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63.【迷える子羊なお客様】10~ちゃんと実在する、よね?~
しおりを挟む「ナナミ・・・・・・」
モモが悲しそうな顔をしてナナの頭を撫でる。なんだか、自分の名前を呼ばれているようで、恥ずかしい。
「バイバイ・・・・・・」
名残惜しそうに手を離し、モモはぐっと拳を握った。
「じゃあ、行ってきます」
「「「いってらっしゃい」」」
店長と皆に見送られ、ナナミは『desire』の扉をくぐった。腕の中にはバスケット。中でゴソゴソと動く気配があり、か細い鳴き声が聞こえてくる。きっと暗闇が怖いのだろう。突然カゴの中に入れられて、こわくないはずがない。
朝食後、早速ナナをシュワロの元へ連れて行こうと、店長が貸してくれたバスケットに入れて、店を出発した。
うろ覚えだが、教えてもらった道を歩く。数時間前に教えてもらったというのに、自分の記憶が頼りなさ過ぎて呆れそうになる。だが、やはり日中と夜では街の様相が全く異なるのだ。日中だと目に見えて全貌が確認できるからか、そんなに長く感じない距離でも暗闇の中だとやけに長く感じる。ナナミは、昨夜の街の不気味さを思い出しながら、ぶるりと震えた。
やっぱり、明るい方が安心だ。少人数だが人が行き交う中を、大事な存在を抱えて歩く。人がいるだけで、声が聞こえるだけで安心できる。
風俗街を抜け、家が建ち並ぶ道に入ると、人通りも自然と減ってきた。
「ここかな・・・・・・」
ぼんやりとした覚えていなかったものの、昨夜シュワロに教えてもらった場所まで来ることができた。さて、と顔を上げると、やはりそこは、一見廃墟のような不気味な屋敷であった。
「カァア゛ カァア゛」
「ひっ」
バサバサバサッ!と木からカラスもどきが飛び立ち、派手な羽音を立てる。それに驚き思わず悲鳴を上げ後退ってしまい、それに驚いたのか籠の中のナナもみゃーみゃーと不安そうな鳴き声を上げた。
ごめんね・・・とナナに謝り、再び建物の門に近づく。鉄の門はナナミの背丈よりは低いが、とてもしっかりとしていて装飾も施されており、優雅な印象を与える。だが、錆び付いていて色は黒く、そこかしこに蔓が伝っていた。
横にベルが備え付けられているので、これを鳴らせば良いのだろうか。そう思い、ナナミは意を決してベルに手を伸ばした。
独特なベルの音が鳴り響く。古いからなのか、それとも錆のせいなのか、響きは良くはなかったが、十分中の人に届く音の大きさだろう。
喜んでくれるかな、安心してくれるかな・・・などとシュワロの反応を楽しみに待っていたが、しばらく経っても誰も扉から出てくる気配がない。というか、建物の中に人の気配を感じない。
嫌な予感を抱きつつも、聞こえなかったのかな?と思い、もう一度ベルを鳴らす。が、やはり人が出てくるようには思えなかった。
・・・・・・え?まさか、無人・・・ってことは、ないよな?
ふと『幽霊』という言葉が頭を過ぎり、日が出ていて暖かいはずなのに、ぶるりと身震いした。まさかね。・・・・・・マジですか?
俺は、震える手を自覚しながら、腕の中の蓋の閉まった籠を見つめる。さっきまであんなににゃあにゃあ鳴いていたのに、建物のベルを鳴らしてからすぐに静かになった。
まさか、蓋を開けたら骨が入ってるとか・・・ないよな?ちゃんと、いるよな?
あかん。マジでこわい!!
「あのぉ・・・」
「ひゅっ」
恐怖に支配されて、あと数秒したら全速力で籠を門の前に置いて逃げようとしていたナナミに、突然声がかけられる。心の中で『ぎゃんっ!』と悲鳴を上げた。
声のかけられた方を向くと、お隣さんらしき人が怪訝な顔をしてナナミのことを見ていた。ナナミが顔を向けた途端、顔を赤くする。
「エイデン宅に、何かご用ですか?」
目の前にいる自分以外の人間の存在に、ナナミは漏らしそうになるほど安堵した。
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