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4.二人はお似合い
しおりを挟む「転入・・・・・・?」
「そう。留学から帰ってきて慣れないし、知らない人ばかりのところなんて不安でしょう?だから貴郁がいるシリウス学院なら安心でしょうって三鷹さんともお話ししてね」
「明日から、よろしくお願いします!!」
「チッ・・・・・・、勝手に決めやがって」
小さく毒づく貴郁を尻目に、『界門くんも、よろしくね』と声をかけてくる髙美さんにはいと返事を返す。髙美さんがいる手前猫を被っている結月は、貴郁には優しい眼差しを向けているが、ふと視線がこちらへ向かうといきなり冷たくなるのを感じる。俺は、なぜ彼にこのように敵視されているのか、さっぱりわからなかった。
「つーか、婚約者いたんだな」
「俺だってついさっき知らされた。帰り際にいきなりメールで伝えてきやがって・・・・・・あの婆ぁ・・・・・・」
こらこらと不機嫌な貴郁を窘めながら、今さっき『明日から、よろしくお願いします』と頭を下げて迎えの車に乗り込んだ結月の姿を思い出す。
三鷹結月。三鷹グループの会長の溺愛するたった一人の孫で、彼の父親もやり手の社長である。高麗製薬が作る抑制剤、特にヒートに陥ったΩの強烈なフェロモンを押さえるためのものは素材が特殊で、普通の注射器だと期待する効果があまり出ない。しかしそこで効果が維持できるよう設計され、素材も軽く丈夫な注射器を開発し高麗製薬とも繋がりの深い『MITAKA』は彼の父親が手がけた最も有名な商品だと言える。それに、高麗を覗いて売上、知名度共にトップを飾る会社でもあり、結月は貴郁にぴったりの結婚相手だと思った。
父方からの外国の血で肌が白く、全体的に色素の薄い貴郁は、黙っていれば王子様といえるほど完璧な容姿をしている。高身長で、八頭身。顔のパーツのバランスも良く、線は細いがきちんと筋肉もついている。一見俺の方が強く見えるが、握力はこいつの方が強かったりするのだ。一方結月はザ・オメガと言って良いほど容姿が整っている。確かに身長はやや低めだが、物言いがはっきりとしていてそれを感じさせない。ちゃんと猫を被るときは被るし、声や顔を使い分けていて、よいパートナーになりそうだ。二人が並ぶ様子を想像しても、お似合いだと思う。そして家柄も両親のお眼鏡にかなっているとなれば、もう彼との婚約は決まったようなものか。
やっと適当な相手が見つかって、よかったじゃないかと思うのだが、貴郁は何とも機嫌が悪かった。不穏な空気でこいつの部屋が一杯になっていく。
「なんでお前はそんなに不機嫌なんだよ。よかったじゃねぇか、無事婚約相手も決まって」
「俺はあいつとは結婚しない。絶対にだ」
強固に言い張り、はいはいと適当に相づちを打つ。そう言えば、初めて結婚の話を出されたときも、こいつは頑なに『結婚しない』と言い張っていたと思い出される。まぁ比較的最近と言えば最近になるか。それは俺たちが中学に上がったときのことだ。
『界門くん。あなたももうそろそろ結婚相手を考えてもいい年頃なんじゃない?この子なんてどうかしら』
高麗邸でお茶を飲んでいると、部屋に乱入してきた髙美が抱えていた写真を目の前に差し出してきて、俺は慌てて茶を吹きそうになるのを堪えた。『結婚!!?なんじゃそりゃあ!!?』というような心境だった。隣に座っていた貴郁も茶器を持つ手が止まり、眉間に皺が寄っていた。
『いっ、いやいや俺にはまだ早いですよっ!!』
『そーお?うちと関わりのある会社の社長ご夫妻から、ぜひ子どもを界門くんと婚約させたいって話が多いのよぉ。あっ、もちろん貴郁にも来てるわよ、たっくさん』
『俺は絶対結婚しない』
『あらぁ、何でよ?きっと写真を見たら気に入る子がいるわよ。ねぇ界門くん、あなたも見てみなさいよ』
『おっ、俺はっっ、貴郁くんが婚約したらします!!』
『はぁ・・・・・・?』
『あら、それもそうよね。次期社長が先の方が良いわよね?』
だがその後いくら写真を見せられても無視を通した貴郁に、つい最近のことながら懐かしさを感じてしまう。
「俺は絶対結婚しない。お前もするなよ、界」
「はーいはい。わかったって。それよか、今日出た課題、やっちゃわねぇ?」
結月のせいでか未だ眉を顰めている貴郁に、さて明日からどうなるのやらと溜息が絶えない俺であった。
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