異世界ホストNo.1

狼蝶

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48.三人でお出かけ!編:サイドストーリー ~みんな大好きナナミくん~

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 ~子どもたちから見るナナミ~

「“ナナミさん”?って、めちゃくちゃイケメンじゃね?なぁユリ」
「うん、すっごくかっこいいよね!ね、レンにいちゃん?」
「あ、ああ、そうだね」
 両親とナナミたちが話している様子を、隣の部屋で手作業をしながら覗き見る三兄弟のレン、ノイ、ユリ。彼らは自分たちを嫌わないナナミに、そして彼の美貌に興味津々であった。ただユキの次に年長者のレンだけは、未だに信じられない心地であった。あんな綺麗な人が普通に自分の家族と話している。そのことが、容易に信じられないのだ。
 ノイやユリよりも少しだが長く生きているために抱く懐疑心、なかなか信じ切れない気持ち。だがナナミからは負の感情が読み取れない事実も、認めざる得なかった。
 そのままナナミの話題で盛り上がる二人の弟を尻目に、レンは意識をナナミたちの会話に向けながら、再び作業を開始した。
「ユキくんにお世話になっているっていうのは、本当です。――」
 耳を側立てていると、両親に尋ねられた兄の職場での様子をナナミが優しい声で話し始める。
・・・・・・だから、みんなもすごく助けられてます」
 その温かい声には嘘はなく、視界の端では兄が赤面して俯いていた。
 両親はまだまだ兄のことが心配で、共に働くナナミに不安を吐露する。正直、レンも内心では兄のことが心配だった。兄は昔から面倒見の良い性格で、三人の弟を仕事で忙しい両親に替わって育ててくれた。喧嘩をしたら両方の意見を聞いた上で和解させ、手伝いの中での失敗は上手くフォローしてくれる。とても頼れる兄であった。
 しかし、そんな兄からは一度も弱音を聞いたことがないのだ。弱音どころか、自分の感情を表出するのが苦手なのらしい。怒っていても表面には出さず、自分の中で解決し無理矢理納得してしまう。怪我をしても一人でなんとかしてしまう。そんな兄が、レンは嫌いでもあった。自分の頼りなさを感じてしまうからだ。
 そんな自分のことを後回しにし、言いたいことも言えない性格の兄が、キャストとして客と直に接するなんて、出来るはずがないと思った。
 心配する両親とそれに反発する兄による言い合いの中、ノイとユリも心配そうに隣の部屋を覗き込んだ。少し前から無言で作業をしていたため、二人も隣室の様子に耳を傾けていたのかもしれない。
 心配する両親にも共感できる。が、それに食ってかかるユキのことも、理解できないこともなかった。兄はきっと、自分たち家族のために働いていることをレンは知っているからだ。自分はユキ不在の中、この家の長男として弟たちの面倒を見、仕事の手伝いをし、家族を守っていかなければならない。だがもし自分が本当の長男であったならば、ユキと同じように稼ぎの良い所へ出稼ぎに行っていただろう。
 実際レンは、ユキが家を出るときに『自分も一緒に行く』と言った。しかし頭に手を置かれ『みんなを頼んだよ』と言われれば、それに従う他ないだろう。
 ユキの、ともすると誰も気に止めてくれないような裏での努力をちゃんと見ているナナミの小さな声が、口論の最中に投げられた。
「あの・・・・・・」
 皆が彼の次の言葉に意識を集中させる。
「ユキくんのこと大事に思われるご両親のお気持ちも理解できます。そして、ユキくんの気持ちも・・・・・・。俺は『desire』で働く仲間としての立場でしかものを言えませんが、ユキくんが昇格して客との関わりが増えたときには・・・・・・俺が絶対ユキくんのこと守りますから!絶対に変な奴は近づけないし、無理な要求も撥ね除けます!!そこは、安心してください!!」
 最後は机にバン!と手を付きそうなほどの迫力で言い切った。
 直後、部屋はシンと静まりかえった。目の前で啖呵を切られた両親たちはもちろん、レンを含め子ども組も突然のナナミの『守る宣言』に度肝を抜かれたのだ。
 なんて信じられないほど羨ましい状況なのだろうか。まるで流行り小説の、王子の告白シーンのようだ、とレンは思った。守ると面と向かって言われた兄は、これ以上ないほど顔を赤くさせ泣きそうになっている。
「ヤッバ・・・今のってもうプロポーズじゃん!ヤバすぎ。ナナミさんマジでカッケェ・・・・・・」
「ナナミおにいちゃん、かっこいい・・・」
 ノイとユリがぽぅっと頬を染め両手で包んで冷やしている。まるで夢心地のような表情で興奮のためか声も大きく、彼に聞こえているのではないかと思ってしまう。レンは二人に、手が止まっていることを指摘することはできなかった。レン自身、感動に近いものを感じていたからだ。
 ミュエルの『うぅ・・・・・・、ヨヨギさん、かっこぃい・・・・・・』という感動の呟きに深く共感しつつ、カイネの行動を静かに観察する。
「ヨヨギさん、ユキのこと・・・・・・宜しくお願いします」
 レンは、頭を下げた両親と同じ思いを心に乗せ、作業を再開させた。

 風に揺れる黄金の草の中、騒ぐ弟たちを視界に収めながらも、レンは向こう側に立っている長身の男を見つめた。綺麗だと思う黄金畑に負けないほどの、綺麗な男。兄の同僚だというが、兄の働いている店にはこんな美丈夫がいるのか・・・と改めて感心した。自分たち家族のために働いてくれているとはわかっているが、少しだけ羨ましくも思えてくる。
 自分もあんな美丈夫に『君を守る』なんて言われたら・・・・・・きっと柄にもなく浮かれてしまうだろう。
 しれっとした態度を装って作業に集中しているフリをしながら、横目で彼の姿を捉える。ノイとユリはそんな余裕はなく、流れ作業に必死に付いてきていた。
 レンはキリの良いところまで終わらせると作業用の鎌を手に持ち、自分たちをどこか温かい目で眺めていたナナミに向かって歩き出した。兄弟たちにとっては“抜け駆け”になるのかもしれないが、それに気づかないふりをして彼に近づく。
 少しでも接したいという思いもあったが、ナナミがなんとなく仲間はずれになっている様に感じられたのも本当だ。それに、彼はどんな風にこの作物に接するのか、見てみたかった。
「ナナミさんも、一緒にやってみますか?」
 緊張で少し上擦った声を出してしまい恥ずかしかったが、勇気を出して道具を差し出す。と、ナナミは嬉しそうに微笑んでそれを受け取った。

 彼の収穫の作業は・・・なんと言うか、“優しかった”。背が高いためものすごく屈まないと多く実を付けた稲を刈り取るのは困難だ。しかし面倒くさいと穂の途中で刈り取ってしまうのではなく、ちゃんと一本一本、丁寧に刈り取っていたのだ。
 彼の優しい手つきには、植物に対する尊敬が見て取れた。それが、自分や家族がやっていることを大事に、大切に思ってくれているようで、胸がじんと熱くなる。
 きっと、彼の刈り取った稲は、とっても美味しい米になるのだろうとレンは感じた。


「それでは、色々と、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそお忙しいのに仕事を手伝わせてしまって申し訳ありませんでした」
「ナナミおにいちゃん、コンおにいちゃん、またきてね!」
「またうちの米、収穫しに来てもいいぞ!」
 収穫の作業を終え、すでに脱穀を済ませていた米で作った“おにぎり”を皆で食べ、その後ナナミは子どもたちの遊びに付き合ったりして時間を過ごした。ミュエルとカイネも、その様子を幸せそうに眺めていた。
 そして夕日が空を染め始めた頃、『そろそろ』と言って三人は帰ることになった。一日という少ない時間だったが、濃密な時間であったために、レンの中では少し、いやかなり寂しい気持ちが沸き起こった。ユリもノイも、後で泣きそうだが笑顔で馬車に乗り込む彼らを見送る。ユキはまた帰ってくる。それはわかっているが、やはり寂しいのだ。
 レンも泣きそうになったが年長者であるためぐっと堪えた。ナナミは笑顔でレンたちに手を振ってくれ、コンは来たときのツンとした態度ではなくやや惜しむような表情を見せてくれる。ユキは、寂しそうだが無理矢理微笑んで、ユリたちの声に応えていた。
 三人の乗った馬車が行ってしまい、辺りがシンと静まりかえる。この、人が去ってしまった後の寂しさはいつも苦手で、レンは思わず両親に抱きつきたくなってしまったのだった。
 上を見上げると両親も物寂しげな顔をしていたが、レンに気づくとすぐに悲しさを消し頭を撫でてくれる。
 なんとも言えない空虚感を抱え、沈黙のまま家に向かうユキの家族であったが、彼らの心の中では一致した思いがあった。
 それは、『ユキとナナミが結ばれて欲しい』『あわよくば、ナナミも家族に』というものであった。


 ――みんな大好き、ナナミくん


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