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1.残念なTS男子、セシル
しおりを挟むずっと悩んできた。自分は一体、どっちなのか。
思春期に入り全体的に丸みを帯びていった身体に、それに伴って膨らんだ胸。それを見る度、嫌悪感が走った。時には『気持ちが悪い』とも思った。月に一度来るものも、煩わしいし、下着を下ろした際の赤を目にする度に、自分は『おんな』なのだと思い知らされた。
一方で、女性が好きだというわけでもなかった。可愛いと思う子や、比較的好みだと思う子を見ても胸はドキドキしなかったし、当然、スキンシップをしたいとも微塵も思わなかった。かと思うと、自分は女の子が好きなのかもしれない、と思うことも度々ある。しかしどちらかというと、身近に男性がいるときの方が緊張が走り、もう自分は一体何なのだ!?と延々と自問自答を繰り返していた。
あるときからBL作品が大好きで、自分も受けの可愛いらしい男の子になりたい、と思っていた。それが単なる若気の至り・・・だったならよかったが、自分の場合、いい大人になってもそんな夢物語を切望していたのだから、笑えない。哀しい奴よのぅ。
ふと思い返すと、他人に対して本気の恋愛感情を持った記憶がなく、BLが好きなクセして性行為を具体的に想像すると、生々しくて『うぇっ』となる。一体何なのだろう。多様性のこの時代において、自分は何に当てはまるのだろう。アロマンティック・アセクシャルか?いやいや、恋愛感情(?)っぽいものを感じたこともあるような気がするから、ロマンティック・アセクシャル?
それとも、ゲイ、に当てはまるのだろうか?心の中では、自分のことを『私』と言うのに抵抗したい自分がいる。それに男の人に憧れるし・・・。まぁでも、結局はわからない。色々考えているけど実は本物の、完全な女だったのかもしれない。いつも考えすぎると、途中からよくわからなくなってきて、最後にはどうでもいいやと考えを放棄していた。
人生を通してこんな風に色々考え続け、続けた結果、そのまま往生してしまった。
そして次に目を開くと――異世界で男になっていた。
裏庭といっても前世の感覚からじゃ庭とは呼べないほどの大きさの、家庭菜園用の畑を耕している女性の背中を見つけ、大きく息を吸う。
「ロロリアさーん、そろそろ休憩しませんかぁー」
こちらを振り返る真っ赤な髪を腰まで伸ばした、ナイスバディなお姉さん。彼女が自分を見つめる目は、明らかに恋する乙女そのものであった。
だがしかし、女性には興味ないのである!!
転生、というものをしたらしいことに気づいたのは、物心ついてすぐの頃。自分は、この世に セシル という男児として生を受けた。
そう。念願の『男の子』になれたのだ!!明らかに前世にはなかった股間のもの。おおう、こんな感じか、と新鮮な気持ちで自分の身体を受け入れたものだった。
前世自分が住んでいた世界に比べて様々なものが発展していないこの世界。ともすると魔法使いが出て来てもおかしくない雰囲気の世界で、セシルは大商人の子として生まれた。父は娼館を何軒も経営する商人で、家は大変裕福だった。しかし、そんな父ロアンだが、全く以て尊敬できない野郎であった。それは――
「セシル様ぁ、今日も麗しいお姿で」
「お早うございます、アリシアさん」
「セシル様っ!もうすぐ朝食が出来上がりますので、もう少々お待ちくださいましっ!」
「メアリさん、洗い物は俺もお手伝いしますね」
「あらセシル様」
「セシル様!!朝からセシル様のご尊顔を拝めるなんてっっ幸せですっ!!」
「セシル様!」
「セシルさまぁ!!」
「お早うございます、セシル様」
「ご機嫌よう、セシル様」
父ロアンには、数え切れないほどの“妻”がいるのである!!セシルの生みの母親は既にこの世にいないが、この屋敷にはロアンの側室や妾たちが大勢暮らしているのだ。
ここまでは百歩譲って良しとしよう。曲がりなりにも異世界なのだからな。だがしかし、
『ロアン様、お食事ができておりますが』
『食事はコニア(友達)と取るからいいや』
『ちょっと靴磨いてないんだけど?』
『申し訳ありません旦那様っ!ただいま!』
『も~、いいよ、別の履いてくから』
『すいません・・・・・・(シュン)』
『ご主人様・・・』
『君、名前なんだっけ?』
などなど、ロアンは妻たちを人間だと思わないとんだクズ男なのである。最後のとか、最低すぎるだろ。
しかしながら、この光景は特別珍しいものでもないらしいのだ。
なんとこの世界は、男の数が少ない世界なのである。総人口における男女比がおよそ7:3という感じらしい。男は非常に重宝される存在であるため、超男尊女卑仕様となっていた。
因みに、今世で貴重な男として生を受けたセシルはと言えば、白磁のような肌、焦茶の髪にヘーゼルの瞳、そして柔和なフェイスとかなり整った容姿をしている。そのためこの年ながら家の女性たちにもモテモテだ。セシル自身は女性に全く興味がないというのに・・・。
興味はないが、女性たちが敷かれている状況にどうしても嫌悪感を抱いてしまうのは、前世自分も女という立場であったからなのだろうか。屋敷で一緒に暮らしているロアンの妻の一人が、誰からも褒められない、出て来て当たり前だと思っている料理を作っていたとき、その背中がどうしても放っておけなくて手伝いを買って出た。
またあるときは、召使いの一人が真っ青な顔でぐったりしているのを見て、もしかしたら月一で股から血が出るアレかもしれないと思い、それとなく仕事から遠ざけて休むように言った。
そんなことをしていたら、女性のことを物だという認識を持つ男が大半の中でセシルのような存在が珍しかったらしく、女性たちにモテまくった。
そう。折角念願の男の子になったというのに、自分は男の全然いない世界で女にモテているのである!!BL的な展開が起こる予感すらしない。
これは、そんな残念なTS男子、セシルの物語である。
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