異世界ホストNo.1

狼蝶

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61.【迷える子羊なお客様】8~意外と早い解決・・・?~

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 ランプの光を頼りに、半泣き状態(内心)で店へと帰り着き、湿った目を擦りながら扉の取っ手を掴んで引く。なんだか店内が騒がしいなと思いながら扉を開き中へ入ると、フロアに集まった皆がぎゃあぎゃあと何か騒いでいた。中には泣いてしまっている子もいる。
「あの、みんな一体どうしたの・・・・・・?」
 何か俺だけが知らない重大なことについて議論しているのだろうか。非常に入りにくい雰囲気ではあったが、自分だけ仲間はずれにされるのが嫌で遠慮気味に手を挙げながら声をかけた。
 すると、今まで白熱していた皆の顔がぎゅいんっ!と一斉にこちらへ向いた。反応とみんなの目に、うおっと驚く。
「え~と・・・?」
 俺の顔を見て固まってしまったみんなに声をかけると、再び場が騒然とした。
「ナナミぃ~!!!生きてたぁああああーーー!!!よがっ゛たぁ゛―――!!」
「ナナミくぅん~~!!がえ゛っでぎでぐれ゛で、あ゛り゛がと゛お゛~~!!」
「ナナミぃいいい!!!無事だったぁ?幽霊に変なことされてない?脱がされたり服溶かされたり、洗脳されて変なことさせられたりぃいい!!・・・グズッ、よ゛がっだぁ゛無事で!!」
 突然飛びかかってくるカシア、モモ、シノ。よくわからないが、三人は鼻水を垂らしながら泣いていた。首を傾げながらも、顔を押しつけてくる彼らに腕を回して抱きしめる。っというかシノは一体何を聞いてきてるんだ?なぜ俺が裸にされる前提なんだ?
「ほらぁ~、ナナミくん、ちゃんと無事だったじゃんー」
「店長、」
 三人に引っ付き虫のように抱きつかれ、さらに周りからも抱きつかれたりしていると、人垣の向こうから店長が呆れた声を出してやってきた。きっと俺の帰りが遅くて心配していた皆を抑えていたのだろう。何事もなく帰ってきた俺を見て、やっぱり・・・と安堵の溜息を吐いている。が・・・・・・
「とか言いつつ、店長めっちゃ魔除けもって来てんじゃん!」
 身体中に前の世界でいうニンニクのようなものを大量にぶら下げていたのだった。
「あははっ、めっちゃ心配してるー!」
「やっぱ店長も気が気じゃなかったんだー」
 この世界でもニンニクは魔除けの意味をもっているのか。いや、ニンニクってドラキュラ避けじゃなかったっけ?・・・って、そんなことはどうでもいいや。まさか店長までも俺の心配をしてくれていたとは思わなかったが、この状況をなんとか理解しすごく温かい気持ちになった。皆、帰りが遅い俺を心配してくれていたのだ。
「でも本当によかったー。やっぱりあの幽霊、“ナナ”って言ってたもん。てっきりナナミくんが攫われちゃったかと思ったぁ」
 落ち着いたらしく、鼻を啜り終わったモモが笑顔を見せながらそう言った。
「あ、その話なんだけど――」
 俺は皆に、シュワロくんのことを話すことにした。
 
「えーと、幽霊の正体は少年で、“ナナ”っていうのは彼の飼っているネコの名前ってこと・・・?」
「それで、そのネコをナナミが探して、しかも見つけたらその子の家に連れて行く約束までしたと?」
「はい・・・・・・」
「「「はぁーーー」」」
 ナナミの周りで話を聞いていたキャストたち&店長は、ナナミの人の良さに肩を落として溜息を吐いた。
「ナナミくんったら・・・また自分から問題に関わりにいって・・・・・・」
「・・・スイマセン」
 店長の吐いた溜息に、萎縮しながら頭を下げる。だが次の瞬間、ふわりと頭を撫でられた。
「まぁ、そこがナナミくんのいいところなんだけどね」
「店長・・・・・・」
「そうそう。それに、ナナミくんが無事に帰ってきてくれて、本当によかった~」
 店長の優しい言葉に顔を上げると、皆も苦笑を浮かべつつ無事の帰還を喜んでくれた。みんな・・・・・・。
「俺、明日からそのネコ探すの、頑張ります!」
「俺も手伝うよ。一人で探すより、早く見つかるかもだろ?」
「僕も手伝う!ネコ好きだし」
「じゃあ俺も!」
「僕も!」
 カシアとシノが名乗りを挙げるとキャストたちから次々と手が挙がり、結局皆でシュワロくんのネコを探すことになった。大捜索だ。しまいにはジャラジャラとニンニクもどきをぶら下げている店長も参加してくれることになったが、近くにいたキャストに『店長臭~い!あっち行って!』と匂いよりも強烈な一言を喰らって食糧倉庫の方に退場していった。店長かわいそう。
「んじゃ、今日ももう遅いし明日も忙しいだろうから、もう寝るか」
「みんなありがとね。・・・って、あれ?モモくんは?」
 解散という風に皆が階段を上り始めたとき、そう言えばあの元気な声が聞こえないな・・・と、この場にモモがいないことに気づく。
「ああ、モモね。ナナミが無事帰ってきて安心して・・・安心したら眠くなってきたらしくて、結構前に部屋に戻ったよ。ほら、今日叫び疲れただろうし」
 えっ可愛っ!てか感動。俺が無事だったことに安堵して寝ちゃったとか!でも、心配かけてたんだよな・・・。シノが言った通り、今日の幽霊捜索ではかなり走り回っていたから疲れていただろうし、時間的にもきっとすごく眠かったのだろう。なのに、俺が皆に相談もせず勝手なことをして帰るのが遅くなってしまったから・・・みんなを心配させてしまったのだ。
 俺は自分の身勝手な行動に深く反省し、シノたちと一緒に自室へと帰っていった。一日の業務に加え、予想外の出来事があったことでかなり疲労が溜まっていたのか、ベッドに横たわると俺はすぐに意識を失った。

 次の日、欠伸をしながら階段を降りていく。皆はまだ寝ているようで、見習いの子たち以外に活動している者はいない。本当に見習いの子たちには頭が上がらないと思う。
 さて、今は皆が寝ているくらい朝早い時間である。昨夜あんなに遅く就寝したというのに、何故俺は今起きているのか。・・・まぁクイズにすることでもないのだが、ただ単に早く目が覚めたというだけである。我ながらクソな振りすぎて申し訳ない。
 夜遅く寝たのに、次の日意外にもめちゃ早く起床できるなんてことはなかっただろうか。俺はある。あれ、すっごく不思議なんだよな~。寝る時間が関係しているのかな?それとも、昨日は疲れてたから、ぐっすり眠れてスッキリ起きれたのだろうか?
 なんて、どうでもいいことについて考えを巡らしながら裏庭の方へ向かって歩いて行くと、窓の外にモモらしき人物が見える。なにやらしゃがみ込んで何かをしているようだ。
 何か落とし物でもしたのだろうか。昨夜、モモにだけネコ探しのことを話していなかったことを思い出し、ちょうどよいと思って外に出てモモに近づいていく。
 するとモモの足下に黒い塊が見えた。
「あ」
 本当に、『あ』だった。
「あっ、ナナミおはよう!この子ね、最近ここに来てて、僕に懐いてるんだ!!可愛いデショ!」
嬉しそうにはにかむモモ、可愛い・・・のは当然のこととして、なんとモモの足下には猫がいたのである!しかも紺色、短い尾。近づいてきた敵である俺を見た猫の目は、金色と灰色の綺麗なオッドアイだった。昨夜誓った目標は、意外にも早く達成されそうである。

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