とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶

文字の大きさ
上 下
4 / 6

4

しおりを挟む


 この国で一番の美男子といっても過言ではないほどの兄上――ラッシュ=キャオディージュが生まれた2年後に俺、スロウ=キャオディージュが第二王子として生まれた。



 母親が異なることから、髪の色や骨格、何もかもが兄とは違った。中でも顔の醜さは月とすっぽん。よく比べられて冷笑を浴びせられたものだ。
 静かに冷笑を浴びせられるならまだ良い。通常は、悲鳴を上げられるか思いっきり身体を遠ざけられるかだから。



 生まれたときは、自分が冷遇されるのが当然の存在であるということなど、まだ知らなかった。

 それを知った後に訪れる、至福の存在のことも。



 母の腹から出た数日後、目が見えるようになって初めて見た存在に、あまりにも美しすぎて泣くのも忘れた。

 俺が最初に頭に浮かんだ概念、“キラキラ”だ。言葉が理解できるまで兄上は俺の中で神様のような、身体をキラキラとした光を纏っている存在だった。
 まだ神様という存在すら知らなかったというのに。


 兄上の顔を見る度に脳に快を感じた。

 自分も、兄上と同じような存在なのだと、信じて疑わなかった。



 だがその割には皆から顔を背けられるし、視線を向けられてもそれは母や兄上のように温かいものでは決してなかった。




 初めて鏡を見た瞬間の打撃と言ったら・・・・・・。今でも思い出したくないほどの胸の痛みだった。


 心を粉々にされたときも、兄上はいつものように笑顔で話しかけてくれた。俺が浮かない顔をしているのを心配してくれたのだ。

 兄上は、いつもいつも、俺のことを可愛いと言ってくれた。
 小さい俺は、兄上に『あにうえがわたしのことを“かわいい”とおっしゃるのは、わたしがおとうとだからですか?それとも、わたしじしんがかわいいのですか?』と聞いたことがある。
 鏡を見る前だったとはいえ、『自分が可愛いから』とは苦笑いものだ。

 だが、そのとき兄上は『どっちもだ!スロウは俺の弟だからもちろん可愛いし、スロウ自体もすっごく可愛い!!』と即答した。


 そんな出来事があったが、鏡を見た俺は兄上のことを疑ってしまった。あまりに素敵な笑顔で、俺に向けるのにはもったいなさ過ぎる優しい顔で、まるで心底思っているように俺のことを可愛い可愛いとかまい続けてくれる兄上に一度だけ『可愛いなどと思ってもないのに言わないでくださいっ!!!』大声を上げてしまったことがある。


 そんなこと、思ってもないのに。兄上はいつも、本気の目をして言ってくれていたのをわかっているのに・・・・・・。

 すぐに後悔し、晩餐に呼ばれた際に食堂に着いたらすぐ謝ろうと思いながら扉に近づくと、中からは先に着いていたらしい父と兄上の話し声が聞こえた。
 母上の声が聞こえなかったので、母上はまだ着いていないようだ。


「スロウが、お前に怒鳴ったそうだな」

 自分の名前がいきなり出てきて、背筋が凍った。一体何を言われるのだろう。罰せられるのだろうか。いや、それよりもこれから兄上に話しかけられなくなる方が嫌だ。


 取っ手に手を掛けた召使いを止め、2人の声に耳を側立てた。

「その、ごほんっ・・・・・・スロウは可愛くないにも関わらずお前に毒を吐い――

「はぁああああああ?スロウが可愛くないぃいい?いやスロウは可愛いです?!!め~~っちゃ可愛いですけど!??マジでガチで目が腐ってますね、オヤジ殿」

「だから先ほど廊下を掃除していた召使いがそう噂しとったって言っているだけであってだな!だーれが『スロウは可愛くない』と言うか!!スロウは可愛いわ!!てか口悪いぞラッシュ!オヤジとかやめぃ!!」

「よかった。いよいよお父上殿のお目もお腐りになられたのかと心配になりました・・・・・・」

「毒がっ・・・・・・言葉に毒がある・・・・・・」


 今まで体内で蠢いていた真っ黒いものが、一気に吹き飛んでいった気がした。2人の、当たり前かのように交わされる自分に対しての評価。嬉しいってもンじゃなかった。それだけでは言い表せないほどのものが、こみ上げてきたのだった。




 それから、俺は可愛いのだと思うことにした。だって兄上からしたら、俺は可愛いから。
 俺は自分自身よりも、兄上のことを信じた。いや、兄上を信じる俺を信じることにしたのだ。

 兄上が俺を可愛いと言うのであれば、俺は可愛い。

 


 
 俺は、可愛い。















 身長が伸び、体格も良くなり明らかに『可愛い』くない俺。
 しかし、未だに可愛い可愛いと言ってくれる兄上の前では、俺もずっと可愛いままなのだ。


















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

独占欲強い系の同居人

狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。 その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。 同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。

もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!

結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)  でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない! 何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ………… ……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ? え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い… え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back… ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子? 無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布! って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない! イヤー!!!!!助けてお兄ー様!

美醜逆転の世界で推し似のイケメンを幸せにする話

BL
異世界転生してしまった主人公が推し似のイケメンと出会い、何だかんだにと幸せになる話です。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

猫の黒たんは騎士団長!?

ミクリ21
BL
ある日、青年はボロボロの黒猫を拾いました。 青年は猫に黒たんと名付け、可愛がりました。 だけどその猫は、実は………!?

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!

柑橘
BL
王道詰め合わせ。 ジャンルをお確かめの上お進み下さい。 7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです! ※目線が度々変わります。 ※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。 ※火曜日20:00  金曜日19:00  日曜日17:00更新

処理中です...