独占欲強い系の同居人

狼蝶

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受け視点

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 僕の名前は高橋タカハシリョウ。現在高校2年生で、一人暮らしをしている。

 いや、正確にいうと強制的に一人暮らしをさせられているってカンジだ。



 美男美女の両親の間に生まれた僕は、そんな両親のカケラも引き継ぐことなく生まれた。生まれた僕を母が初めて見たとき、即倒したと聞いたことがある。
 そんな不細工な僕は小さい頃は家の離れ、そして中学生になってからは家から遠く離れたマンションを買い与えられ、そこで一人で生活しているのだ。

 こんな僕にマンションを買い与えるなんてと思うだろうが、これは一種の慈善活動なのだと思う。両親は結構な資産家で、人の目もあることから僕にあからさまに嫌な態度を取らないし、不細工な僕に物を買い与えることによって世間からの注目と関心を向けられたかったのだろう。

 そのおかげで僕は、冷視線を常に浴びせられるあの家から離れることができたのだが。



 僕の顔は相当すごく、学校でも一位二位を争うほどの不細工さだ。
普段はマスクをして顔の大半を隠してはいるが、そうしてもこの大きな目や鼻の筋を隠すことはできない。

 廊下を通れば皆明らかに嫌な顔をして背けるし、ヒエラルキーの頂点に位置する者からは当たり前のように足を引っかけられたり机の物を落とされたりと嫌がらせもされている。
 何よりも一番傷つくのは、昼食の時間だ。

 僕の通う学校には食堂があり、昼食は皆そこで食事を買って食べるか各々が持参した物を好きな場所で食べるかするが、僕は朝が弱いのと料理ができないのとで毎日食堂を使っている。
 初日に食堂へ行った時、僕の姿を目に入れた途端に女子は悲鳴を上げながら男子は悲鳴は上げずとも目を剥いて、皆波が引くように食堂からいなくなってしまったのだ。

 そのとき食べた昼食は、涙で味がわからなかった。


 でも、最近僕は弁当を持って行っている。

 それは僕が作った物ではない。


 実は僕、今信じられないくらい格好いい男の子と一緒に住んでいるんだ!!





 あれはいつものように足を引っかけられて顔を思いきり床に打った日の帰りのことだった。
 多くの生徒が使う道を避けてひたすら息を殺すようにひたひたと歩いていると、ちょうど家の入り口近くに人が倒れているのを見つけた。

 どきどきしながら近づいていくと、倒れている人の顔が見えた。


 (・・・・・・ウソ・・・・・・すっごく格好いい・・・・・・・・・・・・)




 何が理由で倒れているのかとか身体は大丈夫なのかとかよりもそう思ってしまうほど、その人は格好いい顔をしていたのだ。

 気を取り直し、急いで駆け寄りピクリとも動かない肩を揺さぶり声をかける。


「あのっ、大丈夫ですかっ!?」


 息はしているが何度揺さぶっても反応はなく、僕は頭が真っ白になった。
 完全にパニックになっていたのだろう、僕は彼を自分の部屋に運び込んだのだ。背丈は僕よりも高かったが、幸い体重はそれほどなく、ぎりぎり運ぶことができた。
 見たところ、僕と同じくらいの年齢のようだ。

 ベッドに寝かせ、制服から着替えるなど帰った後の支度を整えてから彼の傍に座って様子をみる。


 落ち着いたところで『しまった・・・!!』と冷や汗を流した。彼が目を覚ましたとき、きっと僕の顔を見て悲鳴を上げる。いや、悲鳴は上げなくてもきっと拒絶されるだろうと思ったのだ。


 見たことがないくらいのイケメンだったので、この目が開いたら一体どんな男前になるのだろうかと楽しみにしていた気持ちが、現実に気づいた瞬間急降下していった。


「ぅぅ・・・・・・」


「っ!?」


 そのときイケメンな彼がうめき声を上げ、目覚める気配を見せた。

 (まってまってまって・・・・・・!!!)


 心の準備ができていなかった僕は、咄嗟に両手で顔を覆い、身体を縮めてうずくまった。


「あれ・・・・・・?ここは・・・・・・?」

 上から彼の声が聞こえる。
 イメージ通り、声まですっごく格好良かった。

 こんな人と、恋愛ができたらな・・・・・・と甘いことを考えていると、



「おいっ、お前大丈夫かっ!?」


 といきなり近くで声がして、両手首を掴まれて顔から離されてしまった。



「っっぁ!」

 思いっきり彼と目が合う。



 人と目を合わせたのは、いつが最後だったか。いや、これが初めてなのかもしれない、とどうでも良いことが頭に浮かぶ。
 次の瞬間サァッと血の気が引き、相手の目が恐怖に染まるのを想像して思わず目を瞑った。


「おいっ、大丈夫か?どこか痛いのかっ?」


 相手の拒絶に耐えるために強ばった頬を、声の持ち主によってむにむにと揉まれる。



「・・・・・・へ・・・・・・?」

 あまりの想像との相違に、思わず目を開けてしまった。
 するとそこには、つり上がった細い目で僕を凝視しいる、漢らしすぎて魅力的な顔があった。


「ひぇ・・・・・・」



 あまりにも目に毒な美しさを直視してしまったことによって僕は情けない声を出してしまい、次の瞬間目の前が真っ暗になった。









「・・・・・・ん」

 美味しそうな、優しい匂いに鼻とお腹が反応し、目を開ける。するとそこは見慣れた自分の寝室の天井で、先ほどの男の子は夢だったのかなと気を落とす。
 落胆していると、目を覚ましたときに嗅いだ匂いと共にトントンと物を刻む音がキッチンから聞こえてきて、『じゃあ、コレはなんだ?』と疑問が生じた。

「お、目が覚めたのか」

「ひゃっ!!」


 ぼぅっとしていたところにいきなり声を掛けられ、間抜けな声を出してしまったことに、顔に熱が上る。と、そんな場合ではなく声のした方を見ると、部屋の入り口に先ほどのイケメンが食器の乗ったお盆を持って立っていた。

「え、・・・・・・ええ!?」

「大丈夫か?いきなり気を失ったからビックリしたぞ。でも直後に腹が鳴ったから、腹減ってんのかと思って勝手に台所使わせてもらった。すまん」

「へ、いやいやいやいや!!!別にいいよいいよ!!っというか、へっ、へぇえ?!」

 いやいやいやいや!!!と今の現状の異常さに気を回していると、彼は何も気にした風でなくどんどん近づいてくる。

 ふぁあああああ~~・・・・・・


 ベッドの側にある棚の上に持っていた盆を乗せ、彼はさらに近くへ寄ってきた。
 僕なんかが目に入れるのすら躊躇われるような美しい顔がどんどん近づいてきて、すごい勢いで顔の血管に血が集まってきているのを痛いほど感じる。

 きりりとした目は間違いなく僕を射貫いていて、顔が熱くて痛い。
 大きな手がこちらへ伸びてきていつもなら乱暴されるみたいで身が竦むのだが、どうしてか彼はそんなことをしないという信頼から全く恐ろしくなかった。指の先で優しく、汗で額に張り付いた前髪を流してくれる。
 彼の手はひんやりとして、とても気持ちよく感じた。

 髪が避けられ、彼の顔がもっとよく見えるようになった。
 彼はさらに顔を近づけてくる。前髪をかき上げる動作がとてつもなく格好良くて、心臓が打つ音が五月蠅いほどだ。

 僕は都合の良い夢を見ているのかもしれない・・・・・・と思った。だって、こんなことあり得ないから。
 こんな、漫画の世界から出てきたかのような容姿の男の子が、僕に嫌な顔をしないでこんなに顔を近づけてくれるなんて・・・・・・。


 ・・・・・・あ、彼の顔がこんなに近い・・・・・・ん、





 こつんっ

「へぁあっ」


 とうとう目の前まで迫った顔は、なんとゼロ距離になった。



「ん~?熱はねぇかな」



 こんな風に何でもなく僕に触れてくれた彼、高槻タカツキ翔人ショウトくんは、僕の最悪だった人生を180度変えてくれたのだ。













 ビックリして真っ赤になってしまった僕をまた心配してくれた彼に慌てて『大丈夫だよ』と誤魔化す。本当は全っ然大丈夫じゃなかったけど。

 そう言うと安堵した彼が優しい顔をしながらさっき棚の上に置いた盆から器とスプーンを持って、またベッドの近くへと来て、今度はなんとその上に腰を下ろしてきた。
 こんな、顔を見るだけで不快になるような僕の側に来るなんて・・・・・・と驚き半分、いやそれ以上に心臓の鼓動が激しい。


「これ、冷蔵庫にあるモンで作ってみたんだ。よかったら冷めないうちに食ってくれよ」

 そう言って温かな器とスプーンを渡され優しく微笑まれ、僕は首をガクガクさせながら激しく何度も頷いた。
 クリーム色のおかゆからは湯気がほんのりと卵の匂いを運んできてくれて、お腹がぐぎゅるると変な音を立てる。恥ずかしくって、それを誤魔化すためにスプーンに掬って口に運んだ。

「おい、しい」


「ホントか!よかった!!」


 口に運んだ瞬間心からほっとし、思わず口から溢れた言葉に嬉しそうに目を細める彼。
 見守るような視線に包まれ、空腹だった僕は二口目、三口目と夢中でスプーンを口に運んだ。おいしくて、おいしくて、おいしいからか、涙が出た。
 でもそれを拭う気はしなくて、そのままにしていたらそっと腕が伸びてきて優しく拭ってくれた。


「おいしかった・・・・・・ありがとう」

「いや、全部食ってくれてありがとな!」



「あっ、僕がやるからそこに置いておいて!!」


 ティッシュで鼻水を拭いながら食器の後片付けをしようとしている彼を見て、慌てて止めるが彼は『いいから、寝とけ』と行って上半身を起こした僕を再びベッドに寝かした。

 彼の美貌に気絶したことを言い出せず、言葉に甘えて彼に任せる。

 お盆を運ぼうとする彼に、そういえばと気になったことを聞いてみた。


「あの、どうしてあそこに倒れていたの・・・・・・?」

「ああ!聞くの忘れてた。ってか俺、どこに倒れてたんだ?」




 聞くところによると、彼は記憶喪失なのかもしれない、と思った。だってこの世界のことを何一つ知らなかったからだ。

 案の定これからどうするの?って聞いても『うう~ん、どうしようかなー』と不安なことを言っていたので、僕は勇気を振り絞ってここで一緒に暮らさないかと提案してみた。

 絶対断られる。最悪今度こそは気持ち悪がられるかもしれない・・・・・・!!と思って身構えたが、彼は喜色を露わにした顔で嬉しそうに

「えっ、本当!?いいの?」

 と輝く笑顔を向けてきたので、僕はまた何度も頷いた。


 




 







「リョウくん、朝だよ起きて」

「・・・・・・ん」

「早く起きないと、その可愛い唇奪っちゃうぞ?」


「ん!」

 ガバッと身を起こすと、エプロンをした翔人くんが笑って僕を見ている。
 からかわれたことに対しム~となっていると、ケラケラ笑いながら近づき、むにゅむにゅと頬を好きにされる。

「ん~やっぱリョウくんはかわいーな~。それそれ~~」

「もう、やーめーてーよー!僕なんか可愛くないって言ってるでしょ?」


 ほっぺたをつんつんされ、恥ずかしさにやめてよと言う。
 そう言いながらも、翔人くんに『可愛い』と言われる度に同じ量のドキドキが襲ってくるんだけど。

 洗顔でさっぱりすると、温かで美しい料理が幸せな湯気を立てているテーブルへと向かい、一口一口味わって食べる。
 翔人くんの作った朝食を堪能すると、翔人くんが作ってくれたご飯を持って学校へ行く。


 出会ってから数日経った今でも、翔人くんが僕と一緒に住んでいることが信じられない。

「いってらっしゃい。気をつけてね」

「い、いってきます!」


 帰ったら『おかえりなさい』と言われる日々。こんな幸せが来るなんて、本当に夢みたいだと思った。









 翔人くんは僕のことを普通に扱ってくれる。僕に温かいご飯を作ってくれるし、笑顔も向けてくれる。
翔人くんと、ずっと一緒にいたい。


 そして翔人くんには、外に出て欲しくない。
 だって、他の人に翔人くんが見られてしまうから。見られると減ってしまいそうだから。

 それに、僕以外の人、特に綺麗な人を見てしまったら、きっと翔人くんのこころはそっちに行ってしまうだろうから・・・・・・。





 僕は確かな幸せを感じながら、でも同じくらいの不安を残していつもの通学路を歩いて行くのだ。
 











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