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しおりを挟むこの国で一番の美男子といっても過言ではないほどの兄上――ラッシュ=キャオディージュが生まれた2年後に俺、スロウ=キャオディージュが第二王子として生まれた。
母親が異なることから、髪の色や骨格、何もかもが兄とは違った。中でも顔の醜さは月とすっぽん。よく比べられて冷笑を浴びせられたものだ。
静かに冷笑を浴びせられるならまだ良い。通常は、悲鳴を上げられるか思いっきり身体を遠ざけられるかだから。
生まれたときは、自分が冷遇されるのが当然の存在であるということなど、まだ知らなかった。
それを知った後に訪れる、至福の存在のことも。
母の腹から出た数日後、目が見えるようになって初めて見た存在に、あまりにも美しすぎて泣くのも忘れた。
俺が最初に頭に浮かんだ概念、“キラキラ”だ。言葉が理解できるまで兄上は俺の中で神様のような、身体をキラキラとした光を纏っている存在だった。
まだ神様という存在すら知らなかったというのに。
兄上の顔を見る度に脳に快を感じた。
自分も、兄上と同じような存在なのだと、信じて疑わなかった。
だがその割には皆から顔を背けられるし、視線を向けられてもそれは母や兄上のように温かいものでは決してなかった。
初めて鏡を見た瞬間の打撃と言ったら・・・・・・。今でも思い出したくないほどの胸の痛みだった。
心を粉々にされたときも、兄上はいつものように笑顔で話しかけてくれた。俺が浮かない顔をしているのを心配してくれたのだ。
兄上は、いつもいつも、俺のことを可愛いと言ってくれた。
小さい俺は、兄上に『あにうえがわたしのことを“かわいい”とおっしゃるのは、わたしがおとうとだからですか?それとも、わたしじしんがかわいいのですか?』と聞いたことがある。
鏡を見る前だったとはいえ、『自分が可愛いから』とは苦笑いものだ。
だが、そのとき兄上は『どっちもだ!スロウは俺の弟だからもちろん可愛いし、スロウ自体もすっごく可愛い!!』と即答した。
そんな出来事があったが、鏡を見た俺は兄上のことを疑ってしまった。あまりに素敵な笑顔で、俺に向けるのにはもったいなさ過ぎる優しい顔で、まるで心底思っているように俺のことを可愛い可愛いとかまい続けてくれる兄上に一度だけ『可愛いなどと思ってもないのに言わないでくださいっ!!!』大声を上げてしまったことがある。
そんなこと、思ってもないのに。兄上はいつも、本気の目をして言ってくれていたのをわかっているのに・・・・・・。
すぐに後悔し、晩餐に呼ばれた際に食堂に着いたらすぐ謝ろうと思いながら扉に近づくと、中からは先に着いていたらしい父と兄上の話し声が聞こえた。
母上の声が聞こえなかったので、母上はまだ着いていないようだ。
「スロウが、お前に怒鳴ったそうだな」
自分の名前がいきなり出てきて、背筋が凍った。一体何を言われるのだろう。罰せられるのだろうか。いや、それよりもこれから兄上に話しかけられなくなる方が嫌だ。
取っ手に手を掛けた召使いを止め、2人の声に耳を側立てた。
「その、ごほんっ・・・・・・スロウは可愛くないにも関わらずお前に毒を吐い――
「はぁああああああ?スロウが可愛くないぃいい?いやスロウは可愛いです?!!め~~っちゃ可愛いですけど!??マジでガチで目が腐ってますね、オヤジ殿」
「だから先ほど廊下を掃除していた召使いがそう噂しとったって言っているだけであってだな!だーれが『スロウは可愛くない』と言うか!!スロウは可愛いわ!!てか口悪いぞラッシュ!オヤジとかやめぃ!!」
「よかった。いよいよお父上殿のお目もお腐りになられたのかと心配になりました・・・・・・」
「毒がっ・・・・・・言葉に毒がある・・・・・・」
今まで体内で蠢いていた真っ黒いものが、一気に吹き飛んでいった気がした。2人の、当たり前かのように交わされる自分に対しての評価。嬉しいってもンじゃなかった。それだけでは言い表せないほどのものが、こみ上げてきたのだった。
それから、俺は可愛いのだと思うことにした。だって兄上からしたら、俺は可愛いから。
俺は自分自身よりも、兄上のことを信じた。いや、兄上を信じる俺を信じることにしたのだ。
兄上が俺を可愛いと言うのであれば、俺は可愛い。
俺は、可愛い。
身長が伸び、体格も良くなり明らかに『可愛い』くない俺。
しかし、未だに可愛い可愛いと言ってくれる兄上の前では、俺もずっと可愛いままなのだ。
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