは不明だが、多少の時間は稼げるはず。
「もさもさちゃん。一緒に火を突っ切って、窓から飛び降りる」
一か八か。
体が燃え尽きるのが先か、脱出できるのが先か。
ラヴィポッドに手を伸ばす。
「そ、そんな怖いことやです」
この期に及んで怖気ずくラヴィポッドのもう片方の手には、赤土色の仮面が握られていた。
「いいから来る!」
一刻の猶予もない。
ぐずぐずしている間にも火の手が迫っているのだから。
クアルが強引にラヴィポッドの手を引くと……
「い、出でよフレイムゴーレム!」
ラヴィポッドが慌てて赤土色の仮面を放り投げた。
仮面が熱を帯び、黄色、橙、赤と変色していく。
次いで籠った熱が一斉に逃げ出し、溢れた。
元々燃えていた部屋。
広がる炎が視界を埋め尽くし、更に室内を暑くした。
「なにが起きてる……?」
結界がなければ燃え尽きているだろう。
外側はどこを見ても赤々と揺らめく炎の海。
戸惑うクアルを他所に、噴き出る炎は形を変え、天井を焼き尽くす。
そして火の化身が現れた。
手の生えた巨大なオタマジャクシのような姿。
「紫の火食べちゃって!」
ラヴィポッドがフレイムゴーレムに指示を出す。
フレイムゴーレムが僅かに動き、その体が紫炎に触れた。
アジトを燃やす紫炎の全てがフレイムゴーレムの体に吸い込まれ、その体が赤々と輝きを放つ。
「ひゃーーーー!」
興奮したラヴィポッドがフレイムゴーレムと両手に持った石板を交互に見る。
今か今かと、進化の瞬間を見逃さぬよう待機していると……
ふと、手に違和感を覚えた。
体から力が抜けていくような。
その感覚をラヴィポッドは知っている。
「ま、また石板にマナ吸われてる!?」
ブリザードゴーレムの時と同じ感覚だった。
だが今回は前回のように倒れるまでマナを根こそぎ吸われることはなかった。
規定値に達したのか、手の違和感が消える。
「あら?」
ラヴィポッドが石板を見ると、そこに刻まれる名が書き換わっていく。
「『ファイアゴーレム』! ……ん?」
新たなゴーレムの名を読み上げる。
どんなゴーレムなのかと胸を躍らせると、更に名が書き換わる。
セファリタの紫炎は、ゴーレムの進化段階を一段飛ばす程の力を秘めていた。
「も、もっかい変わった!? 次は……『ブレイズゴーレム』!」
その名を呼んだ瞬間、赤々とした輝きが収束した。
クアルは戸惑いながらも、ラヴィポッドの様子を見ていた。
(火の塊を使役してる?)
まるで火の塊が命令に従うように紫炎を吸収していく。
自身の目で確認して尚も疑いたくなる光景だが、紛れもない事実。
あの火の塊は何らかの生命体なのかもしれない。
詳細は不明。
けれど脅威だった紫炎は消え去った。
胸を撫で下ろす。
炎の海に呑み込まれて一時は死を覚悟したが、どうやら助かったようだ。
「もさもさちゃん、ありが……」
助けようとしたが、逆に助けられた。
命の恩人に感謝を告げようとした時。
赤々とした輝きが消え。
──大爆発が起こった。
爆炎が押し寄せる。
凄まじい熱気と速度。
結界があるにもかかわらず炎が目前に迫っているような錯覚をして腰が抜けた。
「いぃやあぁぁぁぁぁぁっ!?」
安心したところへ襲い掛かった死の恐怖。
完全な不意打ちに、眠たげな目元は見開かれ。
ポーカーフェイスが見るも無残に崩れ去った。
気が付くと二人は炎に乗って上空へ飛び出していた。
「たーまやぁ~~!!」
ラヴィポッドのテンションは最高潮。
大爆発すらも進化を祝福する花火のように感じていた。
「ブレイズゴーレム、きゃんわいー!」
後ろで絶叫を上げる少女など気にも留めず。
ご機嫌なラヴィポッドはブレイズゴーレムの姿に目を輝かせていた。
それは、巨大なミンクのような輪郭の炎だった。
細長い胴体に長い尻尾。
そのところどころには赤土色の装備を纏っている。
頭には仮面を。
巨体にしては小さな腕と脚には鎧を。
そして背には鞍が装備されていた。
ラヴィポッドを守りたい、役に立ちたい。
その次にフレイムゴーレムが願ったのは……触れ合いたい。
主を乗せ、直接撫でてもらえるカッパーゴーレムやブリザードゴーレムが羨ましかった。
そんな思いが進化の指針となり、騎乗者をブレイズゴーレムの炎から守る耐熱の鞍がその背に出現した。
灼熱の幻獣が空を舞う。
その姿はまるで太陽からの使い。
細長い体を撓わせ、地上へ降り立った。
ブレイズゴーレムを形成する烈火が揺らぎ、一帯に熱波が広がる。
熱波の外からは、その姿が大気とともに歪んで確認できず。
しかし主の認めたもの以外が熱波の内側で生き存らえることはない。
忽ち烈火が焼き尽くすだろう。
まさしく幻の獣。
その姿さえ、主だけのために。
「俺は……何を見てんだ?」
セファリタの命を狙っていた、バンダナにケープマントの男が腰を落とし警戒を強めて呟く。
揺らぐ視界の先にいる赤々とした巨大な何か。
神など信じたことはないが、それに類する大いなる存在の逆鱗に触れてしまったような緊張が場を支配した。
「ひぃぃぃぃぃぃ!?」
ラヴィポッドは悲鳴を上げ、もさもさ頭を揺らしながら逃げ回っていた。
その後ろをマフィアが追う。
このままではいずれ追いつかれる。
どうすれば逃げ切れるか。
パニックになった頭では良い考えも浮かばず。
とりあえずマフィアの視界から外れようと室内に飛び込んだ。
そのまま廊下を走っていると、
「あ? なんだこのガキ……」
正面にもマフィアが。
「ひぃぃ!?」
振り返って逃げようとするも、
「そいつ捕まえてくれ!」
後ろからもマフィアが追いかけてくる。
ラヴィポッドは慌てて止まりキョロキョロ周囲を確認。
ちょうど横に階段を見つけた。
急いで駆け上がる。
そうして二階に上がり、近くで見つけた部屋に駆け込む。
「バカが、そこは行き止まりだ!」
ここは二階。
窓から飛び降りて無事で済む高さじゃない。
到頭追い詰めた、と勝利を確信した二人のマフィアが部屋に突入した。
だが。
「あ? どこに隠れやがった?」
ラヴィポッドの姿が見えない。
カーテンが閉め切られ、陽の光の入らぬ部屋。
視界が悪くて姿を捉えられないが、どうせ物陰に潜んで震えているのだろうとマフィアが進む。
……その後ろで。
内開きの扉の影から、ラヴィポッドがそろりと出てきた。
ドアノブを握って部屋を飛び出し、扉を勢いよく閉める。
バタン、という音でマフィアが振り返り、部屋が真っ暗になったことで何が起きたのか理解する。
「あんのクソガキ!」
額に青筋を浮かべて部屋を飛び出そうとするが。
「ふぎっ!?」
扉を開けると……何故か壁があった。
予想だにしていなかったマフィアが激突。
顔面を強打し踏鞴を踏んだ。
暗がりの中、ゆっくりと手を伸ばして壁を確認。
「土……? 魔術か!?」
その手触りから、壁が土魔術によるものだと気づく。
閉じ込められたことに気づいたマフィアたちから冷や汗が流れる。
詠唱し土壁に魔術を撃ち込むが、魔術が弾けて掻き消える。
魔術を受けてもビクともせず、健在の土壁が憎たらしく立ち塞がっていた。
壁の破壊が無理なら外の仲間に助けを乞おうと窓に近づきカーテンを開ける。
すると、ご丁寧に窓の内側にも土の壁が立ち塞がっていた。
更に数倍の冷や汗が溢れ出す。
脱出する手段がない。
このままでは魔術が消滅するまでこの部屋で過ごすことになる。
魔術が持続、維持される時間は魔術師の腕次第だが、土壁の高い強度から考えて相当長く持続するだろう。
……笑えない。
二人のマフィアが必死に土壁を叩き始めた。
「出しやがれ! ……ちょ、ほんとに頼む!」
「どうやって出んだよこれ!?」
一方ラヴィポッドはマフィアの嘆きを遠くに聞きながら走っていた。
「あぶに~」
二人を撒いたが、ここはマフィアのアジト。
「脱走したガキが入ってきてんぞ!」
「舐めやがって!」
セファリタが起こしている倉庫での騒ぎを聞きつけ、増援に向かっていたマフィアの集団に遭遇してしまう。
「ひぃぃぃぃ!?」
脱兎の如く逃げ出すラヴィポッド。
角を曲がってマフィアの視界から外れた。
「待てやコラっ!」
マフィアがラヴィポッドを追って全速力で角を曲がる。
すると角を曲がってすぐ。
陸上競技のハードルのような土壁が設置されていた。
大きさは通常のそれと大きく異なる。
横幅は廊下の端から端まで。
高さは平均的な大人の身長程。
ちょうど顔や首くらいの高さに、頑強な土の板が仕掛けられているような状態だった。
「「「のわっ!?」」」
勢い余ったマフィアたちがハードルに顔面や首を強打。
ぶつかって尚、勢いのついた体は前に進もうとする。
結果、体が逆上がりのように浮き上がり、次々と仰向けに倒れていった。
「どどどどうしよっ!?」
ラヴィポッドは罠を潜り抜けたマフィアから逃げ、階段を駆け上がり三階へ。
そして振り返り、
「て、ていや!」
岩石を落とす。
階段は一本道。
逃げ場はない。
「し、死ぬぅっ!?」
「どうなってんだこのガキ!?」
売り捌く予定の子どもが一人逃げ出しただけ。
そう思っているマフィアは、ラヴィポッドが無詠唱で魔術を撃ってくるなど考えてもみない。
対抗手段を持たないマフィア。
為す術無く転がる岩石に巻き込まれて落ちていく。
「ふぅ……」
ラヴィポッドが額の汗を拭い、一息つく。
「無詠唱魔術……ただの子どもじゃないな」
しかしそんな暇はなかった。
三階の廊下。
とある一室の前に置かれた椅子へ、大男が腰かけていた。
まるでその部屋を守るように。
大男がラヴィポッドに鋭い眼差しを向けて立ち上がる。
「し、失礼しました!」
ラヴィポッドは階段の手すりにしがみ付いて滑り下りる。
「逃がさん」
大男が跳躍し、一気に階段の下まで先回りした。
着地した衝撃で、岩石に巻き込まれて倒れていたマフィアたちが吹き飛ぶ。
「ひぃぃ!?」
ラヴィポッドはこのままではまずい、と手すりに強くしがみ付いて止まり、今度は逆に手すりをよじ登る。
「ぬんっ!」
そして土壁を作って階段を塞いだ。
しかし安心するのも束の間。
衝撃音が響き、土壁に少し罅が入った。
壁の向こうで大男が何かしているのだろう。
他のマフィアとは一線を画すパワー。
このままではいずれ突破されてしまう。
「あ、あのおじさんヤバイ人なんじゃ……」
ラヴィポッドは大慌てで土の壁を何重にも重ね、大男が守っていた部屋の中に飛び込んだ。
閉めた扉を背にして、へなへなと力が抜けたように座り込む。
これで少しは時間を稼げるはず。
目を瞑って胸元を押さえ、バクバクとうるさい心臓を落ち着かせる。
人心地ついて目を開くと、椅子に座った少女と目が合った。
年齢はラヴィポッドよりも上。
十四、五歳といったところか。
本を読んでいたのだろう。
どこまで読んだかわかるように開いたままの本を逆さにして卓に置き、座ったまま体をラヴィポッドの方へ向けていた。
澄み切った波打ち際の海のような、透き通ったターコイズブルーの髪。
少女はそれを低い位置でツインテールに括っている。
パンツのウエスト部分に入れ込んだ白いノースリーブのブラウスには、綺麗な半円を描くターコイズブルーのフリル襟があしらわれており、サイドは脇から臍の高さまで切れ込みが入っている。
その上にはフードの付いた薄手の外套を羽織っていた。
肩に掛けるのではなく、二の腕に巻き付けて固定する変わった造り。
トップスから独立した肘から先のみの白い袖は、先に行くにつれて広がるフレア袖。
外側に付けられた、魚の背ビレのようなヒラヒラしたターコイズブルーの装飾が特徴的だった。
一見してスカートのように見えるゆったりとしたショートパンツは髪色より少し濃い青色。
胸元には首から下げたターコイズブルーの雫型ネックレスが揺れている。
ヒラヒラとしたお嬢様のような服装と、目力の弱い眠たげな目元が合わさって、どこか儚い印象を受ける少女だった。
「だ、だれですか?」
ラヴィポッドが震えながら問う。
「私のセリフ。ここ私の部屋」
至極御尤も。
「そ、そうですよね。ら、ラヴィポッドです」
ぺこりと頭を下げる。
「クアル」
少女──クアルも淡白に名乗り、慎ましく頭を下げた。
「す、素敵なお名前ですね。し、失礼しました……」
クアルの抑揚の少ない口調に圧力を感じ、ラヴィポッドが逃げるように部屋を出る。
扉を開くと、影が差した。
キョトンとしたラヴィポッドが顔を上げると……
「随分と手間をかけさせてくれたな」
大男が立っていた。
「……」
ラヴィポッドは無言で大男との間に土壁を作り出し、部屋に戻る。
更に土壁で内側から扉を塞ぎ、気休め程度に背中で押さえた。
「はぁ……はぁ……」
顔を青褪めさせて肩で息をするラヴィポッド。
その一連の動きを見ていたクアルが口を開く。
「ヤシンがいるのにどうやって入ってきたのかと思ったけど……」
この部屋はトゥルトゥットファミリーが雇った大男──ヤシンが守っている。
まずマフィアのアジトに潜り込むことすら困難だというのに、更に凄腕の番人がいる。
侵入者など一度たりとも許したことがない。
ラヴィポッドが入ってきたときは偶然が重なって、ヤシンがトイレにでも行っている隙に忍び込んだのかと思っていた。
しかし無詠唱魔術で即席の壁を作る姿を見れば、この部屋へ侵入できたことにも納得がいく。
「……それで、もさもさちゃんは何しにここへ来た?」
「こ、怖いおじさんたちから逃げてたらここに……」
「じゃあアジトにはなんで来た?」
「お、お金を返してもらわないとで、でもわたしは絶対来たくなかったんですけど、気づいたら連れてこられてました」
「……ここの人にお金盗まれた?」
「は、はぃ」
「ふーん」
事情を聴いたクアルが興味なさそうに立ち上がる。
「お金返すように話してあげる」
クアルの提案に、ラヴィポッドが目を丸くする。
「……も、もしかしてこ、怖い人たちのボスのお子さんなんですか?」
クアルの口振りだと、マフィアはクアルの言うことなら聞くのかもしれない。
質の良い調度品に、少女一人には広い部屋。
クアルをボスの子どもだと予想するのも頷けるが……
「違う」
違うらしい。
「話しに行くから、これどけて」
クアルが部屋を出ようとして、出入り口を塞いでいる土壁を指さす。
それを聞いた途端、ラヴィポッドは何かに気づいたようにハッとクアルを見つめた。
細められた目に疑惑の色が浮かぶ。
「そ、そうやってわたしを追い出そうとしてるんじゃ……」
部屋の先には大男がいる。
土壁を解いた後でクアルが裏切ったら、ラヴィポッドは捕まってしまう。
ここ最近騙されてばかりだ。
セファリタは優しくしてくれたが、嫌だと言っているラヴィポッドをマフィアのアジトに強制連行した。
すぐに人を信用しては、また大変な目に合うかもしれない。
「違うけど。ずっと部屋塞がれるの困るし、どけてほしい」
「や、やです!」
「実は漏れそう」
「そ、それなら開けないと……や、やっぱダメです! 漏らしてください!」
危うく魔術を解きそうになったラヴィポッド。
だがクアルの尊厳と自分の命なら後者の方が大事。
クアルには悪いがここで尊厳を失ってもらう他ない。
「嘘だから大丈夫」
「う、嘘……や、やっぱりそういうことだったんですね! 騙されないんですから!」
「……ごめん。どうすれば信じてくれる?」
クアルとしてはちょっとしたジョークのつもりだったが、ラヴィポッドの疑念を深める結果になってしまった。
その後もラヴィポッドとクアルはあれこれと言葉を交わすが話は平行線。
クアルが土壁を解くよう説得を試みるが、ラヴィポッドは「そんなこと言って、本当は罠なんじゃないですか!?」の一点張り。
その間、部屋の外側で大男がアクションを起こしていたようで土壁に何度も罅が入った。
ラヴィポッドはその度に土壁を修復し、厚みを持たせて対抗していた。
そんな不毛な時間は、唐突に終わりを告げる。
「か、火事だ!」
「水魔術師はいねえのか!?」
「水かけても消えねえんだよ!」
「なんなんだよこの紫の火は!?」
マフィアたちの悲鳴が土壁の向こうや外のあちこちから聞こえてきた。
クアルとラヴィポッドが顔を見合わせる。
「火事だって」
「ひ、火がいっぱいあるんですか!?」
ぽつりと言うクアルに、ラヴィポッドが嬉しそうに瞳を輝かせて声を張る。
「なんで嬉しそう? 二人とも危ない。早く壁をどけないと」
クアルの抑揚の少ない口調は相変わらず。
傍目からは危機感を感じないが、若干早口になっている。
わかりにくいが焦っているのだろう。
「こ、このままじゃ危ないですよね」
後ろ手を組み、もじもじとするラヴィポッド。
どこか心が浮き立っているように見える。
「そう言ってる」
クアルはラヴィポッドの様子に嫌な予感を感じた。
具体的なイメージはない。
ただ、どうも目の前でフリフリと体を揺らしている少女が良からぬことを考えている気がしてならない。
訝っていると、土壁の縁から紫の火の粉が出てきた。
「え……」
それに気づいたクアル。
ぽかんと口が開いたままになる。
やがて強まる火の手が土壁を避けるように広がり、部屋が紫の炎に包まれる。
あまりの熱で視界が歪む。
茹だるような暑さに汗がドッと流れ出した。
「これもう手遅れなんじゃ……」
煙を吸って咳き込む。
窓側からも紫炎が迫り、逃げ場がない。
明らかに普通の火とは違う、執念のようなものを感じる紫の火。
世界が終わる瞬間に立ち会っているような絶望が押し寄せた。
息苦しさは煙の所為だけではない。
不安が、恐怖が、呼吸器に影響を及ぼしている。
無意識に一歩後退り、ラヴィポッドを見る。
何やらバックパックを漁っているが……
(もさもさちゃんだけでも逃がさないと……)
クアルにはやり残したことも使命もある。
でも。
たとえクアルが死んでも、代わりは現れる。
決意したクアルが雫型のネックレスを掴んで瞳を閉じた。
ネックレスから靄のような淡いターコイズの光が溢れ出す。
ラヴィポッドに近づくと、球状の膜が二人を包んだ。
雫型のネックレス──『ターコイズの瞳』の継承者を守護する結界。
悍ましい紫炎をどれだけ防げるかは不明だが、多少の時間は稼げるはず。
「もさもさちゃん。一緒に火を突っ切って、窓から飛び降りる」
一か八か。
体が燃え尽きるのが先か、脱出できるのが先か。
ラヴィポッドに手を伸ばす。
「そ、そんな怖いことやです」
この期に及んで怖気ずくラヴィポッドのもう片方の手には、赤土色の仮面が握られていた。
「いいから来る!」
一刻の猶予もない。
ぐずぐずしている間にも火の手が迫っているのだから。
クアルが強引にラヴィポッドの手を引くと……
「い、出でよフレイムゴーレム!」
ラヴィポッドが慌てて赤土色の仮面を放り投げた。
仮面が熱を帯び、黄色、橙、赤と変色していく。
次いで籠った熱が一斉に逃げ出し、溢れた。
元々燃えていた部屋。
広がる炎が視界を埋め尽くし、更に室内を暑くした。
「なにが起きてる……?」
結界がなければ燃え尽きているだろう。
外側はどこを見ても赤々と揺らめく炎の海。
戸惑うクアルを他所に、噴き出る炎は形を変え、天井を焼き尽くす。
そして火の化身が現れた。
手の生えた巨大なオタマジャクシのような姿。
「紫の火食べちゃって!」
ラヴィポッドがフレイムゴーレムに指示を出す。
フレイムゴーレムが僅かに動き、その体が紫炎に触れた。
アジトを燃やす紫炎の全てがフレイムゴーレムの体に吸い込まれ、その体が赤々と輝きを放つ。
「ひゃーーーー!」
興奮したラヴィポッドがフレイムゴーレムと両手に持った石板を交互に見る。
今か今かと、進化の瞬間を見逃さぬよう待機していると……
ふと、手に違和感を覚えた。
体から力が抜けていくような。
その感覚をラヴィポッドは知っている。
「ま、また石板にマナ吸われてる!?」
ブリザードゴーレムの時と同じ感覚だった。
だが今回は前回のように倒れるまでマナを根こそぎ吸われることはなかった。
規定値に達したのか、手の違和感が消える。
「あら?」
ラヴィポッドが石板を見ると、そこに刻まれる名が書き換わっていく。
「『ファイアゴーレム』! ……ん?」
新たなゴーレムの名を読み上げる。
どんなゴーレムなのかと胸を躍らせると、更に名が書き換わる。
セファリタの紫炎は、ゴーレムの進化段階を一段飛ばす程の力を秘めていた。
「も、もっかい変わった!? 次は……『ブレイズゴーレム』!」
その名を呼んだ瞬間、赤々とした輝きが収束した。
クアルは戸惑いながらも、ラヴィポッドの様子を見ていた。
(火の塊を使役してる?)
まるで火の塊が命令に従うように紫炎を吸収していく。
自身の目で確認して尚も疑いたくなる光景だが、紛れもない事実。
あの火の塊は何らかの生命体なのかもしれない。
詳細は不明。
けれど脅威だった紫炎は消え去った。
胸を撫で下ろす。
炎の海に呑み込まれて一時は死を覚悟したが、どうやら助かったようだ。
「もさもさちゃん、ありが……」
助けようとしたが、逆に助けられた。
命の恩人に感謝を告げようとした時。
赤々とした輝きが消え。
──大爆発が起こった。
爆炎が押し寄せる。
凄まじい熱気と速度。
結界があるにもかかわらず炎が目前に迫っているような錯覚をして腰が抜けた。
「いぃやあぁぁぁぁぁぁっ!?」
安心したところへ襲い掛かった死の恐怖。
完全な不意打ちに、眠たげな目元は見開かれ。
ポーカーフェイスが見るも無残に崩れ去った。
気が付くと二人は炎に乗って上空へ飛び出していた。
「たーまやぁ~~!!」
ラヴィポッドのテンションは最高潮。
大爆発すらも進化を祝福する花火のように感じていた。
「ブレイズゴーレム、きゃんわいー!」
後ろで絶叫を上げる少女など気にも留めず。
ご機嫌なラヴィポッドはブレイズゴーレムの姿に目を輝かせていた。
それは、巨大なミンクのような輪郭の炎だった。
細長い胴体に長い尻尾。
そのところどころには赤土色の装備を纏っている。
頭には仮面を。
巨体にしては小さな腕と脚には鎧を。
そして背には鞍が装備されていた。
ラヴィポッドを守りたい、役に立ちたい。
その次にフレイムゴーレムが願ったのは……触れ合いたい。
主を乗せ、直接撫でてもらえるカッパーゴーレムやブリザードゴーレムが羨ましかった。
そんな思いが進化の指針となり、騎乗者をブレイズゴーレムの炎から守る耐熱の鞍がその背に出現した。
灼熱の幻獣が空を舞う。
その姿はまるで太陽からの使い。
細長い体を撓わせ、地上へ降り立った。
ブレイズゴーレムを形成する烈火が揺らぎ、一帯に熱波が広がる。
熱波の外からは、その姿が大気とともに歪んで確認できず。
しかし主の認めたもの以外が熱波の内側で生き存らえることはない。
忽ち烈火が焼き尽くすだろう。
まさしく幻の獣。
その姿さえ、主だけのために。
「俺は……何を見てんだ?」
セファリタの命を狙っていた、バンダナにケープマントの男が腰を落とし警戒を強めて呟く。
揺らぐ視界の先にいる赤々とした巨大な何か。
神など信じたことはないが、それに類する大いなる存在の逆鱗に触れてしまったような緊張が場を支配した。
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