異世界ホストNo.1

狼蝶

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46.三回目の来店~変態の前では涙も無駄らしい~

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 ・・・・・・こうして、俺の恥辱の日々が始まったのであった。



 あれから今日でちょうど一週間目。俺は、苦行に耐えきったと言えよう。
 もう俺の身体は最悪だ。内心は気持ち悪さで気絶しそうである。もう二日目で気分は下がり気味であった。汗でベタついた肌は服を替えても気持ち悪くて、髪の毛もなんだか脂でベタついているように感じる。それからさらに何日も・・・。
 不快感だけでなく、実際匂いもすごかった。自分の汗を良い匂いだと思う人はあまりいないと思うが、本当に、服の下から匂ってくる体臭が最悪なのだ。特に下半身なんか・・・・・・言及したくないほど酷い。用を足すときや着替えるときにむわりと漂ってくる重たい匂い。
 これ、一種の修行じゃね?
 三日目までは普通通り掃除や店の仕事をしていたのだが、俺は自身の悪臭が周囲に影響を与えることへの申し訳なさに絶えられず、店長に頼み込んで次の日から部屋に籠ることにしたのであった。なるべく迷惑をかけないよう部屋の扉は用事があるとき以外は閉めきり、己の体臭が充満する部屋の中でじっと絶えていた。
 大変申し訳ないことに、食事を運んできてくれた何人かの見習いの子たちは犠牲になってしまったが、それ以外の被害はなかったと思いたい。てか食事持ってきてくれた見習いの子の中でマジで倒れた子がいたらしいんだけど、大丈夫かな?自分的にはかなり凹むけど。
 あ~あ、もうすぐ来るのかぁ、セイレクさん・・・
 よっこらせとベッドに腰掛け、時計を見上げる。それにしても、熱すぎる。なんか空調がぶっ壊れているようで、害を与えないように窓を閉め切っているこの部屋は暑くて茹だりそうだった。
いくら汗の匂いフェチだといっても、これほどの臭さではセイレクさんでも嫌悪するだろうな。
「こんちゃー」
「わっ!」
 ノックも何もなしでセイレクさんがいきなり入ってきたので、心の準備ゼロ状態で迎え入れる。ビックリしたー・・・。情緒というものがないのかこの人には、と思ってしまった。
「・・・・・・」
 入ってきて突然足を止めたセイレクさんに、やっぱり臭すぎるよねー・・・と自虐的になっていると、彼はまたもや突然両手を広げ目を閉じて天井を仰ぎ始めた。静かに見守っていると、彼の肺がゆっくりと大きくなっていき、そしてゆっくりと元に戻っていく。
「いやいやいや!深呼吸なんかしないでくださいよ!!」
 そう、彼はこの部屋で深呼吸を行っていたのだ。なんという規格外。俺だって鼻摘まみたいくらいなのに、なんておそろしい程匂いに耐性のある人なんだ。当然ドン引きさせていただいたが、それと同時に嫌われるんじゃなかろうかという心配が安堵に変わったのも事実だった。
 恥ずかしい匂いを深く吸われ、慌てて止めさせようと肩を掴んで揺すると、彼は目を開いて俺を見た。が――、その顔はすでに、ゾーンに入っていた。
 上気した顔にとろぉんと蕩けた目が眼鏡の奥から垣間見える。潤いのある唇はさらに湿っており、物欲しげに舌の先がちろりと見えた。えろい。
「はぁ~~・・・・・・やっぱ一週間ともなると、ヤッバイねー。俺のココ、部屋の匂い嗅いだだけでこうなっちゃってるもん」
 コウナッチャッテル?・・・・・・うわっ!
 セイレクさんが指差した方に目線を下ろすと、そこにはピンと張られたズボン。その頂にはすでに小さな染みがあった。
「今日はマジでもう限界・・・・・・。早く、嗅がせて?」
「っ!!」
 まるで匂いに狂っているかのような表情で縋ってくる彼に、俺は抵抗らしいことは何一つできなかった。

 ***

「・・・マジで、も、やめて・・・くださ・・・・・・」
 暑い空気が滞留する部屋の中、ぽつり、と弱々しく零された声。ぽろりとベッドのシーツに染みを作るのは、涙の粒。
 俺、まさかの泣いちゃったんですけど。

 獣のように匂いを嗅いでくるセイレクさんに押し倒され、どこもかしこも匂いを嗅がれ、最終的には服も脱がされて生まれたままの姿になっている。
 自分の噎せ返るような匂いと部屋の暑さとで思考が上手く働かず、セイレクさんにされるがままだ。身体は上手く動かせないが羞恥心は健在で、普通に匂いを嗅がれるのでさえ恥ずかしいのにこの状態のしかも直に嗅がれるという状況に、俺は恥ずかしさのあまり顔を両手で覆った。
 だって、嗅いでほしくない場所ばかり嗅いでくるんだもん!!汗臭い首筋に耳の裏、汗かきやすい脇(汗ぺろされたし!)、そして下半身を中心的に・・・。アレの周りはもちろん、股関節辺りも・・・・・・。
「もぉヤダ・・・・・・」
 足を開かされ、一番お気に入りなのであろう陰毛に鼻を沈めて深く深く息を吸い込まれる。匂いだけで彼はもうすでに三回は達していた。
俺はというと、彼の手によって二回ほど射精させられていた。しかも出した精液を毛に塗ったくり、それにまた顔を近づけ匂いを堪能するのだ。これが、どうしても嫌なのだ。
 もう許してほしい。この逃げられない中で心から溢れ出しそうになる羞恥心。『この人は、ただの“匂いフェチ”なんかじゃない、“恥臭フェチ”なんだ』と脳の芯までわからせられるほどの仕打ち。だれか、助けてほしいと心の底から思った。この恥ずかしさから、逃げ出したい。早く、終わってほしい。
「オナニーしろって言ったのに、しなかったのはお前だろっ?俺は汗と精液が混ざったくっせぇ匂いが大好物なんだよっ。あー・・・堪んねぇ・・・・・・」
 止められる気配はなく、この地獄がまだ続くことを知らされる。俺の精神は、崩壊間近だった。恥ずかしさに、消えたい!とも思った。
 一番鼻を近づけて欲しくない場所――ペニス――に彼が鼻を近づけた瞬間羞恥の限界値を突破したようで、俺は我慢できずに涙声を零してしまった。こうして冒頭部分に戻るわけである。
「・・・マジで、も、やめて・・・くださ・・・・・・」
 羞恥心で泣いたことも、こうやって人に泣かされたことも初めてだった。自分でも驚くほど震えた弱々しい声に、俺のペニスばかり見つめていたセイレクさんが顔を上げ、そして目を見開く。そしてわかりやすくたじろいだ――のではないかというのは俺の希望で、実際の彼は、悪魔の如くにやりと笑うと、こちらに見せつけるようにして俺のモノをべろりと舐めたのだった。

 変態の前では、泣いても無駄なことがわかったよ。彼に良心がちょっとでもあると思った俺が馬鹿だった。
それから恥辱の時間は、彼が満足するまで続いたのだった。

 ***

 フンフンと鼻歌を歌いながら機嫌良く服を身につけるセイレクさんの横で、俺は完全に燃え尽きて灰になっていた。口には無力な自分に対する微笑が浮かぶ。
今日一日・・・いや、この数日間で確実に自分の中の何か大切なものが失われたような気がするのだ。
精神が死んでいる俺が視界に入っていないのか、セイレクさんは林檎のように頬を染めボタンに四苦八苦していた。
つーか、
「毎回なんで着衣のままヤっちゃうんですか!?見習いの子に悪戯に洗濯させないでください!!」
 大切な何かを奪ったくせに楽しそうにしている彼に怒りが募り、思わず苦情をぶつけてしまった。多分これを思っているのは俺だけじゃない!見習いの子たち総意を代弁したのだ!!
 少しは考えるだろうかと思っていると、彼はなかなか嵌まらないボタンに若干苛つきながら、しかも心底理解できないという風な表情をして俺を見てきた。
「はぁ?精液染み込んだ布の匂いを嗅ぐのがまた良いんだろ!わっかんねぇ奴だな」
 まるで俺がおかしいみたいじゃないか・・・。そんなの、わっかんねぇ奴で結構だよ!とこちらから願い下げである。てか、マジで理由がドン引きなんすけど。
 本当にこの人は悪臭趣味というか・・・やっぱり、恥ずかしい匂いが大好きなんだな、と心のどこかで納得というか、諦めた。きっとこの人とこの先付き合っていく中で、先ほどのように逃げたいけど逃げられない恥辱を色々と味わわされるのだろう。だが、それに慣れてしまったらその時こそ俺は大事なものを失いそうだ。
 俺の頭の中には、これから予想される膨大な羞恥への不安とともに、この後店長に土下座してなんとかこの猫かぶり恥臭モンスターを出禁に近い形にしてくれないか直談判してみようという計画が占めていたのであった。


 ――猫かぶり恥臭フェチさん、完


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