跼蹐のゴーレムマスター~ビビリ少女ラヴィポッドはゴーレムに乗って~

現 現世

文字の大きさ
上 下
21 / 41

第21話 瘴気の木

しおりを挟む
「最近浮かない顔をしているな。」

 マーカスが、王宮で話しかけて来た。

「イライザ夫人どうだった?」

「それがどんどん疑惑は深まる一方だと言うより、イライザに秘密があるのは確実だ。」

「そうなのか?
 イライザ夫人に限って、そんなことあるのか?」

「僕も信じたくないけれど、イライザは、昼間御者を木の下で待たせて、どこかへ行っている。

 さらには、渡している給金も何かに注ぎ込んでいるし、医師とのことも認めない。

 今はそんな状況だ。

 僕が追求しようとすると、キスをして来て、それ以上は話してくれない。

 イライザには男がいる、多分。
 僕を誤魔化したいほどの大切な男が。」

「待てよ。
 でも普通そんな感じなら、リカルドとキスしたり、色々しないだろ?」

「誤魔化すためだよ。
 僕は頭がおかしくなりそうだ。」

 僕はたまらず頭を抱える。

「結論づけるのは、まだ早いぞ。
 まだ、浮気していると決まったわけじゃないだろ?」

「ああ、今邸の私兵に探らせているところだ。」

「なら、最後まで希望を捨てるな。」

「なぁ、僕達に子供ができなかったからだと思うか?

 いや、今のは聞かなかったことにしてくれ。」

「子供がいてもいなくても、するやつはするし、しないやつはしない。

 でも、イライザ夫人がする人とはまだ思えないんだ。」

「僕もそう思っていた。」

 僕は、疑惑が大きくなればなるほど、不安だし、疑心暗鬼になっていく。

 最近は、王宮に行っても、心ここにあらずで、何も言わないけれど、多分僕の異変に王子も勘付いている。

 侯爵当主として情けないが、イライザを愛している分、僕はどんどん不安定になって行く。





「ねぇ、聞いているの?」

「聞いているよ、母上。」

 母がいる棟の庭園で、日課の母のお茶に付き合っている。

 同じ邸の中だけど、こちらは、父が亡くなってから、ますます静かになり、母のキンキン声だけが響く。

「もう、リカルドだけなんだから、私の話を聞いてくれるのは。

 旦那様が亡くなってからは、あなたしかいないのよ。」

 そう言うが、イライザを拒否したのは、母だ。

 もし、子供ができなくともイライザを認めていたならば、こんなに一人寂しい思いをしなくても済んだのに、自分のせいだとは、母は気づいていない。

「ねぇ、そろそろ、第二夫人でも娶ったら?」

「何度も言わせないでくれ。
 母上だって、父上に認めなかっただろ?」

「一緒にしないで。
 私はあなたを産んだわ。
 あの人とは違うわ。」

「そうだとしても、嫌な気持ちは一緒だろ?

 どうして、自分がされたくないことを人には求める?」

「仕方ないでしょ。
 後継は必要なんだから。」

「その話は、親族の者をもらうと言うことで、決着がついている。」

「嫌なものは嫌なの。
 あなたにそっくりな孫が欲しいのよ。」

「すまないが、それは果たせない。」

 父が亡くなってから、母はますます孫を欲しがるようになった。

 いつもなら、それを受け流すこともできたが、最近は僕にも余裕がない。

 大声で、無理なんだよ。と叫んでしまう日がいつか来そうで、自分でも怖い。

 感情的になることは、貴族として、とっくに無くして来たのに。

 僕は最近自分が嫌いだ。





「どうぞ、入って。」

 執務室で仕事をしていると、イライザの尾行を頼んだべモートが入って来る。

「リカルド様、報告があります。」

「ああ、待っていたよ。
 話してくれ。」

 僕とライナスはその話に聞き入る。

「イライザ様が、馬車から離れ向かった先は、ある邸でした。

 こじんまりとしてはいますが、誰かの別邸と言う感じで、建物は立派です。」

「なるほど。」

「そして、イライザ様がその邸に消えた後、邸に入った者は、ノーマン医師ただ一人です。

 後は使用人の出入りがあるだけです。」

「何と。
 では、ノーマン医師との密会場所なのか?」

「それがそうではなく、ノーマン医師も長くいたわけではありません。

 多分、どなたかを診察してすぐに帰られたと思います。

 そして、イライザ様以外、あの邸に出入りはありません。

 なので、イライザ様は誰かの看病をしているのではないでしょうか?」

「なるほど。
 イライザは、父の看病もしてくれていたしね。」

 母は父が倒れてからは、お茶会だとか、友人と出かけるなどと言って、父に寄り付かなかったから、その隙にイライザは父を心配して、父のいる棟を訪れていた。

「はい、私がキャサリン様がいない時、イライザ様をご案内しておりました。

 旦那様は、いつもイライザ様が来てくれるのを、楽しみに待っておられましたから。」

 ライナスは、思い出して微笑む。

 「だとしてただの看病なら、わざわざ僕に隠す相手とは誰だろう?」

「わかりません。
 そうなると、やはり男かもしれませんね。
 残念ですが。」

 ライナスは諦め顔で首を振る。

「とにかく、イライザ様がもうあの邸に通わせないようにするのは、大変なことでしょうね。

 いっそのこと、目をつぶったらいかがですか?

 下手に追い詰めると、イライザ様がリカルド様に離縁を申し出るかもしれませんよ。」

「そんなことが?」

「その相手と無理矢理引き離すのですから、覚悟がいります。

 反対に子供ができなかったから身を引くと言われたら、こちらとしても離縁を認めざるを得ないでしょう。

 不貞の証拠を掴んでいれば、話は変わりますが。

 だからと言って、イライザ夫人の不貞がキャサリン夫人に知られたら、大騒ぎでしょうし。

 よく考えてみられたらいかがですか?」

「ああ、そうするよ。」

 ライナスとべモートが、部屋を出た後、しばらく一人で強い酒を飲んだ。

 この前までは、十年経っても新婚生活などと浮かれていたのに、あっと言う間にどん底だ。

 人生わからないものだ。

 僕はいつ間違ったのだろう。

 イライザが、僕以外の男を求めるなど、今でも信じたくないし、受け入れられない。

 しかも僕はこうなるまで、全く気がつかないほどの鈍感な男で、それでも、イライザを失いたくないから、動けない。

 でも、それならどうしてイライザは変わらず僕を受け入れる?

 好きな男がいるとしたら、普通は嫌なものでないのか?

 秘密にするためなら、僕に抱かれても我慢するのか?

 僕は沼にハマって動けないように、酒に溺れ、そのまま執務室で寝てしまった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

Link's

黒砂糖デニーロ
ファンタジー
この世界には二つの存在がいる。 人類に仇なす不死の生物、"魔属” そして魔属を殺せる唯一の異能者、"勇者” 人類と魔族の戦いはすでに千年もの間、続いている―― アオイ・イリスは人類の脅威と戦う勇者である。幼馴染のレン・シュミットはそんな彼女を聖剣鍛冶師として支える。 ある日、勇者連続失踪の調査を依頼されたアオイたち。ただの調査のはずが、都市存亡の戦いと、その影に蠢く陰謀に巻き込まれることに。 やがてそれは、世界の命運を分かつ事態に―― 猪突猛進型少女の勇者と、気苦労耐えない幼馴染が繰り広げる怒涛のバトルアクション!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

処理中です...